2-8 ら
ら。
「あのー」
スプリングフィールドさんに、肩をとんとんされた。
「はい?」
「お金。忘れてます」
……あ。机の隅に片付けて、そのままだった。
「すいませんすいません」
せっかく頂いたのに。大切に使いますね、とか言ったのに。
「えーと、うへ」
まとめて持つと、重い。が、持てないことはない。銀貨の入ったコインケースはエプロンのポケットに入れて、残る銅貨四百枚は、紙袋の中へ。
あ、わりと頑丈だ、この紙袋。
「大丈夫ですか?」
「……なんとか」
指、ちぎれそうですけど。
「美容師さんの待機場所に行く前に、職員用の部屋に寄りますから、荷物はそこでお預けになってください」
「それ、すんげー助かります」
重い。これ……どれぐらいの重さだ?
「……銅貨一枚の重さって、どれぐらいなんでしょうかね?」
「すいません。ちょっと、分からないです」
ですよね。
私も十円玉とか五百円玉の重さ、分からないし。
「よろしければ、お持ちしましょうか?」
「いえ、それはさすがに」
抱えよう。これで、指への継続ダメージの心配はなくなった。
が……胸が、わりと邪魔。
「では、こちらへ。いつでもお持ちしますから、言ってくださいね」
……あい。
「すぐそこですから」
……あい。
「やっぱり、お持ちします」
ひょいと私が抱えていた紙袋を、スプリングフィールドさんが持ち上げた。
「……なんか、ほんとすいません」
「お気になさらないでください」
自分がちょっと、情けない。
「それで、今後の予定なのですが、女の身だしなみについては、美容師さんに髪を切って頂いたあと、私が担当します」
「あー、身だしなみ」
そういえば、そういうお話も予定の中にはあったっけ。
社会に女として入っていくわけだものなー、私。この世界の女の人の常識を、きちんと身に着けなければ。
「お化粧とかもですか?」
「そうですね。でも、薄い色の口紅ぐらいですよ」
口紅。
「騎士階級のご婦人やご令嬢は、手の込んだお化粧をされる場合もありますが、街の女は私とそれほど変わらないです。もちろん、お仕事にもよりますけど」
ちょうど、目線が同じぐらいのスプリングフィールドさんを、横目でちら見してみたが、お化粧をしているという印象はない。あー、でも、唇の色が、春っぽい?
私の視線が自分の口元に向かったのが分かったのだろう、新色なんですよ、とスプリングフィールドさんが言った。
ほへー。新色。
「では、お荷物を預けてきますね。しばらくお待ちください」
「了解であります」
通路の途中にある部屋の中に入っていくスプリングフィールドさんを見送りながら、なんかまだまだ、色々なことを考えないといけないんだなー、と思ったら、溜息が出てきた。




