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リリアンにエドガーがかけていた魔法?

 エドガーはリリアンに手招きする。

 そうして、エドガーの目の前で膝立ちになるよう指示される。

 すると、エドガーはリリアンの両耳をそれぞれ手で包んだ。


「ひゃっ!」


 リリアンが思っていたよりも冷たい手に、リリアンは驚き変な声を出してしまった。


「じっとしてろ」


 エドガーはそういうと魔力を手に集め始める。


「おい、青い本?解呪のページ、ルーンを俺に伝えてくれ。

 え?読めない?文字を伝えてくれればいい。俺が読み取る」


 ジャスミンは自分の作業を忘れ、その様子を興味深く見つめる。


「へぇ?魔導書から直接魔法を聞き出せるのね?

 ほんと、あんたの研究室に来てよかったわ。

 興味が尽きないもの。

 初めてこの研究室に誘われたときのことも忘れられないけど」


「何があったの~?」


 ジャスミンが話そうとしたとき、エドガーが制止する。


「そこまでだ、ジャスミン。今は口よりも手を動かしてもらおうか」


「あら、リリアンちゃんにかけた魔法は解けたの?」


「解けた」


 エドガーはフンと鼻を鳴らす。

 リリアンは自分の中からぞわぞわした感覚がすうっと消えていく感覚を得る。

 あまり強い魔法ではないが、それでもエドガーがかけた魔法である。

 作動していなかったはずはない。


「ねぇ、なんで効果が出てなかったのかな?」


「……今、考えてる」


 エドガーは思考し始める。

 だが、その顔色はあまりよくない。

 何かが頭をよぎっているのだろうか。

 エドガーがこの体勢になると、話をすることはない。

 それを見てジャスミンは自分の作業に集中し始める。


「それじゃ、分析魔法・分解理解」


 ジャスミンは目を閉じる。

 シールの周囲に青い魔力の流れが現れる。

 青い魔力は徐々に渦巻き始める。

 ゾンビの皮膚から、赤い魔法の残滓が抽出される。

 それは徐々に青い魔力と交わり、紫色となる。

 それはゆっくりと球の形を取る。

 完全な球の形となったとき、青い魔力がジャスミンに戻り始める。

 紫の球は赤色に戻りながら、その形を変える。


 この分析魔法でわかることは、魔法使用者の思惑である。

 使用者の意思が抽出された魔力に形を与える。

 例えば、炎の魔法で他人を害しようと思えば、その魔力はとげとげしい攻撃的な炎の形を取る。

 だが、炎で暖を取ろうとしたならば柔らかく温かみのある炎の形をとる。


 ジャスミンの目の前に浮かぶ球は徐々に形作られ、二人の人の形になる。

 一人が片方に魔法をかける様な仕草をする。

 もう片方の男は片腕の力こぶを見せつける男の形に変わる。


「身体強化魔法ね。しかも、他人にかけるタイプね」


「やはりか。外で戦ったやつが強化魔法と言っていた。だが……」


 エドガーが言いかけた時、力こぶを持った男は急に膨らみ、破裂すると、いくつもの筋肉質な男になる。

 そして、最初にいた男は両腕の力こぶを見せつけるようになっていた。


「なるほど~、伝染させると伝染元の固体はさらに強化される仕組みなのね~」


「そうみたいね。

 この不気味な赤い魔力から考えても、魔法を作った人間は相当、邪な考えでこの魔法を作ってるわね」


 アナベルは図書館の外にいたグラディスを思い出していた。

 しゃべれるようになっていた彼は一体どれほどのゾンビの感染源となっていたのだろうか。

 アナベルがそう考えていると、ジャスミンが短く警告する。


「待って、続きがあるわ」


 空中で力こぶを見せつけていた赤い男たちは、急に苦しみだす。

 そして、表情がガラッと変わる。

 怒りだ。

 だが、男たちは胸を押さえながらも、怒っている。

 笑顔で。

 リリアンはその様子を見て、初めて会ったゾンビを思い出していた。


「私、そういえば見た!泣き叫んでた女の子がゾンビになったとたん急に変な笑顔になったところ!」


「なるほど、無理やり感情が固定されるのか」


 エドガーの一言に対して、ジャスミンは持論を述べる。


「でも、最初の男は全く怒ってないわ。おそらく、使用者が自由に感情を設定できるのね」


 ジャスミンは分析魔法の効果を早める。

 だが、そこから先は同じことの繰り返しだった。

 力こぶを見せつけ狂った笑顔を浮かべる男が次々と生み出されていくだけであった。

 ジャスミンは指を鳴らして魔法を消すとエドガーを見る。


「これ以上は何もなさそう。分析は以上ね」


「ふむ、ゾンビの原因となる魔法についてはいろいろとわかったな。

 魔法の使用者は強化魔法を伝染させ、伝染した者たちの感情をコントロールしたかったのらしいな」


「そんな魔法なんてありなの~?

 伝染させるだけでもすごい魔法だよね~。

 学会で賞を取って一生不自由しないお金がもらえるほどにはすごいよね~?」


 アナベルは驚きを隠さずにそう言った。だが、エドガーは首を振る。


「ジャスミンの分析は絶対だ。

 でも、この魔法がどういう原理で動いているか、それがどれだけすごい事であるかということはな。

 今となっては、さほど問題ではない」


 エドガーの意見にジャスミンも賛同する。


「そうね。大事なのは誰がどんな目的でこの魔法を使ったかね」


「そうだ」


 エドガーは考え込む。

 アナベルは事件の真相が見えてきて嬉しいと言いたげな表情で言う。


「事実をそのまま捉えれば~。

 誰かが、大量の人に魔法をかけたかったってことになるかな~?

 強化魔法も感情を固定する魔法も、単体で見れば昔からある魔法だし~。

 今回の魔法の肝は伝染する部分でしょ~?」


「そうなるな。

 だが、このような複雑な強化魔法。

 使うために通常の強化魔法の五倍以上の魔力が必要になるだろうな。

 だとすると、その魔法使いは魔力の不足に相当悩んでいただろう」


 エドガーはそう言う。ジャスミンが疑問を投げかける。


「なぜそう言えるの?」


「ジャスミン。大勢の人に対して魔法をかける時、お前だったらどうする?」


「私だったら、特別なことは何もしないかな。普通にみんなに魔法をかける」


「だろうな。ではリリアンは?」


 リリアンはびっくりしながらも、少し悔しそうに答える。


「私は……。そんなことしたら自分の魔力が無くなってしまうから……。

 事前に何人かを集めて大勢にかける魔法のルーン語を共有しておくね…。

 当日にはその人たちと分担して魔法をかけるね……」


 エドガーは消え入りそうなリリアンの声を不思議そうに聞き、頷くと続ける。


「そうだ。師による正しい訓練が必要ではあるが、実際に魔法を使うだけなら才能は必要ない。

 だが、魔力は平等ではない。

 リリアンの言うように魔力が足りない人は分担することで魔力の不足を補っている。

 もちろん、訓練すれば体内の魔力量を増やすことができるが、それは並大抵の訓練ではない。

 ジャスミンのような妖精種であれば永遠に近い寿命によって魔力を増やし続けることができる。

 千五百年以上の修練によってジャスミンの魔力は一般的な人とは比べ物にならないほどになっている」


 褒められたジャスミンはあまりうれしそうではない。


「まぁ、それだけ修練したのに、それを最初からあっさり超えている人もいるんだけどね」


 ジャスミンの皮肉を全く気にせず、エドガーは続ける。


「だが、今回の魔法使いは大学全体を一度に魔法で覆うのではなく、伝染という形で他人の魔力を借りながら魔法を使っている。

 強化魔法に魔法の伝染、さらに感情の固定と言った複雑極まる条件の魔法を構築できるという点から魔法の行使者は教授クラスの人。

 それも、構想だけあって実現には程遠いとされた伝染する魔法を完成させるような人だ。

 研究に十年はかかっているだろう。

 これまでずっと魔力の不足に苦しんできたような人物だな」


 だが、アナベルが反論する。


「……そんな人物像だと、とっても苦労してやっと完成した魔法をこんな風に暴走させるなんてことをするとは思えないんだけど~」


「ふむ。なぜ?」


 なぜと聞くエドガーは少しほほ笑んでいる。

 アナベルは考える。

 どうやらエドガーはすでに結論を持っているらしい。

 アナベルは少し身を固くする。

 そして思う。

 エドガーは目が見えなくなってから、感情が良く表に出るようになった。

 暖かい雰囲気になってとても好印象になった。

 しかし、その分何を考えているかわかってしまうから、こういう時緊張してしまう。

 

「これまで、そうやって魔力の不足に悩んできた人が、やっと一人の力で大勢に魔法をかける方法を編み出したんでしょ~?

 しかも、大学の魔法使いにどんどん伝染させてしまうほどうまく行っているじゃない~。

 うまく行ったのに、こんな風に八つ当たりみたいな効果を持った魔法が伝染していること自体がおかしいじゃない~?」


 エドガーは満足そうにうなずいた。アナベルはふぅと胸をなでおろした。


「アナベルの言う通りだ。

 俺もそう思う。

 どうも、魔法の効果と魔法の研究目的が乖離しているような気がしてならないんだよな」


「……どういうこと?」


 リリアンは首をかしげながら問いただす。


「つまり、魔法の開発者と実際の魔法の使用者は別にいるってことね?」


 ジャスミンはニコニコしながらそう言った。


「そうだ。伝染する魔法なんて使いたがる人が多いはずだ。

 おそらく、この魔法の開発者は誰かから狙われていたに違いない。

 それは、宗教関係かもしれないし、政治家、もしくは軍隊、何らかの組織かもしれないが。

 いずれにせよ、大勢を相手にしている個人だろう」


「そんな……。それって私たちがちょっかい出したら相当な反撃があるんじゃ……?」


 リリアンは深刻な表情を浮かべる。エドガーは鼻をフンと鳴らす。


「反撃があるなら好都合だ。誰がこの魔法を使ったか絞りやすくなるからな」


「なるほどね。それなら、次に調べるべきは誰が使ったかね」


「ああ、そうなるな」


 ジャスミンとエドガーは頷き合う。ジャスミンは腰に手を当て、にこっと笑うと言う。


「それならここじゃなくて一般蔵書室の中に行くべきね。ちょっと私に当てがあるの」


「ほう。なら行ってみようか」


 エドガーはニコニコしてそう言う。


「了解、室長〜。私、起こしてくるね〜」


 アナベルはジャスミンの部屋の奥へと進む。

 ジャスミンの読書室の奥にある仮眠室

 仮眠となってはいるものの、そこには大きなベッドが備え付けられている。

 リカードはその端っこに横たえられていた。


「リック〜?出発するよ〜?」


「ああ、アナベル……。来ていたんですか……。わかりました、今行きます」


 リカードは気だるそうに体を起こす。

 様子を見ていたアナベルにも、リカードがなんらかの紐でベッドに引っ張られているんじゃないかと錯覚するほど力を入れた起床だった。

 だが、立ち上がった途端体をブルブルっと振った。

 その後、足取りはそれほどふらついたりせず、まっすぐ歩いていた。

 アナベルははぁ、と息を吐く。


 ーー強がっちゃって。



「リカード……、無事か?」


 エドガーが心配そうに声をかける。

 リカードはその声に笑ってしまいそうになる。


 ーー昔とは大違いです。今のエドガーさんのほうがいいですね。


「ええ、問題ありません。

 魔石もあと二時間は平気なようです。

 ご心配をおかけしました。どこに向かわれるのですか?」


 エドガーは悪い子供のように歯を出してニッコリと笑うと言う。


「一般蔵書室だ!」


 ジャスミンの先導でエドガー、リリアン、アナベル、リカードはジャスミンの読書室から出た。

 ジャスミンはすたすたと図書館の中央にある蔵書室へと向かう。

 読書室のクラスが高いため蔵書室はすぐそこだった。

 歩きながら、リリアンは背中にいるエドガーに話しかける。


「ねぇ、結局私にかけた魔法の効果が無くなっていた理由は分かったの?」


「……いや、一つ仮説がある」


「へぇ?どんな理由?」


「まだ、答えたくない。仮説はあるが……。できれば間違っていてほしい」


「ちぇ。いつも、私の質問には答えてくれないよね」


 リリアンの言葉にもエドガーは耳を貸さなかった。

 ただ黙ってうなずくのが、背中越しに伝わってきたリリアンは、ふぅとため息を吐いた。


「エドガーは素直じゃないからね」


 ジャスミンはそう言いながら、蔵書室の部屋を開ける。

 蔵書室への扉も入り口の扉同様、とても大きい。

 どんな人種でも通ることができるように作られた廊下に合わせて巨大に作られている。

 扉には当然、重さを緩和する魔法がかけてあるため、小人族でも簡単に開けることができる。


 中に入ると、少しカビの匂いの混じった古い本の匂いに包まれる。

 人が十人肩車しても問題ないくらい高い天井まで伸びる本棚に隙間なく本が並んでいる。

 本棚はあきれるほど遠くまで並んでおり、その本だな全てに本がぎっしりと詰め込まれている。

 その量は膨大であり、この図書館を管理する司書であっても、どんな本が蔵書されているのか把握しきれていない有様だ。

 司書が分からないくらいであるため、どんな本がジャンルやカテゴリ分けと言ったことはされていない。

 ほしい本があるならば自力で検索をする必要がある。

 魔法の実力が無い者には図書館すら満足に使えないのだ。


 それほど広い図書館の中にはいくつかソファと机が用意されている。

 手に取った本をそのまま読むためでもあるが、座った者は音が遮断されるような魔法が施されている。

 図書館のソファは座れば静穏、とても落ち着いて本が読めるようになっていた。


 そんなソファに見慣れたもじゃもじゃの姿があった。


「お?」


 間抜けな地人族の声が聞こえる。

 アランは蔵書室のソファに座っていた。

 ソファの前には膝がちょうど机の面になるような高さの机があり、そこにはカップが三つ置いてある。

 ジャスミンは顔を歪めて対応する。

 リリアンたちはアランに近づくと、アランはそれに合わせてソファから立ち上がる。

 立ち上がったアランにジャスミンが攻める口調で声をかける。


「アラン。何してるのこんなところで」


「おいおい、そんな言いぐさは無いだろ?

 ちょうど、理事長と校長がいたから一緒に喋ってただけだ」


「でも、誰もいないじゃない。幻聴でも聞こえているのかしら」


「おいおい、ジャスミン……。なんだってそんな突っかかってくるんだ……?」


 ジャスミンが攻める口調でアランに詰め寄ったとき、本棚の後ろから二人の人影が現れる。


「あら、アールグレイ?」


「イヴ!前から言ってるけど、私の名前はジャスミン!

 お茶の名前というざっくりとした覚え方は何とかならないんですか?

 だいたい、私の名前を付けたのはあなたですよね?」


「なによ、その汚い挨拶は。私と会いたくないって言うんじゃないでしょね?」


「そ、そんなことは言ってないじゃない……!」


 ジャスミンは何やら愛想笑いを浮かべている。

 校長の方はそんなジャスミンを一瞥するとエドガーの方を向く。


「やぁ、S級魔導士エドーガ君」


「エドガーです。イヴさん。いい加減覚えてください。

 それにS級って言いますけど、イヴさんほどの実力はありませんよ?」


 イヴ=レヴィ。妖精族でありこの王立魔法学校の校長だ。

 五千と十六歳。

 容姿は過去の美貌をほうふつとされるおばさんである。

 と言っても、いまだに男を振り返させるほど美しい。


「あら、そんなことないわよ。君が気づいていないだけでね」


 カラカラと笑うイヴは上品にスカートを整えると、音もなくソファに着席した。

 着席した彼女は足を組み、髪の毛を整えている。


「全く。エドガー君だって一人の人間なんだ。

 限界だってあるでしょう。

 それに今、旬な教授の名前くらい覚えたらどうなんですか?

 なぁ、エドガー君もそうは思わんかね?」


「ははは。恐れ入ります。アルフ理事長」


 アルフ=フランクリン。

 森人族の男で、その風貌はやさしい。

 短く切りそろえた髪型にタレ目、物腰も穏やかである。

 だが、その頭の中は全く逆である。

 ノースウッド王国屈指の切れ者と噂され、軍属の時代には目覚しい戦果を挙げている。


 その彼は今、ノースウッド国内に四つある王立学校の理事長を務めている。

 四つはそれぞれ、普通科、医科、軍、魔法の分野別になっている。

 国内の四大大学を王に任され経営しているのがアルフという男だ。

 年齢は三百歳と、森人族にしては若い方だが若さゆえの大胆な経営に一目置かれこの大学の理事長の席を任されている。

 と言われているが本当は軍を自らやめたんじゃないかと噂されている。

 アルフはそう言いながらエドガーたちに席を勧めながら自分がもともと座っていた位置に腰を下ろす。


「エドガー君たちも座りたまえ」


 ジャスミンはイヴを睨みながら腰を下ろす。

 エドガーはリリアンに補助されながらゆっくりとソファ腰かける。イヴはそれを待って話しかける。


「エドーガ君は半年ほどこもってたみたいだけど、もういいの?」


「はぁ・・・。はい。ご心配をおかけしましたか?」


 結局覚えてもらえていない名前。エドガーは呆れつつも答える。


「いやいや、半年なんて私にとっては微々たるもの。

 もっとこもってるものだと思ってたわ。

 どうやら目が見えなくなったって聞いてたけど」


「はい。ですがそれだけの代償を払う価値のある結果を得ました。

 きっとあとでお見せしますよ」


「それは楽しみね」


 イヴは頷いた。

 全員が一旦落ち着いたことを確認したアルフはおほんと咳払いをするともっともらしく口を開く。


「して、エドガー君。

 君の事だから、すでにこの難解なゾンビ事件の調査を行っているんだろう?

 どこまでわかったんだい?」


 エドガーは慎重に答える。


「そうですね……。一応、魔法の種類までは絞り込むことができています」


 アルフは大きく膝を打つと嬉しそうに顔をほころばせて感心する。


「ほう!この短時間でどんな魔法まで絞り込むとは……!

 では、どうやってこの魔法を止めるのかね?」


「ねぇねぇ、対策の前にさ、私にもどんな魔法だったか教えてよ?」


「そうですね、私も気になります。みなさん、わかっているみたいですし……」


「俺もしらねぇぞ!」


 理事長アルフの話を遮って、イヴは口をとがらせている。

 リカードとアラン、イヴの思わぬ食いつき加減にエドガーは辟易しつつも、回答する。


「は、はい。ゾンビになる魔法の大元は伝染する魔法です」


「伝染する魔法……!そんなことができるのね……!」

 イヴは驚く。


「すごい……!一体どうやったらそんなことが……!」

 リカードも驚いている。


「おいおい、化け物になる病気が流行ってるようなものだろう?」

 アランは首をかしげる。


 イヴの目がらんらんと輝いている。


 こんな時でも楽しさを忘れない研究者の鑑のような態度にエドガーも嬉しそうに語る。

 アランはそんな二人を見て呆れている。


「ええ、素晴らしい成果だと思います。しかし、この魔法に乗せられた魔法がよくありませんでした」


「と言うと?」イヴは短くそう聞く。


「強化魔法に感情操作魔法です」


「なるほど……」

 イヴはウンウンと頷く。


「そうか、強化魔法も変質魔法の一部ですから……!」


 リカードはひたいをパチンと打つ。

 イヴが簡単に話をまとめてくれる。


「つまり、この魔法に伝染すると魔法使用者の意思に従う人形にされちゃうのね。

 しかも、強化された状態で」


「はい」


「そんな魔法、開発してたの誰だっけな……?」


 イヴはうーんと考え込む。

 イヴが急に黙り込んだのを感じ取り、エドガーは思い出す。


 イヴは影であるあだ名を持っていた。

 それは眠れない眠り姫。

 考え込んでいる時、目を閉じ自然な体勢でいる時の彼女が最も美しかった。

 何らかの超自然的な力が働いて神秘的な黄金比を形成しているようだった。

 今でもそれは失われていないはずだが、もうその姿を見ることができない。

 エドガーは昔見たイヴの姿を思い出そうとしてやめた。

 イヴの姿を思い出す前に、あんまり興味がなかったことを思い出したのだった。


「で。君たちはこの状況をどう、打開しようとしているのかね?

 理事長の立場から言えば早急に解決してほしいところだが?」


 アルフは膝に肘を置いて、少し前のめりになって言う。


「そうですね……。

 私としてもそうしたいところではありますが。

 残念ながら魔法の種類が特定できただけであり、その原理は全く分かっていません。

 いったいどんなルーンをくみ上げればこのような魔法になるのかわからなければ対策のしようがありません」


「では、なぜここに?」


 アルフの疑問にジャスミンが代表して答える。


「実はリサーチの魔法を使いたくて。確か、イヴが作った魔法だったよね?」


 イヴは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


「ああ、リサーチの魔法は私が作った魔法。完成したと思い実行した途端、失敗した魔法だけど……」


「どんな魔法なんですか?

 それを使えれば魔法を使った人物が誰であるかわかるのですか?」


 エドガーはイヴの方をまっすぐ聞いた。


「いえ、それは少し違うわ。特定の魔法が使われた相手の居場所を特定するの。

 使った人間を人間を特定することはさすがにできなかったわ。

 最もこの魔法も失敗しているけど……」


「だが、かけられた魔法で使われた人物のを特定するなんて、一体どんなことをすれば……?」


 だがイヴは唐突に話し始める。


「ねぇ、エドーガ君。君は概念世界というのを知っている?」


「概念世界?」

概念世界とは………!?!?


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