1-45 店の前の
店の前の路地から見上げる空は、眩く光っている。夜の暗さを払うだけの星々が、空を埋め尽くしていた。星明かりの作る、建物の影の中に立っている私に、路地を抜けてきた風が触れる。肌寒さを感じない風だった。
風が流れてきた先を見遣ると、広場に向かって影を投げる、鐘楼の姿があった。
「帰りましょうか」
「あ、はい、そうですね」
支払いを済ませ、お店から出てきたトーチライトさんの声で、私は我に返った。
「今日はごちそうさまでした」
「どういたしまして。はい、これ」
小さな紙袋を、トーチライトさんは手で提げて持っていた。二つあって、そのうちの一つを私に差し出している。
「はい?」
「お土産」
「お土産?」
「稲荷寿司」
おーぅ。
「いやいやいや、そんな、お土産まで、悪いですって」
「まだ、時間が早いし、宿舎に帰ったら、あとでお腹が空くかも知れないでしょう? ほら、私の分もあるし」
それにもう、買っちゃったから、と付け加えて、トーチライトさんが笑った。
いやー。もう、なんと言ったらいいのか。
「ありがとうございます」
お礼。お礼。ひたすらお礼。それしかない。
「私がしたくて、したことだから」
こういうこと、言えるようになりたい。頭を下げ続ける私に、気にしないで、と言ったあと、
「星、やっぱり、珍しい?」
そう続けて、トーチライトさんが空を見上げた。
「そうですね。夜はもっと、暗いのかと思ってました」
鐘楼広場へと続く路地には、幾つもの店が並んでいる。その店先には、ランプのようなものが提げられていて、淡く辺りを照らしていた。その淡さに重なるように、星の光が降っている。
「夜は、明かりいらずですね」
「そうねー、でも、馬車道に入ると暗くなるから、明かりを出しておきましょうか」
む?
「これ、ちょっと、持っててくれる?」
あ、稲荷寿司入り紙袋。
「はい、お預かりします」
私が紙袋を受け取って自由になった両手を、トーチライトさんは何かを捧げ持つようにしながら、緩く握った。




