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あれ?もしかしてみんな……?


ブクマ登録ありがとうございます!

氷水鼻で飲むと氷が痛いですね。。。

 エドガーは少し恥ずかしそうに答える。


「これは少し推測が曖昧な根拠に基づいているんだが……それは無い。

 おそらくリリアンは俺の事をアルダスに相談しに行ったに違いない。

 エドウィンは昔心理魔法を研究していたことがある。

 リリアンは自分の不可解な気持ちを分析してもらおうと思ったんだろう。


 そうして尋ねた瞬間、運悪くゾンビ魔法が初めて使われる瞬間に居合わせたんだ。

 このゾンビ魔法は他人にかけるタイプ。

 誰が魔法を使い、誰がかけられたのかまだわからないが、このとき魔法をかけられることになっていた人は怒り狂っていたんだろう。

 だからこそ、いまこの大学の中は怒るゾンビばかりになっている。

 そして、そこに居合わせたリリアン、君は……心配していたんだ」


 エドガーはそこで一度話を切る。すっと息を吸い込むと一息で言う。


「……俺の事を」


 ジャスミンは手を叩く。


「そうか!ゾンビ魔法には感情の固定という効果があったものね!

 リリアンはエドガーへの心配する優しい心で固定されてしまったのね!」


 アランは合点がいったと納得の表情を浮かべて手を叩く。


「そうか、それで黒いはずだった目が青いんだな!

 似合わないイメチェンだとは思ったが、そう言うことだったか。

 リカードの目は赤くなっていたからな。まさか、青くなるとは思わなかった」


 アランの声に相槌を打ちながらエドガーは言う。


「ゾンビになってしまったからこそ、俺がリリアンにかけた『俺を避けてしまう魔法』の効果も打ち消されてしまったんだろう。

 そして、その優しい心はそうやって人に伝播して、人を狂わせてまで『優しく』させることを望まなかったのだろう。

 魔法は人にかかった途端、その内容、本質が変化してしまうことがある、いい例だろう」


 エドガーは随分と穏やかな表情を浮かべている。

 リリアンはそんなエドガーの表情を見て、少し体が浮き上がり、心臓に何かの攻撃を受けたかのような感覚を得た。


 そんな顔もできるようになったんね……!


「ま、馬鹿正直な性格のおかげで助かったわけだ」


 エドガーはリリアンから顔をそらすようにしてそう言った。


「はぁ。せっかくいい雰囲気なのに。

 なんでそういうこと言っちゃうかな……。


 一体誰のせいだと思ってるのかしら……」


 だが、その独白がエドガーに届くことは無かった。

 いつのまにか早まっていた鼓動も治ってしまっていた。

 リリアンはふぅと息を吐いて、感じていた感情を気のせいだと振り払う。


「はぁ、図書館に入ったとき、ジャスミンの仕掛けたゾンビ除けの魔法に引っかかったあたりからリカード以外の誰かがゾンビなんじゃないかという気はしていたが、まさかリリアンだったとはな」


 エドガーはそう言うとパンと手を打つと言う。


「さて!リリアンがゾンビ化しているとわかった以上、エドウィンの研究室に行こう。

 そこにこのゾンビ事件の秘密があるはずだからな!」


 やれやれと言う雰囲気を出しながら全員が一般蔵書室から外へ出ようとしたとき、入口に立っている男がいた。


「待て!全員、ここから出すわけにはいかない!拘束魔法・粘着地面!」


 男の魔法により地面に一瞬、ルーンのうねりが現れる。

 間髪入れず床が隆起し、全員の足を蛇のようにからめとる。


「アルフ!何のつもりだ!」


 イヴはそう叫ぶと、地面から足を引きはがそうともがいた。

 しかし、足はしっかりと地面に固定されており、生半可な力では足を動かすことはできなかった。


「うおっ、なんだこれ!」


 エドガーは目が見えない。

 足を完全に固定されてしまうとバランスを取るのが非常に難しくなってしまう。


「っ!うまく立てない!バランスが!」


 エドガーは後ろへと倒れそうになる。

 それを見たイヴは大声で叫び警告する。


「ダメだ!倒れさせるな!この魔法は地面と接する部分を全て固定する!

 しりもちをついたらもう、何もできなくなるわよ!」


 幸い、すぐ隣にアナベルが控えていた。アナベルはエドガーの背中をがっちりと支える。


「室長~、しっかり!」


「あ、アナベル、助かった!」


 アナベルはその様子を見て嬉しそうに笑う。

 

 ーーエドガーが本気で焦っているところを見るのもなかなかいいものね~。


「そう、俺の粘着地面はお前たちを捉えて離さない!

 俺の役目はこんな異常自体にも関わらず、逃げ出さず図書館に来るような優秀な魔法使いども、つまりお前たちをここにとどめておくこと!

 お前たちがここに長くいてくれればそれだけ、この大学の魔法結界を破壊する時間を稼げる!」


「力魔法・脚力増強!」


 足を魔法によって強化し無理やり持ち上げているアランは悪態をつく。


「クソ!足が持ち上がらねぇ!どれだけ強力に張り付いてるんだ?」


「変質魔法・固体液化!」


 リカードの固体を固体のまま液化する魔法。

 リカードの足の周辺だけ床が波打つ。だが、リカードの足の下にある床は液化しなかった。


「ダメですね。私の魔法でも上書きできません!」


「おい、床!何とかならんのか!」


 エドガーは床に話しかける。


「くっそ!ダメだ、床は完全にアルフの支配下だ!

 てめぇ何してるかわかってるのか!」


「当然じゃないか!エドガー君!私は君たちの邪魔をさせてもらう!」


「何するの!」


 リリアンは絶叫する。エドガーの落ち着き払った声。


「理事長、あんた元軍人だったもんな?

 魔力を少ししか持たない人間でも全軍にいっぺんに魔法をかけられる夢のような魔法だもんな!

 軍も伝染の魔法、喉から手が出るほど欲しいもんなぁ?

 軍も最初からこの事件に関与していたってわけだ!」


 だがアルフは冷静さまで失ったわけではなかった。


「目的を教えるわけなかろう!

 あの方の指示でお前たちはこの事件が終わった後には意識のない凶暴な強化人間になっていたことになる!

 だから、おとなしくここで俺の魔法を受け入れろ!」


「あの方?誰の事だ!」

 エドガーはそう叫ぶがアルフはにやりと笑うだけであった。


 全員が臨戦態勢に入り、魔導書を取り出す。

 そんな一同を見渡してイヴは自分の魔導書を取り出して言う。


「エドーガ君、エドウィン研究室に行けばすべてが分かり、解決できると?」


「は?……はい。必ず」


「いいだろう」


 エドガーは見えない目でイヴの覚悟の表情を見た。

 イヴはこの場を請け負うつもりだろう。

 だが、相手はこのノースウッド王国における王立大学のすべてを任されている男。

 実力があるからその地位にあることは間違いない。

 それに、彼は軍隊出身。

 実際に戦争に行って第一線で戦っていた男である。

 たかが大学の学長がかなう道理はないだろう。


「いいだろう。ここは私に任せてもらおう。私が隙を作るから、君たちはその間に行け」


「イヴさん……。かっこいいけど……私の名前はエドガーです!」


「そうか!失礼した、エドガー君!それじゃ始めるぞ!召喚魔法・幻獣《麒麟》!」


 イヴは魔導書を片手で持ち、ルーンが記されたページを開き、それを伏せた状態でかざす。


「ガァァァァァァァ!」


「ほう……!」


 イヴの前に直径二メートルはあるかと思われる大きな魔法陣が現れる。

 中から、角を持った馬のような生き物が飛び出し大きな咆哮を上げる。

 エドガーは思わず体をすくめる。

 咆哮だけで全身が震えさせられる。

 自分がちっぽけな人であると再認識させられる。


「よく来てくれた!カニミソ!」


「カニミソ?絶望的な名前のセンス!」


 エドガーは裏返った声で思わず突っ込んでしまった。

 だが、衝撃的な子の名前はアナベルのお気に召したらしい。


「かわいい名前じゃない~。

 それに容姿も馬をほうふつとさせるんだけど、馬以上にりりしくて立派だよ~。

 全身、輝く黄色っぽい黄緑っぽい毛並みだし、そこに電気が走ってる~。

 尻尾は長すぎてどうなってるかわからないね~。

 うわ~、しっぽにも電気が流れてる~」


「麒麟か……!名前はともかく。すごいな……!」


「よくこの状況でのんびり喋っていられるね!?」


 リリアンの悲痛な叫び。

 イヴはカニミソと呼ばれた麒麟を嬉しそうに撫でまわしている。

 幻獣種の麒麟。

 雷を司り図に乗った人類を叩き直す怒りの番人。

 高尚な生き物である麒麟だが、エドガーにはカニミソの気持ちが伝わってくる。


「おいおい、こいつ、本当の名前エレクトリカっていうんじゃねぇか……」


 どうやら幻獣もエドガーと思っていることは一緒らしい。

 イヴの絶望的なネーミングセンス。

 他の幻獣たちも同様の被害に遭っていると思うといたたまれない。

 イヴはそんなことも気が付かず笑顔だった。


「それじゃあ、カニミソ!私に合わせなさい!」


 エドガーにはエレクトリカが思い切りため息をついているのが聞こえていた。

 エドガーはカニミソと呼ばれたエレクトリカの心中を察し、心からエレクトリカに同情する。

 エレクトリカはふぅとイヴの足元に息を吹きかける。

 あっさりとイヴにかかっていた魔法がとける。

 イヴはその場でピョンピョンとはねた後、ヒラリとエレクトリカに乗ると、ふと見上げる。

 エレクトリカはたったそれだけの動きに呼応し、大きく跳躍するとアルフの上を取る。

 有利な位置。


 雷は上空から地面へ落ちるもの!


「雷魔法・雷獣の怒り!」


 突如、図書館の中に爆音と衝撃と光が発生する。

 発生した雷はエレクトリカとイヴによる合体技だった。

 人類が扱えるエネルギーの量をはるかに凌駕し、図書館の中に響き渡る。


「金属魔法・ナトリウムブレイク」


 だが、アルフも負けてはいない。

 大量の細かいナトリウムを空気中に生成する。

 同時に水を生成することによってナトリウムを一気に反応させて巨大な爆発を起こす。

 それによって自分に向かう雷の強烈なエネルギーを無理やり逸らす。

 アルフに向かっていた雷はアルフの左右にある壁に激突し、大きなくぼみを作った。


「アナベル、今だ」


 エドガーはこっそり言う。アルフは雷の魔法によって目がくらんでいる。


「生活魔法・魔力吸収・海!」


 アナベルは足元に一瞬だけ魔力を吸収する膜を張り巡らせる。

 青い波が地面を走り、エドガーたちの足を捉える地面を洗い流す。

 さっと、エドガーのもとに全員が集まる。


「ジャスミン、アナベル道を拓け、アラン、リカード、背後は任せる。

 リリアン、俺を担げ。エドウィンの部屋へ急ぐぞ!」


「了解!」


 ジャスミンはパッとイヴとアルフの戦いを見る。

 土煙の中にアルフの姿が現れる。

 図書館の高い天井近くに浮遊しているイヴを見上げて言う。


「なかなかやるが私を倒すには全く足りないぞ!イヴ!」


「あらあら、問題ないわ。今のは小手調べ。

 あんたこそ、雷の本気、舐めてない?

 行くわよ!雷魔法・万の雷!」


 イヴがそう唱えた途端、とてつもない魔力のうねりをエドガーは感じた。

 魔力がイヴに集まっている。

 まるで、魔力のブラックホールのようだった。

 すぐさま、衝撃と轟音が響き渡る。

 一万本の雷がアルフに襲い掛かっていた。

 だが、アルフは慌てる様子もなく、唱える。


「創造魔法・銀の柱!」


 アルフは銀でできた柱をいくつも作り出して雷を誘導する。銀は電気伝導率が高い。

 さらに、アルフは避雷針の要領で自分よりも高い高さになるよう銀を用意していた。

 雷は人体よりも先に銀へと向かってしまう。

 だが、イヴはその様子を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


 万の雷はただのおとりだった。


「雷魔法・電光石火!」


 イヴとエレクトリカの合体瞬間移動技。

 雷そのものに乗り高速で移動する。

 さらに、アルフはわざわざ金を用意してくれていた。

 イヴは敵の用意してくれていたものも抜け目なく使う。

 雷の閃光がアルフの目の前で金に反射しアルフの目を眩ましていた。

 おかげで、イヴは誰の目に留まることもなく、アルフの横に到達することができた。


「うぉ……!」


「雷魔法!」


 アルフが気が付いた時にはすでに、イブは魔導書を持った手とは反対の、右手を大きく振りかぶっていた。

 アルフは何もできなかった。

 イヴの顔を見て今から何が起きるのかを悟った。

 イヴの魔法の詠唱に合わせてエレクトリカは加速した。

 右手には濃密な雷が槍のように集まっている。

 雷特有の大きな音とともに槍はアルフの胸に吸い込まれていく。


「くらえ!雷の大槍!」


 イヴ、渾身の一撃だった。雷の轟音と閃光が図書館内に充満する。


「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 アルフは一瞬、衝撃を受け止めたものの、電撃のあまりの大きさに耐え切れない。

 後方に大きく吹き飛ばされてしまった。


「いまだ!」


 イヴの掛け声でジャスミン、アナベルを先頭にエドガーたちは猛然と走り始めた。


「リリアン!遅れるんじゃねぇぞ!」


「当然!どっかのもやしとは鍛え方が違うもん!」


「もやしって誰の事だコラぁ!」


「エドガーさん、暴れないで!」


「図書館を脱出だ~!!」


 一般蔵書室を抜け、蔵書室入口の大きな扉をジャスミンは片手で殴り開ける。

 バァンと大きな音をとどろかせて扉が開く。


「待ちやがれ!」

 アルフが立ち上がる。


 だが、その体はすでに異様なものだった。

 赤い線が全身に入り、脈打っている。

 目も赤くなり、筋肉量が急激に増えていた。

 そのせいで着ていたスーツの上半身は破けてしまっていた。

 アルフはエドガーたちがその場からすでに逃げてしまっていることに気が付いた。


「待ちやがれぇ!」


 アルフは全力で走り出そうとする。

 だが、そう物事はうまく運ばない。

 イヴはアルフと一般蔵書室入口の間に立ちふさがる。


「あら?通さないわよ?ここを通りたければ私を圧倒することね」


「どけ!この半人が!」


 アルフの大声が図書館内に響き渡る。

 アルフの言葉は妖精族を貶める最低の言葉だった。

 イヴの表情は歪み怒りに肩を震わす。

 そして、背中に半透明の羽が現れた。

 イヴの表情はすでに人とは思えないほど冷たい、なんの感情も感じ取れないようになっていた。


「いいでしょう。あんたに私の本気。叩き込んであげる」


 イヴはそう言うと魔導書をアルフにかざした。



「よし!図書館を抜けるぞ!」

 アランが嬉しそうにそう言うがジャスミンは不満そうだった。


「はぁ、今日はなんだってこんなに動かなきゃいけないのかな?

 私、こういうの嫌いなんだけど。ねぇ、エドガー?これが終わったら焼肉おごりなさい?」


「……おいおい、俺がこの事件起こしたわけじゃないんだ。その代金の請求は犯人にすべきだろ?」


 エドガーはしどろもどろになりながら反論する。


「そうよねぇ、それもそうだわ。犯人から金目の物奪いましょ!」


「だめよ!なんで警察官の前でそんな話するの!」


 リリアンは即座に反応する。

 それに合わせたかのように、エドガーは即座にリリアンの頭に手をかざす。

 リカードはにやっと笑って言う。


「おや、リリアン?エドガーさんが記憶をいじる準備をしてますよ?」


「私にまた魔法をかけたらいまここで落とす」


 しかし、エドガーはそんなやり取りを聞いていなかった。

 エドガーが手をかざしたのはリリアンの頭ではなく図書館の扉だ。

 図書館の扉の向こう側の情報を少しでも集めようと、扉に聞き耳を立てていたが、何も声が聞こえなかったのだ。

 だが、エドガーの魔法も思ったような効果を上げることはできなかった。


「くそ、図書館の扉を止めてしまっているから、扉と話せない!

 外の様子が全然わからない!

 魔法を使おうにも距離が定まらない!」


 だが、ジャスミンはいたずらを思いついた子供のようににっこり笑う。


「そうだったわね。それにしてもイライラさせてくれるわ。

 私、こういうのほんと嫌いなの。汗かいちゃうじゃない。

 まったく。まずはゾンビたちに責任とってもらいましょ。

 久々にストレス発散させてもらうわ」


「おい、ジャスミン何するつもりだ?」


 アランは不安そうに聞く。


「アナベル?扉にかけた位置を固定する魔法解いて」


「はい~」


 アナベルは魔導書を取り出して扉に手を向ける。


「解除!」


 扉に引っかかっていた大量の鎖がパーンと砕け散る。

 同時に扉がゆっくりと開く。ゾンビが入ろうとしている。


「はいはい!私の出番!ゾンビども全員、ぶっ潰してあげるわ!」


 ジャスミンの表情は子供の体には似つかわしくない、残酷そのものだ。

 これが、彼女の本性。

 生来の怒りっぽさ。

 普段は何百年と生きて身に着けた忍耐力でなんとか怒らないようにしている。

 そのためまるで聖母かのような扱いを受けている。

 何とか耐え、耐え忍んでため込んだ怒りは、エドガーでさえ止められるかわからないほど強力な力となってジャスミンに影響を与える。


「重力魔法!」


 ジャスミンは右手の手のひらを地面と平行に保つ。

 同時に図書館の扉が開く。

 奥からは赤い目を舌ゾンビが大量に雪崩れ込んでくる。

 どうやったらそこまでボロボロになるのかというほど服がボロボロになってしまっている。


「うおおお!エド!これやべぇぞ!すごい数のゾンビだ!」


「アルフの指示か?だが、ジャスミンを信じろ!」


 力が溜まった時、ジャスミンは右手を一気に持ち上げて言う。


「重力・上!」


「ギョワァァァ!」


 ゾンビたちはいっせいに天井へと飛んだ。

 一匹残さず。

 外にいたゾンビはどこまで空に落ちて行ったんだろうか。

 天井に張り付いゾンビたちがエドガーたちの目で追いかける中、廊下を走り、図書館の外に出る。

 だが、そこにはすでにジャスミンの魔法を逃れたゾンビたちが待ち構えている。

 五人は思わず足を止める。


「これはこれは、たくさんいるわね」


「ねぇ、ジャスミンさん!落ち着ている場合なの?やばいじゃない!」


 リリアンは焦って周囲を見渡す。

 いつの間にか図書館の出口はゾンビたちで完全に埋め尽くされていた。

 大勢のゾンビの声で動物たちが大騒ぎする動物園のような雰囲気だ。 

 ジャスミンはそれを見て嬉しそうに笑う。


「最高じゃない!こいつら全員私の獲物よ!邪魔したら殺すわよ!重力魔法!」


 途端、まるで海を割った過去の偉人のような現象が目の前で起こる。

 現象はジャスミンの正面にいるゾンビから始まった。


「グギギ……?」


 そのゾンビはゆっくりと前に歩いていた。

 しかし、一歩一歩進むにつれて右にずれている。

 そして、徐々に足が地面から離れ始める。

 ジャスミンは右手は手のひらを、左手は魔導書を持ったまま前にかざしている。


「重力・左右!」


 目を閉じていたジャスミンはかっと目を見開くと両手を素早く広げた。


「グギョエッ!」


 途端に、前方にいたゾンビが全て左右に吹き飛ぶ。

 中庭の中央にゾンビの裂け目が見えたかと思うと、大量の肉塊が壁に打ち付けられる音が中庭に響く。

 ゾンビたちはきれいに左右の壁に張り付き、エドガーたちを見つめている。


 エドガーたちはゆっくりと歩き始める。

 ジャスミンは重力魔法を持続させるため両手を広げたまま歩いている。

 さっきまでやかましかった彼らだが、張り付けられて以降、静かにエドガーたちを見つめている。

 アランは壁に張り付いたゾンビを指をくわえながら左右順番に見ている。


「おいおい、なんだなんだ?この静寂は……!」


「ジャスミンの本気……!押さえつけられゾンビどもが声一つ出せないとは……!」


 リカードは驚きの一言を漏らす。

 エドガーは周囲の音を注意深く聞きながらアランに問いかける。


「なぁ、アラン。グラディスの姿はあるか?」


 アランは指を口から出すと、慌てて建物の屋上をチェックする。


「今のとこ、見えねぇが……。いったいどこから見ていることか……」


「図書館に俺たちがいたことはバレていたはずだが。……とにかく急ごう」


 五人は異様な中庭を抜け理論魔法棟に到着する。アランは終始びくびくしていた。


「なぁ、エド……。ゾンビども結局中庭では攻めようとしてこなかったな……?」


「それがむしろ異様だ……。ゾンビは時間がたつほど変質魔法が進むみたいだからな。

 もし、エドウィンがゾンビになってかなり時間が経っているなら、教授クラスの魔法使いが完全に敵に回ったと考えるべきだろうな……」


「それ、エド、お前、勝てるのか……?」


「やってみなければわからない。目が見えているときは絶対負けないと自負できたが……。

 ほかの教授がゾンビになっていないことを祈るばかりだ……」


「いずれにせよ、攻めてこないなら楽でいいわ。エドウィンの部屋はここの最上階よね?」


 ジャスミンはそう確認しながら階段を登る。

 エドガーはこの研究棟の地下に研究所を持っているがエドウィンはその逆に、四階建ての研究棟の最上階すべてを所有している。

 階段の最上段、四階の入口、黒い分厚い扉がある。研究室への入口である。


「開けるわよ?」


「ああ、行こう」

突撃三秒前!!


読んでいただきありがとうございます!!

お楽しみいただけているでしょうか!?


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