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概念世界……?


第二章第三話の前書きと最後の方、ミスを見つけて少し直しています。

すみません………!

ブクマありがとうございます!!扇風機壊しました。

 エドガーは首を傾げた。

 聞いたことのない単語だった。

 正確には聞いたことある単語の聞いたことのない組み合わせだった。

 首を思い切りかしげるエドガーにイヴは笑いかける。


「君が聞いたことがないのも無理はない。この言葉は私の研究にしか出てこないのだから」


「ふむ、概念世界。

 言葉だけから想像すると、なんらかの概念によって世界を理解すると言うようなものでしょうか?

 『りんごがある』と言う世界と『りんごはある』と言う世界の違いとかを考えるようなものでしょうか?」


 イヴは嬉しそうに笑う。


「君はほんと面白いな」


「そうでしょうか?」


「言葉ヅラからそこまで想像するとは。

 昔からこの話をしても、そもそもこの世界以外の世界なんて存在しないと言われてばかりだったからな。

 こうして最初から否定してこない人は珍しいんだ」


「いえ。そんな。全ての考え方に一理あるかもしれないと思って話を聞くようにしているだけです」


「ふふふ、それでも私は嬉しかった。

 だが、エドーガ君の予想はまちがっている。私は召喚魔法の使い手。

 でも召喚魔法を研究して思ったのよ。

 幻獣などを召喚するとき、一体どこから召喚しているの?とね。

 その時に思いついたのがこの概念世界。

 概念世界とはこの世界の捉え方の一例ではない。

 概念世界とは人によるこの世界の捉え方全てを積み重ねまとめた世界の事を言うの」


「捉え方そのもの〜?」


 エドガーに続いてアナベルも首をかしげる。


「そうだ。世界の捉え方。人々の記憶、……見えかたと言った方がいいか?例えば……」


 イヴはすたすたと一般蔵書室の壁際においてある膝くらいの高さのある台と腰より少し低い高さの台に触る。


「メイドちゃん。これは何かな?」


 アナベルは面くらった顔をして慌てて答える。


「……メイドちゃん……!え~…?机と、椅子だよ~?」


「ふふふ、正解だ。これは一般蔵書室に私が置いた簡易的な机と椅子だ。

 簡易的だから、どちらも板に足を四本つけただけの簡単なつくりだ。それじゃあ……」


 イヴは魔導書を取り出す。

 ところどころに金の装飾がある年季の入った茶色い魔導書だ。

 イヴは地面に手をかざす。


「創造魔法・木製台」


 イヴの手を中心に地面に四つの点が現れ長方形を形作る。

 四つの点は腰位の高さがある台の足よりも広く取られている。

 四つの点から光の柱がじわじわと生まれる。


「おりゃ!」


 変な掛け声とともにイヴは手を引き上げる。

 それと同時に地面に打ち込まれた点からタケノコが生えるかのように角材が現れる。

 そうしてイヴは四本の角材を引っ張り上げるように手のひらを胸くらいの位置に合わせる。


「はっ!」


 イヴはその位置に置いた手をもう一方の手でパンと打つ。

 音と同時に木の板が現れる。

 あっという間に木でできた台が現れた。


 木の台は三つになった。


 膝の高さ。

 腰の高さ。

 胸の高さ。


 三つの台は少しずつ重なり合いながら並んでいた。


「さて、メイドちゃん。どれが机で、どれが椅子かな?」


「え~……。一番高い台が物置ならさっきと変わらない~。

 でも、一番下をただの足掛け台だとするなら、一番高いのが机で~、二番目が椅子かな~?」


「さっき机だった台が椅子になったわね?」


「だって座れそうだし~」


 イヴは満足気にうなずく。


「そう。それでいいの。でもなぜ、机と椅子、同じ台を別の物として見なせたのかしらね?」


「どうしてって~」


 アナベルは黙ってしまう。

 台が二つだった時は机にしか見えなかった木の台。

 今では机にも椅子にも見える。


「私は、そこに人の世界の捉え方の秘密があると思ったの」


「つまり?」


 エドガーは先を促す。手を握りしめ続きをまだかまだかと待つ子供のようだ。


「なぜ、人はこの台を椅子だと思うのかしら?

 机だと思うのかしら?

 何が原因?

 誰がそうさせてるの?なぜ、腰かけたくなるの?物を置きたくなるの?

 なぜ?なぜ?なぜ?」


 イヴは両手をバッと広げ、空を仰ぐ。

 真っ黒な壁に覆われた一般蔵書室の中であるが、彼女だけは青空の下、自然に対して疑問を投げかけるちっぽけな一人だった。


「私は一つの仮説に行き着いたの。それが概念世界」


「概念世界……」


「そう。

 人に対してのみ存在し、しかし、人はその世界を感じることができない。

 私たちの最も近くにあり、かつ、最も遠いところにある世界」


 アランは髭をさすりながら言う。


「その世界はどんな世界なんだ?」


「私たちの世界の捉え方、すべてが保存されているの」


「世界の捉え方の保存ですか……?」


 リカードはレンズの上をつまんで持ち上げる、独特なメガネの上げ方をする。

 彼が本気で考え始める合図だ。


「つまり、そこには人間の概念すべてがあるの。

 椅子という概念。

 机という概念。

 人はその概念に一致するものを椅子と感じ、机と感じるの」


「なるほど。

 全ての人はその世界を共有しているからこそ、椅子という概念に一致する物はどんな人でも椅子と感じ、机という概念に一致する物はみんな机と感じるのですか」


 エドガーは感心しながらそう言う。


「そう。私はそう考えた。そうして概念世界について研究すること約三百年。

 私はずっと概念世界と物との関係を調べていた。

 そうして、人の概念を捻じ曲げるような魔法があるんだと思っていた。

 目の前の椅子が突然机に見える。

 そんな魔法があると。

 すぐに行き詰まった。何年も何年も魔法で概念を捻じ曲げようとした。

 でもできなかった。そんなことを繰り返しているある日、あることに気がついたの」


 イヴが言う前にエドガーが言う。


「……そうか。概念世界は人が見ているこの世の全てのことを指すんですね。

 つまり、魔法も含めて概念世界にあるんじゃないかってこと。

 概念世界にある魔法で椅子を机と感じさせる、つまりそれは概念を概念で変化させようと言うこと。

 初めから不可能なことだったんですね?」


 イヴは絶句してエドガーを見る。


「……そうよ。さすがね。

 それまでは物に対してのみ行っていた研究をそこでやめたの。

 概念世界は魔法も含む。

 あなたがすぐに気がつくような単純な話なのに。

 私はその結論に至るまでに三百年もかけてしまったけれど」


「魔法が概念〜?」


 アナベルは眉間にしわを寄せて考え込む。


「そう。魔法は人種しか使うことができない。

 その理由を私は概念世界で説明できる。

 魔法とは人だけが持っている概念世界から、私たちの世界に概念を取り出すことを言っていたのよ。

 私の召喚する幻獣も同じ。

 つまり、魔法とはまるで倉庫から食材を取ってきて台所で料理するかのごとく、概念世界から概念を持ってきて自分の目の前に出すことだったのよ」


「概念の表出、それが魔法……!」


 リカードのメガネがずり下がる。


「そうよ。概念世界は生ける全ての人による世界の理解をまとめた場所。

 そこから概念を取り出して、私たちの見える世界で扱うのが魔法」


 イヴの話にエドガーは過剰にうなずいている。

 そして、手の中に火を遊ばせて言う。


「そうか、俺が何かから魔法を体におろしてくる感覚があったのはそう言うことだったのか。

 概念世界……。

 こうして現れている火も、その概念世界から俺が取り出しているのか……」


 アランは頭を掻き、恥ずかしそうに顔をうつむけると言う。


「正直、イヴさんの話の半分も理解していないんだが……。

 その概念世界とやらがリサーチの魔法とどう関わって来るんだ?」


「ええ、今回の魔法のために概念世界から引っ張り出された概念を探す魔法。

 それが《リサーチ》の魔法なの」


「概念を探す魔法」


 エドガーはそう独白する。


「そう。私が開発したリサーチの魔法は、使用者が対象と設定した魔法にかかっている人の位置をホログラムの三次元地図に示してくれるわ。


 最も、私の力では検索範囲を無限にすることはできなかったけどね」


「どんな条件があるんですか?」


 エドガーはそう聞いた。


「魔方陣が必要なの。探せる範囲は魔方陣の上だけだわ」


「と言うことは〜、検索したい場所の地面にしっかりと魔方陣を書いておかなきゃいけないってことだよね〜?

 つまり、学校内、全ての床に魔方陣を書かなきゃだめってことだよね〜?」


 ここまで、話がほとんどわからなかったリリアンだが、この話はわかる。


「なんだかよくわからなかったけど。

 ゾンビ探す魔法に魔方陣が必要で?魔方陣を学校内に敷き詰める?

 そんなん、どう考えても無理じゃない」


 イヴはリリアンを指差してニッコリと笑う。


「リリアンちゃん。鋭いね!でも、恥ずかしながら……。今から魔方陣を用意する必要はないわ」


「なぜ?」


 リリアンはそう問いかける。


「実はね。半年前、私はこの大学構内で実験を行ったの。

 それは大学構内で普通の人間のふりをしてる人がどのくらいいるかを調べると言う検証実験だったわ。

 そのために大学構内全域の床に魔方陣を用意した」


「ええ!もうすでに魔方陣が用意されているの?」


 リリアンは驚きの声を上げる。


「まぁ、そうなるわね。

 最も、その実験は失敗に終わったわ。

 だから、リサーチの魔法はまだ未完成の魔法なのよ。

 半年前、私は魔法の反動で右耳の聴力を失ったわ」


「あらら〜。半年前なんて、エドガーとおんなじ時期だね〜」


 アナベルのその一言にエドガーは勢いよく振り返る。


「同じ時期?」


「だって半年前なんでしょ〜?あれ〜?もしかして同じ日に実験した〜?」


「俺が実験を行ったのはちょうど夏至の日だった。イヴさんは?」


「私もそうだ。どうやら我々は全く同じ日に実験を行ったらしいな」


「なるほど……。同じ日に実験を……。

 だが、それだけでそんなことが起きるだろうか。

 俺の魔法は物を聴くための魔法だった。

 イヴの魔法は概念探査。一体何が……?」


 エドガーは顎に手を当てて考え込む。

 リリアンはエドガーのその様子を見てピンとくる。

 彼の頭の中に少しずつ情報がそろいつつあるようだ。


「ねぇ、エド?なにかわかったの?」


 リリアンはエドガーの表情を見て訝しげにそう問いかける。


「前よりは少し進んだか。いや、まだよくわからない。

 やはりピースがそろっていない感じだ」


「エドーガ君。私にもまだよくわからないんだが、どう言うことか説明してもらえるか?」


「まだ、できません。確信が持てていないんです。

 とにかくリサーチの魔法を見せてください」


「でも、リサーチの魔法はイヴさんでもできていなんでしょ?

 どうするの?エドガー?」


 ジャスミンはワンピースをふんわりと膨らませながらエドガーの事をのぞき込みそう問いかける。

 エドガーはにやりと笑って言う。


「いや。ちょっと思ったことがあるんだ。

 イヴさん、リサーチの魔法のルーンが書かれた本はあるか?」


「あるわよ……?でも、どうするの?どうせ失敗する魔法よ?」


「まぁまぁ、いいから」


 イヴは腰のポーチから自分の魔導書を開き、エドガーに渡す。

 エドガーは受け取るとすぐにルーンを指でなぞる。

 イヴの魔導書がエドガーに話しかける。


「ほぉ……これはすごい……。

 いや、待て。このあたりの記述は俺の魔法に似ている。

 ここは……?この部分か。概念に語りかけているのは……?

 くそっ。やっぱりだめだ。

 ルーン語は常に意味が変化する言語…だが、ここだ!見つけた!」


 エドガーは嬉しそうに顔を上げるとイヴに言う。


「イヴさん、これ、すっげぇ魔法ですね!

 そしてすでに魔法陣は描かれている。

 つまり、今ここで魔法をすぐに使えると言うことだな!」


 エドガーはアナベル手招きすると、指を指す。


「少し、ひらけたところへ」


 アナベルはリカードの手を引いて指さされた方向にエドガーを誘導する。

 一般蔵書室の本棚が置かれていない少しひらけたところに移動する。

 アナベル以外はエドガーを遠巻きに囲むよう立っている。


「この辺でいいかな〜?」


「周りに者が少なければ問題ない。ありがとう。では始めよう」


 エドガーは青い本を取り出す。

 青い本も新しい魔法に嬉々としているらしく、嬉しそうな声音がエドガーに伝わって来る。


「ああ、そうだ。リカード。こっち来い。お前にかかってる魔法を基準とする」


「はい」


 リカードはエドガーの隣に立つ。


「それじゃ、行くぞ。リカード、俺の左手を取れ」


「エドガーさん、手を触っても大丈夫なんですか?」


「問題ない。魔力がリカードから俺に流れ込まないようにしてある」


 リカードは安心して頷くと、エドガーに言われた通り左手を持つ。

 エドガーは右手を前に出し集中するために呼吸を整える。

 息を大きく吸い込み吐き出す。

 大きく吸い込み吐き出す。

 何度か繰り返し、徐々に自分の本来持つ呼吸の量とスピードに合わせる。


「概念探索魔法・リサーチ。対象・リカードにかけられた伝染魔法」


「うわっ!何!」


 リリアンは感じた。学校の校舎が一瞬揺れたことに。

 

 否。


 揺れてなどいなかった。

 だがリリアンは体を何かが舐めて行くような、そんな気持ち悪い感覚があった。


「大丈夫か?リリアン?」


 リリアンの隣にいたアランが声をかける。


「なんか感じた?」


「いや、特に何も感じなかったが?リリアンは何か感じたのか?」


「ちょっとね……!私だけ……?」


 リリアンは辺りを見渡すも、リリアンと同じような反応をした人はいないようであった。

 しかし、リリアンの思考よりも早くエドガーの魔法が完成してしたので、その思考は中断した。

 エドガーの正面に大学の構造を示すような三次元モデルが現れる。

 ホログラム。

 薄く青く光るホログラムが大学全体を形作り、徐々に赤い点が打たれる。

 遠くにいたはずのイヴは両手を上げて喜びをあらわにするとエドガーの方へ駆け寄る。


「すごい……!エドーガ君!君、すごいよ!

 私の魔法は今、ここで完成された!

 リサーチは失敗ではなかったのね!

 なぜ失敗したのか気になるところだけど!」


 イヴは大興奮でエドガーの肩をバシバシ叩く。

 イヴの仮説は正しかった。

 概念という人の持つ曖昧な判断基準を魔法に適用することに成功したのだった。


「これは、便利ね……。

 この赤い点のところにゾンビがいるわけね?」


 ジャスミンはホログラムの赤い点を一個ずつ指差しながら確認する。


「ざっとに三百体くらいはいるか?」


 アランはぱっと見でそう判断した。

 エドガーはその発言に頷きながら言う。


「そのくらいだろう。

 今が冬休みであると言うことを考えると、すでに校舎内のほぼ全員がゾンビ化したと見て間違い無いな」


「うわぁ、食堂も真っ赤だ……。

 どこから入られたんだろ?

 私たちが出る前にはそこまでではなかったけど……」


 リリアンは恐怖の色を交えた声で、感想を述べる。


「いや、隙間はいくらでもある。

 食堂は地下だからな。

 換気扇から入られた可能性もある」


 エドガーはふぅと息を吐く。

 アランも同じように胸をなで下ろして、つぶやくように言う。


「俺らもやばかったわけだ……。にしても……。

 そういうことなら、この大学に動ける人はここにいる俺たちくらいしかいないわけだ。

 それに、ここまで事態が動かないとなると、ほかの教授もほとんどいないんだろう。

 どうすんだ?」


「大丈夫だ、俺に任せてくれ。

 全て上手く行く。

 ジャスミン。ゾンビの分布を見て、ゾンビが全くいないところを教えてくれ」


「なんで、いないところなの?」


 リリアンはそう聞いた。


「理由は簡単。グラディスとの戦いでグラディスを倒したわけじゃない。

 あいつはおそらく、大量のゾンビを使って俺たちを探しているはずだ。

 だが、自分たちが発生した大元の場所はあまり探そうとは思わないはずだ。

 お前も探し物をするとき、一番最初に探したところをもう一度探すのは、他の場所に全く見当たらなかった時だろう?」


「たしかに……」


 ジャスミンは空中に浮かぶ建物のホログラムざっと見渡して言う。


「エドガー。分布はわかったわ。

 動植物管理棟はほとんどいないわね。

 それから理論魔法棟とその実験施設。

 それから図書館くらいかしら」


「図書館にいないのはジャスミンやイヴたちのおかげだろう。だが、その前の二つは……」


 リカードはそう言うと眼鏡をくいと持ち上げる。


「リカード、理論魔法棟に教授は何人だ?」


「二人です。一人はエドガーさんですよね。もう一人は……」


「エドウィン教授だね〜」


「あ、あの小人か!いちいち俺たちに突っかかって来るやつだな?」


 アランは眉を寄せていやそうな顔をする。

 アランにとってエドウィンはいつも突っかかってくる嫌なおっさんだった。

 身長も近い。なぜ、同じような身長の男にチビと言われなければならないのだろうか。

 アランは唇を尖らせる。


 リリアンは手を揉んでいたが、ふと思いついたように発言する。


「そういえば、エドガー言ってたよね?

 エドウィンって人体の強化を研究してたんでしょ?」


 だが、リカードは紫色の髪をかき上げ、メガネを持ち上げると言う。


「いや、もう一人の方、動植物管理棟でいつも実験しているシンシア教授も心を惑わす植物の魔法についての研究を行っていた。

 特に植物の繁殖、増殖魔法についての研究は、去年発表されたばかりだ。

 そこから伝染する魔法を思いついたとしても不思議はないぞ?」


 エドガーはしばらく、顎に手を当てて考えていたが、ゆっくりと口を開く。


「ふむ……。なぁ、図書館にある赤い点はいくつだ?

 俺の考えが正しければ今回の事件の発端、図書館にある点が二つなら、エドウィン。

 一つならシンシアだ」


 エドガーは急にそう結論付けた。

 この場にいる面々は目を見開いてしまう。

 リカードが代表してエドガーに詰め寄る。


「ちょ、ちょっと待ってください。

 二点あるってことは私以外にゾンビ化しそうな、いやゾンビになっている人がいるってことですよね?」


 リカードは焦った表情を浮かべてエドガーに詰め寄る。

 自分以外にいる。その事実は恐怖となって彼に押し寄せた。

 彼はエドガーによってやっと現在の半分ゾンビ、半分森人族という状態を保っている。

 だが、他の人間はどうだろうか。

 そんな風に自我を保っていられるのだろうか。

 イヴはすぐにホログラムの図書館の部分を見る。


「あら?」


「どうした?」


 エドガーはそう聞いた。


「図書館の中に点が二つあるわ!」


「っ!」


 リカードは息を飲む。


 エドガーのまるで目が見えているかのような推理力。

 彼だけが持つ特技によって教授の席を得たわけではないという証明が、たった今、目の前でなされた。


「で、でも、エドガーさん!私は今でも体の中に叫びまわり、暴れ出そうとする自分を感じます!

 同時に『にゃーん』となきたい衝動もありますが!

 いったい、この中の誰がそんな衝動と戦っているのですか!」


 エドガーは、しかし、リカードの激高を涼しい顔で受け止めると言う。


「リリアン。お前だろ?」


「へっ?」


 リリアンはハトが豆鉄砲をくらったような表情をする。

 それもそのはず。お前は意識なく暴れまわる化け物だと面と向かって言われたのだから。


 リリアンは手を大仰に振り回して否定する。


「私?いやいや私じゃない!そんな破壊衝動無いよ!」


「いや、おそらく外にいるゾンビとは別種だ。

 だが、同じ魔法にはかかっている。

 お前、俺の部屋に来る前、何してたか覚えているか?」


「いや、しばらくエドの顔見てなくて、相当落ち込んでるんだなって心配だったのに、あんたの部屋に行きたいと思えないから……。

 どこかへ相談に行こうとして……」


 リリアンはどんどん不安そうな表情を深めていく。

 沈黙が気まずくなる前にエドガーは先を促す。


「そこから先は覚えていないと?」


「……うん、目が覚めたらもう中庭に寝転がっていたし……」


「おそらく、エドウィンの部屋で起きた事件に巻き込まれたんだろう。

 それで何らかの爆発によって吹き飛ばされた。

 今日、お前に会った時、焦げたにおいやほこりの匂いがしたのはそれが理由だろう。

 さらに、草の匂いがした。中庭に寝転がっていた証拠だ。


 動植物管理棟は中庭から一つ建物を挟んだ先にある。

 そこから中庭まで吹き飛ばされるようなことがあった場合、体や服はもっとズタボロのはず。

 それに、そこまで重症なら血や焼けた皮膚の匂いがするはず。

 だがそんな匂いは無かった。

 また、中庭に寝ころんでいたということからも、中庭に面している理論魔法棟から吹き飛ばされたと考えるのが妥当だろうからな。

 まぁ、俺の目が見えていれば地下室から出た時にはもうわかったことだろうけどな」


 アナベルは納得したと言う表情を浮かべる。

 しかし、その表情はすぐに崩れる。

 彼女は気づいてしまった。


「……なるほど~。

 でも室長、そしたらリリアンに触られた私や室長もゾンビになっているってことにならない~……!?」

あれ?もしかして、みんな……!?


ここまで呼んでいただきありがとうございます!!!

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