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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート1
12/56

「合流」

『泣かないで……これでいいのです』

『莫迦な、イナ貴様ッ――なんということを!!』

『スサノヲさま、ツキヨミさま。約定を果たせず申し訳ありません。願わくばひとり遺される我が妹を、どうかよろしくお頼み致します』

『クシイナダ……嘘であろう? 嘘だと申せ!!』

「うっ……」


 まどろみの中、部屋に漂うガラムのそれはもう甘ったるい芳香で現世に帰り、


「ふん……。ようやっとお目覚めですかい」


 まさにその悪臭元が投げよこしてきたペットボトルを反射的にキャッチする。

 ここはどこだ……。まだ覚醒に至らない中そうだ、確かあのあと連れて来られた“妻串(つまぐし)署”の応接室だと思い出す。

 身分の照会の間待たされてたわけだが、にしても島根まで来た程度で寝落ちとは俺ももう年なのか、それとも――


「らしく無いですぜ。おれととはいえ人前で、しかも見知らぬ場所で夢現たぁ」

「そういうお前も今さっき起きましたって顔してるぞ。お互い様じゃないかよ」


 受け取ったコーヒーを飲みながらひとまずお互い一服と洒落込む。ふう、とりあえずこんな機会も今日び貴重だ。

 そう、俺たちみたいな高額納税者を年々端へ端へと追いやり自由に喫煙もさせてくれないからな、今のこの国は。


「失礼しま――うはっ、ゲホッ! あの、失礼ですがお煙草なら喫煙所で――」


 なあ、聞いてるのかよ姉さん? ふん、今にアンタもまた引きずり降ろしてやるからせいぜい覚悟しとけよな――

 とまあこうして煙とともに愚痴を吐いてる間に、ひとりの男性が入室してきて深々と挨拶してくる。


「此度の“八俣”の件の責任者、刑事課長の芦名(あしな)賀之(よしゆき)です。本来は明日お会いするところでしたが、どうぞよろしく」


 小夜子のことを疑ってたわけじゃないが、やはり今度の情報はマジだったか。

 “八俣(やまた)(さとし)”――。かつて浅からぬ因縁があった男の名を耳にして身体が強ばる。

 だが永年俺たち国防組織が血眼になって探し続けた結果、今回やっとこの島根が根城と突き止めた。

 そう、積年の決着をつけるがため俺たちはここまでやって来たというわけだ。


「いやはや、知らずとはいえうちの者がまさかこんな扱いをしてしまって……大変失礼を致しました」

「いえ、こちらこそとんだお騒がせを。本当、発砲を“許可されている”身分も今時難儀なものですよ」

「ですがだからこそ心強い。何せ我々を襲ってきたあの車両は、やはり穢レの連中と思われますから」


 【(ケガ)レ】。次はその単語で眉間に力が入る。向かいで眠そうにしていた建の眼光も途端に鋭くなる。


「報告では車は無人だったと言います。すなわちあんな状況で脱出できる者など、まず連中の他にいないでしょう」


 やはりか……警察を堂々と狙う凶行にも納得だ。そう、今話に出たのもまた八俣と双璧を成す危険人物の集団だ。

 何せ俺たちと“同じ一族”の出でありながら国家転覆を狙う道に走ったやつらだ。文字通り日本の穢悪といえよう。

 なるほど、形式上は合同捜査だがこりゃ俺らが本腰振って――いや入れてやらなきゃ大変なことになりそうだな。


「ええ、恥ずかしながらあなた方に頼る他ないのが現状です。連中のつながりも目的も何もわかっていないもので」


 だがかえって好都合だ。宿敵どもをまとめて倒す千載一遇の機会だしな。そう思っていると扉が再びノックされ、


「ハイおふたりさん、長旅どうもお疲れ様」


 と、そこからよ~く見知った顔が現れる。何だよ、来るなら来るでお前は予定通りでよかったのに。


「アンタたちがこっちで何かやらかした時の身元保証のためにと思ってさ。ンで案の定これ、ってね」


 やれやれ、どうせ八俣の首獲るのを抜け駆けされたくなかっただけだろう。言っとくがあくまで先着順だからな。


「もちろんですとも。とりまあのクソ野郎ども全ェン部片付けて、今度こそハッピーエンドといこか」


 まあいい、だがゆめゆめ気をつけろよ。お前の欠点はいざその時になると頭に血が上りやすいところなんだから。

 やはりあえて残して来た方がよかった、なんてことにならなければいいが――


「ところで皆様、今回のお詫びに今から懇親会でもいかがです。よければお宿もうちで手配しますよ」


 だがすべては明日からだ。申し出を固辞し元々の予定に心を向け胸を踊らす。

 そう、あくまで今日一日は松江の観光だ。遊ぶ時は思いきり遊ばなくちゃな。


「もしもし? “モッチちゃん”に120分の予約のツキウミといいますが。総額はいかほどでしたっけ」


 そしてこうしてる間にもう予約の1時間前じゃないか。店に確認連絡をし、よしこれで今日すべきことはOKっと。

 後ろで課長のため息を聞いた気がしたが、その余裕に裏打ちされた実力をとくと見せてやろう。そう、明日から。

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