中国4000千年の歴史より深い恨み?
マケルはスーコとの出会いを少しづつ思い出していた。
そうだ、学園から寮に帰る途中に拉致されたんだ!
いよいよ深まる謎、命を削るラップとは!
ぼんやりとだが、対戦相手の声と韻の鋭さが耳に残っている。
その時、ズタ袋を被せられ後ろ手に拘束されたまま、中国人の様な訛りのある女に言われた。
「コイントスで順番決めるとかどうでもいいあるよ!どうせこいつら袋被せられて見えないんだから、この男の方から!こいつ昼も独りで学園の屋上でラップの練習してたからな、そこそこやる気あるよ!」
どこから見られていたのか、練習している所を見られた記憶等ないのに、よりにもよってズタ袋を被せられた状態で見られていた事が発覚とは…
そしてそのまま先行はマケルと決まって、DJがいるのかどうかは分らないが90年代に流行った様なサンプリングビートが流れる、BPMは95前後、一番やりやすいパターンだ。
ズタ袋を被ったまま、そつなく韻を並べて16小節終え相手の出方を待ったが、相手はフィメールラッパーだった。ひどくバトル慣れした様子でマケルのリリックの一言一言を引用しながら返してくる、どのみちマケルは負けるのだが…その時また中国人の女の声がした。
「何?この男、押韻学園のヤツは皆めちゃラップ強い聞いただからわざわざ連れて来たのに、こいつカスだな、まあいい!スーコは強いからこの弱い男とペアリングな、ちょうどよいよ!聞いたか?はよ埋め込みする!」
埋め込みって何よ!と狼狽していると、息巻く中国人の女を征する様に、一人の部下らしき男が言った
「韻韻さま、こいつらには実力に差がありすぎます!スーコを戦わせるなら…」
それを言い終わるか否かで『パンッ!パンッ!ドサッ』と聞こえた、撃ち殺されたのか?しかし韻韻と呼ばれた女はうんざりだといったトーンで唾を吐くように言った。
「ラップをなめるなだからな、私はスーコの事は大嫌いだけどこいつが命削ってラップしてるのは分かるだから、中途半端に強いんか弱いんか分からない半勃ちMCより、勃たないなら勃たないMCの方がスーコもやり概があるだよ、お前らみたいにSNSでヒップホップ語ってる様なカス男に一生分からないだけどな」
すると先ほどバトルで凄まじい韻の応酬を見せていた相手、本物かどうかわからないがスーコと呼ばれていた女が口を開いた
「その考え方は嫌いじゃ無いねぇ…まあ命を削ってるってのもあながち嘘でもねぇ。でも、てめぇらみたいな奴等の代打ちバトルにゃ出ねぇぞ」
スーコの話を聞いて、韻韻の物とおぼしき足音がツカツカとスーコの方に向かって行った、そして足音が止まり、韻韻はスーコに向かって言い放った。
「誰が抗争か、韻しか踏めないクズ女が!しょーもないギャングやヤクザと一緒にしたらだめね、だからこの国のヒップホップがダメになったの違うか?ラップやブレイクダンスはギャングが殺し合いせず縄張りをバトルで決める為に出来た物、すなわちブラジルの奴隷が主人に見つかる事無く、身を守る為にダンスで鍛練可能な武術カポエイラを開発し、無駄な死人を出さない様にしたのと同じよ」
中流家庭に育ち、家庭環境や生まれた地域の平穏さに劣等感を持っていたマケルは、ワルに憧れていた自分が少し恥しくなったが、ラップの起源とカポエイラの起源の対比はなんか違うのでは?と思いながら聞いた。
「とか言っちゃって、お前らにはバトルで殺し合ってもらうだけどな、わっはっはっは!」
マケルは韻韻の話を少しでも間に受けた事が悔しくなった。
「とりあえず、お前ら二人で仲良くあの世に行ける様にぃ、どちらか片方がバトルで負けたら、おそろいで爆発する爆弾を首に埋め込んてやるだから。まあスーコは自分とこの弱いフニャチンMCの2人分の命を背負って毎回バトルをする事になるか、ハッハッハッ!」
韻韻は高らかに笑った、そして更に続けた。
「ちなみに、全部で5組な、爆弾首に埋め込んでるカップル」
え?本気で首に爆弾?!と驚いていると、向かいのバトル相手の席の方でガタン!と聞こえた、拘束されているスーコが椅子ごと倒されたのか…そしてマケルに聞こえるか否かの小声で言った。
「あとな、スーコ。私の事知ってるあるよな、私はお前の事一生忘れないからな…中国の歴史は4000年の深みを持ってるが、韻韻もそれ以上深みのある恨みを持つある、だからお前のラップは一生忘れないよ、何ならここで積年の怨み晴らしてもいいよ!」