この光景を忘れない
スーコはマケルに「今見ている光景を忘れないで」と言う、自分達にもしもの事があったら世界から忘れられてしまいそうだと…。
「しょーもねぇ、150万程度で『インフォメーションがあるね』じゃねーよ、ヒデは薬で強くなったし美代子って女、あいつ前にバトったけどかなりしつけーから負けねーよ」
マケルは目を丸くしてスーコの話を聞いて思わず声が出た
「スーコ…なんだよ、委員長の事知ってるのかよ…」
スーコはそれを聞いていたが聞こえないふりをしていた、すると韻韻が
「マケル、お前が一番弱いから分からんかもだけど、強いヤツを集めたからつながってるヤツ多いあるよ、あえてクソ弱いお前を入れたけど、やっぱり面白いな、お前独りだったら即死あるよ、キャッハッハ」
と笑った、スーコはそれを聞いて
「韻韻さんよ、そう言う所だぜ、干されて仕事無くなっちまう所、まあ直せっつってもおばちゃん位の年齢じゃむりか」
と言った。烈火のごとく電話口で怒る韻韻を放置し、スーコは「まず飯食って、それからアレコレ考えようぜ」と言い、電話を切った。
20人近くはいる子供たちの中でも、小学校高学年のナミをはじめとした女の子は、ティアラとナミの指示に従い野菜や肉を切っては鍋に入れ、頃合いを見てカレーのルーを投入していく、実に手際よく入所して間もないと言うティアラなど最早母親の様に、泣きじゃくる2~3歳の子供をあやしながら料理を進めて行き、時々淳に調味料や食器を出すように言う。それを見ながらスーコは言った
「皆元気そうだから安心だよ、でもマケル、この光景を忘れないで欲しいんだ、アタシ達は本当の家族がいない。赤ちゃんの時からここに来たヤツはいつか本当の親と離ればなれになった理由を知りたがる、理由を聞いて納得するかしないかはそいつ次第だ…親と離ればなれになった記憶があるヤツは大なり小なり心に傷がある」
平凡な家庭で育ち、本当は家庭環境が劣悪であればラップに深みが出るんじゃないか?…と勘違いをしていたマケルはスーコを見て返事が出来なかった。
「だからってアタシはラップのリリックでこいつらや、アタシ自身の生い立ちを人に伝えなければなんて思わない、でもマケルとはこうして出会って皆を見てもらう事が出来た」
そう言って独りで食卓に向かい、問題集を解いている少年を指した
「あいつ、ゆうきって言うんだ、ナミと同じ11歳で元々北の方で母親とゴミの山からレアメタルを回収してブルーシートのテントで暮らしてたんだけど…ある日目が覚めたら母親が冷たくなってた…行政がそれに気付いたのが一週間後、ゆうきが9歳の時。保護された時は独りでまだゴミの山からレアメタルを探してた。カップ麺一個を5日に分けて食ってたそうだ、それまでの疲れと栄養失調で枯れ枝みたいになってたが、その時助けられた医者に感銘を受けたみたいでさ、自分も医者になるって言って勉強してんだ。子供って単純だろ?でもアタシはあいつの夢をかなえてやりてえ、だから危ない橋でもバトルで大金を稼いで皆を大学に行かせてやりてえ…」
スーコはそう言ってマケルの方に向き直り
「だけどアタシもこいつらも家族がいないって理由で『かわいそう』『頑張って』って言われて、その後は皆関わろうとはしない、でも金をくれとか里親になってくれとはおもわねえ、これがアタシ達の家族だから。でも、マケルにはアタシやこいつらの事は覚えておいて欲しいの、何て言うのかな…凄くバカげてると思うかもしれないけど、本当の家族がいないアタシって死んじゃったら世界中の誰も覚えててくれないんじゃないか?とか、一緒に暮らすこいつらは、アタシ達がいなくなったらまた独りになっちまうかもって時々不安になるんだ、だからアタシやこいつらとこうして何かの縁で知り合ったマケルにはこいつらの事を、今ここで見てる光景を覚えていて欲しいんだ」
スーコは賑やかな光景を優しい目で見ながらマケルに言った、マケルは
「覚えとく…スーコと出会ってまだちょっとだけしか経って無いけど、ネットで見る覆面でラップしている時以外のスーコと会った事も、スーコの家族と会った事も、忘れないよ、そんなの。それにスーコは死なないよ」
と言った、スーコは意外そうな顔をしてマケルを見て「ありがとう」と言いながら袖で顔をぬぐった、少し泣いていたのかも知れない。




