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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート3
34/56

「再襲」

「すん……すんっ」


 激闘に疲れ果てたのか死んだように倒れ込んだ小夜子に上着をかけ、近くの電柱にもたれさせてやる。

 俺も今回は相当堪えたし、もう一度シャワーのあと美味いものを存分貪りたい気分だ。

 最近の主食は専ら素麺だしたまには贅沢をして――そう、鍋焼きうどんにカルボナーラとか、ビール片手に焼き鳥なんかいいだろなァ。


「チンケな望みですねツキヨ……。今も昔も姉さんの下で肩身の狭い思いをして。こっちに来た方がどれだけ得か」


 その時額を貫き磔刑としてやったはずの身体がどさりと落ちた。まだ生きてるのか、しぶとい野郎だ。


「いえ、さっきまでほぼ死んでましたね……。無意識下で刺さったポールを溶かしつつ脳細胞を血流で移動、修復なんかして、とにかくいろいろ工夫してました」

「そうかい、なら早いトコまた死んでくれよ。せっかくとどめを刺したと思ってるのに小夜子が不憫だ」

「――ねえツキヨ、私は本気ですよ。お互いに利害は一致しているはずです」

「……」

「あの時は結局袂を分かつこととなり、私も君をだいぶ恨みました。でも君はついに私を殺さなかった。その理由を永い間、考えました」

「……」

「君は昔から自らの野心こそすべてだった。しかし今の私がこんな気分になっているように、君もきっと心のどこかでと、ね」

「……」

「君が手を貸してくれさえすれば、この国は必ず再び倒せます。その強さを理想のために使って下さい」

「――ああ、俺たちとお前は一緒に育ってきた。そして同じ血をもらった“あの人”の受けた仕打ちを思うと、確かに今でも憤っていないと言えば嘘になるだろう」

「……」

「だが、同時にこうも考えるようになった。怨みや怒りを断ち切れんそのサガ、その器のほどを天に見透かされてたからこそきっと相応の扱いを受けたんだとな」

「……非があるのは私たちの方だと?」

「少なくとも要因を“外”に向けていてはそこまでだ。喜びも苦しみも癒しも痛みも、すべては己の行い次第なのさ」

「……その割にはそこの行方のご息女をはじめ誰彼構わず“弱者救済”に勤しみ、傷を舐め合っていたようですがね」

「弱きを助け強きを挫く、昔から言うだろ。それこそが正義だ。しかし今のこの国はどうだ、強きを挫き過ぎて弱きを“作ってる”。例えば“産み分け”の仕組みさ」

「……」

「俺の大好きな、女の生まれてくるにはSEXで先にイッちまう情けない男が一定数必要なワケだが、そもそも種も付けられないほど弱いのが増えても困るんだよ」

「……この期に及んでふざけたことを」

「俺はいつでも大真面目だぜ。だから俺は姉さんとは違う方法でこの国を守る。これまでもこれからも」

「……」

「そしてお前らの好きにもさせない。我が悲願“日本全国竿姉妹計画”達成のためにもな」


 無表情でサングラスを拭ったのち、やがてぼそりとまるで独り言のように吐き捨てる。


「フン。強者のみの国を作らんとする我らの理想と、それは何が違うというのか。かく言う君が、一番その呪縛に囚われているでしょう」

「……」

「愛した女の無念を晴らすべく、今でも執念深くあの方を追い続けている。一体何を言えた義理なのでしょうかね」

「それは違うな。俺が野郎を倒さねばならん真の理由は他にあり、そしてお前も知ってるはずだ。目を背けるなよ」

「偉そうに……結局君がすべての元凶なんだ。だから姉さんの下でいつまでも飼い殺しという、然るべき報いが下ったのです」

「そのおかげだよ。義父さんの教えで俺は変われた。最も大切なのは自らの“責任”を果たすことなんだ」

「……」


 やつはため息をつき空を仰ぎながら、お次はどこか切なげな面持ちで言う。


「君と私はコインの裏表だと感じてました。立場と手段はどうあれ――いつかはわかり合えると思ったんですがね」

「だからこそだろ? 根が同じでも両方反対を向いてるからな。遺言はそれでいいのか」


 そしてサングラスをかけ、今度は俺をしっかり見据えると吹っ切れたように言い放つ。


「『日蝕』『報復』『下克上』。そして怨嗟の連鎖、結構なことです。我らが悲願、日本を苦しめて君らに嫌がらせをする。やるのなら最後までやり切りますよ」


 フッ――そうかい。冷気を纏ってやつに一歩、また一歩と近づく。凍らせてバラバラにしてやろうと手を伸ばした時だった。


「――むっ?」


 不意に強烈な殺気、いや“熱気”を感じた。まるでここだけ一気に、サウナ並みの気温になったような。


「そんなに強きを挫きたいのなら思う存分にどうぞ。さあさあ、来ますよ?」


 そう言われた瞬間“バコォン!”と近くのマンホールからまるで太陽の昇るように、赤熱を帯びる何かが勢いよく飛び出した。

 空中でまるで体操選手のように華麗に回転しつつ、俺の少し先に着地する。


「……ククッ」


 そいつは身長2mをゆうに超える、スキンヘッドに髭面の大男だった。耐火素材だろうか、何やら消防士の着るような重厚な装いをしている。こいつは、まさか。


「紹介しましょう、兄の火口(ヒグチ)克之(カツノ)です」

「死んだはずだろ、こいつは」

「私やアワが生きている時点でお察しでしょうが」

「まあ、そうだな」

「君の座右の銘に『日を喰らう月』『凍てつく炎』ってのがありましたよね。なら【火】に勝てるか、是非試してみるといい」


 クソッ、とうの昔に収めてやったはずの怒りが再燃してゆく。ヒルコにアワシマにこの男といい、不始末の尻拭いをさせてるのはどっちだってんだよ、親父め。


「ククッ、お前がツキヨだな」

「お初にお目にかかりますね。あなたのだいぶあとに生まれたものですから」


 そして、こいつが“ヒノ”か。やつが陽炎揺らめく右拳を握ると、そこから火花がぱらぱらと宙を舞う。


「ククク。骨まですべて……燃やし尽くしてやる」


 うーんでも結構やばいなぁ。“相性”悪すぎないかこれ。あんな風に言った手前、あとには退けないが。俺は覚悟を決め、できる限りの不敵な笑みで銃を構えた。

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