戦う理由③
スーコは爆弾の他にとんでもない爆弾を抱えていた。
しかしバトルはやめられない、韻牙島には相当な覚悟を持って入って来ているのだった。
そんなピリピリとした空気の韻牙島のとある裏通り、雨が降り出し人々はレコード屋やスニーカーショップの軒先に隠れ様とうろうろとしている最中、プラスチックのゴミ箱の蓋を傘がわりにして地べたにへたりこんでしまっている少女がいた、びしょびしょになり手が小刻みに震えている…スーコである。
韻牙島では薬物中毒者やアルコール中毒者も少なくない、道行く人々は覆面をしていないスーコの事は知りもしないし見向きもしない、むしろ
「何の中毒かね~、若いのに可愛そうだが付き合ってらんねぇよ」
と言いながら素通りして行く。
そんな中、泪大橋のたもとに住んでいるとおぼしきホームレスの男がスーコに近づいて来た。
「お前さん、大分弱ってるな、手に痙攣も出てる。歩けないんじゃ無いか?
今の私はお前を治す事は出来無いが、一先ずその命を預かる事は出来る」
と言いスーコに肩を貸した。
スーコはホームレスの耳元で何かボソボソと呟いたが、ホームレスの男はニヤリと笑いながら
「ああ、確かにホームレスに助けられちゃあ女が廃るな、私ももう医師では無いが…趣味で病人や怪我人を助けている身としては素通りが出来ない物でな」
と言いスーコを背負い、自分の住むバラックにスーコを連れて帰った。
すると驚く事にバラックの地下にかなりの年代物だがCTスキャンや手術台があり、一通りの手術機具が揃っているでは無いか。
「私は加山勇仁と言う元脳外科医だ。お前さんのその症状は脳に何らかの原因があるだろう、CTで病巣を探るが概ね検討はついている。
本人が気付いて無かったとは言わせん、調子が良ければ症状も出てい無かったかも知れんが…大分辛かったろ」
と言いCTに寝かせ何枚か写真を撮った。
加山はCTの結果が出るまで、自分の話を聞かせた。東京帝国大学付属病院で脳外科医として様々なオペで執刀していたが、音楽プロデューサー下山獅子録の娘で、末期ガンと診断された下山A子を救う事が出来ず、下山に訴えられた事を期に医師免許を剥奪され上、流浪の末に辿り着いたのが韻牙島だったらしい。そこまでは話したが家族の事まで話さずして、CTスキャンの結果が出た。
「うむ、思っていた通りだが…珍しい場所に腫瘍が出来ている、言語野付近か。薬は何とか調達するが、ここでオペは出来んな…」
とCTの写真を見ながら言い言葉を詰まらせスーコを見た、そして
「とにかく今は休め、極度のアドレナリン放出の形跡もある、疲れてもいるだろう」
と言うと安定剤をスーコの脈に打った。スーコは今までどれだけ気を張り詰めていたのか、まるで死んだように眠り続けた。
スーコの眠る様子を見て、加山は日本酒をちびちびとやりながら独り言を呟いた
「こんな深い所に出来ちまった腫瘍、今の設備では手術を行う事どころか、大学病院時代の私でもこの腫瘍を取り除く手術が出来ないだろうな…情けねえ話だ、しかし少しでもこの若者を長く生かしてやりたいよ…」
縁もゆかりも無い少女だが、誰からも救いの手を差しのべられる事無く、ポリバケツの蓋をかぶって雨をしのいでいた。
加山は流浪生活を送る内に医療関連の闇業者と知り合い、それらの闇業者から機材を買い取って、バラックの地下にオペ室やCTを設置した。また、薬もある程度の物を揃える事が出来たが、スーコの脳腫瘍を取る事は物理的に叶わなかった、その腫瘍は取る事の出来無い場所に鎮座していたからだ。
「私が出来るだけの処置をして、持って一年、否…半年、しかし今症状が治ったとしても放置しておけば…3ヶ月もつかどうか」
それほどスーコの病は深刻だった。
日光が窓から差し込み、加山の顔を照らした、知らぬまにパイプ椅子に座ったまま眠ってしまったらしい、気がつくとスーコがベッドから消えていた。
加山は焦り椅子からガタン!と立ち上がったその時、ガチャリと後ろでドアの開く音が聞こえた。




