セグウェイ軍団
公式戦まで5日、突然セグウェイ軍団に囲まれたスーコとマケル!
って言うかセグウェイ??
スーコがハンドルを握るコンパーチブルのアメ車は、まるでスローモーションの様にホイルが回り、100kmは出ているだろうがゆっくりと走っている様だ。マケルは助手席で手をかかげ「おっぱい揉んでる感覚」を味わいながら辺りをゆっくりと見渡していた。
「この島に一度でもションベンをまいた奴はこの島にいる資格がある」
日本一巨大な吊り橋、泪大橋の都内側一本目の極太ワイヤーにでかでかとスプレーペンキで書かれている「第一ポエム」と言われるグラフィティアート…と言うには殴り描きのタギングがあった、そしてポエムと言われる落書きは108個目
「泪大橋を逆から渡れ」
で終わる、島側からは108個目が始まりとも言えるが。
誰が書いたのか…いつ書かれたのか分からない108個ものクソの役にも立たない文言は、語り継がれる訳でもなく、消されてしまう訳でもなく、島に出入りする者を迎え、あるいは見送りながら残り続けている。
島に入ればフリースタイルバトルで勝つ者もいれば負ける者もいる、アドレナリンと言うどんなドラッグよりも強い慣習性を持つ魔物にとり憑かれた者達が島に根を下ろす、そして本土で居場所を失って流れて来る者は泪大橋のたもとに青テントやバラックを建てて暮らす。
スラムと言うわけでもゲットーと言うわけでも無い、押韻学園の学園下街は繁華街でもありヒップホップビジネスで一山当てた小金持ちも大勢いるが島からは出ない、この島での栄枯盛衰は本土で通用しないからだ。
地下150階からエレベーターで地上まで上がり、押韻学園の掲示板で、4日後と5日後に押韻学園公式バトルワンデイトーナメントが5箇所で開催されると言う情報を入手したMC達は用心深く解散した。
5日目のバトルに出なければ命が無い上に、勝たなければこれまた命は無い…それまでの間で一人でも二人でも倒してしまえば話は変わって来るが…。
スーコとマケルは車を拝借(盗む)するために泪大橋の近くにある大駐車場で車を物色した、スーコは「せっかくだからオープンカーで」と言ってコンパーチブルのアメ車のダッシュボードを開け配線をいじった。ドルンドルンッ…アメ車独特のエンジン音が響く。
スーコが一旦セントエイティエンヌ孤児院へ行くと言うので、運転が出来ないマケルは助手席を暖める事となった。
巨大な橋は車も人の通りも無く、100個目のポエム
「韻は踏んでも糞踏むな」
を横目に、マケルはどんよりと曇った空をぼんやりと見ながら
「なあ、俺たち死んぢゃうのかな、初めてだわ~実感無いわ~…死ぬの」
マケルは大きな病気も怪我もせず今まで平穏に暮らして来た、死と言えば祖父が亡くなった時に葬式に出て初めて亡骸を見たのが、人生で一番死を感じた瞬間だった。
スーコはマケルのその言葉に
「死なねえし今にアタシと組めたのが超ラッキーだったって思うよ」
と言い、自分の顔の倍もありそうなアメ車のハンドルを握り、片手でマケルの肩をグッと握った。
「あ、うん。お、俺もこの変なバトルで勝てれば良いな…なんて」
とマケルは恥ずかしそうに言ったが、スーコは大笑いしながら「勘弁してくれよ」と言った。その後しばらく沈黙が流れたが、スーコがギアを通り越してマケルの腕をそっと触った、マケルはドキッとして
「え?なに…そう言うのって急に…」
と言った所でスーコが人差し指でマケルの口をピタッと押さえ、後ろを見ろと言う仕草をした。
マケルはバカみたいな顔をして後ろを見て驚愕した、20台、いや30台からなるセグウェイの軍団が追いかけて来るでは無いか。
「いいね、ちょうど鈍ってる所だひねってやるよ」
スーコはニヤリと笑いながら車を橋の脇に停めた。すると一台のセグウェイがこちらに近づいて来る、セグウェイのハンドル部分は何かの骨がくくり付けられており、その先には動物の頭蓋骨や羽が飾られている。
マケルは「学園のチャーターバスじゃこんなのついて来た事無いよー!しかもセグウェイって(泣)」と思いながら、まるで別の世界に迷いこんだ様な気分だった。




