1-7 笑いましたね
「笑いましたね?」
「……いいえ」
「私の前髪をよく見てください」
「……く、ふく、ぐ」
笑うの我慢しながら笑ったな。
ただ、まぁ。
「これ、世間一般の女目線では、切り過ぎですか?」
「そ、そう……ですね……でも、とても、お似合いですよ……ふ」
ヨリコ、うっかりミス。
こういう時は、てへ、と言いながら両手を交差させてチョキの形を作って、両方の鼻の穴を指で広げるんでしたか。
「実行しようとしないでください」
丸めた転生者の衣を小脇に抱えたまま、私が両手をクロスしたところで、スプリングフィールドさんに手を掴まれた。
「あのー」
「はい」
スプリングフィールドさんが、掴んでいた私の手を離し、窺うようにしながら言った。
「わざとやってますよね。変なこと」
ふむ。
「私たちがあなたにどう対応するか、試していませんか」
ふぃー、ふぃー、ふぃー、ふぃー。
「口笛を吹いてごまかす、という行動は、一部の転生者の方々が行なった、という記録があります。前世の世界の伝統的な慣習なのか、それとも悪ふざけなのかは分かりかねますが。あと、口笛、鳴ってません」
ふむ。
「私の行動は記録に残るんですよね」
「そうせざるを得ません」
「何年かあとに、その記録を読んだ人、大爆笑ですね!」
丸めた転生者の衣を胸元に強引に押し込んで。
「トリプルおっぱい、ぱいぱいぱいん!」
ぱいんぱいんぱいん。
「胸で悪ふざけをするのはやめなさい」
ついに真顔で怒られた。
「それ、お預かりします」
そして、転生者の衣をひょいと取り上げられた。
私の、第三の暴れん坊が。
「切った髪はこちらで処分します。転生者の衣は返却しますから、ご安心を」
え?
「いらないですよ、そんなの。今後間違いなく、着ることもないですし」
「前世の世界からこちらへ転生した時に、唯一、一緒にやってきたものじゃないですか」
うーん。
「皆さん、その、処分したりしないんですか?」
「お持ちになりますよ」
ふむ。
「記念に?」
「ええ」
では、まぁ。皆にならえ、か。
「分かりました。では、お願いします。それで、あのー、私はこれからどうなるんでしょうか」
「ここの……転生者組合第三支部支部長との面談があります」
この場所そのものが、転生者組合第三支部なのか。
「今すぐですか?」
「早急に。お待ちのはずです」
あ、でも少し、お待ちください、と言って衣装部屋に入っていったスプリングフィールドさんが、折り畳まれた白い布を持って戻ってきた。
「これ、エプロンです。服の上からしてください」
「スプリングフィールドさんのと同じものですねー」
「ええ。私たちの世界では、エプロンまでが女の普段着です。この世界の規律に慣れてください」
ポケット付いてるし、便利そう。
えーと、こうか。ついでに、悪ふざけで乱れた胸元も整えて。支部長さんは、偉い人なのだろうし。心証を良くせねば。
「上手く着れてます?」
「大丈夫です。さぁ、行きましょう」
私が寝ていた部屋にあったもう一つのドアは、短い廊下につながっていた。その先には階段がある。コールズさんの姿はない。
部屋の中にも廊下にも窓があり、屋内を明るくしている。
へー、ここ、二階だったのか、と思いつつ、足にまとわりつく長いスカートを、どうにかさばきながら階段を降りていくと。
「着替え終わったか。よし、行くぞ」
コールズさんが待っていた。
私の切り過ぎた前髪が確実に目に入っているはずだけど、何も言わないし反応もない。
「それでは、私はこれで失礼します」
「あぁ、お疲れ」
「色々とありがとうございました」
頭を下げた私に少しだけ笑って、スプリングフィールドさんは一礼し去っていった。




