サッカでごめんね
ある日目覚めたら、隣に奇抜な髪色の女の子が眠っていた!
しかし主人公山道マケルには前日の記憶が無い…。
フリースタイルバトルでテッペンを目指すも、負け続けのマケルにモテ期到来か!?
「思い出せ!思い出せ!思い出せ!俺」
マケルは隣に眠る女の整った眉や、美しい唇を見ながら、鼻息を荒く心の中で叫んでいた。
山道マケル、16歳。都内で私立押韻学園に通う高校1年生だ。
何より日本語ラップが好きで、いつかは名のあるラッパーになろうと日々リリックを書き、トラックメーカーやバックDJになってくれそうな相棒も探している。
が、時代はフリースタイルが出来てMCバトルに勝ってこそラッパーだった…勿論バトルに参加し何度も戦ったが、付いた二つ名が「勝ち知らずのマケル」…と言う事でまだ勝った事がない、ついでに言うと彼女もおらず童貞だ。
フリースタイルバトルも弱く、女子にも弱い…人生マケ組街道まっしぐらだ。
マケルは小学生の頃に日本語ラップに興味を持った、当事教育番組で放送されていた「にこにこビーフ!!」と言う子供向けMCバトル番組に魅了された、その番組では言葉巧みに子役達が韻を踏みながらラップで楽しげにじゃれ合い、観客を盛り上げた者が勝者になる…これ程シンプルな仕組みは無かった。
その後、ラップ・ヒップホップとタイトルにつく物は何でも見聴きしたが、日本語ラップのMC達の中には大々的に紹介されない物の、ずば抜けて生まれも育ちも劣悪な環境から、ラップ一本で上がって来たとリリックにする事をはばからない者も多く、マケル少年は自分の育った中流階級の家庭を恨んだ
「もしかして俺の親父がドラッグディーラーとかしてたら俺ももっとかっけーラップが出来るんじゃね?」
とすら思っていた、何せ今まで一番ウケたバトルのパンチラインが「お前のTシャツ!洗濯失敗した臭いがしてiLL!」だ…
しかも審査員に「最後なんでiLLにして字余りにしたの」と失笑される始末、そんな評価にヘラヘラするしかないマケル。
そんなマケルの勉強の成績は悪くは無かった、やはり中流階級育ちなだけあり教育はきちんと受けている、日本語ラッパーの中には、生まれ育ちの境遇も良く、海外留学と共に本場のヒップホップに触れ、そこからラッパーとして活動を開始、帰国後もワル仲間とつるみアウトローとしての生い立ちを上手くラップにすると言うストーリーテラーも多い事は確かだが、マケルの家庭は海外留学をさせる程裕福では無い。なので留学も出来ず本場のヒップホップに触れる機会が無い、しかしマケルは海外のヒップホップより今目の前にある日本語のラップに興味があったのだ。
そして私立押韻学園に入ったのには大きな理由があった、私立押韻には、全世界で唯一「ラップ・ヒップホップ科」があるのだ。
マケルが日本語ラップにかける思いを汲み、両親が私立に通わせる金を工面した、そして全寮制の押韻学園に入学させたのだ。
ラップ・ヒップホップ科を卒業すれば、アーティストとして大手レーベルと契約を交わしやすく、特待生であればプロダクションのスカウトもあると言う。
学園では普通科目に加え、身体に害が有る等も含めアメリカで規制の緩いドラッグが日本でダメな理由や、一度接した業界人の名前は覚える事、レコーディングや番組撮りの時は最初と最後に挨拶をする事等、基本的な芸能マナーから、韻の踏み方やリリックの書き方、バトルの際のマナー、またはトラックの作り方等も習う。
学園では推奨されていない物の、何より押韻のスクールカーストは校内フリースタイルバトルで決まる所もマケルは気に入っていた。
勿論バトルで勝てないマケルはカーストの最下位だったが、不良MCにバトルで向かって行ってはぼこぼこに負ける様は、笑われてこそ嫌われはしなかった、とにかくモテ無かったが友達は大勢いた。
ここまでが先ほど隣に寝ていた女を見て鼻息を荒くしていた、山道マケルのプロフィールである。
すやすやと寝息をたてて眠っている女は、歳のころならマケルと変わり無さそうで、洋服こそ着ているが、タンクトップにパンツ1枚…16歳の男子から見れば裸同然である、マケルが鼻息を荒くするのも無理はない。
深呼吸して冷静になり、再度女の全身を見た。