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エドガァァァァァァ!!


ブクマありがとうございます!

逆立ちから練習します!!

 さかさまになる感覚を覚えながらエドガーは杖を振りまわす。

 どこかに当たれば音の反射でリリアンがどこにいるか特定できる!

 さかさまになってやみくもに振り回していた杖は何かに当たりカァンという音がする。

 電灯か!エドガーは研究室の天井ギリギリに投げられたようだった。


「よし!寝耳に水!」


 リリアンの耳から水が噴き出す。耳の中のデリケートな部分を水が勢いよく撫でる。


「いだだだだだだだ!いったいわぁぁぁ!」


 リリアンは半ギレで正気を取り戻す。そして、宙に浮かんだエドガーを見る。


「やばっ!エド!」


 リリアンは跳躍する。

 空中でエドガーを受け止めると、その勢いを利用して、そのままエドガーを背負う。


「正気に戻ったか!よかった!目に赤い光を七十%カットする魔法をかけるぞ!」


「ありがとう!」


「ちっ!赤い光が大事なことに気が付いたか。なら。炎魔法・火化粧」


 アルダスは体から徐々に炎を発し始めると、そのまま炎にすっと紛れ込んでしまった。


「アルダスが消えた!」


「消えたんじゃねぇ、おそらく、火に紛れたんだ!

 赤色を見づらくなってる今のリリアンにはよく効果が出てしまう!」


「遅いぞ!」


 アルダスの回し蹴りが炎の中から急に現れる。


「うあっ!」


 リリアンは回し蹴りをまともに喰らう。炎を纏った攻撃はリリアンの服を燃やす。


「エド!相手の攻撃、火をまとってる!」


「任せろ。水の鎧!」


 エドガーはリリアンの体に水を張り巡らせる。リリアンは体が冷たくなるのを感じる。


「これは、最高ね!」


「早く決着つけろよ。高温のせいで水がどんどんはがされるんだ。魔力を温存しておきたい!」


「わかったわよ!」


 リリアンは回し蹴りを打ってきたアルダスの気配を覚えていた。

 燃え盛る火の中からアルダスの居場所を正確に把握すると、そこに拳を連続で叩き込む。

 最初の一撃はかわされてしまった。

 だが、かわされるのは織り込み済みだった。

 彼女のこの攻撃のメインは蹴りだった。


「おらぁ!」


「その手は食わねぇ」


 アルダスはリリアンの蹴りを先んじて察知し、足でそれを抑える。

 同時にリリアンの胸倉をつかもうとする。

 リリアンはそれを払うと逆にアルダスの胸倉をつかもうとする。

 アルダスはバック宙でそれをかわすも、リリアンはそれに合わせて前に飛ぶ。


 空中での攻防。エドガーはその攻防に全く理解が追いつかなかった。

 ーー速い!強化人間とはここまでのものなのか。まともに運用されれば最強の軍隊も作れるだろう。

 ーーそれに、もしこの場にアランがいたら自分の技量に対して自信が持てなくなっていただろうな……。


「来い!」


 アルダスが着地してリリアンを迎え撃つ。

 リリアンは右手を大きく引く。

 エドガーはリリアンの体の動きから気が付く。

 昔から、リリアンのキメ技は右のストレートだった。


「水ブースト」


 リリアンの右の肘から強烈な水流を噴き出させ、リリアンのパンチ力を増強する。

 常人であれば腕のほうが急加速に耐えられず壊れてしまうだろうが、強化人なので問題なかった。


「なにっ、ぶっ!」


 アルダスはリリアンの拳の不自然な加速についていけなかった。

 リリアンの拳を顔面で正面から受け止めてしまった。

 アルダスはもんどりうって研究室に開く大きな穴から中庭に向かって飛んでいく。

 だが、その唇はにっこりと歪む。


「炎魔法・爆炎。吹っ飛べ!」


「うわぁ!」


 エドガーの背後で大きな爆発が起こる。

 エドガーたちも研究室の中から穴に向かって吹き飛ばされる。


 アルダスは炎の魔術師。

 炎を操るには酸素の濃度を操らなければならない。

 そして、今、研究室中の酸素は火によって多くを使われ、酸素濃度の薄い状態になっていた。

 そこに、大量の酸素を使う魔法を発動することで多くの魔力を酸素に変換したのだった。

 酸素濃度の薄い状態にある火に酸素を送り込むことで炎を瞬間的に大きくし、爆炎の魔法もともとの威力だけではない爆発力を発揮していた。

 背中に背負われていたエドガーはその威力を直に受けてしまった。


「ぐっ……!とてつもない威力……!バックドラフトの要領で爆発力を高めやがった……!」


「エド!」


 リリアンは背中をかばう。

 だが、エドガーはリリアンに正面を見るよう指さす。

 アルダスは両手を後ろに下げて力を溜めている。

 エドガーは下唇を噛んで言う。


「クソッ、あいつの位置が分からねぇ!」


「私の手からまっすぐだして!」


「よし!」


 アルダスとエドガーの魔法が完成する。


「炎魔法・炎柱!」


「水鉄砲!」


 リリアンは手から出る水の勢いに押される。

 強力な水流はそれだけで術者に負担をかける。

 互いの魔法はぶつかり合う。

 水は一瞬にして蒸気に代わりあたりを真っ白に包む。

 リリアンたちには見えなかったが、アルダスは笑顔で言う。


「かかったな!」


 リリアンは真っ白な中を落ちていく。

 地面までの距離がつかめず、バランスを取ることに集中する。

 思っていたより地面が遠く感じたリリアンは少し焦る。

 着地に少し失敗してしまった。


「うぐっ」


 そして、リリアンは目を見開いた。

 地面から強烈な光が溢れる。


「まずい!リリアン!離れろ!地雷式だ!」


「地雷式?そんなものあるの?あああああ!」


 二人は炎上する。踏んだものを一気に燃え上がらせる地雷炎。

 アルダスは先に外に出たことを利用して罠を仕掛けていた。


「あっつい!エド!」


「あぢぢぢ!水玉!」


 二人は水玉の中に閉じこもる。

 酸素を遮断した炎は一瞬で鎮まる。

 だが、アルダスは敵に息つく暇を与える様な戦い方はしない。


「炎魔法・炎の鎧!」


 火を纏ったアルダスは水玉の中にまっすぐ突っ込む。

 何千度にもなっているアルダスの力で水玉は一瞬で吹き飛ぶ。


「リリアン!」


「おらぁ!」


 リリアンとアルダスは取っ組み合う。

 お互いに力を込め合う。

 力は拮抗していた。

 だが、リリアンの方は熱に強いわけではない。

 強力な熱にさらされ続けてしまうと、いくら水を纏っているとはいえリリアンの皮膚は焼けただれてしまう。


「俺もいることを忘れてもらっては困るな!水弾くらえ!」


 エドガーはリリアンにおんぶされている事をいいことに、リリアンの首元からアルダスに向かって手を向けると無作為に水の弾を飛ばす。


「うぐぐ!」


 アルダスは水弾を直撃を受け後ずさりする。

 しかし、何もせずに下がるほどアルダスは甘くない。


「お前がな!」


 アルダスは爆発した。

 纏っていた炎を一気に開放したのだ。

 その勢いに押され、リリアンも後ずさりしてしまう。

 お互いに距離を取ってにらみ合う。


「くっ。仕方ないな……!」エドガーはそう呟く。


「何が仕方ないの?」


「ちっ、この後やることあるんだがなぁ。まぁ、ここでこいつ倒せなきゃそれもないか」


 王立魔法大学で教授として認められるにはいくつかの条件をクリアしなければならない。

 最も大切なのは業績である。

 それは新たな理論の発見であり、難問の解決であり、便利な魔法の開発であり、国への貢献であり、他を圧倒する強烈な成果である。


 次に大切なことが潜在魔力の解放である。

 魔法の使える一般人は基本的に表層化した魔力しか使うことができない。

 いまだ、体内のどこに魔力が溜められているかは明らかとされていないものの、表層化した魔力は血液と共に全身を駆け巡っている。

 だが、教授クラスになるためにはその、どこにあるかもわからないような潜在魔力を自在に引き出せる程度の実力を持っていなければならなかった。


「アルダス、お前、できるのか?」


「当然。MCCを上り詰めるにはその程度当然の能力だ!」


 アルダスは朝が近づき赤くなってきた空を見る。そして、満足気にうなずく。


「決着をつけるにはちょうどいいころ合いだな」


 エドガーはそう言った。二人が目線を合わせた時。エドガーとアルダスは同時に叫ぶ。


「「潜在魔力・解放!」」


 両者から同時に放たれた魔力の波が校舎を貫いた。

 心臓の脈動のようにドン、ドンと魔力が響き渡る。エドガーはリリアンの背中に手を当てると言う。


「リリアン、君も強化されている今なら大丈夫だ。潜在魔力・強制開放!」


「うわわわ!」


 リリアンは全身がカァーッと熱くなるのを感じた。

 全身が完全に機能し、体全体が活性化していることが分かった。

 そして、周囲を見わたした時、驚きで息が詰まってしまった。

 校舎が二分されている。


 アルダス側は炎に埋め尽くされている。

 燃えていないところなど無い。火の海とはこのことを言うのだろう。

 むしろ火がついていないところを探す方が大変であった。


 エドガー側は文字通り海だった。

 一体何リットル集めたらこれほどの水が集まるのだろうか。

 校舎は完全に水で埋まっていた。


 そして二人のちょうど中間の所で火と水がせめぎ合い大量の蒸気を生み出していた。


「さて、時間もないんだ。さっさとケリをつけさせてもらうぜ」


 先に動き出したのはアルダスだった。

 リリアンは目を疑う。アルダスが片手を上げるだけで、家が三軒ほど一瞬で燃え尽きてしまいそうな火の竜巻が四つも生まれている。


「炎獄魔法・焼失」


「激流の縄張り!」


 エドガーの背後にある水が次々とうねる柱状の水となってエドガーの周囲を囲んだ。

 水の柱は轟音を上げながら白波を立てている。

 アルダスの炎柱が勢いよくエドガーたちを薙ぎ払おうとする。

 強烈な熱気がエドガーたちを襲う。

 エドガーは超極太の水縄を操りその薙ぎ払いを防ぐ。

 いくつもの柱が同時に動き、お互いの動きをけん制し、攻撃し、隙を作ろうとフェイントをかける。


「これはきつい!」


 エドガーは蒸気によってリリアンの視界が塞がれないよう相手の火に合わせてぶつける水の量を調節、同時に温度を利用して上昇気流を作り出し、常に新しい空気が入るようにしていた。

 エドガーは当然、ばれないように調節を巧妙に行っていた。

 相手が普通の人であれば気が付かなかっただろう。

 だが、アルダスは強化人な上に潜在魔力を解放していた。

 その程度の事には気が付いていた。

 空気を必要とするのは炎の方も同様であったため、自分が思っていたよりも多く空気が入ってきたことで気が付いたのだった。

 そして、火力に関してはアルダスに主導権があった。


「そうだろう!今、楽にしてやる!」


 アルダスはそう言うと炎の柱が水の縄にぶつかる瞬間に火力を急に強めた。

 途端に空気は持ちうる蒸気の限界を突破した。

 お互いの視界はホワイトアウトし、足元すら見えなくなってしまう。


「よし!エドガー!これを喰らえ!」


 教授として認められるもう一つの条件。

 それが一撃で国を変える可能性のある魔法、国家級魔法を使用できることだ。

 魔力の少ないアルダスでもそれはほかの教授と比べての事であり、教授である以上自前の魔力でそれを使うことができる。

 そしてそれはMCC社で上に登るためにも必須の力だった。


「炎の国家級魔法・炎神!」


 とてもシンプルな魔法だ。

 単純に火の神様である太陽をこの場に作り出すというものだ。

 表面温度約五千五百度、中心温度約千五百万度!

 エドガーはアルダス生み出した太陽を杖越しに把握する。

 アルダスの背後は快晴となり、燦々と日が差し込んでいる。校舎には火が付いた。


「リリアン、かわせ!巨大な太陽が突っ込んでくる!」


「どのくらい動けばいいの!」


「動けるだけ動け!間に合わねぇか!」


 エドガーは水柱を自分たちの前に置きながらも思う。

 ーーこれでは足りない……!攻めてリリアンだけでもここから離さなければ……!


 だが、そこに頼もしい声が響く。


「幻惑魔法・位置消失!」


 ジャスミンのよく通る声。

 同時にエドガーは魔法の内容を把握しリリアンに指示を出す。


「ジャスミン!いいところに来た!

 相変わらずどこにいるかわからんが!このチャンス逃さない!リリアン、後ろへ飛べ!」


「はい!」


 リリアンは少しだけ見えるようになった視界で恐れる。

 自分に一体何が迫っていたのか気が付いたのだ。

 巨大な火の塊が自分たちに向かって真っすぐ落ちてきていたのだ。

 だた、その方向が途中から曲がっている。

 そのため、リリアンの一回の跳躍でかわせるようになったのだった。


「ジャスミンの魔法だ。相手にこの場とそっくりだが、位置だけがずれている景色を見せる魔法。

 こういったギリギリの戦いにしか使えないが、さすがジャスミン。

 最も効果的なタイミングで魔法を使ってくれる」


「これからどうする?」リリアンはそう聞いた。


「俺に任せろ。水の国家級魔法・水神!」


 エドガーから空へ一本の水柱がほとばしる。

 いつの間にか、エドガー側の天気は曇り、そして大雨になっていた。

 少しのタイムラグがあった後。

 空から咆哮が響き渡る。咆哮の主は勢いよく後者の着地するとさらに一鳴きする。

 水龍のおかげでエドガー側の校舎は崩れてしまった。


「ガァァァァァァァ!」


「水龍だ。以後、お見知りおきを」


 エドガーはリリアンに背負われながら一礼した。

 龍の長い体は中庭の半分を占拠している。


「ちっ!誰かが横やりを入れやがったな……?だが、問題ない。次で仕留める」


 アルダスは構える。エドガーも構える。

 リリアンは悟る。

 ーーこれだ。次の一撃で勝負が決まる……!


「喰らえ!」


「水龍!火を消してしまえ!」


 水流の咆哮。

 ダムの放水も真っ青なほどの水が一気に太陽を襲う。

 お互いの魔法は同等であった。どちらに傾くこともなく中心で均衡を保つ。

物が燃えるには三つの条件がと問わなければならない。

 燃えるもの、酸素、そして温度である。水はそのうち二つを奪う。

 まず、酸素。水がかかっている部分には酸素が供給されない。

 だが、太陽全体を一度に覆う水を用意するほどの隙をアルダスは用意させないだろう。

 エドガーはもう一つの条件、温度を奪うことにした。


「水の国家級魔法!」


 水流の後ろに四つの魔法陣が現れる。

 アルダスは驚いた顔をする。


「貴様……!国家級魔法をさらに重ねがけして、水龍を変化させるだと……!

 どれほど、大規模なルーンを構築すればそんなことが可能になるんだ……?」


 四つの魔法陣はすでに形を整え完成していた。

 魔法陣そして水龍の口から水龍の方向と同等の水が放出する。


「水龍の五本柱!」


「ウグググ!」


 アルダスは自分の作り出した太陽にありったけの魔力を注ぎ込んで対抗する。

 だが、敵の水は単純に五倍の威力になっていた。耐えきれるはずもなかった。


「畜生がぁぁぁぁぁ!」


 五本の水柱は太陽を消し、アルダスを流した。

 中庭は水浸しになっていた。リリアンに地面に下ろされたエドガーは杖を突きたて精神を集中し自分の魔力を抑える。

 水龍は天へと帰り、魔力によって生まれていた水の景色は消え去った。


 アルダスはついに動かなくなった。


「さすが。エドガー。勝ってくれると思ってたわ」


 タイミングを見計らったかのようにジャスミンが現れると、アルダスをジロリと睨みつける。


 リリアンは自分を弄んだ男を睨み付ける。

 初めて声をかけてくれた時。誕生日を祝った時。手を繋いでみたとき。お昼ご飯を食べながら笑う表情。

 

 リリアンは手錠を取り出し、気絶した男にかける。


「アルダス、逮捕する」


 リリアンはアルダスを拘束した。

次回!完結!!!


連続投稿します!しばしお待ちを!!

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