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第六幕 旅立ち

 病院を出た俺達を待ったいたのは、驚愕の光景だった。

「えっ…?学校が、燃えてる」

 俺の視界に大きく写りこんできたのは、ごうごうと燃え盛る学校だった。

「ま……さか、学校が……」

「まあいいじゃないか」

 岡坂は言う。

「これで俺らが悪魔を倒すまでの間、学校がサボり扱いにならなくて済むんだからよ」

「岡坂、まさかお前……」

「いやいや、まさか俺を疑っているのか?俺でも流石にあんな大火事は起こせっこねーて」

 何かを考えるような仕草を見せてから岡坂は言う。

 …いくらなんでも気楽過ぎるだろうと思いつつ、岡坂の方を見ると、

「水のウォーターグレイス

 と唱え、あっという間に雨を降らせてしまった。

「さて、火も消えたことだし、とっとと森へ向かおうぜ」

「そうだな。行こう」

 俺らは森へ向かった。


 森と聞いててっきり足の踏み場もないくらいの雑草を予想していたのだが、森の中は光があふれて獣道もあり、思っていたよりも歩きやすかった。

 ガサガサッ

 前方から何やら物音がした。

 その音を聞いて雪原が目を輝かせる。

「康ちゃん、ためしに一発入れてみる?」

 新しい弓を手に入れ雪原はテンションが上がりすぎているようだ。

「いやいや、流石にそれはやり過ぎだろ」

と言って雪原を落ち着かせる。

 そんなことをしていると前方から何かがこちらに向かって走ってきた。

「あっ、豚だ」

 雪原が気の抜けたような声で言う。

「豚にしてはでけーな」

 岡坂の声で前を向くと、確かに走ってきたのは豚だった。

 大きさはそこいらの養豚場にいるくらい。でも見た目はイノシシの様な形をしている気がする。薄いピンク色をしていて、出荷すれば良い値で売れそうだ。

 そして、そいつは勢いよく俺達の横を通り過ぎてゆく。

 その豚は岡坂の足の上を通ったように見えた。

 バキ

 乾いた音が森に響く

「痛ってえ」

 悲鳴を上げたのは岡坂だった。

「大丈夫かお前?なんか今折れた音したけど」

「あっ…ああ、これくらいなら大丈夫だ。

 癒しのカインズオブヒール

 …ってて。まあ折れた骨はこれで大丈夫だろ」

「にしてもさっきの豚でかかったよな」

「ほんとだよ。重過ぎんだよマジ。トラックにでも轢かれたかと思ったぜ」

「そうだねー。それより浩ちゃん、回復魔法も使えるんだね」

「まず俺のことを浩ちゃんって呼ぶのをやめろ、紛らわしいだろうが!」

「じゃあ…爺っちゃん?」

「余計ねーわ。フツ―に浩二で良いだろ?」

「ハハッ、ごめん浩二ちゃん」

 ガサッ

「何を楽しそうに話なぞしておる、人間」

「誰だ!?」

 俺は辺りを見渡す。

 すると飛び出してきたのは先ほどの豚だった。

「フン。人間よ、この森を通ろうとはいい度胸だ。…が、ここから先を通すわけにはいかn」

 ヒュッ

 言い終わるよりも早く雪原の放った矢が豚の前足へ命中する。

「痛ったい、いたいイタイ。ちょっとタンマ」

 雪原は次の矢を構える。

「康ちゃん、次は当ててもいいよね?」

 流石雪原、さっきのはワザと急所を外していたようだ。

「ちょっ…ちょっと待って、確かに俺はそんな程度じゃ死なないけど…待って」

 雪原が鋭く睨む

「普通に通すから許してぇ」

「まあいいじゃないか」

 俺が雪村を制止する。

そして相手へ一歩近づいた瞬間。

「と言うとでも思ったかぁ!?」

と言いながら豚は俺に向かって突進してきた。

「ぐっ…」

 俺は身の丈ほどもある大剣で突撃を防ぐ。

 しかし衝撃が俺を襲うことはなかった。

「アっつ!!熱い熱い!」

「そんなに簡単に気を許すとでも思ったか?バカめ、そのまま丸焼きになりな」

 どうやら岡坂が炎の魔法で罠を張っていたようだ。

「あれ、浩二ちゃん、火は使えないとか言ってなかったっけ?」

 雪原が尋ねる。

「ん?ああ。杖の宝石弄ってたらデジタル魔導書が出てきて……」

「デジタル魔導書?何それハイテクで凄い!!」

「俺もビビったけどどうやらどんな魔法でも使えるようだぜ。疲れるけど」

 俺はそんな会話を横目に、俺は豚の首筋に剣を当てる。

「必要な物資と知ってるだけの情報を寄越すなら命までは奪わねえ、どうする?」

 すると豚はあっけなく自分がこの森の主の眷属であることを話し、食える野草をどっさり持ってきた。

「これだけじゃあ足りないなあ。…雪原帰り道どこだっけ?」

「分かんないよ?康ちゃん」

「じゃあまあ帰り道と、燃料とかも欲しいよなあ」

 俺は言う。まあ先に手を出してきたのはあっちだし、これくらいは良いだろう。

「そんなには…出せなグヘッ」

 雪原が豚の顔面を蹴る。

「分かった、持ってきますう」

 そう言って豚はどこかに走り去っていき、背中に石炭を積んで帰ってきた」

「そんじゃあばよ、この豚野郎」

 岡坂が吐き捨てる。

これじゃあ俺らが悪者みたいじゃないか…が、まあ妹のためだ、仕方ないか。

そんなこんなして、また森の中を歩きだしてみると、森の中の少し開けた場所に出た。

「あっ、何か人がいるよ」

 よく目を凝らしてみると、そこに座っていたのは、俺達と同い年ぐらいの少女だった。

 その少女の着ていた服はボロボロで、髪も整っていなかった。

「なあ、お前」

 声を掛けてみる。

「私は色波芽依よ、覚えておきなさい。」

 何とも高圧的な女だ。

「よろしくね―、芽依ちゃん」

 雪原が話しかける。

「やっぱり男は嫌いです。話しかけないで下さい」

「ええー、良いじゃん芽依ちゃん。こんなところで何してんの?」

雪原が少し近づきい、しゃがみながら言う。

「それは道に…だから話しかけるなって言ってるじゃないですか」

 敬語こそ使ってはいるものの、なんだか面倒くさそうな女だ。

「でも芽依ちゃ…」

 岡坂も声をかける。

「キモいです、やめてください」

 ……やはり岡坂は女子に好かれにくい体質の様だ。

 岡坂は凹んで俺の後ろの方へ逃げてしまった。

「そんなこと言ってないで何があったのか言えよ、お前」

「えっと…その…野草をくぁwせdrftgyふじこlp」

「何言ってっか分かんねーよ。もっと大きな声でいえ」

「康ちゃん、流石に女の子に厳しすぎるんじゃあ……」

 雪原の声が少し焦っている。

「その……薬草を探してて、道に迷っちゃったんです」

「意外と好評価!?」

 今日はなんだか雪原の食い付きがいいようだ。

「雪原、うるさい」

 …..が、そんなことは関係ない。黙っていてもらおうか。

「そんなー」

 雪原はうなだれた。

「ところでお前、迷ってるんだっけ?薬草はここにあるの持ってって良いから、森の出口はあっちだよ」

 正直この面倒くさい女をどうにかしたい思いで一杯だった。

 だが、

「ところで皆さんはどうしてこんなところに?」

 俺の代わりに雪原が答える。

「それはね―。森にすむ悪魔を倒しに来たんだ」

「面白そうですね。ついて行ってもいいですか?私武道で段持ってるんですよ」

 そんなことを言いながら隣の樫の木を蹴り倒す。

 岡坂が噴きだした。

それはそうだ。突っ込みどころが多すぎる。だが雪原はそんなことは気にせず

「いいよー。行こっか」

 等と言っている。


 ……あれから5分ほど4人で話をしたが、その女は結局ついてくることになってしまった。

正直俺は女子というものが苦手だが、雪原に説き伏せられてしまった。

 なぜだかこいつも俺には毒舌を全く吐かないし、どうなってるんだか。

 

 森の中を進んでいると、不思議な事に気がついた。

 ここら辺を通る鳥もそこらへんに生えている木も、すべてが生きている気がする。

 もちろん、普通の木も生命活動をしているかという点では生きている。だが、この森は俺達人間と同じように各々の思考を持って生きていると感じるのだ。

 さっきの豚にしたってそうだ。あんな喋る豚なんて普通いるわけないだろ。

 すると目前に小さい紙の箱を見つけた。

 駆け寄って中身を見てみると、何やら黒くて小さいものがモゾモゾしていた。

 そして何の注意もなしに雪原がそれを拾い上げる。

「「可愛い」」

 雪原と色波が一斉に声を上げる。

 雪原が持ち上げていたのは、犬に蝙蝠を混ぜたような生き物だった。その少しグロテスクな外見とは裏腹に、瞳は宝石のように美しかった。

 その生き物は見たところ、まだ幼いようだった。

「ねーねー康ちゃん、この動物持って行こうよ」

「そうですよ。連れて行きましょう」

 その二人のねだりに

「「却下」」

 と答える。……岡坂とハモってしまった。

 この生き物を見た瞬間、俺の脳内には二つの選択肢が浮かんでいた。

 「見捨てる」と「連れていく」だ。放っておくのは可哀そうかもとも思ったが、連れていく方が互いに危険すぎる。

「いや。この子にとっても流石に危険過ぎだと思うぞ」

「でも……」

 ヒュッ

 俺の頬が裂ける。

「風か?」

 色波が答える。

「この森では不自然なほどに強力な鎌鼬が頻繁に起きるらしいですよ」

 そんな呑気なことを言っている場合か、と声の調子に少し苛立つ。

 会話をしている間にも俺達の身体と体力が少しづつ削られていく。

 岡坂の魔法の使う間もない程の風の応酬に、全員の切り傷が増えていく。

 急に鋭い風の応酬が止んだ。すると目の前に鼬のような生き物が現れた。

「わー、可愛い」

 何だって雪原はこう何でもかんでも可愛い可愛いといって不用心に近づいて行ってしまうのか。

 すると急に鼬の姿がぐにゃりと曲がった。

 陽炎か何かっだったのかと思った瞬間、刃物で切られたかのような衝撃が走り、足に激痛が走る。

「痛ってえぇ」

 岡坂が咄嗟に離れかけていた俺の両足を魔法でくっ付けてはくれたが、激痛は収まらず地面に蹲ってしまった。

 それでもあの鼬は俺に向かってくる。そして俺に向かって風を放った気がした。

 この距離では多分岡坂の魔法も間に合わないなと思う。

「あぁ、これ死ぬな」

 そう覚悟した瞬間、あのよくわからない子供の動物が聞こえるような、聞こえないようなモスキート音の様な高い音で鳴いた。

 気がつくと俺は紫色の何かに覆われており、あの鼬はどこにも居なくなっていた。

「すごいね!!康ちゃんなんかより全然すごい!!」

 雪原が言う。

「ちょっと待って、そいつを褒める方が俺の心配より先なの!?」

「だって、自分が悪魔を倒しに行くとか言い出したくせに勝手にやられかけるとか」

 少しショックを受けたが、それ以上に半笑いでこっちを見つめていることに腹が立った。

 だが十分にこいつの実力があることは分かったので、連れていくことにした。

 そして俺達は森を歩きだした。

 …が、未だあの鎌鼬は倒せてはいなかった。

 またすぐにあの敵は襲いかかってきた。

 あの子供も、もうクタクタであの技を出せる状況ではなかった。

 俺は大剣で切りつけてみるが、風のような速さでかわされた。

 そこで俺はあることに気がついた。

「おい雪原、岡坂。あいつの攻撃には波がある。それだけじゃない、あいつは風を放つ瞬間、一瞬周りの風を吸い込む。だから、その瞬間に魔法と弓を出来るだけ多く放ってくれ」

「来ます」

「いっくよー」

「氷の弾丸アイスブラスト

「グギャアァ」

 あの鼬にはようやく攻撃が当たったようだ。

「康ちゃん、今だよ」

 俺は全力で大剣をふるう。当たった。手にちゃんと当てた感触が伝わってきた。

 鎌鼬は泡を放ちながら消えた。

 そしてその泡の中から小さい鼬が走り去って行った。

 どうやらこの森にいる動物は何らかの力で強化されているようだ。

 森の中を進んでいると、少しだけ陽が落ちてきた。

三十分ほど経っただろうか?太陽は傾きを増し、動物の鳴き声もあまり聞こえなくなっていた。

 そこで俺は岡坂が少ししょんぼりしていることに気がついた。よく見ると岡坂が見ていたのは、例のデジタル魔導書の様だった。

「どうしたんだ、岡坂?」

 そこで俺は取り敢えず聞いてみることにした。

「実は……俺の魔法、あまり連発は出来ないみたいなんだ。しかも魔法の種類には向き不向きがあって、俺は水、温度、木、生命、光、あとはーなんだこれ?…….まあいいや、そのくらいしか使えないみたいなんだ」

「そんだけ使えるならいいじゃん、羨ましいよ。僕たちは物理しか使えないしねー。だから元気だそうよ」

 雪原が慰める。

「でもまあ皆魔法が使えたりしたら楽でいいんだけどな」

と、呟いてみた。

「そういえばさー、話は変わるんだけど、この子に名前付けてあげない?」

 と雪原が言ってきた。

「辞めとけよ、別れが辛くなるぞ」

 俺はそう言おうとしたが、岡坂も

「なあ、五右衛門二郎とかどうだ?」

 とか言い出してノリノリだったので、止めるに止められなかった。

「でも、五右衛門二郎って長くないですか?しかも太郎いないし」

 と色波が突っ込みを入れた。

「じゃあさ、略してえもろーとかどう?」

 雪原が言う。

「おお、それいいな」

「確かに可愛いです」

 岡坂や色波もその名前に気に言ったようだ。俺も案外悪くない名前かも?と思ったので

「よろしくな、えもろー」

 と声をかけてみた。……その時、雪原の腕に中にいたえもろーが急に震えだした。

 突然周りの空気が凍てついたような気がした。

 急に背中に立った鳥肌は、死神に指で背中をなぞられているような感覚だった。

 ふと前を見ると目前に在ったのは、洞穴のような暗闇だった。恐怖が無かった訳ではない。だが、俺はこの先にターゲットがいることを漂って来る強烈な威圧感から感じとっていた。

「いくぞ、お前ら」

 皆も真剣な眼差しになっていた。

 ……だが、進んでも進んでもその洞穴との距離はあまり変わっていないように見えた。

「クソっ、これであいつを助けられると思ったのに」

 じれったくなりイライラした俺はそう言ってしまった。

 気まずい空気にしてしまったかなと少し心配になったがそんなことはなかった。

「ワン!」

 とえもろーが鳴いた

「おお、えもろー。お前もワンって鳴くんだ―」

 と雪原がえもろーの頭を撫でた。が、えもろーの声色は何かに脅えているようだった。

 その瞬間視界に小さな光が映った。それを見た瞬間、咄嗟に俺の体が動いた。

「雪原、えもろー、危ない!!」

 俺は雪原を突き飛ばした。すると今まで雪原が立っていた位置に雷が降り注いだ。

 その後、空を見渡すと猛禽類の様な鳥が空を旋回していた。

ズドン!ズドン!ズドン!

 今度は俺たちの周りに無差別に雷が降ってきた。

 咄嗟に岡坂とえもろーがそれを防ぐ。雪原の方を見るともうすでに弓を手に持ち、矢を装填していた。

「また俺だけ出遅れかよ」

 俺も大剣を構える。雪原の一射目は鳥の翼を掠る。やはり良い腕をしているものだ。

「雪原、岡坂、このままじゃ俺達が戦えねえ。取り敢えず墜としてくれ」

「おう、いくぞ、木のフォースプラン

「僕は新技のお披露目だよっ」

 と言いながら二人はそれぞれの技を使った。

 まず、岡坂の魔法で急成長した木が敵を囲み、飛びまわれる範囲を造った。

 その後、雪原が数本の矢を同時に放った。その数本の内、一本がその鳥の翼に命中したようだ。

 そして翼にダメージを受けた鳥はふらふらと高度を下げてきた。

俺は取り敢えず拾い上げて様子を見ようと思っていたのだが、鳥の高度が目より高い高度になったタイミングで色波が跳びながら思いっきりその鳥をぶん殴っていた。

そして、あの鳥ももう死んだな、ご愁傷さま等と考えていた。だが、それは甘かった。どさっと音を立てて倒れたのは色波の方だった。鳥も多少のダメージは受けているようだが、致命傷とまでは行かない様だった。

さらに鳥が低空飛行になったことにより、雪原や岡坂は攻めあぐねているようだった。

ここは俺がやってやる。そう思った俺は大剣を鳥めがけて振り上げた。

「お前がリーダーかと思っていたが、一番大したことがないようだな、人間」

 脳内に直接響いてきたようなその声に驚きを隠せなかったが、構わず大剣を振り切った。

 が、その鳥は俺のことをおちょくる様にその大剣を擦れ擦れ躱せる様な軌道で、しかし速度を落としながら飛んだ。

「っと見せかけて」

 その瞬間俺は大剣を離し、予備で持っていた小刀を鳥に突き立てた。

「貰ったあ」

 確かにあった手ごたえに勝利を確信し、手を振りぬいた。

 ……しかし、よく見るとその小刀は鳥の腹部に当たってこそいたが、そこまで深くは差さっていなかった。

 そこで俺は気がついた、これが色波がやられた理由なんだと。

 この鳥は雷を落とせるだけでなく、そのエネルギーの強弱を自在に操っている。そして一瞬強力な電気を流して皮膚から神経に到達するまでの穴をあけ、そこから神経をマヒさせることで手応えを狂わせているのだ。

だがここまでに掛かっている時間はそう長くない。俺は先ほど離した大剣をもう一度掴み、鳥に切りかかった。

「康、そいつは危険だ。離れろっ!」

 と岡坂が声を上げたが間に合わなかった。

鳥が俺の大剣を目がけて雷を放ったのを感じた。それと同時に岡坂の魔法が俺の体を覆って行くのが分かった。

……どれほど経ったのだろうか?まあ実際は数秒しかたっていないだろうが俺はその場に倒れこんだ。近くにいた雪原が咄嗟に支えてくれたが、全身の感覚神経が麻痺しているようで、何も感じなかった。

 自分の様子を確認すると、大剣を握っていた右手が黒焦げになっていた。

「これは大変だ……よね?浩二ちゃん」

「だな、取り敢えず病院へ運ぼう」

「私も手伝います」

 そんな会話を聞いたところで、俺の意識は途絶えた。

 ……目が覚めた時俺がいたのは病室のようだった。起き上がろうとすると、全身が痛くて、頭を持ち上げるのが精一杯だった。

 枕元に張られている紙を見たところ、俺の主治医は妹と同じ人らしかった。

「ひばち……かみかぜ?」

 口に出してみたが、両方名字のような名前なせいであまりきちっと読めた気がしなかった。

俺の病室は機器類が殆どなく、がらんとしていた。

 テレビひとつない病室を寂しく感じたが、未だ入院費用を払っていない身としては、それは見当違いという奴なのかもしれない。

 起き上がろうとベットの手すりを掴むと、静電気が流れて痛かった。

 普通静電気というものはチクっと一瞬痛むものだが、指先が軽く焦げていた。

 とはいっても大変な火傷では無かったので、気にしないことにした。

 焦げていた右腕は、驚くほど綺麗に植皮されていた。

 幼いころからとある有名な医学マンガを読んでいたせいか、あれ程の大怪我をすれは、継ぎ接ぎになるのは避けられないと思っていたが、違ったようだ。

 自分の躰には大した変化はないようだ。

 その時ドアの近くで物音が聞こえた。

「康さーん、起きてますかー?」

 ガラッとドアを開けて入ってきたのは、妹の病室にいた、あの先生二人だった。

「康さん、調子はどうですか?」

 神風先生が訪ねてきた。

「大丈夫ですよ、その……植皮、綺麗ですよね」

 俺は思っていたことを率直に言ってみた。

「ああ、それは今言おうと思っていたんですが、あまりにも火傷がひどかったもので人工の皮膚を移植させて頂きました、しかしながらこれの材質には金属が使用されている為、日常生活に不便をかけるかもしれません」

 道理で綺麗な訳だ。それと同時に先ほどの現象も理解できた。

 その時、俺に神社へ行くことを勧めて来た男が、話しかけてきた。

「一ついいかい?君が寝ている間、君……君達の事を検査させてもらった。まあ基本的には皆問題ないんだが、君は激昂すると自律神経の動きが一時的に一部が活発になるようだから無理しないように」

「じゃあもう一度森に這入っても……」

「いや、君達を直接向かわせるのはまだ早かったようだ。私の家に訓練場がある。取り敢えずまあ立てるようになったらきなさい」

「大丈夫です。立つぐらいすぐに……あれ?」

 立てない。それどころか腰を上げることすら……というか背を起こす以外の行為を禁じられているようだ。

「驚いたかい?君はこういうのには慣れてきたんだと思うんだけどなあ?」

!!?この男はあの森の秘密を知って居やがる。だがこれが軽い妖力の類なら、はねのけられなければならない。

全身の力を振り絞り、ベットから転げ落ちた。

「痛ってえ!」

 なんとかベットから離れ起き上がることができたが、全身がとても痛かった。

「すごいな、君は。僕のこの業から逃れることができたものはいないというのに」

「このぐらい。余裕だ」

 そうして俺は、彼の屋敷に行くことになった。


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