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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート1
3/56

「嵐のち月夜 ~喰ライ尽クス月」

「『神の垂は祈祷を以て先と為し、冥きの加は正直を以て本と為す』。俺はあまり、好きな言葉じゃないがな――」

「……」

「とにかく双葉、自分と向き合え。俺の前で己を偽るな。死ぬのは怖いし、子供のためにも生きて償いたいんだろ」

「……」

「怖れも後悔も、両方君の本心だ。それでいいんだ。浄く明く正く直き道は、自らの弱さを受け入れ心の陰に打ち克ち歩き続ける、その先にあるんだよ」

「……」

「たとえその光が弱く儚い月星だとしても、君のいるべき場所は夜じゃない。さあ、俺が君の業を許し願いを叶えてやる。明けの空の下に導いてやるよ」

「――ううっ! はい、助けて下さい!!」

「よし決まりだ。その代わり今から少し騒がしくするぜ。そこは何とか我慢してくれよ?」


 震える彼女の頭を撫でたのち再び店長の方を見る。さて、この男は俺を“和”と“荒”のどっちにさせてくれるかな。


「というわけだ店長。過去へ感謝、未来へ前進。シャンパンタワーに免じてどうか頼むよ」

「……いい人材かと思えば頭湧いてんのか。許してやるとか叶えるとか、神様気取りかよ」

「ああ。ある意味な」


 “ズドン!!”


「ギアアアッッ!?」「きゃあああっ!?」


 俺の指揮による硝煙と血しぶきの大合奏があがったと同時、テノール歌手の方が脚を押さえのたうち回る。上着ポケット越しのデリンジャーの一発だ。


「君のトコの借金よりもこの子の罪を裁く方が優先なんだ。悪いな」

「テメェ……ッ!!」

「だが一番許せんのは我が国の女性を海外へ、ってのだ。俺の【日本全国竿姉妹計画】への妨害とみなすぞ。人身売買の件も洗いざらい吐いてもらうぜ」

「オメェら、こいつサツだ!! やれ!!」


 怒号を受け手下どもが続々と集まる。手にはバットや特殊警棒など。やはりただのホストクラブじゃなかったな。

 しかしこっちもガキの使いじゃない。悪いが容赦なくいくぜ。イッツ・ショータイム!!


「ぐはぶかぁっ!!」「ぶきぼげぇっ!!」


 カランカラン、カランカランと床を激しく打つ薬莢の雨は比喩じゃなくマジでだ。何せ2×2=4倍の量だからな。

 連結拳銃“AF2011-A1”の二挺持ち。俺とやり合うんならマシンガンでもないと無理だぜ。


「くそ、応援だ!! オオゲツの姐さんから得物借りて来いッ!!」


 えっ、マジで持ってくるの? そりゃ困るな、楽に済むんならそれで終わらせたいのに。


「銃捨てろォッ!!」

「きゃあああっ!?」


 この隙に双葉を人質にされる。しまった。


「さっさとしろ!!」

「断る」

「はあ!? うっうう、撃っちまうぞ!?」

「ああ、その代わり彼女は傷つけるな。男らしく全弾出し尽くせよ」

「何だと!?」

「守れるか?」

「くっ、いいともよ! 赤のフルボディをとくと喰らいやがれ!!」


 そして空間全体を銃声が満たす。それに反比例するようにこの頭から爪先まで、すべてが真紅の静寂に包まれる。


「いやあッ!! ライトォォ〜〜ッッ!!」

「ハ、ハハ!! ざまァみやがれだァ!!」


 ――コツコツ、コツコツ。足音が近づくのを見計らい起き上がる。


「え――!?」

「何ィッ!?」


 双葉と一緒に目を点にして固まってる手下から銃を奪って、その眉間に鋭く突きつける。


「ご馳走様。だけどワインなら冬がいいな」

「えっ!? なっな、なんで生き――!?」

「さっきの約束は守れたか? 確かめるぞ」

「ひっ――!」


 パンッ――ッ


「嘘つくとこうなるんだぜ? わかったか」

「あっ、ああ! あああああああああ!!」


 座ったまま怯える双葉。まあ無理もないが、助かるためにこの程度は我慢してもらわなきゃな。君を守るのにこうしてスーツを穴だらけにしたように。


「待たせたな! 望み通りマシンガンだ!」


 ここでさっき逃げた連中が再びやって来る。マジか、そんな約束は守らなくていいのに。


 “ズババ――”


 さてどうしよう。弾はもう切れちまった。


 “ドドド――”


 他に武器になるモノといえばこの、ビリヤードのキューぐらいか。


「テメェ!! ちゃんと撃ってんのか!?」


 “ゴゴゴ――”


「うっ、撃ってますッ!! 当たってますよ!! 見ての通り!!」


 “ガガガ――”


「じゃ、じゃあなんで!! どうして死なねえんだよアイツは!?」

「知りませんよ!!」


 あとは自前の手榴弾が1個。そして相手は9人か。まあ充分だな、と集団へ歩みを進める。


「うぐっ!?」


 中心のやつの首をつかんで爆弾を口内へ。さあ我が自慢の、絶頂へと導く最後の一撃だ。

 俺はモノをしかと握り全神経を集中させ、喉奥を真っ直ぐ撞いた。


「ブレイク・エース――どうもご馳走さん」


 さあて一件落着、はまだだ。連中の言った本命の“オオゲツの姐さん”が残ってるしな。そう思ったところで「待って」と背中に柔らかな感触を覚える。


「置いてかないで。あんたが化け物だろうが何だろうがどうでもいい、一緒に連れてって」


 俺の腰を包み震えつつも必死に懇願する細い腕を、壊れ物を扱うようにほどき肩を抱く。


「心配するな、君を置いてイッたりは絶対しないよ。すぐに戻って来るから隠れてるんだ」


 そうして超絶々倫なる俺は2回戦目へと向かったのだった。夜はまだこれからだからな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして!Twitterよりまいりました! 特殊ルビが凝っていてセンスがあり、とても面白いなと感じました!読みやすい文章です。 [気になる点] 弾のルビをマガジンと書いていましたが、…
2021/01/08 20:42 退会済み
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