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Dragoon→Dragon Knights  作者: 巫 夏希
第一章
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第二話 娯楽

 漆黒の部屋にて、いくつかのモノリスが屹立していた。


『やはり、シンギュラリティの崩壊は天啓の通りだったか』

『ああ、否定せざるを得なかったが……これによって肯定に変わるだろう。法王直属の騎兵隊「ロンギヌス」を発動させると言っていたが、なんとか戦争にはならずに済んだな』

『もしなっていたならば、或いはこの情報が少しでも流出していたならば、資本主義の犬どもが騒ぎ立てていただろうな。そして、何が何でもその戦争を実現し、自分の利益が最大限になるようにする。あやつらの考えることなど、手を取るように分かる』


 モノリスは発言をするたびに、出現と消失を繰り返す。

 或いはそのモノリスは電子データとして存在するだけで、実体は存在しないのかもしれない。


『問題はその男だ。どうするべきか。シンギュラリティ、技術的特異点の終焉とその先を迎えるためには必要な人材ではあるが、』

『だが、今この国に彼奴は必要ではない。だからこそ、追い出さねばなるまい。今この時点で国民に知られてはならないのだ』

『では、審議を問う。ラインハルト・ルーキブルの国外追放および国内の重罪人としての指名手配を命ずることを、認めるか』

『異議なし』

『異議なし』

『意義なし』


 すべてのモノリスが同時に出現し、同時に発言を行う。


『では、後は任せるよ。神の導きのままに』


 そうして、モノリスが消える。

 残されるのは、一人の青年だ。襟を立てた服を着用している彼は、手も手袋をつけており、徹底的に肌を露出させていない。かろうじて露出している顔も、その半分が爛れたような火傷の跡が残っていた。


「……相変わらず、我儘な老人どもだ」


 彼はそれだけを言って、部屋を出て行った。

 部屋を出ると、敬礼をする一人の少女と出会う。金髪のポニーテールの少女は、どこか張り切っている様子が見える。気分が高揚しているのかもしれない。

 対して彼は溜息を吐くと、あたりの様子を見渡して、やがて呟くように、


「会議が終わるまで待っていたのか? ……待たなくて良いと言ったはずだが」

「いえ! 陛下の会議が終わるまでは、私は必ず同じ場所或いは近い場所に居なければならないと思いましたので! それが秘書たる私の使命でもあります!」

「……ああ、そうだったな。お前はそういう人間だった」


 ゆっくりと歩き始める陛下と呼ばれた男。

 そしてその数歩後を同じスピードで追いかけていく秘書。


「次の予定は」

「次はラハール大臣との会食になります」

「ラハールか……。確か最近彼奴の納める東メルビアス領の税を減らしてほしいとか嘆いていたな。若造だから下に見ているのだろうが、そんな簡単に我が首を縦に振るはずが無かろう」

「陛下。どこで誰が聞いているか分かりません。言動にはお気をつけください」

「この場所に、お前と我以外の誰が侵入できる?」


 それを聞いて少しだけ顔を赤らめる秘書。


「え、ええ。まあ、そうですが……」

「だろう?」


 ニヤリと笑みを浮かべ、


「なら、それで構わない。……ところで、会食の場所は?」

「王宮内の食堂で御座います」

「今日のメニューは?」

「メルビアス牛のシャトーブリアンステーキがメインとなります」

「……ふん、成程ね。大方ラハールの差し金だろう。自領土の食事を食べさせて、税の軽減を情に訴えるのだろうか。馬鹿馬鹿しい、そんなことが通用できるわけが無い。よくあいつが大臣まで上り詰めたものだ」

「一応、技量は御座いますから」

「おっ。君も言うようになったか。そうだよ、ここではおべっかなんて使わなくて良い。正直になれば良いのさ。夜みたいに、ね」

「……っ! 夜の話は今しないでいただけないでしょうかっ!」

「じゃあ、夜はもうなしでいいかな?」

「………………それは…………っ」

「やらない?」


 立ち止まって、陛下は秘書の目を見つめる。

 秘書は自分の顔がどうなっているか確認したくなかった。きっと林檎のように真っ赤になっているだろうから。そして、それはその通りだった。

 だから早く解決したくて、秘書は絞り出すように言葉を言い放った。


「……いいえ、お願い……します」

「よろしい」


 そして、再び歩き始める陛下。


「ところで会食には君も参加したまえ。その前には一つ仕事をやってほしいのだがね」

「なんで御座いましょうか」

「ある兵士の除籍と、罪状の発行。罪の内容は……ええと、国家反逆罪あたりにしておいてくれ。名前は、ラインハルト・ルーキブル。よろしく頼むよ」

「畏まりました。では行ってらっしゃいませ」


 秘書は立ち止まると、深々と頭を下げた。

 陛下はそれを見ること無く、ただ目的地である食堂へと向かうのだった。



 ◇◇◇



「しかしまあ……ドラゴンの背中って意外と快適なんだな」


 俺はブランの背中に乗り込み、テスラーへと向かっていた。

 テスラーに向かい状況を報告すれば、取敢えずはなんとかなるはずだ。シンギュラリティを失ったのは手痛いが、直ぐに新しいシンギュラリティが支給されるだろう。

 そのときは、そんな軽い気持ちを考えていた。


「おっ。見えてきた。あれを超えれば、テスラーだ」


 マギニアとテスラーの間には巨大な壁が存在する。

 嘆きの壁。

 かつて国境で戦った兵士の霊が今も嘆き悲しんでいることからそう呼ばれている。

 エンターテインメント化された、終わらない戦争。


「何というか、悲しい時代だよな……」

「今更、何を。この世界はもう終わりに向かっているのだよ。それは長く生きてきた儂でも簡単に分かることだ」

「やっぱり、世界は終わっちまうのか?」

「ああ、このままくだらないことを続けていけば、な。人間は終わらないと思っているだろうが、案外呆気なく終わるんじゃないか。儂も詳しくは知らないが、人間から情報を仕入れた限りだと、あの国では戦争をエンターテインメントにしているのだろう?」

「ああ。そうだ」

「となると、視聴率とやらが影響してくる、と」

「そうなるね。視聴率が悪い戦争は何らかのてこ入れが入れられる。一年前の戦争ではてこ入れに悲劇的なストーリーを交えて当時のアイドルドラグーンが死んだな。葬式にはたくさんのファンが駆けつけたとか聞いた話だ。くだらないことだが」

「くだらない。確かにそうだ。ドラグーン……パイロットの命ですら、軽視している。お前はそんな国に戻りたいのか?」

「居場所がないから、そこに戻るしか無いんだよ」


 俺はそう答えるしか無かった。

 確かにあれはチャンスかもしれなかったのだ。エンターテインメント化された戦争の世界が一般化しているテスラーに居続けても、人生は楽しくならないし、早死にすることは間違いない、って。だったらあの墜落した時に亡命をしてしまったほうが、案外楽な人生を送れたのでは無いか。

 一瞬だけでも、そんなことを考えてしまった。

 だからこそ、油断が生まれたのかもしれない。

 刹那、嘆きの壁の天辺に立っていたシンギュラリティから炎の弾丸が撃ち放たれた。



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