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ファンタジー系

とある七転八倒の人生

作者: 弓兵

この世界で才能の無い奴がそれなりに食ってくには何がいいか?


ボクが考えた最適解は兵士になること。


魔物や野盗が溢れ治安悪化が進んでるとよく言われる昨今では、国や領地持ちの貴族からの一般兵の需要が高い。何しろ手が足りないぐらいだ。


金を出し惜しみたくとも、田畑を荒らされ商行路が潰されてくのを放置すれば最終的に締まるのは自分たちの首というのもあり、金食い虫の軍を維持し続けていく。


それが出来なかった地方領主の領地はそれはそれは無残な事になっているのは周知の事で、その後続に続きたくない雲の上の方々は民から金や物を絞って対策に追われてるのだ。


そんなご時世で魔獣のうろつく森で一人で狩りをしたり、田畑を耕したり、きちんと教育を受けてる連中に混じって商売をして真っ当に生きていける自身は無い。


かと言って問題となってる野盗や小悪党に堕ちる度胸も脳天気さも無い。


学があれば選択肢も広がるのだろうが、残念ながら幼少の頃から弓矢や鉈等の使い方は教えて貰ってきたが世間様で言う一般的な学はそれこそ村長か名士の家でないと無理だった。


だからこその、今なら誰でもなれるような兵士が最適解。


死亡率は高いし、手柄を立てたとしても文字を書いたり読んだりできなければ精々歩兵長辺りが出世の限界だとしても、安定した給金が支払われるだけでも十分だ。


なにせ給金を渋られた兵が丸ごと野盗に寝返って領主はその命も含めた全てを略奪され尽くされた事例もあるのだ。


こんな底辺の耳にも届くことが他に伝わって無い筈がなく、国も貴族も頭を抱えて捻出してるらしい。


ありがとう、先達者の方々。


貴方達の暴挙のお陰で給与を心配せずに兵士になれます。











「放てぇ!」


歩兵長の指示に従い、引き絞っていた弦を放して矢を飛ばす。


数百の矢が高く弧を描いて討伐対象である野盗共の頭上に降り注いでいく。


とはいえ、相手も簡易な盾――という名の板――を掲げて矢を防いでいるので致命的な一撃から程遠い嫌がらせ攻撃の様なものだが、やるのとしないのでは前線の負担がかなり違うというのを最近学んだ。


兵士として入った領軍は大規模では無いが指揮官が良いみたいで、その手堅い指揮で魔獣狩りや野盗退治でも損害は少なかった。


噂によると領主様が態々退役した将軍を招いて教練させた結果らしい。


道理で訓練が厳しいわけだが、それで生き残れるなら仕方がない。


そういうボクも弧を描く様に矢を飛ばして相手を攻撃するという射方は、それまで狩りの為に習った射方とは異なってたから初めは上手く射れない事もしばしばあった。


なにせ弓の種類自体が違うのだから当然な訳だけど、今では長弓にも慣れてどの程度の角度でどれぐらい力を入れて引けばいいかも憶え、弓兵として合格点に届くようになった。


「次射、用意!」


再び歩兵長の指示が受け、矢を構える。


盾を構えた槍兵隊に護られる弓兵隊は相手に騎兵や魔術師がいたり、相手が突進力の高い魔獣でもなければ投石隊同様に比較的死亡率が低い良い職場だ。


代わりに用兵上の都合から個人的な武功を上げて出世するという戦場浪漫からは無縁だとしても、前線で斬り合ってる死亡率が段違いな部隊よりかは明らかにマシだった。


「放てぇ!」


そしてまた、歩兵長の指示に従って引き絞っていた弦を放す。











兵隊を首になった。


ボクだけではなく、結構な数の兵がだ。


それもこれも、ボク等が出兵中に領主様の館に魔物の群れが襲い掛かって一家まるごとお亡くなりになられたという。


ふざけた嘘だと思ったけどそれは事実で、貧乏くじを引いた隣の領主様が緊急時という理由で王様から臨時の領主を押し付けられ、統合した領軍にて魔物の群れを討伐させられた。


その後も王様からそのまま領地を治めろと指示を受けた隣の領主様だった訳だけど、領主様の懐にそれが可能なだけの金はなく、前の領主様の財産は魔獣が踏み荒らして残っていない。


新しく引き受けた領から税収が得られない限りは元々の予算内でどうこうしなければならない以上、こっちの領軍をそのまま引き受けるのは無理だった訳だ。


それでも退職金は渡されたのはすぐに野党化されるのを防ぐ為と、新しい領民の不満を出来る限り抑えたかったからか。


なんにしても安定した職だと思ってた就いたのに、こんな形で終わるとは予想外だった。


別の領に行って兵士になるのがいいかもしれないが、こんなご時世ではまたいつ領主様が急死して首になるかも分からないっていうのを体験したばかり。


これは少し考え直す必要があるかもしれないと考えをまとめる為に町の酒場で酒を飲んでいた時、ドスの効いた大きな声で呼びかける声が響いた。


目を向けると、大声を出しているのはゴツイ体格の大男。


内容は傭兵希望を募集するもので、兵士の大量解雇を聞き付けて人員集めに乗り出した傭兵団の一つらしい。


だけど成程、傭兵は考え付かなかった。


荒れてる世の中では仕事に困る事もないだろうし、考え物かもしれない。


ただ傭兵とは名ばかりのチンピラや野盗もどきな団があるのも兵士時代で知ってるので入る団はきちんと考えないといけないだろう。


選択肢が増えた事を祝う為、店員に酒の追加とつまみの肉詰めを注文した。











傭兵になってみた。


入った団は《双頭の狼》という傭兵団で、町に滞在する団の中でも比較的マナーが良かった所だ。


狩人出身の弓兵上りという事で、戦いが始まる前は斥候を、始まった後は後方で弓兵として働くという事になった。


他の傭兵も各々の技術次第では掛け持ちになってるのも珍しくなく、そういう傭兵にはその分報酬に色が付くという。


そういうものだと納得して二足の草鞋で何度か傭兵として仕事をしたが、その通りに報酬は少し大目で不満は無かった。


規律がしっかりしていた領軍時代とは違って色々と緩いとこも多いが、戦いとなるとほぼ全員がしっかりと命令通りに動けてる。


全体の熟練度は圧倒的に傭兵団が上だった。


個人主義が多いと思ってのもあって意外だったが、歩兵長みたいな事をしてるまとめ役のオッサンが言うに「それで生きて帰れたら苦労はしない」「分からない奴は早々に死ぬだけだ」との事。


つまりは好き勝手やる奴は淘汰され、それでも生き残る少数の怪物はそういう前提で使ってるらしい。


語るオッサンの感情が籠り過ぎてる話はまとめ役は大変だなっていうのをボクが実感するのに足るものだった。


話のついでに生き残る為に何をしたらいいか聞いてみたら、「命令をよく聞く事」「自分が出来る手札を増やす事」と言われ、剣や盾の使い方を覚える流れになった。


まぁ長い事戦場で生き残ってきた人の生の意見だし、接近された時に対応できるようになれば少しは生き残れる目も増えるかもしれないのでやってみようと思う。










一体全体何が悪いのか。


傭兵団の中で比較的マナーのいい《双頭の狼》は使ってくれる所も多い中堅傭兵団だった。


そう過去形。


残念な事にこの数年で慣れ親しんだ《双頭の狼》は幾つかの傭兵団と国軍の部隊と一緒に壊滅してしまった。


それもこれも、複数の傭兵団が国軍に雇われて一緒に空を飛べないレッサードラゴンの討伐を行う事になったのが発端。


レッサードラゴンの討伐自体は特に珍しいものも無く、国軍も傭兵団もどう攻め立てどう守ればいいかは分かっていて、何時も通りに討伐は出来た。


そこまではいい、問題はそこからだった。


レッサードラゴンの首級を上げて意気揚々と撤退しようとしてた時にソイツはやってきた。


ボクがソイツの到来に気づいたのは見張りの兵が響かせた角笛の音を聞いてだった。


初めはボクも周りも腹を空かせたグリフォンでも出たのかと思ったけど、違った。格が違った。


突風と翼の轟音と共に飛来したのは空の支配者であり恐怖と死の体現、アークドラゴン。


しかも眼に焼き付く程の紅い鱗を持つそれは、アークドラゴンの中でも特に凶暴と言われるブレイズドラゴン。


ソイツを認識した後、辺りは狂騒に覆われたしまった。


訓練され、幾つもの死線を潜り抜けてきた正規軍と傭兵団が逃げ惑う事しか出来なかった。


国軍の上級指揮官や団長クラスの人は兵士を落ち着かせて組織を維持しようとしてたが、その努力もドラゴンの咆哮一つで無に帰してしまう。


最終的に責任を全うしようとした指揮官達と団長たち、そして運の悪い連中の多くがドラゴンに喰われ焼き尽くされた。


その時のボクはただ運良く生き残れた。


逃げ惑う中で転ぶか突き飛ばされたかされ足を挫いていた国軍の魔術師の女の子を助けて岩陰に隠れた時、彼女が防壁の魔術を使ってくれなかったらドラゴンの炎の余波でコンガリ焼かれていただろう。


僅かな生き残りを国軍の下級指揮官達がまとめボロボロの状態で帰還をしたが、その先で待ってたのも碌でもない現実。


王都に辿り着いたボク達は団が壊滅して所属をハッキリさせることが出来ない無い事、また個別への支払い義務は無い事を理由に団に支払われる予定だった後金の一部が見舞金として支払われるだけで終わってしまった。


それでも本来団で貰う報酬よりかは多かったが、アークドラゴンからの被害を受けて団が壊滅してこれからどうするかという時だと満足がいく金額とは言い難い。


一応、国軍からは希望者は優先的に兵士として登用するというお言葉を受けてはいたけど、それは僕達への支援というよりも予定外の損害の穴埋めの為ってのは誰にでも分かる事だ。


これからどうするかを考えるのにさえ疲れていた僕に他の元傭兵達と同じように王都の酒場で自棄酒を煽っていたら、酔いの回る頭と耳に聞き覚えのある柔らかな声が届いてきた。


「ここ少しいいですか?」










「スペルが間違ってます。dじゃなくてbなので書き直しです」


雇い主の女の子に赤インクで修正された紙を返され意気消沈としながら初めから書き直す。


現在ボクは王都にある貴族の屋敷で文字の練習をしてる。


なんでそうなったか今でも不思議だけどそうなってしまったとしか言えない。


あの自棄酒を煽っていた次の日、見知らぬ高級宿で目が覚め二日酔いに苦しみながら頭を捻っていたボクの下に朝一で訪れたのが、アークドラゴンの襲撃時に助け助けられた魔術師の女の子。


その子が持っていたのは血印が押されたボクが彼女に仕える雇用契約書だった。


あの自棄酒を煽っていた酒場で彼女個人に仕える護衛としての契約を結んで、交替条件として酒代の肩代わりと彼女持ちでこの高級宿に泊まったという。


ここまで聴いても半信半疑というか疑いが強かったが、教えて貰ったこの高級宿のお値段は貰った見舞い金なんて吹いて飛ぶ程のお値段であり、酒代と合わせるとどうやっても支払いは絶対に不可能。


断るなら肩代わりした酒代と宿代、更には違約金の支払いも要求されるとなれば、ボクに選択肢なんてありはしない。


念のために貰った写しを生き残ってた文字の読める元傭兵仲間の下に持って行って確認したら確かにそういう書類との事。


とんずらしようかと考えるボクをその元傭兵仲間は止めて「書類に血印がされてるだろ。これは魔術の契約術の一種で、破ると死ぬような目にあうぞ。悪い事は言わないから飼われとけ」と今迄みた事もないぐらい真剣に忠告してくた。


完全に逃げ道を塞がれ、這う這うの体で宿に戻ったボクを出迎えたのは柔らかい笑顔の彼女。


こういう時でなければ癒されるシチュエーションかもしれないが、あの時は死刑執行人の様に見えて仕方なかった。


そうして彼女に仕える事になった訳だが、あんな大金を遣り取りできるからある程度予想はついてたわけだけど、やはりというかなんというか彼女は貴族だった。


代々国に仕える子爵家で、その義務として14歳から成人する16歳までの2年間は国軍に入る事になってるらしい。


でもこんなご時世だから後方勤務も上位貴族の師弟で席が埋まってたから、比較的に安全だった魔導隊に所属してからの初の実戦があの戦いだったらしい。


改めてお礼を言われたけど、こっちも助けられて、また闇討ち同然の雇用契約を結ばされた身としてはなんとも言い甲斐感じだった。


彼女の両親、つまりは子爵とその夫人とも面通しされた時に、娘を助けてくれてありがとうと頭を下げられた時の胃の痛みは多分、生涯忘れないと思う。


そんな感じで護衛になった訳だが、専門は弓だからどの程度役に立つか分からないと正直に告げたら側に居て守ってくれたらいいと言われた。


つまりは魔術を使う間の肉盾になれって事だろうけど、今迄の職場の中で一番良い給金で住み込み護衛というのもあり、まぁそれは納得できた。


でも、護衛の仕事以外でもわざわざこうして読み書きの練習や計算の仕方、歴史や踊りに音楽、他にも礼儀作法や言葉使いにすら矯正されるのはどうだろうか?


子爵家に相応しい振る舞いとして必要と言われたら、雇用主の顔を潰す訳にもいかないし魔術の契約術とやらも怖いしで文句が言えないが、何か納得がいかない。


また前から子爵家に仕えてる人達から何かしらのやっかみとかを受けるのを覚悟をしてたけど、皆良い人でなんか生暖かい視線と共に「がんばれ」とか「色々と諦めが肝心だよ」と、慰めの言葉すらも投げてくれるし、差し入れとかもくれたりもする。


職場の人達も良い人で、雇い主の御両親もこっちを気にかけて下さり、雇い主の子も経緯を無視すれば可愛い良い子だ。


色々と大変だったけど、結果的に良い所に収まったと思えばこれまでの苦労も報われるかもしれない。


今度こそ職を失わないように神に祈って、雇い主の子の護衛に付く。

















雇い主の子が成人した日、ボクは解雇された。


そして――――



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