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 エドガーの制止は無駄に終わった。

 リリアンの魔法は発動した。発動した魔法を途中で止めることはできない。


 しかし、リリアンの手に現れた魔力は床の魔法陣に吸い取られてしまった。


「なに……これっ……!」


 リリアンの体に集まっていた白い光が床の魔法陣に広がる。

 円形に所狭しと文字が並んだ魔法陣はリリアンを中心に光を発し始める。


 ブゥゥゥンという低く響く音が聞こえると同時に床に描かれた魔法陣が淡く白く光る。


「ったく!お前はいつもこうだ!離れろ!お前まで視力を失う!」


「きゃあ!」


 エドガーはリリアンの肩を突き飛ばした。

 リリアンはドスンとしりもちをついてしまった。

 だが、彼女はそのおかげで魔法陣の外に出ることができた。


「エドっ!!」


 リリアンはエドガーに向かって手を伸ばす。

 エドガーもリリアンに手を伸ばしているが、咄嗟の出来事、目の見えないエドガーの手はリリアンの手をつかめない。


「エド!もっと右!」


「だめだ、もう間に合わ……、うわぁ!ぐっっ、うわぁぁぁぁぁぁ!」


 最初は淡い光だけだった魔法陣からまばゆい光があふれる。

 エドガーの足に白い光で描かれた幾何学模様とルーン文字が現れる。

 模様と文字は徐々にエドガーの体の上へ上へとらせんを描きながら蛇のように登っていく。

 まるで何かを探しているかのようにじわじわと、エドガーの体を探りつつ、全身を覆っていく。


「くっ、ぐああ、クソっ!」


 模様と文字はエドガーの顔にまで達してしまった。

 首を一周し、そして、耳を見つける。

 次の瞬間、全身に広がっていた文様は耳に集中した。


「あああっ、耳がっ!耳が熱い!耳が!」


 エドガーは耳が溶けてしまうような感覚を得ていた。

 そして、一度溶けてしまったものが無理やり再構築される、そんな感覚を得る。

 皮膚、筋肉、神経までもが一度切られ、そして繋ぎ直されていた。

 徐々に神経を溶かされる虫歯とは違い一瞬で神経を切られ、それを徐々に再構築されていく。

 少しずつ痛みが強くなっていく恐怖。リリアンは叫ぶ。


「エド!」


「うぐぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ!」


 魔法陣とエドガーがついに見えなくなるほど強い光を放つ。

 リリアンは眩しさのあまり目を開けていられなくなった。

 ほんの短い間だったにも関わらず、リリアンにとってその時間は数十分にも感じられた。

 リリアンは祈った。


 これ以上、エドを苦しめないで!


 しばらくして、エドの声が止みリリアンは恐る恐る目を開いた。

 エドガーは魔法陣のあった場所に横たわっていた。

 その耳から血がダラダラと垂れていた。

 耳の穴が血を出すために開いていたかのようにドクドクと流れ出ている。


「あああ、えっ、エド……!」


 リリアンはエドの耳に手を当てる。

 治療の魔法を使うか迷ったが間もなく血は止まった。リリアンは少し安心する。


「エド?」

 

 リリアンはエドガーをゆする。

 手に酒がついてしまうことなんてもう気にしていなかった。

 しかし、リリアンの期待とは裏腹に反応は無い。


「エドガー?」


 今度はもっと強くゆすり、大きな声で呼ぶ。

 幸いなことに二度目の声掛けに反応すると、エドガーはゆっくりと体を起こす。 

 エドガーは耳の中に残っているらしい、血の塊をとんとんとたたきだす。


「ぐっ。うっ。くそっ。ひどい目にあった。二回も同じ失敗をするなんて。馬鹿のすることだ。俺のような天才がやることじゃ無い」


 エドガーは自分の後ろから聞いたことのない声が聞こえてきた。 


「は?何だと?お祝い?」


 エドガーが振り向くと青い本の表紙がエドガーの方を向いている。

 どうやらそのあたりから声が聞こえているようだ。

 今度はエドガーの右にある赤い本の方から声が聞こえる。


「あ?俺が天才じゃないって?誰がそんなこと……!」


 声が聞こえた本の横にある黄色い本の方から声が聞こえる。


「いや?ちゃんと聞こえてる。お前らの声、聞こえてるからな?お前たちは?」


 エドガーは周囲をキョロキョロと見渡すと、後ろを向く。


「本?俺が天才じゃないって?」


 エドガーはとても不機嫌な顔をする。


「接続者?俺は何とつながっているんだ?それと、黄色い本。ウ○コを食べれるようにする魔法は秘密にしている。そうペラペラ喋るな」


 エドガーは次々と本を見ては時々言葉を返している。

 リリアンはそんなエドガーを見て心底恐怖した。

 自分がエドガーを破壊してしまったと。

 目が見えないはずなのにいろんな方向を見て、あまつさえ会話のような言葉を発している!


「ね、ねぇ、エド……?何が見えているの?一体誰と話しているの?」


「は?誰って……?本……」


 エドガーはリリアンの方を怪訝そうな顔をして見る。

 そして、徐々に表情が緩くなる。

 まるで、朝一で連れ出されて不機嫌だった子供が遊園地に行くと聞かされた時のようだった。


「まて。俺は一体誰と話しているんだ?」


「え?私にはその……」


「なんだ?」


 エドガーは真剣な表情でリリアンの肩に手を置く。

 目をしっかりを見つめられたリリアンは顔を少しそむけると小声で言った。


「本と話しているように見えたけど……?」


「そうか?俺は本と話しているか?」


「ええ……」


 エドガーの顔面は笑顔で爆発した。

 両手を高く掲げると跳ね回る。


「やった、やったぞリリアン!俺の実験は成功した!

 あ、いや、目を失ったのは治らなかったから、半分の達成か!

 だけどもう目が見えないなんてそんなこともどうでもいい!

 俺はやったぞ!ついにモノとの会話に成功した!

 俺はモノと交信した最初の人間になったぞ!

 ははは!

 やったやったぞ!!これで俺の目標に一歩近づいた!」


 エドガーはパッと黄色の本を見る。


「ばっか。俺が酒臭い?お前鼻なんてないだろうが。

 それに、その魔法は一度使うと死ぬまで酔っぱらえなくなる魔法だ。

 それに俺はいま酔っている。

 酔った状態で使うと永遠に酔っぱらったままになるんだ」


 エドガーは赤い本を指さして指摘する。


「お前。何でもかんでも好き放題言いやがって。

 普段だったら絶対に許さないが。今は許そう!

 俺はいま最高に幸せだ!お前たちと話ができる。

 今日は最高の日だ!う~ん!

 飲もう!リリアン!

 飲もう!よく来た!こんなところに!」


 舞い上がっているエドガーは走り出した。

 当然、目は見えていない。

 あっという間に壁に激突してひっくり返る。おでこを真っ赤にして叫ぶ。


「うわっ!誰だこんなところに壁を置いたのは!」


 その様子を見たリリアンは思わず突っ込んでしまう。


「最初からあったでしょ!ってか目が見えてないのに急に走り出すのやめて!」


 ため息をついて少し笑顔になった時、リリアンははっと気が付いた。


 こんなことしてる場合じゃない……!


リリアンは四つん這いで床に広がる物に話しかけながら進むエドガーのお尻を叩く。


「ちょっといい加減にして!変なところ見てひとりでおしゃべりしてないで!外の様子がやばい事になっているって言ってるでしょ!」



 エドガーはやれやれと言う表情を浮かべると手で探りながらソファーに腰を掛ける。


「で?」


「え?」


 エドガーが怪訝そうな表情を浮かべる。

 げっと言う変な声を出したリリアンは自分がアホな返事をしていたことに気がついた。

 わざとらしく咳払いをして説明を始める。


「んんっ。ん、んんっ!いま学校内が大変なことになってるの」


「それはもうわかっている。具体的にどうなってるか説明しろ」


 リリアンはまだ耐えられる自分の堪忍袋の緒の太さを少し恨めしく思う。

 私は優しすぎるんじゃないかなぁ。


「さっきまでは話を聞く気なんてなかったくせに!

 黙って話を聞いていられないわけ?

 はぁ。

 ……構内の人間がどんどんなんらかの魔法に侵されているわ。

 どうやら既に侵された人間に近づかない限り大丈夫みたいだけど。

 魔法の発動理由、魔導書の所在、魔法の効果。ほとんど何にもわかってないわ」


 エドガーは右手をあごの下に当て、ぶりっ子のようなポーズをとって言う。


「なんにもわかってないわ!って自信満々に言ってる場合か!」


 エドガーはリリアンをビシッと指さす。


「大騒ぎしてわざわざ俺を叩き起こしてそれだけか?」


「あら。私のおかげでエドはよくわからない実験に成功したんじゃない。そのことに対する感謝の言葉は無いわけ?」


 エドガーはふんっと鼻を鳴らすとそっぽを向く。


「リリアンのおかげ?馬鹿言うな。魔法陣は最初から完成してたんだ。一回めの実験では誰かにそれを邪魔されたから失敗した。遅かれ早かれ実験は成功していたんだ」


「へっ。いつも屁理屈ばっかり。まぁいいわ。今は元気が戻っただけで許してあげる」


 リリアンはエドガーの肩をポンポンとたたく。

 エドガーは不満そうに口を尖らせる。


「なんで、俺が許されなきゃいかんのだ」


「まぁまぁ。それでね。魔法が感染する要因は二つあることはわかったわ。

 感染している人間になんらかの魔法を使われた時と、感染している人間に触れてしまった時ね」


 エドガーは口を尖らせたまま腕を組むと思案する。


「ねぇ、エド。どう思う?」


「……まだ、何もわからない。俺はまだ実物を見てないんだからな。

 そもそも魔法なのか?

 ……情報が少なすぎる。疑問も多い。

 ここは王立魔法大学だぞ。

 俺の研究室のメンバーもそうだが国内でもトップクラスの優秀な魔法使いが多く在籍している。

 そいつらもゾンビになったのか?

 それに、教授クラスの魔法使いは何をやっている?

 普通の魔法災害なら力技で無かったことにできるこの場所でなぜ、こんな状況を許してしまっているんだ?」


 リリアンはわが意を得たりと言った表情で胸を張る。


「そう!こんな状況を許してしまっていることがおかしいじゃない?」


「まだ、俺以外の七人の教授クラス魔法使いは動き出していないのか。いや」


 エドガーは真顔になる。すーっとあごに手を当てるとニンマリ笑う。


「ふはは。つまり、まだ誰も調べていないのか、それとも教授クラスの誰かの実験の影響か……?いずれにしても面白そうだ。調べる価値はありそうだ。リリアン、準備手伝え」


 リリアンは腰に手を当ててプイとそっぽを向く。


「命令?やっとやる気になってくれたのはうれしいけれど、あんたお願いする立場なんだからもっと……」


 だが、エドガーは邪悪な笑顔を浮かべると、声を頼りにリリアンの方を向いた。


「ふはは。いま、魔法陣による魔法が俺に効いたことでひらめいたんだが、視線による三次元の位置認識が必要ない魔法だったら使えるんじゃないか?。お前でちょっと試させてもらおう」


「何するつもり?」


 リリアンは自分の体を抱きしめるとエドガーを睨みつける。エドガーはリリアンの少し横に手をかざして言う。リリアンはそれを見てちょっと気持ちを動かされる。


「疾患魔法・重症くしゃみ」


「へっくしょん!」


 リリアンは急に鼻の中に異物感を感じる。それも、痛みを伴うものではなく、鼻の中にある毛を優しく刺激してくる。感じないわけでもなく、痛いわけでもない、絶妙な異物感が鼻腔の中を撫で回し、リリアンの鼻は鼻の中を動き回る異物を取り出す行動を始める。


「ちょ、へっくしょん!まって!」


「ん~、やはりか。視線による座標固定が必要ない魔法なら使える!」


 エドガーはぐっと両手を握ると天に掲げる。


「くしょん!おねがい!早く魔法くしょんしょん!解いて!くしょん!わかった!」


 止まらないくしゃみは腰に多大なる影響を与える。

 痛くなり始めた腰を押さえながらリリアンが懇願する。

 だが、エドガーはあごに手を当てて自分の魔法について考察している。


「そうかそうか。盲目の魔法使いが魔法を使えなくなるというのは視線による位置認識ができないからではない!冷静に考えてみればルーン語を《メモライズ》できなくなることが原因だったか!《メモライズ》を必要としていない俺には関係なかったんだな。いいぞいいぞ!」


 ついに床に倒れこんだリリアンは床に頬を擦り付けながら言う。


「へっくしょん!わかったから!ひっくしょん!!準備手伝います!へっぇっくしょん!!」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりの笑顔でエドガーは頷く。


「疾患魔法・解除。よろしい。今回はこの大学の事に関しての調査をリリアンが俺にお願いしていることを忘れるな?」


 くっそぉ……。いつか目が見えるようになったとき覚えておけよ?などと考えながら、エドガーのお出かけセットがどんな内容か知っているリリアンは、手際よくエドガーの準備を進めていた。


 エドガーの荷物を準備しながらリリアンはふと尋ねる。


「さっき、目的に一歩近づいたって言ってたけど、エドの目標って何なの?」


「ん?世界平和」


「真面目に答えてよ」


「真面目だ。宇宙級の魔法を作るんだ。それより、さっさと準備しろ」


 エドガーはそれ以上口をきいてくれなかった。

 眉間にシワがよりっぱなしのリリアンは黙ってエドガーの鞄に本を詰め込んだり、新しい白衣を持ってきたりした。

 なんだかんだ言ってもエドガーの私物を把握しているリリアンはエドガーの準備を十分ほどで終わらせる。


「よし、準備完了だな」


 エドガーはリリアンに白衣を酒で汚れていない新品の白衣に着替させられ、高校生の時から使っている長方形で茶色のスクールバッグを背負わされる。

 ビロビロになった二本のベルトで留められたバッグの中には青、赤、黄の魔導書やその他、普段持ち歩いている物が入れてある。


 リリアンは、昔からずっと見てきたバッグを撫でると言う。


「エド。まだこのかばん使えるの?もうそろそろ変えたほうがいいんじゃない?」


「なぜ?魔法で耐久力を上げてあるから問題ない」


「いやぁ、流行りはもう終わってるし……」


「問題ない。流行りを追っているのではない。大事なのは使い勝手だ」


「……それはそうだろうけどね……」


 リリアンは正面に回る。そして、眉をひそめるとエドガーに尋ねる。


「そのカメラ、本当に持っていくつもり?」


 エドガーの首からかかっていたのは銀色のボディに黒い革が張られたコンパクトサイズのカメラであった。


「こんな珍しい事態、なかなかお目にかかれないぞ。記録に残しておかなければもったいないだろ」


 そんなエドガーに対してカメラが話しかける。


「へぇ?そうだったのか?お前が繊細で高性能ね……。それにしてはズームとかそう言った機能は全くないけど」


 エドガーはくくくと笑う。


「どうやってレンズ歪めるんだ?やってみろよ」


 カメラはそれ以上反論する余地がないようだ。

 どうやらモノにはできることとできないことがあるらしい。

 またモノと話し始めたエドガーを気持ち悪がりながらリリアンは悪態をつく。


「へっ。さっさと感染してゾンビになってしまえばいいんだ」


「おいおい、魔法が伝わって行くことを感染とは言わねぇよ。伝染と言うんだ」


 リリアンはやれやれと思ってしまう。

 昔からこうだ。

 私の言葉遣いをいちいち訂正してくる。

 どっちだっていいじゃないかと思ってしまうのは私だけ?


「どっちでもいいじゃない。だいたい意味は一緒でしょ?」


「一緒じゃないから使い分けているんだろうが。お前は昔からそういうところがおおざっぱなんだよ」


 警察魔法研究所でも上司にいつも言われていることを指摘されたリリアンは黙ってしまう。

 エドガーはリリアンが黙っていることをいいことに続ける。


「いいか?魔法学会では感染はウイルスや細菌が人の体内に入ることを指して言うんだ。

 魔法の効果が他に移ることを伝染と言っている。

 俺はリリアンの話を聞いた限りだと、魔法が伝染しているものだと考えている。

 最もその効果や目的はまださっぱりわからないし、人に対して魔法が伝染するということ自体前代未聞だがな」


 リリアンは指を耳の中に突っ込んで言う。


「あ~!うるさい!もういいでしょ!さっさと行こう!」


「行くのはいいけどきちんと俺の手を引けよ?」


「……はいはい」


 そう言うリリアンの装備は簡単なもので、簡単なポーチ、小さな魔導書を三冊ストックしておくベルト、そこにストックされている三冊の魔導書。

 一冊は警察魔法、一冊は治癒魔法、一冊はリリアンの生活用の魔法がまとめられている。

 全てワインレッドの制服によく合うよう、赤みがかった黒色に統一されている。


 お互いの準備が整ったことを確認したリリアンは梯子もとい階段を登りながら聞く。


「さて、どこに行くの?」


 エドガーはリリアンの後から手探りで一段ずつ探しながら梯子(階段)を登る。


「まずは、俺の研究チームと合流する。優秀な奴らだ。リリアンよりはうまく情報を集めてくれるはずだ」


 リリアンはうっかり足を滑らせてエドガーの顔に足を置いてしまわないように注意した。


「いちいちうるさいな……。それで、お仲間はどこにいるの?」


「わからない」


「わからないって何!」


 リリアンは結局足を滑らせた。

 ところが、エドガーはリリアンの足をしっかりとキャッチする。リリアンは目をぱちくりしながら言う。


「あ、あんた、見えてるみたいじゃない……。ってか、エドなら相手がどこにいても会話できるじゃん」


「おい。まず謝罪だろうが。ったく。

 確かに会話だけなら目が見えなくなった今でもできることはわかった。

 だが、今はだめだ。大学構内に魔力が溢れすぎてて、遠距離に魔法の効果を飛ばすことができない」


「……通じないならどうやって探すの?」


 エドガーはにっこり笑って言う。


「もちろん、自分の足で」


「ええ!」


 リリアンが女性とは思えない喉から絞り出したような声を出す。


「やだよ、私、こんなゾンビだらけの学校をそんな歩き回るの。

 緊急時こそ行動するときは目的を持って行動したいもの」


 エドガーも絞殺されそうな鶏の声で対抗する。


「はぁ?何言ってんだ。ペーペーの新人魔法警察官が。新人警官は現場を足で回ってナンボだろ!」


「うわっ、何その警官に対するステレオタイプ!今どきそんな前時代的な捜査してるところなんてないわ」


「そんなわけないだろ。地道な情報収集が、えっ、あ、すまん」


 エドガーは急に出入り口の扉から話しかけられた。

 どうやらリリアンが手を掛けたまま動かなかったため、待ちくたびれてしまったらしい。


「おら。リリアン!扉が待ちくたびれてるぞ!」


 リリアンはツンと顔を背けると言う。


「私には聞こえないもん。ってか扉と話せるならちょっと外に何がいるか見てもらってよ」


「それは一理あるな。なぁ、外に敵がいるか見てくれないか?」


 だが、扉からエドガーにもたらされたのは短い一言だった。


「あははは、へぇ?目がないなんて俺と一緒だな」


 リリアンはエドガーの答えを聞いて、心底失望した顔をする。


「扉もあんたの魔法も、案外役に立たないわね。

 扉に目がないのは当たり前だったわ……。

 それにエドは魔法に目がないだけで、まだ視力のない目があるでしょ」


 エドガーは少しむっとした顔をして言う。


「おまえ、もう一度同じようなつまんねぇこと言ったら殴るぞ」


「はいはーい。そのセリフ昔にも聞いたよ。

 無い目で私を捉えられたらね。ねぇ、もういいかな?行くよ?」


 エドガーは苦虫を噛み潰したような顔をして耐えている。


「お前、もう少し我慢というものを覚えろよ。まぁいい。今は晩飯時だろ?それなら晩飯を食ってるかもしれない。食堂に行ってみよう」


 リリアンは頷くと扉にかけていた手に力を込める。


「うわっ、なんだ!」


 エドガーは扉からの絶叫が聞こえて思わず耳を塞ぐ。

 耳をふさいでも扉から聞こえる声が小さくなることは無かった。

 エドガーはリリアンの足を叩こうとして梯子(階段)を叩いてしまった。


「そんじゃ!食堂に向けて出発!」


「リリアン!扉の外に何かいる!ってもう遅いか」


 エドガーが声をかけた時には既に扉はあり得ないほどの高速で開かれていた。

 何とか原型を保っているらしいが、どこかが壊れていてもおかしくないような轟音を伴いながら扉は開いた。

 おかげで外にいたらしい人はどこかへ飛んで行ったらしい。


「リリアン。お前やっぱり二度とこの研究室に来ないでくれ。何を壊されるかわからん」


「ええ?なんで!?外に何かいたらまずいと思って、思いっきり開けたのに」


「……まぁいい。外に出よう」


 エドガーはリリアンのこうした勘の良さがどこから来るのか理解できなかった。

 リリアンが先に出ると、エドガーを引っ張り上げる。

 外はリリアンの想定以上に大惨事になっていた。

 中庭の半分はゾンビに埋められ、ゾンビ同士が争い合っていた。

 既にサイレンは止まったようだが、代わりに学校の所々から悲鳴と言葉とは思えないうめき声が聞こえるようになっていた。


「エド!食堂ってどっちだっけ?」


 リリアンは中庭を広く見渡してエドガーにそう問いかける。


「わかってないで開けたのかよ。ここから正門の方へ2棟行ったところだがっ」


 エドガーはそう言いかけて腕がもげそうになるほどの強い力で引っ張られる。

 リリアンは蒼白な顔をしてエドガーを力任せに引っ張っていた。


「やばい!目が合っちゃった!!!!!見つかった!逃げよう!!!!!」


読んでくださりありがとうございます!!

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