2-81 いつ頃
いつ頃から暑くなるんだろう。
「日本と同じ、じゃないよな。さすがに」
水路沿いの開けた道を、ぼんやりしながら歩いていると、ベンチに座っている人の姿がふと、目に入った。
「ヨリちゃーん」
レインツリーさんが手を振ってる。
「あ、どうも」
「どしたの? なんか、心ここにあらずな感じだけど」
「ほへ?」
「ごまかさないで、おばちゃんに言ってごらんよ」
「いえ。あのー」
むーん。
「もしかしたら、なんですけど」
「うんうん」
「私、夕ご飯にお誘い頂いていたのかも」
おっさんが言った、晩飯は、というのは、もしかしたらそういう意味だった可能性が。
奥さんが、あら、もう帰るの、と言ったのも、そのあとの、ぬーん……。
「私、ものすごくひどいことをしたかも知れません」
奥さんがお昼ご飯の時、出かけたのも、夕食のための買い出しだったりとか。
「引き留められたリはしなかったんでしょ?」
「はい」
「じゃあ、いいよ。あの二人はそういうの、ちゃんと口に出して言えない子たちだから。それは、向こうの方が大人なんだから、ヨリちゃんは何も悪くない」
だからね、とレインツリーさんが言った。
「そんな、泣きそうな顔はしなくていいんだよ」
立ち止まって、深呼吸をしてみた。冷たい空気が肺に流れ込んでくるのが、心地よかった。
「ご飯、どこかに食べに行く? おごるよ?」
「いえ、食堂で食べたい気分なので」
「そっか。じゃ、帰ろうか」
いつものように私の真横には並ばず、少し前に出て、レインツリーさんが鐘楼広場に続く道へと歩いていく。その後ろをついていきながら、私は振り返って、おっさんと奥さんのいるお店の方に頭を下げた。




