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ほんとのきもち

作者: ArmoniaProject

 目を覚ますと、見覚えのない部屋に居た。

 そして、私の隣には、よく見知った女性が居た。

「ううん……ここは? あれ、こはるちゃん?!」

 合唱同好会のメンバー、宝条菫先輩。

「おはようございます。私も今気がついたところで、状況がわかっていないです」

 辺りを見回してみると、張り紙のされたドア以外には家具も窓もなく、天井には照明の類は見当たらないが、不思議と暗くはない。広さは……6畳程度だろうか。

 ドアに近づき、張り紙に書かれた内容を読み上げてみる。

「えっと……『相手の好きなところを三つ言い合わなければ、この部屋から出ることは出来ない』とのことです」

 文字は手書きではなく、パソコンなどで作成されたものと思われる。

「くだらない悪戯ですね」

 一蹴して、ドアノブに手をかけ回そうとするも、本当に鍵がかかっているようで、ドアノブは回らなかった。

「なっ……」

「本当に閉じ込められちゃったみたいね」

 菫先輩の口調からは、緊張や焦りといったものが感じられない。

「どうしてそんなに落ち着いているですか?」

「だって、こはるちゃんと二人きりってあんまりないじゃない? だから、これはこれでアリかなって」

 笑顔で答えた菫先輩に若干の恐怖を覚えつつ、この状況の打開策に思考を巡らせる。

 いや、この張り紙の内容が正しいのであれば打開策は既にあるのだけれど……。

「そんなに難しい顔してどうしたの?」

「ここから出るにはどうすればいいのか考えているです」

「え? だって、相手の好きなところを言えばいいだけでしょう?」

「それはそうですが……」

 とても不思議そうな表情で言われ、反応に困ってしまった。

「とにかく、もっと簡単に出られる方法を探すです」

「こはるちゃんと一緒ならなんでもいいわぁ」

 そう言って後ろをついてくる菫先輩を極力気にせず、部屋中を歩き回ってみたが、隠し扉やスイッチの類があればと思ったものの、やはり見つからなかった。

 ふと、一つの可能性に思い当たった。見たところ、カメラやマイクは見つからず、ドアの外に誰かが居るというのも考えづらい。それならば、好きなところなんて適当にでっち上げてしまえばいいのではないか、と。

「菫先輩、やはり紙に書いてある方法しかなさそうですね。まずは私から言うです」

「こはるちゃんが私の好きなところを言ってくれるのね! 楽しみだわぁ」

 こうなることは予想できたため、特に反応はせずに話を進める。

「菫先輩は、優しくて、上品で、それでいて、凄くフレンドリーです。私は、菫先輩のそんなところが好きです」

 すると、どこからか、まるでクイズ番組で不正解の回答をした時の様な音がした。

「うふふ、なんだかくすぐったいわね。でも、嬉しい」

 菫先輩は気にしていない様子なため、嫌な予感がしたが、とにかく先を促してみる。

「さあ、次は菫先輩ですよ」

「任せて! えっとね、こはるちゃんは、小さくて可愛くて、すぐムキになるところも可愛くて、好きなことに一生懸命なところが大好き!」

 今度は先ほどと違い、正解の回答をした時の様な音がした。私の仮説が当たっているとすれば……。

「こ、これで外に出られるはずですよね」

 やはりと言うべきか、ドアが開くことはなかった。

「やっぱり、嘘じゃダメなのかしら?」

「そのようですね……って、どうして嘘だとわかったですか?!」

 危うく聞き流すところだった。

「それくらいわかるわ。だって、私はこはるちゃんのことが好きだから」

 まるで説明になっていないけれども、いつになく真剣な口調だったため、それ以上突き詰めようとは思わなかった。

「……まあいいです。嘘だとバレていて、部屋からも出られないのでは仕方ないですね。今度こそ、本当のことを言うです」

 ため息をつき、菫先輩を真っ直ぐに見据え、口を開く。

「ふざけているようで、メンバー一人ひとりのことをよく見ているところ、同好会の雰囲気を明るくしてくれるところ、他人を否定しないところが好きです」

 いつもの菫先輩なら喜んですぐに抱き着いてくるであろうに、目の前の菫先輩は、喜びを噛みしめる様にただ黙って頷いていた。

 菫先輩の時と同じ音がして安堵したのも束の間、バリバリと大きな音を立てて床が崩れていった。

「どういうことです?!」

「落ちちゃうわね」

「だから、どうして楽しそうなんですか!」

 微笑みながら言う菫先輩にツッコミを入れたのを最後に、私たちは落下していった。


「い……っ!」

 鈍い痛みに目を覚ますと、視界に広がっていたのは、見慣れた自分の部屋だった。周りを見回してみても、いつもと変わった部分は見受けられない。

「夢……?」

 痛みの正体は、恐らくベッドから落ちた衝撃だろう。妙にリアルな夢に困惑しながら学校へ行く準備を進めた。


 校門を抜けると、今一番会いたくない人物に遭遇した。

「おはよう、こはるちゃん! 朝からこはるちゃんに会えるなんて、今日はいい日だわぁ」

「……おはよう」

「紗耶香先輩、おはようございます。菫先輩も」

 夢とはいえ、あんな恥ずかしいことを言ったため、少々話しづらい。

「こはるちゃん、なんだか元気ない?」

「気のせいです。菫先輩が元気過ぎるだけです」

「えへへ、褒められたわ」

「褒めてないです」

 本当に、この人は……。

 でも、そんなところも嫌いじゃない、なんて言わないのだけれど。


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