「邂逅」
「痛っ……。建、生きてるかぁ……」
さっきの銃撃で敵の車はしっちゃかめっちゃかのコテンコテンとなり、見事やっつけてやった。
だが爆発の勢いは完全に想定外で、俺たちもバイクごと吹き飛ばされ思いきり叩きつけられた。
「ああ……何とかよ……」
火の海と化したその場から起き上がると、すぐ近くから建も姿を現す。とりあえずは無事、か。
「糞ッ、だから車に寄せろっつったんだ! はなッから力づくでやりゃあそれで済んだだろが!」
不貞腐れる建の横でエンジンの具合を確かめる。よし、かろうじて自走はできそうで一安心だ。
でもこりゃ相当修繕が高くつくな。ううっ、我が愛車“悪魔の鉄槌”よ――なんと痛ましい姿に。
「建……火ィ貸して……」
「そこらで幾らでも燃えてんだろが」
ともあれ分離帯に座り一服してるとやがて1台の車がやって来た。さっき助けてやったやつだ。
「そこの御二方、大丈夫ですか!?」
見慣れた制服が降りてくる。このマークX、やはり警察車両だったか。
「――えっ」
だがこの時そんなことはどうでもよかった。俺たちの前に現れた20歳そこそこの、この婦警――
長い黒髪に大きな瞳と、幼さを残した整った顔立ち。これだけなら一見どこにでもいる美人だ。
だがその姿を一目見るなり俺は――咥えた煙草を落としてしまってた。
「……」
建も建で目を点にして固まっている。手に持ったガラムから落ちる灰のみがやつの時間を刻む。
「クシ――」
「えっ??」
「いや――何でもない。それより大丈夫だったかい。なんでまた、襲われたりなんてしてたの?」
「いえ、逆にこちらが事情を聞かねばなりません。そこにある銃器の数々、一体これは何ですか」
「えっ? あっいや! その、僕たちはね――」
「助けて頂いたことは感謝しますが看過はできません。恐れ入りますが署までご同行願えますか」
そうだ、警察ってこういう杓子定規な組織だった。こっちも同業者と示すため手帳を取り出す。
「高原署の読山にこっちは佐能です。正真正銘国家公務員の端くれだよ」
「肝心の写真が焼け落ちているじゃないですか」
「ゲッ……あららら、これじゃまたまた始末書だな。ええと他には――」
「……」
「はい“天文宇宙検定”1級合格証。漫画家松本零士さんのイラスト付き」
「これじゃ身分証にならないでしょう。ただの民間資格じゃないですか」
「あらら……ごめん、ならこれではどうだろう」
「“免許代言人”? 一体何の資格なのですかこれ。それに今と風貌が――だいぶ違うようですが」
「たっ、確かにそうだね。その頃は長髪で右目が悪くて眼帯してて、和装も好んで着てたからさ」
「……」
「カメラの調子も悪くて白黒写りで。本当ひどい写真だよね、まったく」
「資格取得日が明治となってますがこれ。悪戯か何かのつもりですか?」
やがて現れた別のパトカーへ同乗を促される。とほほ、一体全体どこまで厄日なんだよ今日は。
真面目な話襲撃してきたあの車のことも気になるし、今この場を離れるわけにはいかないのに。
「……」
ここで隣の建を見るとずっとただ一点のみを注視している。どこなのかは無論言うまでもない。
その姿が見えなくなってからやっと前を向くも変わらず無言を貫く、そんな横顔に声をかける。
「……忘れっちまったよ、そんな大昔のこたぁ」
「おい、まだ何も言ってないだろう」
「……」
「フッ。よく似てたな――あの娘に」
「ハッ。見てくれだけ――だろがよ」
「……」
「チッ……! まさか、こんな処でこんな……」
「……」
「今夜は随分と……寝つきが悪くなりそうだぜ」
「うはっ!? ……ゼェ、ゼェ……!!」
「やっと起床ですかい。で、どうかしたのかよ」
「いや……。ちょいと昔のことが、夢にな……」
「やれやれこっちは寝覚め悪し、か。次回、高原署~『合流』」
「お楽しみにね♪」




