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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート3
36/56

「筋肉」

「よう、大丈夫か? あの子も無事なのか」

「ああ、重傷だが車外に連れ出してあるぜ」


 建の煙草の甘ったるい煙が流れる。その先から苦虫を噛みつぶしたような顔でこちらをにらむヒルコの呪詛が、逆にこちらへと風に乗りやって来る。


「くっ、タケ! あの直撃で生きていたんですか……!」

「車はブッ壊せてもこの胸筋は壊せなかったようだな。ヒル兄サンよ」


 変若水(きりふだ)の、冷凍術(おくのて)の、さらに(ひさく)をと、ってな。勝ちたければ手札はいくつも用意しておくものだ。俺で勝てないやつがいるなら他のやつにやらせればいい。至極簡単な話さ。


「顎で使われるは好かねえが、利害の一致って事にしときますぜ。おれも久々に暴れたいんでね」


 そう建が拳を鳴らしつつ意気込むそばで、


「ヨミさん、大丈夫!?」


 と駆け寄る姿もあった。小夜子も目を覚ましたようだ。


「そんなっ、その腕!! 私が気絶しないでいれば――」

「問題ない、むしろ腕でよかった。脚やられてピストンできなくなるよりはよほどマシだったよ」


 深ァくため息をつかれた側で、起き上がったヒノと建が対峙する。2m超の巨漢同士が並び立つ威圧感極まりない光景だ。


「ヌゥ、貴様がタケか!」

「そういうおめえ様は“ヒノ”ですかい。初めて会うが中々のガタイだ。鍛えておいでか」

「クク、日々のたゆまぬ鍛練と高タンパク質の食生活、そして充分なる休息の賜物だ!」

「“浄明(じょうみょう)正直(せいちょく)”の精神ですかい。うむ素晴らしい、敵でなけりゃ気が合いそうなのにな」


 脳筋どもの掛け合いの中、何とか片腕で一服しつつヒノを観察する。

 建が車のドアをブチ当てた頭部から血が流れている。ヒルコたちと違って再生能力はないようだな。すなわちあの熱気、さながら炎の壁をかいくぐればダメージは通るのか。

 しかし水も蒸発する中流血してるってことは、おそらくやつの血液もすごい高温なのだろう。返り血すら凶器ってワケか。


「呑気してる場合なの!? 私たちも加勢した方が――」

「いや余計なリスクは犯さない。俺が出るのはマニューラでガオガエンに挑むようなモンだしな」

「悪と氷、言い得て妙ね――って違う! とにかく大丈夫なの。サノさんに全部任せて」

「ああいうシンプルなタイプにゃシンプルな筋肉馬鹿こそ相応しい。よく見とけ、タイマンで建に勝てるやつなどいないってことをな。姉さん以外に」


 やがてそのぶつかり合いがついに始まる。


「ぬおお……んんん!!」


 ロケットのようなヒノの右ストレート。すべてを焼き尽くす熱によって威力も砲弾並みはあるだろう。常人なら跡形もなく消し飛ぶこと請け合いだ。


「ふん」


 しかし建は、そんな超ド級の一撃が迫り来るなか煙草を吸いつつ不敵に笑ってる。火拳との距離が頭とほんの数mほどまで縮まったその瞬間だった。


「ぬぐっ……うおっ!?」


 ヒノがよろめく。やつと建との間の空気が突如として稲妻のように鋭く弾けたからだ。


「成程、凄まじい拳力だな。まともに喰らえばおれでもあぶねえ。だがそれは近づければの話だ」


 続けて建が右手をスッとかざすと、再び目の前に火花が激しく散る。大気をも切り裂くような電流に身を包まれたヒノが、


「グオオオオオオッ!!」


 と苦悶の叫びをあげる。


「生き物ってなァ微弱ながらその身に電気を帯びている。そして筋肉とはその信号を受け動く仕組みだ。即ち肥大すればするほど電流も強く成るのさ」

「まさか、貴様――!!」

「そうよ、おれの様に肉体を極限まで鍛え上げればその溢れんばかりの信号を射出し、空気中に流す事も出来るって寸法さ」


 たまらず膝を突くヒノに対し建が続ける。


「磨き抜いた鋼の肉体に何人も寄せ付けぬ雷の壁。おれの身に傷をつけられる者など存在しねえ」


 そして拳を構え、地を震わし天を衝かんばかりの雄叫びをあげ叫ぶ!


「更に我が強靭無敵最強たる武器、この剛腕は万物を風の前の塵に同じく粉砕し! 真空の圧倒的破壊空間、燃え盛る闘志を小宇宙にまで轟かす!!」


 肘を右脇から離さない心構えで、ヒノの顎を狙い抉り込むようにして打たれたアッパーカット。

 建の拳が巨大化して見えたほどすさまじいパワーとスピードによる一撃は、周りの空気ごとヒノを包む竜巻となりその身をズタズタに刻みながら、遥か上空へと打ち上がる。


「無限の回転の前に散れ」


 吹き荒れる風により派手に砕けた道路の破片でマッチを擦り、2本目の煙草を吸って建は言った。


「荒れ狂う海原と嵐の如く。この筋肉は伊達じゃねえぜ」

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