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第三幕 それぞれの過去

 憂鬱だった夏休みも終わり季節ももう秋になろうとしていた。

 しかし中間テストの近い受験生にとっては非常に憂鬱な時期だ。

 中学三年生という青春を謳歌する時期だというのに、気分は曇り空どころか昭和の排ガス汚染地帯のようだ。

 それでも気持ちを奮い立たせて勉強に励んでいた。

 ふと、廊下を眺めてみると、雪原が十数名の女子に囲まれていた。

「へえ~!凛くんって弓道部なんだ。意外」

 とか

「掛け持ちでもいいから文芸部に来ない!?」

 なんて声をかけられまくって、可愛い系男子も楽じゃなさそうだ。

 そう思いながら岡坂のほうに目をやると、一人寂しく本を読んでいた。

(うっわあ、非リアとかだっせえ)

 と叫びたくなったが、俺も人のことを言える状態ではなかったのでやめておいた。

「康ちゃーん。何してんの?」

 雪原はあの女子たちの洗礼をどうにか終えたようだ。

「んー?いや別に何も。そういえば雪原って弓道部の部長だっけ?」

「こう見えても部長です!!」

何だかすごく嬉しそうだ。

「うちの学校って弓道も盛んな方だし、賞とかも取ってんの?」

「よくぞ聞いてくれました。何と中学生の全国大会三連覇です」

「それ何キャラだよ。にしても三連覇とかすごいなー。うちの部はせいぜい地方大会でベスト16ぐらいだもんなー」

「でしょでしょ!まあ団体の部は県で惜しくも3位止まりだったけどね」

「そ―いやなんで凛はそんなに弓上手いんだ?」

 また岡坂が割って入ってきた。本当に悪い癖だ。

「んーと……ね」

「おい岡坂」

「いいんだ康ちゃん。僕の家は500年続く弓の名家でね、僕もそのあととりとして育てられたんだ。

「僕のお父さんはその家の長男だったんだけど弓の腕がからきしで、半ば本家と縁を切られていたんだ。でも、お父さんは僕だけでも本家でいい暮らしをさせようと、僕に弓を教えてくれたんだ。

「お陰で僕の弓の腕が認められ、僕ら家族は本家に戻ることができたんだ。その矢先、両親が良質な弓の材料になる檜を採ってくると森へ行ったきり帰ってこなかった。探しに行った本家の情報屋の人たちによると、二人とも森の奥で異形の化け物に殺されたらしい。

「本家の人たちは僕さえ生きていればいいと言っていたけど、それすら皮肉にしか聞こえなかった。

「その後はまあ祖父のもとで修業をしながら普通の中学生って訳だよ」

「親…か。何も知らなかったのに迂闊なこと聞いてごめんな。お詫びと言っちゃあ何だが俺もお前らに言ってないことがある」

「何だよ岡坂。急に改まって?」

「俺さ、今一人暮らししてるけど、親と呼べる人が昔はいたんだ。母と義父と義姉。母は浮気癖があり親父と離婚、義父と再婚すると俺のことは邪魔者扱い。

「それでもまだ”家族”とは呼べる状態だった。でも母が新興宗教にはまり、変な機械やつぼを買ってくるようになり、毎日変な経を読み始めた。お陰で家計は火の車、義姉はとっても良い人、絶対結婚すると言っていた彼氏に強姦されて殺された。義父の会社は業績不振と赤字の隠蔽がばれ倒産。挙句に母と蒸発し、その後に事故で死んだらしい。俺の家庭は崩壊した。本当にあの時は俺の手でぶっ殺してやりたかったよ。まあ死んじまったモンは仕方ないがな。 

「優しい親戚方の支えもあり、今はまともに生きているが小3位の時はヤバかったんだぜ。

「今はあんな親、死んで当然だったなと思う反面、やっぱりちゃんと会って話をしたかったなとも思うんだけどよ」

「お前ら」

 気づかなかった……。

まさか親友だと思っていたやつらの事情を何も知らなかったなんて…。

多分今の俺は結構暗い顔をしているんだろう。でも今は、いつもの笑顔が出せないほどに、自分のいい加減さに腹が立っていた。

すると急に明るい声で岡坂が言ってきた。

「まあ話変えようぜ康。そ―いや俺、最近オカルトとかにハマってるんだよね」

「「中―二、中―二」」

 偶然雪原と声が重なり、一緒に囃し立てる。

「お前らひっでえ」

「ハッハッハ。良いじゃん」

 この時こんな話をしていなければ、あの時はどうなっていただろう?

 もしかしたらもっと、良い未来が待っていたかもしれない。

 それでも、やっぱり俺らの絆はかけがえのないものなんじゃないかな。

 そう思うと少し救われたような気になるな。


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