コスモス
スーコはナミにコスモスの種を託す。
そして院をコスモスでいっぱいにして欲しいと頼む、まるでこのいかれたフリースタイルバトルに縛られた自分を解き放って欲しいと願う様に…
そのやり取りを見ていたナミが「かっこいいじゃん!」とマケルをからかったが、今のマケルにはそれすら心地よい空間の演出だった。
スーコはマケルをからかうナミを自分の所に引き寄せて、優しく包容しながら小さな紙袋を渡した。ナミがさっそく紙袋を開けてみると中には小さな黒い種子の様な物が入っていた。
「ナミ、この種なんだかわかる?」
とスーコはナミに聞いた、ナミは不思議そうに首を横にふり「わからない」と言う素振りをした。
「これはコスモスって花の種、秋にはキレイな花が咲くんだよ。ナミにもお願いがあって、この種をまいて花をたーくさん増やして欲しいんだ、何年かかってもいい、ここの庭をコスモスで一杯にするって約束。出来る?」
とスーコはコスモスの種を見つめるナミの顔を覗き込み尋ねた、ナミは
「私に、出来るかな…」
と不安げに言ったが、スーコはナミの頭をクシャっと触り「ナミなら大丈夫だよ」と言った。ナミはうれしそうにポケットに種の入った紙袋をしまい、また子供達の元に戻って行った。
ラジオからNasのmessageが流れていた。
それを聴きながらしばらく夕飯の支度を眺めていたが
「なあマケル、明日の夜はヒデと美代子のバトルを見に行こう、見つかって喧嘩バトルを売られても困るから変装しないとだけど」
とスーコが言った
「奴らは間違いなく強い、ヒデは人工的に強くなっているし、美代子はサイコパスだ、バトった事はあるけど底が見えねぇ、奴らの対戦相手がどんくらい強いか分からないけど、あいつらが勝つのは間違いない」
スーコの話しには根拠は無かったが、バトル一本で上がって来たストリートの勘は間違いない、マケルは頷き翌日の深夜に開催されると言うバトルの観戦に行く事となった。
程なくセントエイティエンヌ孤児院特製のカレーライスが食卓に並ぶ、その時今まで騒がしかった子供達が急におとなしくなりお祈りを始めた。
スーコもそれと同時に子供達の輪に入り皆が手を繋ぎ目を閉じた、そして一番年上のスーコが祈りの言葉をのべた
「主、願わくばわれらを祝し、また主の御恵みによりてわれらの食せんとするこの賜物を祝し給え。われらの主キリストによりて願い奉る。アーメン」
ここは教会だと言う事を思い出す、マケルはキリスト教徒では無いが、心からこの場にいる子供達、それにスーコに少しでも良い明日が来る事を願った。
そしてマケルは、穏やかな表情で祈りを捧げるスーコを改めて見て、鼻筋が通り大きな目が特徴的で顔立ちがハッキリとした美人だと感じた。
マケルが見とれていると、スーコは片目を開けマケルを見てニヤリと笑った。マケルは目をそらし食卓に配置されたカレーライスや飲み物を見るふりをした。
食前の祈りが済み「さあ!…」と寮母が言った瞬間、子供達は我先に皿に飛び付いた。
「スーコ、毎日お祈りやってるのか?」
「ああ、ここは教会だしアタシらもそう言う風に育ったしな、でも自分としてはキリスト教徒じゃ無いよ、食前のお祈りは習慣みたいなものかな」
とマケルの質問にスーコが答えた、スーコはあまり食欲が無いらしく少し食べてから「お姉ちゃんの分も食べな」と隣に座る子供に与えた。
マケルは「俺たちは爆弾をしかけられた極限状態に置かれているんだ、仕方ない」と思い自分もスプーンを置いた。スーコはマケルを見て「こっちに来い」と言う仕草をし、韻牙島が見える孤児院のベランダにいざなった。
「なあマケル、ありがとねここに来てくれて、次はマケルの家族に会いに行こう」
とスーコが言った、しかしマケルは
「いや…俺は、俺は家族に会いに帰ったら何で帰ったのか聞かれちゃいそうで…俺はなんでも喋っちゃうし…やっぱり今の状況が怖くなっちゃいそうだ…だから、カッコ悪いけど家族には会えないよ」
スーコは「そっか、じゃあ近くまで行って家族に会いたくなったら会いえば良いよ」と言った。そして
「アタシさ、こう言う所で育って来たから、ほんとの家族との距離感がわかんねーんだ…ごめんねマケル、もしかしたら何か他に言える事があるのかも知れないけど」
と言った。
先ほど食事を終えて満足した3歳位の男の子がスーコの元にやって来て膝に座りうとうととし始めた。




