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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
昔話パート3
42/56

「蹂躙」破

《討て、斬れ、射れ、倒せ!! 相手がスサノヲ様とて怯むな!! 彼奴めはもはや主に仇なす逆賊、大うつけに過ぎぬ!!》


『屑共が良く吠えるな。されど“高天原に神留まり坐す”――この地を統べし絶対強者とは、今日この時をもってこのおれよ!』


《ウオオオオオオ!!》


《このおれ力こそ正義、貴様等無力こそ悪。五臓六腑の全てに刻み粉微塵としてくれよう。この地の土となり、永遠に我が歴史を語り継げ!』


 広野に轟く鬨の声の後、地平の彼方より大軍が一挙に押し寄せる。そこにいざや真っ向勝負、と自らも嵐のごとく猛進するは先陣の建速だ。

 なれど七尺近しの偉丈夫たるあやつも、単身対十万では多勢に無勢にもほどがあろう。荒れ狂う大波の前の砂粒がごとく散り


(おう)うう()あああ!!』


《ギアアアアアア!!》


(ずあ)ああ()あああ!!』


《ゴアアアアアア!!》

 

 フッ、なるはずもなし。一振りが一万を散らす剣、にわかには信じられぬだろうがこれが建速の力だ。

 やつめが十拳剣を薙げば紫電の刃が兵どもを真二ツとし、豪腕を振るえば竜巻がすべてを消し飛ばす。

 まさに天を斬る雷鳴にして海を裂く烈風、自ら大層な二ツ名を付けるだけはある。そう、蟻がいくら集まろうと獅子に勝てぬは自明の理よ。

 これではたとえ桁一ツ上の戦力を投じようと、その肉体に疵ひとつ付けられぬだろう。“一騎当億”などと自称しておるが、過言でもなしか。


『スサノヲが通るぞ!! 頭が高い、こうべを垂れよ、首級を捧げよ!! このおれの御前である!!』


《ドアアアアアア!!》


『去れ退け滅せ、消え失せよ! このおれの足跡こそ正中也!!』


《ギエエエエエエ!!》


 だがやれやれ、ルシファー殿の仰るそばから好き放題しおって。地を剣で削る激進の末は草も生えぬどころか底も見えぬ亀裂が深々と走る。

 刃を振るえば、抉られ飛翔する土塊が次々と兵を穿ち、果ては岩の雨となり降り注ぐ始末だ。これでは上下のどちらが天地か皆目わからぬ。

 父の乱心の末、母を殺された憎悪はかくも激しいようだ。全力前進なりふり構わず唯々ひたすら真っ直ぐに、憎しみの矛先に向け突き進む。

 そう、父の後継者たる姉、天照の待つ都へと。大海原へ向けた怨嗟の叫びとともに、来る日も鍛錬を重ねていたというのは眉唾にあらずか。


『足りぬ渇く満たされぬ! これで五十万か百万か! 高天原勢百万と候え、強者(おとこ)は一人も無く候!!』


 ――ともに進軍するロキ殿も、その力にすっかり瞳を丸くし爛々と輝かせ歓喜の声をあげる。


『早漏? ていうか何コレすごい!! あの子に単騎で突っ込めなんてオイオイ正気かよって思ったけど無問題ね。むしろ敵が可哀想だわさ』

『ただのひとりに正面より叩きのめされる、これほどの絶望も他にはありますまい』

『にしてもすごいわ。ねえ、終わったらあのコ貸してよ。うちの兄弟たちの脳筋(トール)糞爺(オーディン)ブッつぶすのに』

『クククッ、そちらの国もで御座いますか。“三”の数とは不思議な縁がありますな』

『いや、真面目にマジ手ェ組まない? アンタも兄貴の野望手伝ってハイ終わり、する気はないでしょ』


 その時不意に、走りながら見る横顔に影が差した。少なくとも常に軽薄で決してふざけた調子を崩さぬロキ殿のそれには見えない。さらに、


『私はただ、姉上らに目にものを見せてやれればそれで満足。分不相応なる望みは持ちませぬ』


 との答えに『誤魔化さなくていいよ』と淡々と応えてこられる。


『ふたりを蹴落としいつか一番になりたい。“本来生きてるはずないぐらい”昔から軽んじられてたから。それがアンタの本心』

『……』

『でもこのままずっと兄弟仲良くしてたい。どっちも本心。アタシと同様矛盾してるから気に入ってる。でも、どうすんの?』

『……どうするとは?』

『アマちゃん倒して“三の一角”になったあとの話よ。所詮“三”は△か▽のどっちかでしかない。だったら自分が頂点になった方がよくない?』

『……』

『ヨミちゃんは心底ルシファーを慕ってる、紛れもなく実の親父と尊敬してる。けど内心、あの青臭い理想に辟易してもいる』


 そして『言ってる本人が昔それで失敗したんだもん、当たり前だよね』と嘲りつつも、どこか遠い目でさらなる言葉を紡ぐ。


『情を捨て去れなかった末生まれたのが【稀代の逆賊(まけいぬ)ルシファー】。まあこれはまた別の物語だけど――とにかく頂点は善人じゃ行けないの』


 ……。


『覚えときな。頂に立つには手前以外の力は排す。情は不要。さあ、決めて頂戴な。手ェ貸してくれればアタシも貸すからさ』


 ロキ殿のくせに眼が笑っておらぬ。心のどこかで軽んじていた相手にまさかと圧倒される己がいる。器を見誤るとは、私も所詮この程度か。


『考えておきましょう』


 私の言葉に彼は、面を被ったような顔のまま何も返さなかった。


『おおっ!!』


 そしてすぐ元の、童のような笑みで目の前を無邪気に指し示す。『来た来た、アタシらの獲物!』と。


《逆賊の仲間だっ!! 討ち取れェッ!! やつらはスサノヲと違い弱そうだ!!》


 建速の進撃の末に分かたれた水のごとく、左右両翼よりの残軍がこちらに向かう。


『よかった、このまま終わっちまったらクッソつまんねェもんね』

『前進しかできぬ建速の討ち漏らしの処理が我らが役目。さあ、往くとしましょう』

『そうそう、義にはしかと応え借りは必ず返す。絶対報恩徹底報復、ついて来なヒルちゃん!』


 フン、あなた様のことだ。こちらへの貸しにする勢いで返して下さるのでしょう? 食えぬ御仁よな。


『さあ、行くよ〜! ヒルちゃんと考えた嫌がらせの極致! 全員“ウンコまみれ”にしてやるわっ!!』

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