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高原署に神留まり坐す  作者: 公月奏
現代パート1
10/56

「爆発」

 豊かな自然の香りを乗せ山を抜ける翠流、そして頭上に広がりし蒼穹の齎すは、大層頗る非常に晴れやかなる解放感だ。

 然しながら、速過ぎて油断すれば襟巻が飛ばされそうに成る上この窮屈さ、側車(さいどかー)ってのの乗り心地にゃあ未だに慣れん。

 更に幾ら眺め良しと言えども似た景色が続くと流石に飽き飽きしてくるし、彼此半日は不休でいる事も手伝い腹も減る。


「まさに風のように調子が変わるなお前は。さすがの気分屋(トリックスター)ってやつだよ本当」

「生憎此れが昔からの性分でな。それよりも此処らで一丁休憩としませんかい」

「我慢しろ。“遅く愉しむ”俺みたくな。それにもう米子だし、着いたも同然よ」

「はあ、やはり乗ってるだけたぁ退屈だぜ。永ちゃんでも聴きてぇモンだ――」

「暇なのは“乗られてる”方だろ。最近の子はあんまり上手くないんだよな――」

「そっちじゃ無ぇよ。何だ、もうそう云う姿勢が辛ぇ歳なのかいあんた様はよ」

「ところで米子、ってちょいヤラシイよな。別に何がとは言わんが、字面がさ」

「ああ、おめぇ様が毎朝出番前に毎晩夜の街で搾り尽くしてくるアレの事かい」

「まあ冗談はさておき、昔は出雲の国っていったっけ。お前も懐かしいだろ?」


 ふん――忘れっちまったな、んな昔の事ぁよ。

 頬杖を突き、流れゆく景色を引き続き眺める。


「――む?」


 然しその時ヒュンッ、と不意に何かが顔を掠めた。若干の痛みを感じたので触れてみると、指先が赤くぬらついている。


「俺ももらっちゃった。落とした涙の色が胸へと突き刺さる――なんつってな」


 兄貴様が前歯に挟んだ硝子片を見せた後吐き捨てる。パリンと路に落ちたと同時、砕け散る音が後方へ過ぎ去ってゆく。


「おい、見ろ。どうやらあそこからみたいだな」


 前方へ目を凝らすと、二台の車が猛烈な速度で並走しているのが見えてくる。

 どちらも黒塗りの“ぷりうす”だか何だかよく判らん車種だ。多分舶来物のどうせ名の知れた取り敢えず贅沢品だろうが。


「うわ、派手に破瓜――破壊されちまってるな」


 見た限り“くらうん”による一方的な銃撃で前後左右の窓ががら空きにされており、どうも女が運転している様が見える。

 やれやれ此処でもどんぱちか、令和となっても安寧の世未だ成らずってかい。


「そりゃ仕方ないさ。剥いて開けて出してめちゃくちゃに征服してやりたい――有史以前からの男の本能ってやつだしな」

「へいへい。そんで、どっちにつくんですかい」

「オンナ!」


 だろうな。兄貴様がにやりと笑い速度を上げる。こっちとあっち迄の距離が凡そ百(めーとる)、八十五十三十とどんどん縮まる。


「さあぼちぼちやるかね。俺の銃、取ってくれ」

「否、運転中はあぶない。おれが撃ちましょう」

「大丈夫だっての。いいからさっさとよこせよ」

「発砲数の世界記録狙いも結構だが偶には休まれよ。ここはおれがやりまさぁ」

「はいはい、わかったよ。なら間とって一緒にイクか。変な意味じゃないがな」


 おれの拳銃と兄貴様の自動小銃を一挺ずつ取り出し矢継ぎ早に引き金を弾く。

 横殴りの銃弾の雨霰によって硝子がド派手に割れ、奴らも大層慌てふためく!

 ――のを期待したが、弾は小さな罅を入れるばかりで何故かまるで効かない。


「防弾とはマジかよ。今時極道でも簡単には用意できないのに……何者だろう」


 此処で連中も此方を敵と認識した様で、窓から手だけを出して銃撃してくる。

 兄貴様の運転であれば避けつつ応戦は造作も無いが、奴さん車輪迄もが防弾仕様で此方も決定打を与えられない状況だ。

 ならば次の手よ。兄貴様に運転席側に寄せる様に頼む。日々の弛まぬ修練で鍛えしこの豪腕でブチ破ってやる、ってな。


「もっとスマートにいけよ。お前のスコフィールド専用の徹甲弾がそこに入ってるから、タンクの辺りにくらわしてやれ」


 成程、内部から爆裂させようってか! そして「今度のァ只の弾じゃねえぞ」と啖呵を切りその特殊弾を数発ぶち込む。

 その威力たるや思ったよりも強力で、まるでぷりんに匙を突き入れる様に車体を激しく削り貫き、彫り穿ち抉ってゆく。

 おおこりゃ快感だぜ。――然し一向に爆裂する気配なぞ無いのが気になるが。


「現実と映画は違うの。だがまあよくやった、おかげでガソリンが漏れてきたぞ。次はそこのショットガンを取ってくれ」


 続いて車体に括ってあった散弾銃を手渡す。兄貴様が何処ぞの映画俳優の様に両手離しの運転姿勢でがっちりと構える。


「タンクの液量を減らせば逆に揮発した気体が内部に溜まる。そこにこの“ドラゴンブレス弾”を撃ち込んでやれば――!」


 そうして引金が弾かれた刹那、銃口が文字通り龍の吐息が如く“火を吹いた”。

 美麗かな絢爛かな、それはまるで夏の夜に輝く花火の様に鮮やかな赤だった。

 恐らくは威嚇に用いる弾薬なのだろうが、いやはや全くこんなモノまで有るのかと今世の技術の大いなる進歩に只々感心


「あっ!? まずい、ちょっと火薬が多過――」


 する間もなかった。気づけば時既に遅し、敵の車が激しい閃光に包まれゆく。

 それはおれ等ごと呑み込み周囲を煌々と燃え盛る火の海に変えて、って畜生めが。これのどこがすまあとだってんだ――

「応、何のつもりなんだよこれは。笑い話の見世物になるためにわざわざ島根くんだりまで来てんじゃねェんだぞ。どりふの大爆笑かよ」

「まあまあ建、誰しもミスはある。○んちゃんも亡くなっちまったことだしさ。哀悼の意を表するついでに、ってことにしといてくれよ」

「志村のけ○サンが逝ったのは令和二年だろが。爆発でついにアタマまでイカレっちまったのか」

「いやいや建、そりゃ時間の感覚も狂っちまうってモンだよ。お前だって不意に“あの顔”を見ればだな。なんてったって“彼女”は――」

「ッッ!!??」

「ほうら言った通りだろ……。と、とりあえず次回、高原署〜『邂逅』」


「お楽しみにね♪ って、大の男がいつまでもキョドってンじゃあねーわよ」

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