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Dragoon→Dragon Knights  作者: 巫 夏希
第一章
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第一話 契約

「……とはいえ、どうすれば良いんだ?」


  ラインハルトの言葉に、ブランは呟く。


「簡単だ。……ドラゴンには契約をしなければ乗ることは許されない。本来なら数秒でもそこに乗せることは許さなかったのだが、お前は別だ。後からではあるが、契約を交わすわけであるしな」

「契約?」

「別に難しい事ではない。……それぞれの血を交換すれば良い話だ。だがドラゴンにとって人間の血は少な過ぎるし、人間にとってドラゴンの血は多過ぎる。だから、別に量については限定しない。それによりお互いの思考がリンクする。それによって、儂とお前は共に戦うことが出来るのだ」


 ドラゴンが説明する『契約』の意味を、幾度か自分の中で理解しようと噛み砕いていく。

 しかし、話を聞いている限りだと、その『契約』もそれほど難しいものではなさそうだ。

 要するに、お互いの身体の血を受け入れれば良いのか。まあ、よくわからないがやってみるに越したことは無いだろう。


「……分かった。契約を、交わそう。俺はどうすればいい?」

「お主は何か鋭利な刃物で手でも足でも切れば良い。そこから滴り落ちる血を儂が舐める。次いで、儂が自らの爪で鱗を引き抜く。すると血が出てくるから、それを手に取って飲み干せば良い。……ドラゴンの血は長命に効くと人間が言っていたぞ? メリットだらけだな」

「……いや、それを自分で言うか? まあ、別に構わないが。とにかく、血を差し出せば良いのだな」


 ならば話は早い。そう思った彼は、装備していたサバイバルナイフで自らの肌を容赦なく切り込んだ。

 そして少しの間を置いて、ぽたぽたと血が垂れ始めた。


「……それでは、契約を始めよう」


 ブランは顔を近づけ、やがて彼の手を頬張った。そして軽く血を吸い出して、その時ラインハルトには軽い痛みが感じられたが、そこで音を上げるわけにはいかない。なんとかその痛みを我慢しようと思ったのだ。

 そして彼の手がブランから離れると、その傷はきれいさっぱり無くなっていた。


「……傷が、無い?」

「ドラゴンの血を啜ると、生命力が満たされる。これは前にも言ったことだと思うが、それに近い症状だと思うがね」


 つまりはドラゴン自体が生命力の源であるために、ドラゴンが傷をなめるとその傷が治るというわけだ。

 便利な身体をしているものだとラインハルトは思ったものだが、しかし彼はそれだけでドラゴンのすごさを思い知ったわけではない。やはりまだ――何かを隠していると勘繰ってしまっている。まだドラゴンに――ブランにすべてを見せてはいけない。隠し通さなくてはいけない。そう思うようになっていた。

 それほどに、ドラゴンは恐ろしい存在として、あっと言う間に彼の頭に植え付けられていたのだ。


「……恐ろしいと思っているか? 儂を」

「! なぜ、自分の考えが……」

「言っただろう。リンクする、と。血を飲めばその人間の考えが分かる。……嫌と言うほどな」

「成程。契約とはそういうことか。自らと命を同じにする……」

「人間にしては考えが鋭いじゃないか。そうだよ、その通りだ。この血の契約を儂達は『盟約』と呼んでいる。血を交換することでお互いの思考が分かる代わりにお互いが死んだ瞬間、その血は毒となり、死に至る。儂達は運命共同体になるということさね」

「そんな大事なことを言わないのは卑怯だったな。それとも……今はまだあんただけに適用されているのか?」

「言わなかったのは悪かった。それに儂はブランという名前がある。儂をブランと呼ばないと、お前のことを儂はずっと小僧と呼ぶぞ。それに、その見解は正しい。儂の血をお前が飲まない限りは、まだ契約は成立していない」


 契約が成立していない。

 というよりかは契約が一方的に成立している、と言った方が正しいだろう。彼は思った。

 実際のところ、毒として効果があるのかどうかはお互いが死なないとはっきりしない。つまりラインハルトが死なない限り、ブランは死なないのだ。それはどうなるかは分からないし、お互いが死んでしまってからはお互いを視認することができないのだから、それについては考えようがない。

 ラインハルトは頭が悪い訳ではない。そもそもシンギュラリティドラグーンになるためには複数の試験をこなす必要があるし。その試験を受けるためには国立の大学を卒業する必要がある。ただ必要するだけではなく、成績優秀者じゃなくてはいけない。だからラインハルトには考える頭がある。その考える頭で考えた結果――。


「分かった。血を飲もう」

「……さっきの話を聞いてもなお、契約をする、と? だとすれば面白い話だ。人間とはかくも面白い生き物だと言えばいいだろうか」

「……バカにしているのか?」

「否。尊敬していると言ってもいいだろう。そんな無鉄砲で向こう見ずなやり方ができる知的生命体は人間ぐらいしか居ないだろうよ。人間は行動をし続ける。しかし人間は種を存続させるために行動しているかと思いきや、案外その種を滅ぼそうとしている節がある。儂は考えるのだよ。この世界でもっとも不幸な生命体は、実は人間ではないのか、と」

「……とっくに滅亡しかけている知的生命体のドラゴンがよくいうよ」


 ドラゴンは滅亡しかけている。

 このラインハルトの発言は間違っていない。ドラゴンの鱗に血は、ブラン自身が言ったとおり様々な効果を発揮するために、高値で買い取られることが多い。

 そのためドラゴンをハントするドラゴンハンターを生業にする人間も多くはなく、そのためにシンギュラリティを私有している人間も居るという。


(ま、軍が持つシンギュラリティは技術のほとんどを外に出さないから、ドラゴンハンターが持つのは完全なジャンク品。ただのロボットに過ぎないと聞いたけれど)

「できたぞ。……おー、痛い。やはり自分で鱗をひっぺはがすのは抵抗があるな」


 見ると、ブランの腹部にある鱗が一つ剥がれ、そこに傷ができていた。

 そこからぽたぽたと血が垂れて、地面に落ちている。

 血は人間と同じく赤い色をしており、少しどろどろしているように見える。


「……どうした? 早く飲まないのか。急がないとかさぶたを作るように鱗が再形成されるぞ。それは儂にも止められん。ドラゴンの生存本能がそうさせてしまうからな」

「あ、ああ。済まない」


 ラインハルトは躊躇していた。

 躊躇しないつもりで居たが、いざドラゴンの血を飲む――となるとそれが得体の知れないものを自分の体内に入れるということになるのだから、少しは恐怖心が出てもおかしくないのだろう。

 ただし、彼にはもう退路がなかった。

 彼にはもう選択肢はなかった。

 彼にはもう逃走経路は残されていなかった。

 ドラゴンの血を数滴手ですくい、それを思い切り飲み干した。

 血は甘く、どこかスイーツのような感覚に陥らせる。しかし、それはドラゴンの血であり、一説には長命の効果があるとも言われるそれを飲み干したということは、少なからず自分の寿命が延びたということにもなるのだろう。

 ラインハルトはあまりそういった伝承を信用していない人間だからか、ドラゴンの血を飲んだところで何か変わったような様子は見えなかった。

 しかし、契約はこれにて成立。

 ブランはラインハルトの様子を見て、溜息を一つ吐いた後、告げた。


「……これにて、契約が成立した。儂はお前の翼となり、お前は儂を操れば良い」

「お前、じゃない。ラインハルトだ、ブラン。名前をもう忘れたのか?」

「忘れてはおらんよ、ラインハルト。……契約はしたが、これからどうするつもりだ?」


 それを聞いてラインハルトは即決した。


「決まっている。シンギュラリティが壊れてしまったから、まずはブランに乗って自分の国へと帰る。それでシンギュラリティを新しく作って貰わなくてはなるまい。一応これでも軍人なのでね」

「軍人……か。帰るのはよした方がいいと思うがね」

「なぜだ?」

「いや……何か嫌な予感をしただけだ。ラインハルトがそうしたいなら、別に構わないよ」

「じゃあ、向かおう。テスラーへ」


 そうして、ラインハルトは改めてブランの背中に乗った。

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