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Dragoon→Dragon Knights  作者: 巫 夏希
第三章
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第二十九話 並列処理

「退役、ですか……!」


 執務室にて、ベッキー・レフテントは驚愕の表情を浮かべていた。


「一応言っておくと、確定ではない」


 陛下は椅子をくるりと回転させ、窓から外を眺める。


「老人どもは君が自由に動かれるのが困るらしいんだよ」

「しかし、陛下はそれで宜しいのですか……!」

「陛下の前で口答えをするな!」


 秘書の女性は、激昂する。


「良い。……ただまあ、君の思いも分かる。君が彼を守りたいと思うことも、君が任務を遂行しないといけないということも」

「陛下」

「だが、人間とは何らかの任務を必ず背負い、それを遂行するために生きていく。任務を得られないならば、掴むしかない。それは人間が人間たり得る理由の一つと言ってもいいだろう」

「……何をおっしゃりたいのでしょうか。申し訳ないのですが、私には、その言葉の真意が図りかねます」

「意味を問いたい訳では無い。ただ、人間とはどうしてこの世界に生をもっているのか、ということを。自問自答したかっただけに過ぎないのだよ」


 ベッキーは答えない。

 否、答えることが出来ない。

 彼女の目の前に居る人間――陛下と呼ばれる人間は、彼女の国の最高権力者であり、この人間が仮に気分を損ねて「こいつを殺せ」と言い放てば、簡単にその人間の首が飛ぶ。

 要するに、それくらいの権力を持つ人間なのだ。

 にも関わらず、彼は矮小で、極小で、普通の人間と比べると背丈が随分と小さいものだった。しかしまあ、そんなことを気にする人間など誰一人とて居ないし、居るはずも無いし、居たところで彼にそれを問う人間など居ない。

 ただの人間――と言ってしまえばいいのかもしれないが、彼はただの人間ではない。

 ライアンの壺。

 ドワーフの国ではライアンの壺は精神的で偶発的で盲目的な判断によるものであったが、この国では科学を使ってライアンの壺へアクセスすることが可能である。

 しかし、それを利用してライアンの壺にアクセス出来たとしても、その情報を処理しきれない。

 結果的に、ライアンの壺にアクセスすることが出来る人間は――脳が肥大し、それ以外の機能が小さくなる。

 科学的にライアンの壺にアクセス出来るようになるとはいえ、その素質があるかどうかはやはり人間の身体の『適性』たるそれが必要となる。

 ライアンの壺にアクセス出来ても、それを操作することは出来ない。

 ただ、天啓として得たその情報を何とか処理するしか無い。

 しかし人間の脳にはそれを処理出来るほどのCPUを持ち合わせてはいない。

 だから、脳にその並列処理を可能とするCPUを増設する手術を行う。

 レディリティック・バルフォンス教授が考案したそのプログラムは、彼の名から取り、レディリティック・プランと名付けられた。このプランを実行することで人間の脳の処理能力は格段に上がり、結果的にライアンの壺から得られた情報を、カテゴライズすることが可能になる。カテゴライズ――或いは処理することを可能にして、人間に有益な情報を抽出することが可能になる。

 そして、その能力を得た人間こそが――たとえ性格が破綻していえようとも――王の器となり得るのだ。


「……ライアンの壺から得られる情報は、老人どもから得られる情報とは違う」

「はい?」


 突然そんなことを言われて、首を傾げるベッキー。


「ライアンの壺は常に正しいと教え込まれて生きてきた。だからこそ僕はライアンの壺から得られた情報を、知識を、人々に伝え、教え、指導してきた。……でも、老人どもと交流するようになって変わってきた。僕が得た知識は、僕が得た情報は、本当に正しいものだらけなのか。本当に、この情報を信用して良いのか。僕たちは考えた」

「僕たち……?」

「並行処理を可能とするCPUと、僕のオリジナルの脳。併せて二人居る。簡単に言えば、僕は二人居るんですよ。今外に出ているのは、一つの人格ですが。……何であなたにそこまで話をしなくてはいけないのでしょうね。分かりませんけれど、多分きっとそれは、僕のもう一つの人格が『そうしろ』と言っているのかもしれません」

「……陛下の二人の人格は、それぞれ会話することは無いのですか?」

「ありません。主導権は常に、オリジナルの僕が持っています。……もっとも、もうずっとこんな様子だから僕がオリジナルなのか、それとももう一つの人格がオリジナルなのかを照明する手段は無くなってしまいましたが」

「陛下、それはいったい、」

「もう良いでしょう。これ以上話す時間も、意味もありません」


 言い放ったのは、秘書の女性だった。

 確かにこれは一人の兵士が得て良い情報では無い。それは陛下である彼自身も分かっていた。

 しかし、何故だか彼は話したくなっていた。気がつけば話していた。その行動の意味を、その行動の理解を深めるのは、もう少し後の話になるのであった。


「申し訳ありません。では、失礼致します」


 そうして、頭を下げると、ベッキーは部屋を後にするのだった。



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