第九幕 再戦
「着いたよ―」
あれから俺達は、森へ行くことになった。
目隠しを外して周りを見渡すと、たしかにあの森の入り口だった。
「やっぱりこの森は不気味だね―」
最初に口を開いたのは雪原だった。
周りを見渡すと虹色をした百足や、実が光っている木などもあった。
「あの鳥はどこだろうな」
俺はあの鳥を倒して屈辱を晴らしたいという気持ちで燃えていた。
その時ふと頭に浮かんできた疑問を雪原にぶつけてみた。
「そういえばさ、お前の弓の矢って、どこで補充してんの?」
雪原が答える。
「僕がずっと背負ってる籠みたいなのあるでしょ?今は矢が5本入っているけど、使えば当然一つ減るよね?でもなぜか次に見たときにはまた5本になっているんだ」
…...まったくその現象について俺の頭は全くついて行っていなかった。
「どうしてだと思う?岡坂?」
なのでここは少し悔しい気もするが岡坂に聞いてみることにした。
すると岡坂はあっさりと
「つまりあの神の加護かなんかでその籠の中に矢が生成されているんだろ?」
とつまらんダジャレを混ぜつつドヤ顔で言ってきた。
「にしてもあの神は一体何なんだろうな、この森もおかしなことだらけだし」
ダジャレをスル―し、話題を逸らす。
「その神っていうのが一体どなたの事なのかは分かりませんが、この森は昔からこんな風でしたよ。文献によると、少なくとも数十年以上は」
「そうなのか、ちなみにその文献って何だ?」
そう尋ねてみた。
「康さんたちが修業している間、私は先生の助手してたんですよ。そこで倉庫を片づけていたら、見つけたんですよ、これ」
色波が手に持っていたのは如何にも怪しげな”妖怪大百科”と書かれた書だった。
「いや、それはないだろ。ってか、持ってきてよかったのかよ」
「良いんですよ~。先生から許可貰えましたし」
…まあいいか。
「そんなことはいい、早く進むんだろ?」
珍しく岡坂が話を進める。
「おう。それじゃあいくか」
そう言って一歩を踏み出す。
突然前を歩いていた雪原の髪が立った。
「雪原!!危ない」
俺は雪原を突き飛ばした。間一髪でよける事が出来た。
「さあさあ鳥さんのお出ましだ」
いつになくテンションが高い。体調もいい。
そう思う俺の体にも、電流が纏っていた。
背中に掛けていた剣を抜き、構える。
「うおぉぉりゃぁぁぁ」
全身の力を足に込め、高く跳びあがった。
思いっきり剣を振りかざす。
しかし、やはり紙一重のところで避けられてしまった。
「ここまでは想定内だぜ」
袖に隠し持っていたナイフを投げつける。
……すると、指先からナイフにかけて細く、しかし確かに電流が流れた。
「あいつの修業が役に立ったってことか」
投げた三本のナイフの内、一本が鳥に命中する。
鳥のスピードがわずかに緩んだ気がした。
「私が行きます!」
色波が鳥を地面に叩きつける。
その瞬間、地面に大穴が空いた。
……と、同時に色波が吹き飛ばされる。
よろよろと、鳥が立ちあがり、飛び立とうとする。
「~~~」
その時、えもろーが大声で鳴き、鳥の周りが薄暗い結界で覆われた。
「えもろーやるじゃん!」
「雪原、そんなことを言ってる場合じゃない、早く構えろ」
岡坂が言う。
「えっ……でも、矢が」
「良いから構えろ!」
「うんっ、わかった」
雪原が矢のない弓を構える。
「やっぱ綺麗だな」
言葉がこぼれる。
矢など入っていなくとも、美しい構えだと理解する。
「氷の刺石」
岡坂が魔法を唱えると、雪原の手に、氷の矢が生成されていく。
さらに雪原の手の中だけでなく、周囲にも氷が生成されていく。
その瞬間、雪原が矢から手を離す。
「ついでにこれも持ってけ」
鳥に向かってナイフを投げると、氷と共に一直線に飛んでいく。
「借りるぜ、康」
岡坂が魔法でナイフを動かしたようだった。
矢達は全弾、鳥に命中する。
するとえもろーの放った結界が狭まっていく。
「俺の新技も見て貰おうかな」
見ると岡坂の足元には紫色をした魔法陣が浮かび上がっている。
「封印魔法、暗刻の束縛」
すると、鳥の周りに荊が絡みつく。
「封印魔法二つで殺れない奴はいないだろ」
岡坂が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
鳥の周りに出来た二種類の結界が、どんどん狭まっていく。
すると真っ黒な光を放ち、鳥の姿が見えなくなる。
結界が収縮してできた真っ黒な球から、眩い光が漏れる。
「よけろっ」
飛びのきながら叫ぶ。
四方の地面を大きく削りながら、光が収まる。
「やった……のか?」
すると黒い球体から、あの鳥が地面に落ちる。
そして、泡を放ちながら、小さな鷲が飛び去って行った。
「勝ちましたね!」
色波が笑顔でそう言った。
「お前、死んだかと思ったよ」
岡坂が言う。
「話しかけないでください」
やはり岡坂は色波からは嫌われているようだった。
「よっしゃあぁぁ……れ?」
皆の声が聞こえる。
目の前が暗くなり、意識が途絶えた。
「あ……れ?ここは……?」
目前には黄色い天井が見えていて、ここが屋内ではないことを物語っていた。
「康ちゃん、大丈夫?」
「ここは簡易テントですよ。出発前に先生から渡されていたんです」
「一応先生から渡されていた薬は打っといたぞ」
「薬……何のことだ?」
「ほら、康ちゃん。先生から、戦った後は絶対に打つんだよって先生から言われてたのあったじゃん。あの、注射器」
「ああ、あれは只の塩水だよ。多分俺熱中症だった。ごめんな」
皆は俺のことを心配してくれていたようだ。
「ってか今何時だ!?」
「何時かは分からないですけど、もう夕方ですよ。日も傾いてきていますし」
「そうか……じゃあそろそろ危険だし、今日はここらで飯でも食って休むか」
「どうしたどうした?康、お前ぶっ倒れてビビったのか?」
「ちげーよ。お前らの事も心配してんだよ」
「はいはい。人の心配してる場合じゃないでしょ、康ちゃん。じゃあまあ、とりあえず今日は休もうか」
全員が飯を食って終わった後、ランタンの灯りを消す。
「それじゃあ、おやすみ」
そうして、夜は更けていくのだった。




