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銀のペンダント  作者: 上村文処
エピソード2 授業~師匠~笑う
76/1018

2-8 ら

 ら。


「あのー」


 スプリングフィールドさんに、肩をとんとんされた。


「はい?」

「お金。忘れてます」


 ……あ。机の隅に片付けて、そのままだった。


「すいませんすいません」


 せっかく頂いたのに。大切に使いますね、とか言ったのに。


「えーと、うへ」


 まとめて持つと、重い。が、持てないことはない。銀貨の入ったコインケースはエプロンのポケットに入れて、残る銅貨四百枚は、紙袋の中へ。

 あ、わりと頑丈だ、この紙袋。


「大丈夫ですか?」

「……なんとか」


 指、ちぎれそうですけど。


「美容師さんの待機場所に行く前に、職員用の部屋に寄りますから、荷物はそこでお預けになってください」

「それ、すんげー助かります」


 重い。これ……どれぐらいの重さだ?


「……銅貨一枚の重さって、どれぐらいなんでしょうかね?」

「すいません。ちょっと、分からないです」


 ですよね。

 私も十円玉とか五百円玉の重さ、分からないし。


「よろしければ、お持ちしましょうか?」

「いえ、それはさすがに」


 抱えよう。これで、指への継続ダメージの心配はなくなった。

 が……胸が、わりと邪魔。


「では、こちらへ。いつでもお持ちしますから、言ってくださいね」


 ……あい。


「すぐそこですから」


 ……あい。


「やっぱり、お持ちします」


 ひょいと私が抱えていた紙袋を、スプリングフィールドさんが持ち上げた。


「……なんか、ほんとすいません」

「お気になさらないでください」


 自分がちょっと、情けない。


「それで、今後の予定なのですが、女の身だしなみについては、美容師さんに髪を切って頂いたあと、私が担当します」

「あー、身だしなみ」


 そういえば、そういうお話も予定の中にはあったっけ。

 社会に女として入っていくわけだものなー、私。この世界の女の人の常識を、きちんと身に着けなければ。


「お化粧とかもですか?」

「そうですね。でも、薄い色の口紅ぐらいですよ」


 口紅。


「騎士階級のご婦人やご令嬢は、手の込んだお化粧をされる場合もありますが、街の女は私とそれほど変わらないです。もちろん、お仕事にもよりますけど」


 ちょうど、目線が同じぐらいのスプリングフィールドさんを、横目でちら見してみたが、お化粧をしているという印象はない。あー、でも、唇の色が、春っぽい?

 私の視線が自分の口元に向かったのが分かったのだろう、新色なんですよ、とスプリングフィールドさんが言った。

 ほへー。新色。


「では、お荷物を預けてきますね。しばらくお待ちください」

「了解であります」


 通路の途中にある部屋の中に入っていくスプリングフィールドさんを見送りながら、なんかまだまだ、色々なことを考えないといけないんだなー、と思ったら、溜息が出てきた。


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