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さあ、議論を始めよう……!

 アランが頬杖をやめて、すぐに自分の意見を述べる。


「やっぱり、なんか菌が流行ってるんじゃねぇか?」


 アランの意見に対し即座に両肘を机の上に立て、手を組んだリカードが反論する。


「それはおかしい。症状のうつる経路が接触のみならば、菌による影響が疑わしいだろう。

 だが、魔法の行使によっても症状はうつることが確認されているのだろう?

 やはり、何らかの身体的影響を及ぼす魔法の影響を考えるべきだ」


 ここで猫耳メイドのアナベルが口を挟む。相変わらずほっぺたを机につけたままである。


「え~、でも私、人にうつる魔法なんて聞いたことないんだけど~」


「アナベルの言う通りだ。俺も聞いたことがない」


 アランもアナベルに同意する。しかし、エドガーがそれに反論する。


「アナベルやアランが知らないのも無理はない。

 これはリカードの分野なのだが、昔、変質魔法の研究の中に『魔法をかけたルビーに触れる石を全てルビーに変える』という魔法の研究があったんだ。

 それは、ルビーにその魔法をかけると触れる石が全てルビーになるという魔法だった。

 その時に魔法は伝染するという実証が得られた」


「ああ、ありましたね、そんな魔法……」

 リカードはうつむきがちに渋面を浮かべる。


「ほほう。そんな魔法があるのか」再度頬杖を突いたアランは感心している。


「え~でも室長?

 そんな魔法なんて一度でも実験してしまったら大学中の石がルビーになっちゃうと思うんだけど~」


「それは正しい。当時、実験を行った教授はその辺の危機管理をあまりしてなかったみたいだな。

 その魔法が行使された直後、『石』という条件設定があいまいだったため、机から椅子、床と周囲の物すべてがルビーになり始めたらしい」


 目をまん丸に開いたアランは言う。


「それは大変だな。どうしたんだ?元のルビーをぶっこわしたのか?」


「アラン。あんたの思考はどうしてそういつも短絡的なんだ」


「あ?誰が短絡的だって?リカード、お前こそ細かすぎるんだよ!説明も遠まわしだしな!」


 だが、リカードは感情的に返すことなく、冷静に回答する。


「元のルビーを壊したところで、新たにできたルビーが残ってるじゃないか」


 アランは目を見開いて頷く。

 エドガーはアランのこういうところが気に入っている。

 ヤンキーのような雰囲気なのに妙に聞き分けがいいのだ。


「……確かにそうだな。

 今大学が真っ赤になってないってことは何とかしたんだろ?どうやったんだよ」


 エドガーはこくんと頷く。


「ああ、当然のことだがその時実験を行った教授は変質魔法が得意だったんだ。

 そして、当時は生体魔法の研究が始まった時期でどの教授も生体魔法に関する知識があった。

 そこで自分の教授室の記憶を魔法によって読み出し、記憶を変質させたうえで自分の部屋に上書きしたんだ」


「記憶の読み出しと、それを現実世界へ上書き?おいおい、どんな魔法だよそれ。

 記憶の読み出し、現実世界への上書きなんて魔力が必要だったんじゃないか?」


 アランは驚いている。


「ああ、ある意味、想像をそのままそっくり現実に持ってくるようなものだ。

 相当の魔力消費を強いられ、本人は寿命までも魔力に変換して無理やり魔法を展開させたようだ。

 そのまま亡くなっている」


「室長~。それだとルビーも上書きされたときに出てきちゃわない?」


 アナベルは猫耳をぴくぴく動かしながら言う。


「いい指摘だ。その教授はルビーに関する情報を自分の頭の中から消去してから魔法を使ったんだ」


「でも、ルビーに関する記憶を消してしまったら、その教授の中で部屋を元に戻さなきゃいけない理由が無くなっちゃわないですか〜?」


「それはなかった。あらかじめ、自分に命令していたんだ。

 目の前に書かれた魔法を使えってね。記憶は消えても魔法が消えるわけじゃない。

 自分への命令は記憶を消した後も効果を発揮、おかげでルビーの増殖魔法は失われてしまったが、大学は真っ赤にならずに済んだってわけだ」


 アランはウンウンと頷く。


「なるほどなるほど。その時はなんかその、記憶だっけか?記憶を上書きして何とかなったわけだ。

 それが今回のゾンビ症と関係があるかもしれないと?」


「いや、それはわからない。ただ、魔法も伝染する可能性があるってことだ」


「……本当に魔法は人間の間で伝染するのか?過去の魔法は石からモノへの伝染だった。

 ルビーの魔法では教授本人がルビーになることは無かったんだろ?

 人間でそんなことがあり得るのか?

 そもそも、人に魔法をかける時は、かけられる側のあり方に寄って魔法の効果が左右されてしまうんだろ?」

 アランは首をかしげる。


「どうだろうか。確かに俺も同意見ではあるが。魔法だ。魔法の可能性は無限大だ」


「かぁ~、魔法はすごいねぇ」


「そこでだ。次に聞きたい事はこの状況を打破する方法はないものか?ということなんだが」


 リカードが手を挙げる。


「リック~?指してくれる人はいないわよ~」


「リカードまた手を挙げてるのか。今後は手を挙げても指さないからな」


 リカードは少し照れくさそうに紫の頭を掻く。


「そうでした、失礼いたしました。

 もし魔法であるならば、私としてはルビーの時のように誰かの記憶を上書きすることでこの事態の収拾が図れるのではないかと思うのですが……」


「ええ~?それはきつくな~い?

 この大学に在籍している生徒、助手、准教授、教授。配達や工事のために偶然居合わせちゃった人。

 そのすべての人間の事を覚えている人なんているのかな~」


「……いないでしょうね」


 リカードは残念そうにそう言った。その様子を見てアランが発言する。


「やっぱり、最初にゾンビになった人を叩くべきじゃ?

 それか、一人ずつにワクチンを打ち込むなり、魔法の解除なりを施していくべきでは?」


「アラジィらしい解決案だね~。

 前者の方法だと最初のゾンビが、ただぶん殴られて終わるんじゃな~い?

 後者の方法は菌の感染なら効果はあるかもしれないけど、魔法の伝染ならあまり効果は期待できなさそうね~」


「なんでだよ?ってか、俺はジィ言われるほど年じゃねぇ」


 アランは憮然とする。


「え~でもアラジィ二百二十三歳じゃ~ん。

 私まだ二十五歳だし~。まぁ、そんなことよりね~。

 状況から見て伝染している魔法は人を変質させる変質魔法の可能性が大きいわけだけど、変質魔法なら解除はできない可能性が高いわね~。

 よく考えてみてほし~んだけど、今のままだとあのゾンビたちが何のために生み出されたのか全く分からないじゃな~い?

 でも、どんな魔法でも目的があるもの~。

 このままじゃ、いまのゾンビになった人たちは理性を吹き飛ばされただけじゃな~い?

 私の考えでは、今のゾンビたちはまだ変化の途中なんじゃなないかなと思うのよ~」


 リカードはアナベルの説明で理解すると、メガネをかちりと持ち上げる。


「そうか、変質魔法の変化途中における解除魔法が設定されていない時、変化の途中に別の変化を付加することはできませんね。

 ルビーの時には変化が完了することなど無かったため、上書きという手で無理やりもとに戻しました。

 もし、アナベルの仮説が正しいなら、変質魔法を止める手段はありません。

 そして魔法を人間そのものを上書きする方法なんてのもありません。

 現状打つ手は……」


 ここまで、会話の内容を理解するだけで精いっぱいだった、赤毛を掻きまわすことしかできなかったリリアンが口を開く。


「ねぇ、アナベルの話が本当なら、このゾンビ症は何か意図があって作られたものってことよね。

 だとしたら、その目的って結構重要な気がするのよ。

 それに理性が吹き飛ばされるっていうのにも、少し違和感を感じるの」


「リリィ、どういうこと~?」


 アナベルはそう戸井田出す。リリアンは居住まいを正して答える。


「私、人が普通の状態からゾンビになる瞬間を見ちゃったの。

 その人は最初は恐怖に歪んでいたのに、次の瞬間には恨みのような表情で笑っていたわ。

 何というか、その感情で固定されてしまったような。そんな印象を受けたの」


「感情の固定……」エドガーは独白する。


「感情の固定が必要で、しかもその魔法の効果を隣の人に渡さなきゃいけないような時ってどんな時だと思う?」


 リリアンの問いかけに対してそこにいる全員黙ってしまった。

 エドガーは見えない眼で周りを見渡すと言った。


「なるほど、みんなの意見はわかった。

 とりあえず、今ある情報で語れるのはこのくらいかな。

 少し休もう。俺は少し考えたい。ここなら、しばらく安全なんだろ?」

「はい、エドガーさん。私の鉄の壁も後一日くらいはゾンビを抑えているはずです。その間なら休めます」

「よし、それなら、休憩だ!」



 エドガーの掛け声でみんなそれぞれ休憩をとることとなった。

 全員思い思いの方法で休息をとっている。

 アランに至ってはふかふかな椅子だけ集めて寝始めている。

 リカードの拵えた鉄の壁を絶えず叩き続ける音のせいで、リリアンは落ち着けずにいた。

 扉を叩く音がするたびにどうしても体が縮こまっていた。

 机の上で突っ伏したまま、つぶやく。


「はぁ、全然落ち着けない。ねぇ、みんなはこの状況でどうしてそんなに落ち着ていられるの?」


 同じように机に突っ伏しているアナベルが目だけちらりとリリアンに向けて答える。


「私たちは室長のやかましい実験の横で爆睡する技を身に着けたからね~。

 この力がないと室長が私たちに課してくるノルマを達成するには体力が持たなくなるから~。

 キツ過ぎてやめてった子も多いからねぇ~。リリィは落ち着けないの~?」


 リリアンはエドガー研究室の日常に思いをはせて背筋が凍る。


「どんな地獄なのそれ。

 みんなマゾなの?……私、騒音無理……。

 そもそも、うるさいところでは一睡もできないの。

 幼稚園の時、お泊り会になったとき、エドが隣でずっと寝言を言ってた時なんか、私トイレで寝てたくらいだし」


 アナベルは猫のように、にゃっと笑顔になると言う。


「そうだねぇ、安定した入眠ていうのは魔法がこれだけ発展しても難しいね~。

 睡眠の魔法って、その後、いつ起きるかを保証してくれないからね~。

 信頼できる人がいれば別だけどね~」


 そこにわざわざ椅子を持ってきてリカードも加わる。


「そうだな。何しろ、自分に催眠の魔法をかけると魔力が自己循環してしまうんだ。

 睡眠の魔法は自分が魔力切れを起こした時、自然に解除される。

 だが、睡眠という行為は魔力の回復を促す。

 結果、睡眠の魔法によって魔力を消費しながら回復するという循環が生まれ、文字通り永眠するんだ」


 リリアンはずずーっと腕を奥に滑らせると机の上に突っ伏してしまう。うつぶせのまま言う。


「えー、魔法って便利だけど万能じゃないね……」


「そうだね~。私たちは朝、目が覚めた時に魔導書を眺める、つまり《メモライズ》することでルーン語の詠唱を省略して魔法を使えるけど~、覚えた魔法は一回しか使えないからね~。

 寝ると解除されちゃうし~」


「そうだよね!警察魔法でもそこが大変なんだよ。

 効果が似ていて、かつルーン語が異なる魔法を用意しないといけないから。


 たとえば犯人を拘束するだけでも、ロープを発生させるのか、金属製の錠を用意するのか、しびれさせて拘束するのか。

 もし、ロープを作り出すんだとしてもどうやって縛り上げるのか。

 効果が似たような魔法がいくつもあって、ルーン語だけ異なる魔法を作るんだよ。

 状況によっては十人くらいいっぺんに拘束しなきゃいけない時があるかもしれないから。

 それに、携帯できる魔導書にも限界があるからルーン語もできる限り短い方がいいし……」


 リリアンの話にリカードがうんうんと頷く。


「そうだな。

 俺たちはそうして同じような効果で別の魔法を用意して、それらをまるでカードのように出すか出さないかを考えている。

 一度切ってしまったカードは翌日までもう使えない。

 そうして魔法を出すタイミングなどで戦略を考えるから魔法の闘技大会は面白いんだけどな。

 まぁ、そう言った制約が無いのがエドガーさんなわけだ」


「はぁ。ずるいなぁ。

 私達でも簡単な魔法だったら魔導書なしのルーン直接詠唱で使えるようにならないかな?」


 リリアンは顔を反対に向けるとエドガーに話しかける。


「ねぇ、エド!あんた、魔法唱える時どんな事考えながら魔法唱えているの?」


「それは私も興味ありますね。エドガーさんがどうやって魔法を使っているのか」


「私も知りたいな~、魔導書を持たなくていいなんて楽でいい~」


 エドガーはリリアンの方に向く。


「ん?魔法?そうだな、目が見えていた時と見えなくなった時でちょっと魔法の唱え方は変わったかな。

 どっちが聞きたい?」


 リカードが光の速さで手を挙げる。だが、それを指す人はいない。


「リック。あんたわざとやってる~?」


「あっ。すいません。クセが全然抜けなくて。

 両方聞きたいですが、まずは目が見えていた頃の方をお願いします」


「目が見えていた頃は、目の前にその事象が起こったことを自覚していたんだ。

 つまり、、目の前の箱を持ち上げたいならば、その箱が持ち上がった状態を先に自覚するって感じだな」


「持ち上がっていない物を持ち上がっていると自覚……。

 自分の中に既成事実として形成するということですか」


 リカードはメガネをくぃと持ち上げる。


「そうだな。そうすると……こればかりは口で説明するのは難しいんだが。

 こう、そうだな、何か上位の場所からルーンを引っ張ってくるという感覚だろうか。

 とにかく、どこかからルーンを体の中に引き込むんだ」


「ルーンを引き込む~……?」


 アナベルは怪訝そうな表情を浮かべる。


「そうして、あとはイメージを説明し、魔法の始動語を叫ぶだけだ。

 ちなみに、目が見えなくなった今では、想像している状況の自覚が難しくて。

 視覚によって自覚していたものを記憶や音、触覚に頼るしかなくなってしまったんだよ。

 その辺に火を生み出すとか初歩的な魔法が使えなくなってしまった。

 工夫すればきっと前と同じように魔法を使えると思うんだがな」


 後半の方はリカードもアナベルも聞いていなかった。

 それぞれ、頭で想像したことを自覚しようとしている。


「やっぱり、全然わからないですね」


 アナベルはリリアンに手だけ伸ばすと、手のひらをリリアンに向けたまま腕をくねらす。


「う~ん……。自覚~、自覚~。リリアン~貧乳になれ~。

 整体魔法・リリアンズバスト・ウィル・ビー・ヒンニュウ」


「ちょっと!なんて魔法使おうとしてんの!」


 リリアンは慌てて自分の胸を押さえる。

 一同はリリアンの悲壮な声に笑う。


 ひとしきり笑ったあと、リリアンはボソッと言った。


「まったく……。ただでさえあんまりないんだから……」


 リリアンはワインレッドの制服の上から胸を抑える。

 そこへ、さっきまでぐっすり寝ていたアランが歩き寄ってくる。


「おいおい楽しそうだが、今後、どうするんだ?」


 エドガーはちょっと考え込むと言う」


「これ以上ここにいてもしょうがないしな。

 図書館に行こう。図書館にはジャスミンがいるはずだし、ちょっとやりたい事もある」


 アナベルはやはり顔を机に着けたまま言う。


「ねぇ、室長~。図書館に行くって言っても~ゾンビやばいよ~?」


「そうだな。

 たとえ俺達でも何人集まってくるかわからないゾンビを相手に図書館まで無事に向かうことはできないだろう。

 だからこそ、しばらくゾンビの目を欺かなきゃならない」


 アランは漬物の最後のかけらを口の中に放り込み、口をとんがらせて言う。


「でもよ、欺くって言ったってな。

 あいつらがどうやって人間を識別しているのか分からない限り、その作戦はうまく行かないだろ?」


「珍しく、建設的な意見ですね、チビヒゲ。

 しかし、エドガーさん、私もそう思います。

 どうやってあいつらの『目』をごまかすんですか?」

 

 エドガーはニヤリと笑うと、カバンの中から黄色い本を取り出すと言う。


「黄色い本、読みあげてくれ。俺がみんなに伝える」


「『授業に出席するように見せかけるための義体創造魔法』懐かしいな。

 この魔法。俺の友人が作り上げた魔法だ。


 この魔法は授業中に、尻に敷いた魔法陣によって発動する。

 発動すると三段階にわたって魔法が発動する。

 一段階目は魔法発動者の転移。ペアとなる魔法陣に移動する。

 二段階目は尻に敷かれていた魔法陣に義体を創造する。

 本物そっくりにするため体重があり、心拍、呼吸、瞬き、名前を呼ばれた際に返事、そしてノートを取るフリ、体を循環する魔力の再現をすることができるようになっている。

 三段階目は、授業が終わり際の時間になった時、転移先にある魔法陣にもう一度座って魔力を流すことで人形との位置を入れ替え、教室に戻ることができる」


 ふぅと一息、エドガーはため息をつく。リカードはなるほどと言うように頷いている。


「なるほど。人間の挙動をかなり正確に模倣するリアルな人形を作り出すということですか。

 その模倣の方法に研究の主題が置かれているようですね。

 てっきり、卒業を目的とした学生がやっつけでやった研究かと思いましたが……。

 題名から受ける印象ほどアホな内容ではなさそうですね」


 アナベルも感心している。


「へぇ~、その魔法で人間と同じようなものが作れるの~。

 それならその魔法を応用すればいいね~。

 室長~、私の『生活魔法・操り人形家事手伝い』が使えるんじゃな~い?」


「なるほど。じゃあ、それでいこう。

 ルートは中庭から体育館って感じでいいかな?リカード、ちょっと紙作ってくれ」


「はい、創造魔法・筆記用具」


 リカードはエドガーの正面に紙をセットすると、エドガーにペンを握らせる。

 エドガーはリカードが作った大きな一枚の紙にすらすらと魔法陣を書き込んでいく。

 アランが腕組みをしながらその様子をのぞき込む。


「エド、見えないのによくそこまで正確に魔法陣を書けるな……。

 やっぱり日ごろから魔法陣を書いているだけあるな」


「ふふふ、これは俺がすごいんじゃないぞ。

 リカードのペンが俺の書きたいものに反応して勝手に書いてくれているんだ」


 アランの表情はぐにゃりと歪む。

 知りたくないことを知ってしまったアランはそんな記憶を追い出すかのように頭を叩く。


「うわっ。なんてことだ……。ひょろメガネの魔法をほめてしまった……」


 リカードは勝ち誇った顔でアランを見る。

 アランは間違いなくメガネ殺すとか考えているはずだ。

 だが、リカードの魔法は実際優秀だった。

 もともとは自分が魔法陣をうまく書けないために作った魔法だったが、目の見えないエドガーにとってはとても助かる魔法だった。


 全員が黙ってエドガーの魔法陣作成を見つめていた。

 エドガーは一度も止まることなくルーンを綴り、幾何学模様を書き込む。

 最後の一行をやたらとゆっくりと仕上げたエドガーは、ふぅとため息を吐くとペンを置いて顔をあげる。

 見えないのに顔を上げるのは見えていた時代の名残だ。


「よし、書けた。作戦はこうだ。

 この魔法を発動すると、俺、リリアン、リカード、アナベル、アラン。

 この五人の魔道人形が出現する。

 こいつらは発動と同時に大きな足音を立てながら俺たちが食堂に入ってきたところとは反対の出口から出て行く。

 中庭を大きく一周する。

 そうしてそのまま体育館に駆け込む。

 体育館に駆け込んだ人形はそのまま物理・魔法障壁を張る。

 まぁ、この魔法で生まれた魔道人形が押し寄せるゾンビに何分耐えられるのかはわからないが、俺たちはその隙に図書館に向かう。


 いいか、図書館に向かうとき、見つかったらアウトだ。

 別の固体に知らされて体育館に行った奴がこっちに向かってきてしまうと場合によっては全滅だ。

 出来る限り静かに中庭を駆け抜ける」


 誰かが唾をごくりと飲み込む。


「みんな準備はいいか?おそらく戦闘になる。

 準備を怠るなよ。何か言いたい事があるなら今言っといたほうがいいかもな?」


「私がゾンビになったら実験体として私を解剖する権利を室長にあげる~」


 アナベルはにゃーんという効果音が聞こえてきそうな仕草をして耳をぴくぴくと動かす。


「いらねぇ。お前、猫かぶってるだろ?」


「あ~、それはずるいな~、私猫を脱ぐことできないのに〜」


 残念そうな表情を浮かべてアナベルは引き下がる。リカードが前に出る。


「エドガーさん。私、やっぱり死ぬ前に一度見て見たい景色があるんです」


「言ってみろ」


「アランがウ○コ食ってる姿」


 ブチィと何かが切れた音がする。


「よぉーしわかった。お前殺す。

 このゾンビ症騒動が終わったら決闘だ。俺が勝ったらお前、俺より身長低くしろ!」


「ほぉ?なら俺が勝ったらお前はエドガーさんの魔法でおいしくなった自分のウ○コ食え」


「いいだろう!絶対生き延びてやる」


 全員ひとしきり笑った。

 緊張で少しぎこちなかったが、それでも少し笑うことで少しばかり緊張ほぐすことができた。

 エドガーはひとしきり笑うと真剣な表情を浮かべる。


「行くぞ。創造魔法・身代わり」


 新たな魔法が目の前で作り出された。

 床に置かれた青い紙書かれた魔方陣から青い光が溢れる。

 魔法陣から五人にそっくりな義体が足から順に作られていく。

 足、体、腕、服、顔……顔。……そっくり?

 顔を確認したメンバーの表情は緊張から徐々に疑惑の表情へと変化していった。


エドガーのセンス……


読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただけていると、嬉しいです!


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