2-39 壁
壁を見ていたら、思い出したことがあった。
「生活雑貨はなごろもというお店の二階の壁に、非売品っぽい髪留めが飾ってあったんです」
「髪留め?」
抹茶ケーキをもぐもぐしながらレインツリーさんが言った。
「はい。なんか、気になってるんですよね。桜の花びらがモチーフになっていて、私の名字は桜の花を見て思いついたものだったので」
まぁ、それだけなのですが。
「そうなんだ。はなごろもに飾ってある髪留めか」
腕を組んでうーむのポーズをしたレインツリーさんが、トーチライトさんを見た。
「あれって、銅の板の?」
「だと思う。はなごろもの店長さん、ルーペさんの奥さんと親しいから、それでじゃないかな」
ルーペさん。
「リカルド・ルーペ。銅の板という名前の宝飾細工店の店主。まぁ、職人だね。宝飾師」
へー、ルーペさんという方がお作りになられたんですか。
「そーそー」
「有名なんです? あの髪留め」
「うーん、まぁ、銅の板、もう、やってないからさ。単純に、リカルド作の細工ものはもう買えない」
「ほへー」
……ん? リカルド? またしても名前呼び。
「もしかして、お知り合いの方なんですか?」
「うん。乳児の頃から知ってる」
おぅ。
「今はもう、引退されているけれど、とてもご高名な宝飾師の方なのよ」
「王国御用達、みたいな。あいつ、ひねくれてるから、気に入らない態度を取った相手の仕事は全部、はねつけてたねー」
あ、そういう、頑固系の方なんですか。
「うん。だから、作るものの繊細さとのギャップがすごくてね」
ほーほー。
「お二人とも、ルーペさんご夫婦とはお付き合いがあるんですか?」
「んーと、宝飾細工ってね。魔道具を作る上で、とても大事な工程の一つなのね」
魔道具を作る上での工程。
「ねぇ、ブロッサムさんに自分のこと、ちゃんと説明した?」
「ん? あたし、エルフの転生者」
「違うでしょ。この人、本人はこういう言い方するとものすごく嫌がるけど、この世界屈指の付与術師なのよ」
なんですと。




