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Dragoon→Dragon Knights  作者: 巫 夏希
第三章
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第三十四話 秘書

 秘書の人間が秘書に成り得たのは、今から三年前のことになる。初めて陛下と出会い、そして陛下に寄り添い生きる運命が決まった、その日。彼女は食堂勤務のメイド、通称メイド隊の一人としていつも通り働いていた。

 陛下がやってきたタイミングというのは、ちょうど人が誰も居ないタイミングで、彼女が応対するしか無かった。

 彼女が陛下に出会ったのは、それが初めてのことだった。何故なら普段陛下に応対するのは年長者と決められており、それは陛下に取り入ってこの場所から抜け出そうという、如何にも人間らしい汚い考えの下からだった。

 それからのことはトントン拍子で進んでいった。気付けば新しい秘書に命じられて、そうして彼女は新しい環境で働くことになった。

 環境は格段に良くなったのに、給料も格段に良くなった。これは彼女にとって想像できなかったことで想定できなかったことだった。

 確かに分刻みのスケジュールで陛下は動いているわけだが、それでも陛下も人間だ。一日中常に動いているわけではないから、その時間は休息になる。

 それだけではなく、急に陛下から「今日は休め」と言われる日がたまに現れて、しかもその日もきちんと給料が出る。メイド時代にはそんなことがあり得なかったので、彼女は何度も問題ないのか確認していた。

 しかし、陛下の答えはいつも一緒だった。


「どうせ人はいつか死ぬのだ。金などどうでも良かろう」


 その言葉の意味をあの時は理解できなかった。

 しかし、今ならその言葉の意味も理解できるだろう。

 ただ単純な意味ではなく、『計画』やライアンの壺の知識から得られた言葉であったということを。



 ◇◇◇



『世界の終わりが迫っている』

『血の魔法陣の作成はまだか』

「未だ敵軍の中心部が落としきれておらず、もう少しかかる見込みです。ですが、必ずや間に合わせてみせます」

『「朔の時」までそう時間の猶予は残されておらぬのだ。急がねばならない』

『その時を逃しては、今度こそ我々人間は滅びゆくことだろう』

「承知しております。ですが、敵の勢力も抵抗を続けております。それだけはご理解頂きたく思います」

『ふん。……そう言ったところで言い訳にしかならぬぞ。例え世界が滅んでも我々人間は種を残さねばならない。それは神に与えられた試練であり義務である。ゆめゆめ、忘れるでないぞ』

「はっ」


 モノリスとの会議は終了し、会議室には彼だけが取り残される。

 普段は彼だけしか居ない空間だ。しかし会議の時は光と影を利用してまるでそこに本人がいるかのように再現する。その技術は民間には公開されておらず、未だ軍でしか使用されていない。しかし、それが使われるようになれば経費の削減はより進むことになるだろう、と考えられている。

 にもかかわらず、軍はその技術を公表しようとはしなかった。それは国内外問わず批判されており、常に国会では槍玉にあげられている。

 しかし、それでもなお、公表は行わない。何か裏があるのではないかとマスメディアが焚き付けるも、そんなイメージなど付与しても無駄なことであった。


「……だが、時間は残されていない。急がねば。急がねばならない。その為には、彼をあの地へ……」


 陛下は、ただ独りごちる。

 その様子を会議室の外から眺めていた秘書は、少し心配そうな表情で見つめていた。

 いつしか彼女は陛下にただの敬意ではない、また別の感情が生まれていることに気付いた。

 だから、だからこそ。

 彼には死んで欲しくない。

 もし彼の生命が危機に立たされた時は、自分の生命を持ってしてでも……。


「どうした? ぼうっとして。風邪でも引いているのか?」

「はい?」


 気付くと陛下は彼女の隣に立っていた。

 秘書の彼女よりも背が小さい陛下は、並んだ姿を見られると姉弟(きょうだい)のそれと言われてもおかしくはなかった。


「……あれ? 会議はもう終わったのですか?」

「そんなものはとっくに終わった。それよりも急いであの内戦地域の態勢を立て直す。老人どもがさっさと血の魔法陣を刻めとお怒りでな。急がねば僕の首が物理的に飛びかねない」

「血の魔法陣?」

「……こっちの話だ。とにかく、急げ」


 こつこつ、と小走りに近いぐらいのスピードで歩き始める陛下。

 彼女はそれを精一杯追いかけるだけしか出来なかったのだった。

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