1-1 目を開いた
目を開いた。視界に入ってくる光は、白くて強い。一度、目を閉じ、もう一度開くと、眩かった光がやわらいで、見たことのない天井が見えた。
「気分はどうだ」
耳に届いた声の方に顔を向けると、私に話しかけてきた男の人がちょうど、椅子から立ち上がるところだった。
「……よくわからないです」
思った通りのことを答えて、改めて天井を見上げた。
石組みの天井だった。今までの私の生活の中には、なかったものだ。
ここはどこなのか。私は誰なのか。
目覚める直前、そのあたりのことを誰かと話したような記憶が、頭の中に残っている。
でも、その記憶はひどく曖昧で、ここはどこで、私が誰なのかを、はっきりと思い出すことはもう、できないのだろうという確信もあった。
思い出せないのであれば、仕方がない。とにもかくにも、まずは起きねば。
全てはそれから。
私は両手の指を真っ直ぐに揃え、天井に向かって突きつける構えをとった。
そして。
「ほいっ! ほいっ! ほいやっ! ほいっ!」
裂帛の気合と共に勢いをつけて腕を伸ばし身体を起こそうとしたが、胸の重みが邪魔をした。あと、どこが、とはあえて言葉にしないけれども、あるところが擦れてとても痛い。
「どうした?」
すりすりの痛みに耐えつつ身体を起こそうとしては失敗し続けている私を見ながら、男の人が冷静にそう言った。
「ほいやっ! ほいやっ! ほいっ! ほいっ!」
より強いかけ声とともにもう少し続けてみたが、起き上がれそうな気配はなかった。素直に両手をベッドについて身体を起こすと、試練に自ら挑む私をじっと見ていた男の人が、口を開いた。
「もういいのか」
どう答えるべきか。
「ばいんばいんしてます」
着ている服越しに掴むと手のひらからこぼれ出るほどの大きさの胸の脂肪の塊、略してムネシボを、男がいやらしい目で見つめている。
「いやらしい目でお前を見てはいないし、あと、人にテキトウな描写をつけて遊ぶのはやめろ」
怒られた。