「激突」
「――ミさん。ヨミさん!!」
……。
「もうっ、サノさんまで!? ふたりとも、しっかりしてよっ!!」
以前に、性交渉の1日3、40回戦ぐらいなら全然余裕だとは言った。
しかし、そんなモンじゃ済まないほどの疲労感に倦怠感と消耗感。さらに、今この場の空気が女性のアレのように収縮をくり返すような圧迫感や不安定感。
そして、あれからものの数十秒しか経ってないにも拘わらず数百、幾千年分もの時間が渦を巻き寄せては返し、過ぎ去ってったような隔世の感、今昔の感。
とにかく“不感”以外の悪い意味の気分がまん――いや、てんこ盛りで全身を襲う。腰が完全に砕けたかのように膝を突いたまま、満足に動けないほどだ――
「チッ……満身創痍の兄貴様ならば兎も角、このおれまでこんな気分が優れねえたぁどういうこった……?? まるで頭ん中に霞がかかっているようだぜ……」
建とふたりそろって、ぎこちない動作ながらも何とか起き上がる。クソッ、いざその時が来ても上手くできずに相手を白けさせちまう童貞じゃあるまいし。
確かに、こいつの弁通り脳にゴムを被せたかのように恥こ――思考がはっきりしない。どうしてかここんとこ、不意に大昔のことを思い出してばかりだな。
――いや違う、思えばこの島根に着いてからずっとだ。一体全体この感覚、この現象は何だってんだ?
「ククッ、知りたいかい??」
だがその時その場に響いた声で一瞬ですべての感覚が正常に戻る。いつの間にか背後に停まっていたパトカー、そのライトを後光にする人物からのものだ。
昼間会った芦名課長――その“顔と服装”をどこぞの大泥棒みたく、蛇の脱皮のごとくスルリと棄てたそいつの笑みの邪悪さは、何年経とうが忘れもしない。
「いよォ、ツキヨくんにタケくんに我が妹よ! しばらくだなァ!」
アナコンダのような恵体を包んでる、ヤマカガシやサンフランシスコ・ガーター、あるいはニジボアさながらの派手な柄のコートに首から流したストール。
夜でもその色の深さが鮮明にわかる、ブラックマンバのような髪。そして何よりコブラやタイパンのごとし毒気、悪意、凶暴性を隠しきれてない鋭い眼光。
この俺が終生を賭けて斃すと誓った“姉さん”と、まさしく肩を並べる腐れ外道にして不倶戴天の宿敵。
“八俣智”。ついにご登場か。
「オラァ!!」「死ねっ!!」
瞬時にやつに向けて拳銃を弾き、同時に建と小夜子の怒号が轟く。野郎の面を見て3人とも、考えることも行動のタイミングも何もかも見事に一緒だった。
かたや大山すら穿ち貫く剛拳と、かたや海底まで切り裂く斬撃――正確には道路標識ポールでの一撃が交差し、俺の撃ち込んだ銃弾とともに迫ってゆくが、
「おっとォ! ハッハッハ!」
建の右ストレートはストールに、小夜子の唐竹割りは野郎の持ってた“八塩折”の瓶に阻まれ、鉛玉には同じく鉛玉が衝突し合い、いずれも防がれてしまう。
「いきなりの歓迎たぁ嬉しいね! もっとも俺も同じ思いだがな!」
「チィッ!!」「うわっ!!」
ギガントフィス――いや、セレホネンシスが尾でなぎ払うように。ふたりをそのままストールでいなし、八俣は再び不敵に笑んで俺たちに布告してみせた。
「さあさあ! 死の国魔の国根の国、ニューシマネ・パラダイスの開幕だ! 楽しンでってくれよ!?」