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第二章です!
リリアンは心配そうに聞く。
「……これで大丈夫なの?あいつの攻撃防げるの?」
だが、エドガーがそんなリリアンの不安を鼻息荒く笑う。
「アナベルの施錠は物理的に扉を締め切るわけではないから大丈夫だ。
扉の位置そのものを止めてしまっているからな。
それに、図書館の扉はもともと魔法に対する耐性が高いんだ。
魔導ミサイル程度の攻撃なら、余裕で耐え抜く。
ま、そこまでしてでも貴重な資料を奪いに来る輩もいるからな」
ドン!と扉に何かが当たる音が響く。
「ひっ!ちょ、ちょっと?ほんとに大丈夫なの?」
リリアンは背中にエドガーがいることも忘れて亀のように体を縮める。
それによって振り落とされそうになったエドガーは慌ててリリアンの肩を掴んだ。
ひやりと背中に汗が伝ったエドガーは怒鳴る。
「おいおい、魔法警察ともあろう人間がこの程度の事でビビるな!」
「何言ってるの!警官だって怖いものは怖いの!」
「その怖いものから力無き市民を守るために権力が与えられているんだろうが!」
「はぁ?私が戦うべき敵は人よ!こんな人離れした奴ら相手にするのは警察じゃないわ!」
子供のように言い争いを始める二人を眺めて、アナベルははぁ、とため息をつく。
ケンカを仲裁する役目、誰か変わってくれないかな……。
コホンと咳ばらいをしてエドガーとリリアンの口論を止める。
「お二人とも~。図書館はお静かに~だよ。リックも危険な状態なんだよ~?」
アナベルは図書館の奥を見る。だがそこには長い廊下があるばかりで人影は一つも無かった。
アナベルは目を凝らしてみる。長い廊下は先が見えない。
絵をかくときに意識する遠近法で集まる点まで、廊下の続いている。
廊下の奥に目を凝らしながら言う。
「ねぇ、アラジィ、リックは~?」
アランは図書館の奥を指さすと言った。
「メガネならそこに……あれ?」
アランの指さした先にリカードの姿は無かった。
図書館の入口から伸びる長く広い廊下。
真っ赤な絨毯が永遠と続いている。
そこにまっすぐ飛んで入ったリカードの姿を見失うことなどあるのだろうか。
四人が黙ってしまった廊下は不自然なほどの静寂に包まれていた。
「おっ、おい、神経質メガネ?どこ行きやがった?」
アランは柄にもない慌てた声を出す。それすらも気にせず叫ぶ。
「おい!リカード!返事しろ!」
「リック~?出てこないの?置いてくよ~?」
アナベルも呼びかける。だが、図書館の広く長い廊下に響くだけであった。
「だめだね~。どこかに行っちゃったみたい……!」
「まぁ、図書館の廊下はまっすぐだ。どこまで飛んだかわからんし、気絶している可能性もある。
とにかく進もう」
エドガーたちは廊下を進み始める。
廊下は四人が横に並んで歩いてもまだ余裕があるほど広く、天井も巨人族や足長族、首長族が不自由ないようにとても高く設計されている。
昔から、様々な種族の者が魔法を高めるためにこの大学に通って来た証だ。
残念ながら今は国家間の情勢があまりよくない。
過去、図書館を埋め尽くし、奇跡とまで言われた多種族の学生の姿は減少してしまっている。
エドガー研究室のように多種族にまたがって研究員がいる研究室は九本足のタコほど珍しくなっていた。
床には赤い生地に金色の模様を刺繍した絨毯が敷かれている。
図書館らしく派手ではないが、十分な豪華さを演出している。
絨毯の敷かれていない部分には木目が見える。
何百年も前に建てられた建物であるから、当然木造の建築である。
木は魔法よって劣化を止められており、その色は新しい鮮やかな肌色であり、いまだに立てた当時から変わっていない(と言われている)。
構造系の魔法を研究しているチームから、今後千年は頑丈なままでいると発表があったばかりだ。
「図書館の立て直しは結局やらないんだったか?」
アランはそう呟いた。
「やらないんじゃない〜?
建物や、それこそ本棚にどんな魔法がかかってるか知れたもんじゃないからね〜」
アナベルはそう言いながらキョロキョロと周りを見る。
左右には本棚。
ところどころに扉があり、その奥には読書室と呼ばれる部屋の入口が並んでいる。
使用中であれば扉は閉められ防音される。
そんな読書室は多種多様な種族の身体的な特徴に合わせて様々な部屋が用意されている。
たとえば氷結族などはその典型例だろう。
極寒というより、最低気温が絶対零度になるような厳しい気候の中暮らしている一族である。
およそ生き物が生きる条件には全く適していない環境に適するため、体の一部は氷となりそれを何重にも重ねた体をしている。
そうして、絶対零度でも体液が凍らないよう体内の温度を全く逃がさない構造になっていた。
一見すると彼らはただの太った人だ。
もちろん、彼らに対してデブは褒め言葉だ。
デブであればあるほど体温を逃がさない優秀な体を持っていることになるのだから。
そんな彼らにとって大学周辺の気候は熱すぎるのだった。
彼らのために図書館には冷凍室が用意されている。
冷凍読書室。常に絶対零度付近の温度に設定されている。
しかし、残念ながら本が傷むため、彼らが一度に持ち込める本の冊数は限られている。
リリアンはそんな多種族に対応した超ユニバーサルデザインの施された図書館の内部を物珍しそうに眺めまわしては感心していた。
「図書館ってこんな配慮された建物だったんだね。
古い物って使いづらい事しかないと思ってたけど……。この図書館は別みたい」
「リリィは図書館に来るの初めてなの?」
「実はそうなんだよね。一度入ってみたかったから、うれしい。こんな形じゃなければよかったのに」
そんなリリアンにエドガーは怪訝な表情で対応する。
「なんで初めてなんだ。研究員ならちゃんと図書館使えよ」
「使えないの!私はここの正規研究員じゃないから。申請して許可が下りた本しか取り寄せられないし!」
「あ?そうだっけか」
「そうだっけか。じゃないわよ!私、前からずっとそう言ってるじゃん!なのに毎回毎回!」
「それはすまん」
「まったく。魔法の事以外はてんでダメだよね。
そう言うことにも興味を持たないと足をすくわれるよ?
……それはそうと、図書館に来たんだから何か調べられるんじゃないの?」
だが、それを聞いたアランはうめき声を上げた。
「うぇぇ。リリアン。
こんな大量の書籍の中から、俺たちの調べたい事がホイホイ見つかるとでも思ってるのか?
そんな非効率なことしたくねぇぞ俺は!」
「あら、エドには物と会話する能力があるじゃない。話してみたら?」
エドガーは意外そうな顔をする。
「リリアンにしてはなかなかするどいじゃないか。話してわかる物だろうか……。
まぁ、ちょっと話しかけてみるか」
エドガーはウンウンと頷くとリリアンの肩を叩く。
「リリアン、どっか近くの本棚に寄ってくれ」
リリアンは指示された通り本棚の近くに寄る。
本棚には埃一つなく、木目がくっきり現れている。
大きさも装丁もバラバラな本が、適当に突っ込まれている。
「一冊手に取ってくれ」
「はいはい」
リリアンは手近な文庫本サイズの本を手に取る。
随分古い製本方法で製本された本であった。
表面は少し黄ばんでいて、所々破けてしまっている。
エドガーは本を一撫でして言う。
「随分古い本だな。触り心地、すこしざらざらしている。
匂いも古い紙の匂いだ。ざっと三百年ほど前の本かな?これならいろいろ知っていそうだ」
エドガーは目を閉じて意識を集中させる。だが、期待とは裏腹に本は何の反応も示さない。
「あれ?反応しないな」
「ちゃんと呼び掛けてよ」
「おいおい、おーい!」
エドガーは古い本を振り回す。
本からはホコリが舞い、少し、切れ端のようなものが落ちる。
だが、それでも何の反応も示さない。
「聞こえないの?物の声を聞く魔法の効果切れちゃったんじゃないの?」
リリアンはじれったそうにそう言った。エドガーは試しに自分の持っている本に話しかけてみた。
「おい、青い本?」
エドガーはしばらく黙っていたがこくこくと頷くと言う。
「すまん、聞こえているか確認しただけだ。
やはり、ものと会話する魔法は切れてない。
そんな効果があったりなかったりするような魔法ではない。
俺は視力を失うという代償まで払っている。永続する効果のはずなんだが……」
「ふ~ん?でも、それならなんで聞こえ何だろうね~?」
エドガーは古い本をぱらぱらとめくる。そうして指をパチンと鳴らす。
「アラン別の本棚から一冊本を持ってきてくれ」
「了解。種類の違いそうな本を持ってくるぜ」
アランはたたたっと走ると本棚からさっきとは違う大きな一冊を手に取る。
「リリアン、俺を椅子に」
リリアンはエドガーを近くにあった木の椅子に座らせる。
「アラン、本は持ってきたか?」
「持って来た。ここに置くぞ」
「よし、まず一冊。その間にアランはちょっと向こうまで走ってみてくれ」
「おっ、おう」
アランはわけもわからず図書館の奥に向かって走り出した。
エドガーはリリアンに手を伸ばす。
リリアンは言われる通り、本を渡す。エドガーは本を全体くまなくよく撫でる。
そうして、さっき声をかけていた本をもう一度撫でる。
「同じだ」
そうつぶやくと二つの本の匂いを嗅ぐ。
「同じだ」
エドガーはアランの持ってきた大きな本を適当に開くとリリアンにそのページを見せる。
「なぁ、なんて書いてある?」
「え?」
リリアンは開かれたページを見る。
大きな本には見合わないかなり細かい文字が並んでいる。
なんでこんな大きな本に小さな文字でかいてるのよ。と不満を浮かべながら、リリアンは目を凝らす。
しかし、目を凝らせば凝らすほど、文字の形が分からなくなる。
まるで、途切れないゲシュタルト崩壊が起き続けているようだった。
ルーン語の読めないとは異なる種類の読めない文字。
ルーン文字は決まった形があるにもかかわらず読めない文字だった。
だた、ここに改定ある文字には決まった形が無い。
ふわふわとある文字に見えたかと思えば次の瞬間には別の文字に見える。
リリアンは少し気持ち悪くなる。
ページを見せられて黙ってしまったリリアンを心配してアナベルは声をかける。
「リリィ~?」
「……読めない」リリアンは穴があくほど本を見つめている。
「ちょっとリリィ~。いくら何でも疲れすぎだよ~。
室長の手が震えてるんじゃない~?ここのところずっと酒飲んでたし~」
だが、エドガーは本気で眉をひそめる。
「失礼な!さすがにもう酔ってないぞ!ナメんな!」
「ほらほら、室長~。落ち着いて~」
アナベルはそう言いながら、リリアンの覗いている本をのぞき込む。
アナベルも徐々に目を細め、本に顔を近づける。
「……あらら~。私も読めない~」
「やはりか~。って、俺もその口調になってしまった」
「お~仲間仲間~」
アナベルは嬉しそうに笑う。すると、息を切らしたアランがリリアンたちの後ろから現れる。
「あれ?アラン?」
「お?なんでここに?俺は言われた通りまっすぐ走ってきただけだが……」
全く息の乱れていないアランは一息、ふぅと息を吹くとその場に座った。
それを聞いたエドガーはにやりと笑う。
「ふふふ、原因が分かったぞ」
「エド、どういうことだ?」
アランは首をかしげてエドに尋ねた。
「これはジャスミンの幻覚魔法の中だ」
「げっ、そうか、そう言えば図書館に住んでたな、あいつ」
「ジャスミン?」
「あ、そうか、リリアンは知らないか」
「まぁ、噂程度にしか……。凄腕の幻術使いなんでしょ?図書館に住んでるの?」
「まぁ、住んでるっていうのは言い過ぎだけどね~。ほとんどの時間を図書館で過ごしているからね~」
「ジャスミンは妖精族でな。幻惑・幻覚魔法が得意な奴なんだ。
まぁ性格的にちょっと問題があるが。エドガー研究室では最高齢の千五百九十二歳だ」
「えっ。ものすごいおばあさんじゃん」
リリアンはそう独白した。
その瞬間、アラン、アナベル、エドガーは三人とも、この世の終わりを見たかのような表情を浮かべる。
アランとアナベルはすごい勢いで周囲を見渡す。アランは低い声でリリアンに忠告する。
「おい、リリアン。お前の常識を当てはめるな。
それに、あいつの魔法の中でめったなことを言うんじゃねぇ。
もし、この魔法に盗聴の機能でもついていたら、今後一週間は外、歩けなくなるぞ。
ジャスミンはエドガー研究室の准教授。
エドとの実力の差は、エドが《メモライズ》を必要としていないところだけだ。
魔力の量も魔法の力そのものも教授クラスに匹敵している。
余計なことを言うとカエルにされてトイレに流されるぞ」
「そんなに、ひどい人なの……?」
だが、リリアンの言葉にアランは過剰に反応する。
まるで、リリアンの言ったセリフをかき消すかのように手を振り回すと言う。
「ひどくねぇよ!
だが、こうしている間も俺たちの行動を監視しているかもしれねぇ……。リリアン、頼む。喋るな」
「リリィ~。私からもお願い~」
アナベルからもお願いされてしまったリリアンは驚いて口をつぐんだ。
そして、想像する。どんな鬼婆なのだろうか。
鉄のこん棒でも持って追いかけてくるのだろうか。
牙があって角があって、身長は二メートル以上。ひぃぃぃ……。
リリアンは一人で震えあがっていた。
エドガーはそんなリリアンの様子を察して頷く。
「よし。リリアン、その調子だ。
さて、そうなるとこの幻覚魔法はジャスミンがゾンビ除けのために作ったもので間違いないだろう。
ゾンビに幻覚が効くという方も少し驚きだが、今はいつか幻覚にかかるゾンビよりも、今幻覚にかかってしまっている俺たちのほうがピンチだ」
「ねぇ、エド。幻覚魔法ってここまで精巧に作れるものだっけ?」
リリアンは周囲の景色を見渡してそう言った。
自分の周りには初めて見る図書館としては完璧にすぎるほど図書館だった。
お金をかけた図書館の舞台装置よりもそれらしかった。エドガーはリリアンの疑問に答える。
「いや、普通の幻覚魔法使いには無理だ。
せいぜい方向感覚を狂わせたり、水の味をワインにしたりするのが関の山。
だが、ジャスミンは俺に匹敵するほどの魔法の使い手だ。
そう言った者が幻覚魔法を使うとき、それはもはや騙す・欺くという領域を超えてしまうんだ。
この幻覚も一般的に言う幻覚ではない。もはや別の世界に入り込んだと言っていい」
「別の世界?」リリアンは首を傾げた。
「ああ、魔法で一時的に作られた世界。ある意味、夢の中とでも言うべきだろう。
どこまでも本物に感じる偽物。
現実世界ではないが、ここでの傷や痛みは現実世界の体に影響を及ぼす。
気を付けろ、この世界で死んだらそれまでだ」
「死んだらって。幻覚でしょ。偽物の死は本物の死に代わることなんてあるの?」
「さっきも言ったが、ジャスミンは教授クラスの魔法の使い手。
ジャスミンが本気で使った幻術なら、相手の頭の中に死んだと思わせて、魔法がかかった相手に自分から心臓を止めさせることだってできるんだ」
「えっ。自分で自分の心臓止めちゃうの?」
「そうだ。幻覚で死んだと思い込んでしまってな」
「……それって覚醒魔法で何とかならないの?」
「ダメだ。この空間では俺たちの魔法はほとんど意味を成さない。使ったと思い込むにすぎないのだから」
リリアンはだんだん泣きそうな表情になる。
「だったらどうしたらいいの?」
「ジャスミンの幻覚魔法から抜け出す方法はたった一つ。本物を見つけることだ」
「本物?」
「ああ。この幻覚の世界は現実の世界の延長線上にあるんだ。
必ず何らかの現実世界とのつながりがある。
そうしないと現実世界にいる人間をこちらの幻覚の世界に連れてくることができないからだ」
アナベルは頷きながら言う。
「でも~。その本物を見つけるのが難しいんだよね~」
「本物ってどういう感じなの?」
「現実世界にある物ってことだな」
アランはそう言う。エドガーは頷く。
「そうだ。さっきリリアンが見ていた本は偽物。
本らしいものだ。質感もあり、ページもある。
だがどの本を触っても質感に差が無いし、製本も上っ面だけ整えてあるだけだ。
極めつけは字が書いてあるのに読めない。
この幻覚の世界を本物らしくしている物の一部というわけだ。
そういうものはさっきの本のように何かが欠けている物なんだ
そうではなく現実世界にある物。
現実世界と共通している物だ。百パーセント現実と同じ。
それは、本かもしれないし、絨毯かもしれないし、壁にあるシミかもしれない。
だが、そう言った現実世界との共通点が元の世界に戻るカギになる」
「どうやって探すの……?」
リリアンは廊下を見渡す。
見える範囲だけでも千冊を超えるであろう本が本棚にしまわれている。
左右には読書室もあり、その中にはいろいろな小物も見える。
机、いす、ペン立て、ボールペン。メガネ。
だが、シミですら現実に戻るためのカギの一部だと言われてしまうと、探すべき本物の候補は何万、何十万にも及んでしまう。
「簡単だ、偽物じゃねぇものを見つければいい」
「いやいや、簡単じゃないよ!
こんなに大量に物があるところからどうやってそんなものを探せっていうの!?
何かヒントとかないの?」
エドガーは顎に手を当ててふむと考え始める。
そうなるとアランやアナベルは口を閉じる。
エドガーの思考を邪魔することは許されなかったのだ。
そんな雰囲気にのまれてリリアンは口を開けずにいた。
結果的にそれは良い事だった。
完全に静寂に包まれた雰囲気にエドガーは周囲を聴き渡していた。
「なぜ誰も話しかけてこないんだ?……いや、久しぶりに静かな環境で話をしたんだ。なぜか」
エドガーは頭をゆっくりと頭を振る。
「そうか。 ……ここではどんなものも話しかけてこないんだな。何の声もしない」
「え?エド、もしかして物が聞こえる魔法ってずっと効果があるの?
なんか時々しか喋ってることなかったけど」
「いや、みんなが思っている以上に物はおしゃべりだ。
人間との会話ができると知って喜びにも似た感情を抱いているらしい。
物のクセにな。
普段はうるさすぎるから雑音だと思って無視していたんだ。
最も、空気の振動を捉える耳ではなく、何か別の器官で物の声を受け止めているみたいだから、会話に大した影響は無かったんだが。
いざ、物たちがまったく喋らなくなると静かなものだな」
エドガーはふぅとため息をつくと少しうつむいた。リリアンは片方の眉毛をちょいと持ち上げると言う。
「ちょっと、たそがれてないで。どうやって本物を見つけるの?」
エドガーは少し考え込むと言う。
「そうだな。本物をうまく隠すことは大事だ。
だが、幻覚魔法というものはジャスミンほどの魔法使いでも注意して扱わなければならない。
その理由は何だ?」
アナベルは顎に手を当てて少し思案すると答えた。
「幻覚魔法を扱うものは自分の幻覚にかかりやすいね~。
それで気がくるってしまった魔法使いも多かったはず~」
「正解だ。
そのために幻覚魔法の使用者本人にゆかりのある物を現実との接点にしておくことが多いんだ。
加えてジャスミンほどの術者が使う幻覚魔法になると現実と続いているかのように魔法の効果が現れる。
使用者本人が使う現実のものを無造作に置いても不自然さは生まれない。
ジャスミン本人はたいして工夫することなく現実との接点となる物を隠すことができる」
「つまり?」
リリアンは先を促す。
「つまり、ジャスミンは現実との接点を俺たちが思っている以上に適当に隠しているはずだ。
ジャスミンの部屋ってどこだっけ?とりあえずそこから見てみようじゃないか」
そうして彼らはジャスミンの読書室を目指す。
図書館の読書室は使用者が要求するランクによってその内装が変化する仕組みになっている。
最低ランクでは最低限の椅子と机、読書灯があるだけである。
だが、最高ランクの読書室ともなると、室温の完全管理、ふかふかのソファ、使用者の身長に合わせて高さを変える椅子と机。
使用者の目に合わせた明るさを自動調節する読書灯。
本を自分で持たなくても魔法で読める位置にセットしてくれる魔法が常駐しており、寝ながらでも読むことができる。
もちろん、ページめくりも魔法が勝手に行ってくれる。
一声かければ、読みたい本が送られてくる。
さらには食事までついている。
過剰なサービスだが、当然、そう言うサービスには馬鹿にならない使用料の支払いがついてくる。
ジャスミンの読書室は最高ランクの一つ下のランクの部屋である。
最高ランクほどのサービスは無く、読書用の魔法もついてこない。
せいぜい、高級な椅子、机、ソファがついてくるだけである。
部屋の使用料も大したことない。
お金には全く困っていないジャスミンが最高ランクから一つ下げた部屋を使っているのには理由がある。
その部屋は自分流にカスタマイズしてもよい事になっているのだ。
五百年以上かけてジャスミン個人に対してのみ効率化された部屋は、すでにジャスミン以外の人にとってはとても使いづらい場所となっていた。
そんなジャスミンの部屋は最上階の最高ランクの部屋の手前にある。
リリアンは言う。
「ここが、ジャスミンの読書室?」
ここまでお読みいただきありがとうございます!
楽しんでいただけてますでしょうか!?
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