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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート2
19/56

「観光」

 ~同日、時刻は遡り、高原警察署~


「豊池君……頼みがあるんだが。君も火消し作業手伝ってくれんか」

「はあ? 私がですか??」

「とにかく発砲の件から話題を逸らしてくれ。やり方は任せるから」

「はあいっ、じゃ私このスレに書き込もっと。カタカタカタッ――」


 種無しマッポ君

 2019/05/〇〇 07:21:00 ID:Sex19193150

 810

 私、さっき電話で聞いたけど事実無根だって。


 種無しマッポ君

 2019/05/〇〇 07:21:19 ID:Sex19193150

 ≫811

 810 そうなの? ならもう追うのやめるわ。


 種無しマッポ君

 2019/05/〇〇 07:21:45 ID:Sex19193150

 812

 ≫810

 ≫811 警察が言うなら間違いないよね。この件は終わりでいいんじゃないの。


「これでよしと。毎度まいど読山係長と佐能さんにも困りましたね」

「まったくだよ。ところでテルコ――いや天岩(あまいわ)課長はどこだ? マスコミとプロバイダ対応をお願いしたいんだがなあ」

「課長なら執務室に絶賛引きこもり中じゃないですか。毎度まいど毎度のことで」

「そうだなぁ、こんな件で出てくるワケないか」

「あっ違うな、確か今回は生理休暇の届けが出てましたね。10日分」

「……世知辛い今の時代、ハラスメント承知で聞くが。10日なんて君、そんなに認められていいのかね」

「ええ、日数は組織の方で決めちゃいけないんですよ。それにうちでトップのエリート様だし誰も文句は言えませんよ」

「休暇か……はぁ、何だか嫌な予感がするなあ」



* * *



 ~同日、某時刻、島根県松江市内~


 もっこり男めと別れた後、おれ達三人組は妻串署の車両を拝借して、束の間の観光を愉しむ事にした。

 先ずは宍道湖大橋を北上、県庁付近の松江城天守閣からの景色を堪能し遊覧船で堀川巡りと洒落込む。

 その後“凌牙そば”という店で腹拵えの後、玉造温泉街へ向かいつつ道中の見所へという運びとなった。

 只、蕎麦屋では目玉めにゅーか何か知らんがあろうことか“ヤマタノオロチ麺”等という胸糞悪い名の品を薦められた。

 然し店主が是非にと言うので喫してみたら存外美味く、千八百ぐらむのも量が一瞬で失くなったのは我ながら驚愕だ。

 更なる驚きは五刀とイナ田の奴等が二杯目を注文した挙句、それすらも平らげてしまった事だったが。


「げぷりっ。いやァ量も味もハンパなかったわぁ凌牙そば。ヨミさんも一緒に来りゃあよかったのにね」

「うえっぷ。ありゃあ今頃は女の長話に付き合わされて、二十分ぐらい無為にしてるってとこだろうな」

「私はウンチクからの博識アピールした流れでLINE聞き出してると思うよ。これでタダマンのセフレゲット♪ ってね」


 ふう、こうして取り留めの無い話をしていると先刻の騒ぎが嘘の様だ。イナ田の顔にも少しずつ明るさが戻ってゆく。


「えっ、タダマンって? セフレって何ですか」


 そんな時不意にぎたーの何ともやかましい音が鳴り響く。五刀の携帯電話の着信音、その前奏だった。

 昨今の連中は皆、趣味趣向も何もかも“あちらさん”に気触れやがって。日本男児なら黙って永ちゃんを聴けってんだ。


「私女だし、KISSも親日家だからいいの。――もしもしヨミさん? えっ用が済んだから合流する? うん、わかった」

「読山さん、なんて仰ってました?」

「今バイクでその辺ブラブラしてるみたい。暇だから合流するって」

「ふふふっ、皆さん仲がいいですね」

「まあこのヒトらとはもうだいぶ前からの付き合いだからね。ええとその、中学生ぐらいの頃からかな」


 そこからは実に騒がしかった。五刀の奴めが、


「サノさんはずっとこんな感じだけど、ヨミさんは昔はそりゃ格好よくてさ。もの静かで優しくってね」


 等と聞いてもいない話をし出し、イナ田も又、


「へえ、そうなんですか! それでそれで!?」


 と興味津々に耳を傾けている。全く女ってな色恋沙汰しかの話しか芸が無ぇのかと呆れつつ、二人を鏡越しに眺める。


「ところでKISSってあの歌舞伎みたいなお化粧をしてるバンドの? シブイですね、さよちゃんさん!」

「そうそう、ライブにゃ毎回行ってたけど特に初来日ン時よ! 武道館でナマで見た時はそりゃたまンなか――おっと」

「えっ、どうしたんです?」

「いっ、いや何でもないわ。あはは」

「??」

「あ~美味しい蕎麦も食べたしエネルギーがあり余ってるみたい。どっか落ちつけるトコ行きたいなァ」


 チッ、五刀め要らん事を。迂闊にも程がある。イナ田が気付かず良かったぜ――


「では、今から神社にお参りなんていかがでしょう? 事件の無事解決を願って」

「は? じっ、神社ァ??」

「ええ、どうでしょうか?」

「いやまあその、氏神様はともかく、わざわざよその参拝まではしないかな……」

「そう……なのですか??」

「それにホラ、最近御朱印集めが流行ってンじゃん。意味もよく知ンないで、記念スタンプ集め感覚の客ばっかだしさ」


 ああ全くだ、それに関しちゃ完全に同感だ。昨今は品格も慎ましさも何も無え“みーはー”な連中ばかりで厭にならぁ。

 然も絵の形で頒布してる処もあるがいよいよ何だありゃ。何処かしこも髭面の歳食った親父みてぇに描きやがってよ。


「でも、松江の“八重雲神社”はいいところですよ。観光名所としても有名で――」

「神社ねえ……。ちょっとねえ……」

「私行きたいんですけど……だめ?」

「くっ……。Ok、わかったわよ……」

「ありがとうございます! うふふ」


 根負けした五刀が渋々承諾する。確かにこんな顔で乞われればとても断れんだろう。無論このおれだって自信は無い。

 やれやれ、こうして次の行先は松江佐草町の八重雲神社となった。

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