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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート1
14/56

「脱線」

「課長、手槌(てづち)先輩の容態は? 搬送はされたのですよね」

「いや……駄目だったらしい。とても残念でならん……」


 稲田、と名乗った婦警が「そんな……」と身を震わせる。嗚咽と共に涙を数滴溢す姿に兄貴様が寄り添う。


「せめてもの御霊の平安をお祈りするよ……。すまないが、なぜ襲われていたのかだけでも聞いていいかな」


 雫を拭うも真っ赤なままの瞳だが「はい……何なりと」と声を絞りつつも答え始める。


「あれは先輩と出張の帰りでした。路肩にいたあの車両を見つけて、高速で停車は危険なので声かけをして」

「うん……」

「そうしたらいきなり先輩が撃たれて、血を流しながら逃げろ、って――。思わず頭が真っ白になりました」

「ふむ……」

「運転しながら無線で必死に応援を呼んでいるうちにあの車も追いかけてきて、な、何発も撃ってきて――」


 そこで兄貴様が「もう大丈夫だよ、ありがとう」とハンカチーフを渡し落ち着かせる。

 成程、その直後おれ等が遭遇した訳かい。親方日の丸に対し発砲するなんざ狂人はやはり穢レに相違ない。


「僕ら明日から別件の捜査に加わるんだが、そいつらも関わってるかもしれない。その人の仇は必ず取るよ」

「大船に乗った気でいて。私たちにかかりゃ絶対大丈夫。ね、サノさん」


 再び脇腹を小突かれる。この流れだとおれも何か言わねばならん雰囲気だが結局「おっ、応」で終わった。


「はあ、デケェ図体して気の利いたことも言えないンじゃ情けないわね」

「クス……」


 イナ田も少し平静を取り戻したか、深く礼をした後こう申し出てきた。


「あの、皆さん今日この後のご予定は? せめてものお礼に、ご都合よければ夜まで市内をご案内しますよ」


 更には芦名の親父も割って入って、


「私からもお願いします。その方が気も紛れるでしょう」


 と言うがおれの中には、余計な事をしてくれる……そんな厚意は必要無ぇという思いが少なからずあった。


「そうだな、3人でぜひ楽しんでおいで。あとで温泉街で合流といこう」

「そう言うアンタが一番好意を無にする気マンマンじゃん。あくまでもソープ巡りが最優先ってことなのね」

「えっ? ソープって何ですか??」


 やれやれ、ぶれない人だ。――だがおれは知っている。きっと兄貴様も今のこのおれと同じ心持ちだろう。

 そう、このイナ田にどう接するべきなのか。頭はぐちゃぐちゃ、胸がざわざわして仕方の無いと云う事を。


「爆サイによると――おおっN〇できるのか! 予約しといてよかったァ! ぶつぶつ」


 先を歩く背中がそんな胸中を沈黙で語って――いなかったな、撤回だ。糞ッ、柄にも無く沈んで損したぜ。


「えっ? 〇N、って何ですか??」

「あなたみたいな子は一切合切知らなくてもいいことよ」


 そうして芦名との別れ際、没収された装備を返却された後外に出ると、表に愚兄の二輪車も停めてあった。


「タクシー使うつもりだったがこれで予約に余裕で間に合うな! ああありがとう、島根県警万歳ァイ!!」


 愛車と共に頭まで童心に修復されちまったのか、年甲斐もなくはしゃぐ姿を尻目に此処で一旦解散とゆく。


「じゃ、私らも行こ。うちの署からひとり5万の旅費預かってンだけど、アレにゃ渡さず使っちゃいましょ」

「えっ! いや私無関係ですし、そんなわけには――って、あら? でももうすでに減ってませんかこれ?」


 まさかと喧しい駆動音の方へ視線をやる。すると案の定その手には福澤子圍範の旦那が確と握られていた。


「血税を直接女遊びにとはイイ度胸してンね。返せコラァ! ついでにいっぺん死ね!」

「ちょ、どうして仲間割れなんて! 歴史研究なんて素晴らしい趣味じゃないですか!」

「そっちの風俗じゃあねーわよッ! いいからアンタもさっさと撃ちなさい! 早く!」

「わ、わかりました! せっかくの支給品ですし、使わないともったいないですもんね」


 二人が破れかぶれに撃ちまくるも結局只の一掠りもせずに、やがて二輪車は陽炎の向こうへと消えてゆく。


「ハァハァ、クソッあのろくでなしめ! せいぜい風呂屋で梅毒でも淋病でもHIVでももらってきやがれ!」

「フゥフゥ、お風呂だったら玉造温泉街で好きなだけ入れますよ。汗もかいたしちょうどいいかもですね!」


 そうして成り行きでおれが運転手をさせられる羽目となり、この女供を置いて行く訳にもいかなくなった。

 やれやれ、それでは逃げ出しちまった愚兄の代わりに精々、己が“過去”と向き合って来るとしようかね――

「はてさて、そんなこんなで参りました、男を癒す至高の秘湯へ! ドンパチ騒ぎでさっそく汚れちまったし、この機会に身も心もしっかりキレイにしとかないとね!」

「でねぇ〜お客さん、○が×で〜その時△に□が〜」

「そしてこのような時短トークもお約束! まあ俺ももうずいぶん長く生きてるし、今さらガッツいたりはしないけど……ね」

「ええ〜っ何言ってんのお兄さん、全然若いよ〜! どう見てもまだ30とちょっとぐらいでしょ〜?」

「まあちょうどいいや。君、神学専攻ならこんな話はどうかな。俺もまあまあ人並みには詳しいからな」

「何なに〜? 聞きたい聞きたい♪」

「ようし、じゃあ誰もが知ってるあの伝承の、隠された真実のうちひとつを披露しよう! ――俺も何だか島根に来てから、どうも急に思い出すようになったし……な」

「わくわく♪」

「てなワケで次回、高原署〜『追憶』。いきなり語り口が変わるからってビックリするなよ。仕様だからな」

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