「嵐のち月夜 ~喰ライ尽クス月」
「『神の垂は祈祷を以て先と為し、冥きの加は正直を以て本と為す』。俺はあまり、好きな言葉じゃないがな――」
「……」
「とにかく双葉、自分と向き合え。俺の前で己を偽るな。死ぬのは怖いし、子供のためにも生きて償いたいんだろ」
「……」
「怖れも後悔も、両方君の本心だ。それでいいんだ。浄く明く正く直き道は、自らの弱さを受け入れ心の陰に打ち克ち歩き続ける、その先にあるんだよ」
「……」
「たとえその光が弱く儚い月星だとしても、君のいるべき場所は夜じゃない。さあ、俺が君の業を許し願いを叶えてやる。明けの空の下に導いてやるよ」
「――ううっ! はい、助けて下さい!!」
「よし決まりだ。その代わり今から少し騒がしくするぜ。そこは何とか我慢してくれよ?」
震える彼女の頭を撫でたのち再び店長の方を見る。さて、この男は俺を“和”と“荒”のどっちにさせてくれるかな。
「というわけだ店長。過去へ感謝、未来へ前進。シャンパンタワーに免じてどうか頼むよ」
「……いい人材かと思えば頭湧いてんのか。許してやるとか叶えるとか、神様気取りかよ」
「ああ。ある意味な」
“ズドン!!”
「ギアアアッッ!?」「きゃあああっ!?」
俺の指揮による硝煙と血しぶきの大合奏があがったと同時、テノール歌手の方が脚を押さえのたうち回る。上着ポケット越しのデリンジャーの一発だ。
「君のトコの借金よりもこの子の罪を裁く方が優先なんだ。悪いな」
「テメェ……ッ!!」
「だが一番許せんのは我が国の女性を海外へ、ってのだ。俺の【日本全国竿姉妹計画】への妨害とみなすぞ。人身売買の件も洗いざらい吐いてもらうぜ」
「オメェら、こいつサツだ!! やれ!!」
怒号を受け手下どもが続々と集まる。手にはバットや特殊警棒など。やはりただのホストクラブじゃなかったな。
しかしこっちもガキの使いじゃない。悪いが容赦なくいくぜ。イッツ・ショータイム!!
「ぐはぶかぁっ!!」「ぶきぼげぇっ!!」
カランカラン、カランカランと床を激しく打つ薬莢の雨は比喩じゃなくマジでだ。何せ2×2=4倍の量だからな。
連結拳銃“AF2011-A1”の二挺持ち。俺とやり合うんならマシンガンでもないと無理だぜ。
「くそ、応援だ!! オオゲツの姐さんから得物借りて来いッ!!」
えっ、マジで持ってくるの? そりゃ困るな、楽に済むんならそれで終わらせたいのに。
「銃捨てろォッ!!」
「きゃあああっ!?」
この隙に双葉を人質にされる。しまった。
「さっさとしろ!!」
「断る」
「はあ!? うっうう、撃っちまうぞ!?」
「ああ、その代わり彼女は傷つけるな。男らしく全弾出し尽くせよ」
「何だと!?」
「守れるか?」
「くっ、いいともよ! 赤のフルボディをとくと喰らいやがれ!!」
そして空間全体を銃声が満たす。それに反比例するようにこの頭から爪先まで、すべてが真紅の静寂に包まれる。
「いやあッ!! ライトォォ〜〜ッッ!!」
「ハ、ハハ!! ざまァみやがれだァ!!」
――コツコツ、コツコツ。足音が近づくのを見計らい起き上がる。
「え――!?」
「何ィッ!?」
双葉と一緒に目を点にして固まってる手下から銃を奪って、その眉間に鋭く突きつける。
「ご馳走様。だけどワインなら冬がいいな」
「えっ!? なっな、なんで生き――!?」
「さっきの約束は守れたか? 確かめるぞ」
「ひっ――!」
パンッ――ッ
「嘘つくとこうなるんだぜ? わかったか」
「あっ、ああ! あああああああああ!!」
座ったまま怯える双葉。まあ無理もないが、助かるためにこの程度は我慢してもらわなきゃな。君を守るのにこうしてスーツを穴だらけにしたように。
「待たせたな! 望み通りマシンガンだ!」
ここでさっき逃げた連中が再びやって来る。マジか、そんな約束は守らなくていいのに。
“ズババ――”
さてどうしよう。弾はもう切れちまった。
“ドドド――”
他に武器になるモノといえばこの、ビリヤードのキューぐらいか。
「テメェ!! ちゃんと撃ってんのか!?」
“ゴゴゴ――”
「うっ、撃ってますッ!! 当たってますよ!! 見ての通り!!」
“ガガガ――”
「じゃ、じゃあなんで!! どうして死なねえんだよアイツは!?」
「知りませんよ!!」
あとは自前の手榴弾が1個。そして相手は9人か。まあ充分だな、と集団へ歩みを進める。
「うぐっ!?」
中心のやつの首をつかんで爆弾を口内へ。さあ我が自慢の、絶頂へと導く最後の一撃だ。
俺はモノをしかと握り全神経を集中させ、喉奥を真っ直ぐ撞いた。
「ブレイク・エース――どうもご馳走さん」
さあて一件落着、はまだだ。連中の言った本命の“オオゲツの姐さん”が残ってるしな。そう思ったところで「待って」と背中に柔らかな感触を覚える。
「置いてかないで。あんたが化け物だろうが何だろうがどうでもいい、一緒に連れてって」
俺の腰を包み震えつつも必死に懇願する細い腕を、壊れ物を扱うようにほどき肩を抱く。
「心配するな、君を置いてイッたりは絶対しないよ。すぐに戻って来るから隠れてるんだ」
そうして超絶々倫なる俺は2回戦目へと向かったのだった。夜はまだこれからだからな。