「誘惑」
~同日。時間は遡り、松江市玉造湯、某ホテル~
「桜散れども春は清酒――ってな」
ソファに腰かけ切子に注いだ稲田姫を傾けながら、もうすぐ訪れる本日の超々メイン一大目玉スペシャル真打イベントに心踊らせる。
牛丼屋で自分のファンだという妻串署の婦警ふたりと待ち合わせた俺は当然迷いなくホテルへと直行したのだった!
「じゃあ私もシャワー浴びてきますね。読山さん」
その片割れの黒髪ロングの方が足早に浴室へ入ってゆき、さて上がるまで軽く1杯でもと、もうひとりと乾杯といく。
「賛成! 今だけは月世サマをひとり占めですね」
そしてテーブルを挟んで一緒に飲んでるこのショートボブの方の子は、まあ気の早いことにもうすでに下着一枚だ。
我ながら女性との乳繰り合いは食事も同然にしてるものだが、今回はなんと一度にふたりと遊べる機会に恵まれた。
さすがに素人相手じゃそうないことだから内心相当テンション上がってる。ああっ、早くこの子らを逮捕したいぜ。
「はい、まさに手錠かけて尋問してる風でお願いしたいんですよね! 口でも手でもい~っぱい責めて欲しいな♡♡」
「よし。『女性容疑者の口を割らせるため絶倫刑事はその超絶テクで~』って感じか。任せろ、いつもやってるしね」
“~♪”
その時携帯の着信音が鳴る。ショッキングブルーのヴィーナス。何だ? こんな時に誰から
「ゲッ、オヤジ!?」
表示番号は部長の、親父のものだった。何だ、今こうしてよその署の子に手ェつけようとしてるのがバレたのか??
無視すると面倒なので恐る恐る出るが、開口一番ですんッッさまじい叫びが耳をつんざく。
『ツキヨ貴様こんの大莫迦者がァ!! 今日もさっそく銃撃戦をやらかしたそうだな!! 一部始終がネットにアップされとるぞ!!』
こちらの話す暇もなし、洪水のように怒声がスピーカーからあふれ出る。スマホに少しずつひびを走らせるほどに。
「ちょ待、ちょ待、ちょ待てよ!! 鼓膜破れる!! 説明するから静かにしゃべって!!」
『そういうお前がダントツで問題行為の件数トップだろが! で、その理由た何だ、内容次第じゃまた減給だぞ!!』
「えぇ!? ちょ、勘弁してくれよ!? これ以上減らされるとマジ除湿器の水ぐらいしか飲めなくなるってば!!」
『どうでもいい! 早く言え!!』
「あいつらだよ、早速やり合ってな。しかもなんと八俣と手ェ組んでるときた。島根県警から連絡いってないのか?」
『何ッ? まさか穢レのことか!? いやワシゃあ知らん、一切合切何も聞いとらんぞ!?』
「そうなの? おかしいな。まあとりあえず今から“お愉しみ”なんで、またにしてくれよな」
『ちょ待、ちょ待、ちょっと待て! 別件なんだがテルコのやつの行き先知らんか? お前が応援に頼んだとかじゃ』
「あのな、父さん。俺が世界で一番嫌いな存在が姉さんなんだぜ。馬鹿言ってくれるなって」
『だったらどこに!』
「あんなの来たら最後ポテサラにリンゴ唐揚げにレモン酢豚にパインみたく全部台無しにされちまう。とにかく知らないね。それじゃ」
通話を終えた即座電源を切る。前に着拒した時は署内全部の回線、全員の携帯使ってまでかけてきたほどだったし。
「今のお父さんなんですか。すんごい怒鳴り声でしたね……。勤め先同じだと大変ですよね」
「ところがどっこい、若い頃はサカリついた猿も真っ青な好色家だったらしい。けど口説き文句のセンスが最悪でね」
「センス、って??」
「『お前の凹ミはおれの凸を受け入れるためにある』とか平気で言うんだ。正気じゃないよ」
「どっど、ド直球ですね。でもそんなこと聞くとムラムラしちゃうな♡ ねえ、アタシたちだけで先に始めません?」
「おっと、そういうのは女性が言うもんじゃないぜ。行動を起こすのはいつだって男からさ」
「あっ――んむっ♡」
肩を抱いてそっと唇を重ね合わせる。熟れたリンゴのように紅潮した艶めかしい表情が、俺の心も同じ色に染める。
ひとしきり求め合ったのち、彼女のとろける瞳をまっすぐ見つめたまま両手で(自主規制)
そして雪のように白く瑞々しく張りのある、まさしく生きた芸術品のありのままの姿がいよいよ――(次回に続く。あくまで健全に)