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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
昔話パート3
49/56

「代償」

 ふう。ったくやれやれだわ、ヘヴィすぎるわこりゃ。マジで“蛇”だけにね。なんとなくヤな予感はビンビンしてたけどさ――。

 いや、それはもはや“竜”か。アタシたちの前に突如として現れた“そいつ”がもたらしたのは災厄、ただただその二文字だった。

 ここ高天原の、アマちゃん自慢の荘厳かつ絢爛な宮殿が、見渡す限り壮観な田園が。息を吐けば焼き払われ羽ばたけば砂にまで雲散し一睨みで風の流れに霧消する、それほどの脅威と暴威。

 まさに万物の、興きてから滅びるまでの時を刹那の間に轟流嵐駆させる縮図を描き、あるいは弱きを喰らい尽くす強きの腹の中のごとし、混沌の中の混沌にその場が激変してしまったのだ。


《グオオオウアアアアアアアアアッッ!!》


 さりとてさすがの力もされどの力。何をせずともこっちが勝手にやられちまうようなズル、イカサマ、インチキ極まりないあのコに比べりゃ、まだこんな脳筋相手の方が存外楽ってなモノ。

 そう、いくら手負いの身とはいえ、相当な使い手として馴らした大の野郎が3人もいれば退かすのも難しいことじゃなかった。



* * *



『――父様。父様! しっかりなさって!』

『うっ、くうっ――。その声は――ヘル?』

『ああ、本当に一時はどうなることかと!』


 けど、その代償は実に、マジ大きかった。

 ――結論から言っちゃうとその日、高天原は“亡びた”。主が斃れた上に、膨大な魔力がこれでもかと飛び交ったそれはそれは何処かしこも全部しっちゃかめっちゃかコテンコテンの大惨状。

 ヒルちゃんによる言い得て妙な弁、天地のどっちが上下かわかんねってのも比喩でなくアタシらごとを巻き込み崩壊し、すべては下界“アシハラノナカツクニ”の海に消えていったのだった。


『――おお、ロキ殿。ご無事で何よりです』

『ふん。みな悪運に恵まれていたようだな』


 ほどなくしてこのコら兄弟も姿を見せる。まったく、元はと言えば誰のせいでこんなことになったのかと兄貴の方を眼で射る。

 いや、正確にはコレとアレのバカ親子か。とりま義親父サンの安否を尋ねるも、奇跡的に皆と同じこの岸に流れ着いたらしい。

 そしてその仕組みは皆目意味不明だけど、魂を“分離”させた結果死にかけ状態もチャラになり、何とか小康を保ってるようだ。

 ちっルシファーめ、あんな化け物を生み出しといて未だ呑気におねんねかっての。まあ助かってよかったとは思うけど――さ。


『くっ、こんな――。こんなはずでは――』


 ふふ、このアホ息子も同じ思いなのかな。


『いやはや、よかったわね? ヨミちゃん』

『……』

『岩塞“アメノイワト”は崩落、お姉ちゃんだってあの状態じゃきっと生きちゃいない。めでたくアンタの勝ち、全部思い通りね』


 おそらく“あいつ”が飛び去ってっただろう水平線の彼方を名状しがたい面持ちで見つめる、そんな様子に皮肉たっぷりに言う。

 何せ盗る国を手前で滅ぼしちまったっていう笑い話にもならない事態を引き起こししかも、それが敬愛する義親父のかつて犯した愚行とまったく一緒、同じ運命をたどってんだから愉快よ。


『――行かなくては』


 でもその眼に宿る光と、足元の砂を踏みしめる力は死んじゃいなかった。予想外の反応に面食らって思わずどこにと尋ねると、


『無論あの蛇、いや、魔の者を討ち取りに。――わたしにはわかるのです。奴めを滅せねば、必ずやこの世界の“敵対者”となる』

『んで、再び海の向こうに旅立つってんだ。ふふ、この国の王となって未来永劫歴史に名を残す、って夢がまた遠ざかるわね?』

『構いませぬ。――アトラ、パシフィ、メガラ、ムウ、レム。せめて最後に残った高天原はこの手でとの思いも、もはや叶わず』

『……』

『父祖たちより受け継ぎし“我々の世界”はこれで、そのすべてが無くなった。この大罪の贖いは、しかと果たさねばなりませぬ』

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