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第99話

 ぐったりと観念した様子の妖怪しょうけらを英二たちが取り囲み何故覗きをしたのかと問い詰める。


 覗き妖怪しょうけらは今年の1月中頃にやってきて毎日ひっそりと覗いていたらしい、しかし3年生が卒業して尚且つ春休み前で短縮授業となり体育が少なくなって着替えも部活をする女子だけになると辛抱できなくなって大胆な方法に出たらしい。

 話しを聞いて、当初のように静かに覗いていれば捕まえることはできなかっただろうと小乃子たちがマジで安心する。


「と言うわけで…… 」


 説明を終えるとしょうけらが英二たちを見回す。


「私は女の子を覗きたかっただけで別に襲ったりとかするつもりはありません、無実ですので解放して下さい」

「無実じゃないからな、覗きも犯罪だからな」


 余りのバカバカしさに英二は怒る気も湧いてこない。

 何か思い付いたのか小乃子が含み笑いをしながら口を開く、


「でもさ、女に化ければ覗きなんてしなくても堂々と更衣室に入れたんじゃないのか? 」


 しょうけらが小乃子を見つめる。


「あっ!? その手があったか……あんた天才だな」

「褒められたよ、って言うか何百年も生きてきて覗きもずっとやってきて思い付かなかったのか? ハチマルも分からないくらいに完璧に化けられるのに」


 照れる小乃子の前でしょうけらが感心した様子で大きく頷いた。


「ハイ、思いも付きませんでした。どの角度から覗けば外から見えて部屋の中からは見られないのか、見つからないようにすることだけを考えてきましたから」


 マジ顔で話すしょうけらを囲んでいたハチマルとサンレイとガルルンが続けて呟く、


「バカじゃ、此奴本物のバカじゃぞ」

「完璧な変身能力を逃げることにしか使わなかったんだぞ」

「バカがお、覗く方法だけ考えて何百年も生きてきたがお」


 3人だけでなく英二たちも残念な人を見る目付きだ。



 哀れむ視線を感じてしょうけらが慌てて口を開く、


「私はバカではない、君たちは窓が何のために作られたのか知っているか? 」

「窓? 外を見るためがお、景色を見たりするがお」


 首を傾げるガルルンを見てしょうけらが小馬鹿にするように笑う、


「ふっ、やはりな、みんな窓を誤解している」

「誤解じゃと、どういう事じゃ? 」


 ハチマルが乗ってきたのを見てしょうけらが大きく頷いた。


「窓は外を見るためだけに作られたのではない、中を見せるために作られたのだ」

「中を見せる? 何言ってんだお前」


 怪訝な顔をするサンレイに構わずしょうけらが続ける。


「窓がなければ中が見えない、中がわからない、中で何をしているのか? どんな人が住んでいるのか? 何もわからない、だから窓を作ったのだ。窓から外へ見せているのだ。私は危害を加える人物ではありませんよとアピールして見せているのだ。窓がなければ疑心暗鬼が生まれるだろう、余計な争いを避けるために窓を作って中を見せているのだ」

「そうだったがお」


 納得した様子で頷いているのはガルルンだけだハチマルも英二たちもじとーっと怪訝な目で見つめている。


「お互いを監視するために作られたのが窓なのです。そうやって人々は互いを覗いて安心して暮らせるのです。窓は平和の象徴なのです。ですから私は窓から覗いていたのです。平和のためです。私は正義を愛する妖怪ですから」

「そうだったがお、だから覗いていたがおか」


 ガルルンを見つめてしょうけらが力説する。


「そうなのです。だから中を見せるために作られた窓から私が覗いてもそれは犯罪でも何でもないのです。私は中を確認するために見ていただけなのです。けっしてやましい気持ちなどは無いのです。ですから解放して下さい、私は無実です」

「そうだったがお、ガルはてっきりエロい覗き魔だと思っていたがお」


 信じ切った様子のガルルンに弱り顔の英二が声を掛ける。


「ガルちゃん騙されてるからね」


 そこへ犯人を捕まえたと報告しに行っていた委員長が戻ってくる。


「窓は覗かせるために作ったんじゃないからね、明かり取りや風通しを良くするために作ったのよ、家を長持ちさせるために付けられているのよ、乗り物は安全確認や景色を楽しむために付いているのよ」

「とんでもない理屈を付けて自身のした事を正当化しようとしておるぞ」


 顔を顰めるハチマルを見てしょうけらが慌てて続ける。


「ちっ、違います。私は決して不純な気持ちで覗いたのではありません」

「じゃあ何で覗いていたがお」


 不思議そうに訊くガルルンにしょうけらが向き直る。


「景色を楽しんでいたのです」

「景色じゃと? 部屋の中を覗いてか? 」


 ガルルンの横でハチマルが怪訝な顔で訊いた。


「窓から見える景色は美しい、君たちは外の風景だけに注目しているがそうじゃない、窓の中にも美しい景色はあるのだよ、窓の外の風景によって景色を感じるように私は窓の中の景色によって季節やわびさびを感じるのだよ、移りゆく季節、小さな緑が芽吹く春、新緑が映える夏、赤く燃える秋、雪化粧の冬、それは窓から見える外の景色だけでなく、窓の外から見る室内にもあるのだよ」

「室内の景色じゃと? 」


 しょうけらがハチマルに向き直る。


「そう室内の景色です。初々しい新入生が着替える春、スクール水着が映える夏、一夏の経験からか下着も少し派手になる秋、スカートの下に穿くジャージの冬、私は寒くともジャージなどを穿かないで生足を見せてくれる女の子が好きだなぁ~、君たちもそう思わないか? 」

「ヘンタイじゃねぇか! 」


 今にも殴り掛からんと拳を上げる秀輝にしょうけらが待てと手を伸ばす。


「違う、私は決して不純な思いで覗いているのではない、探究心から見ているのだ」

「探究心? 何のことだ」


 秀輝が拳を下げるのを見てしょうけらが続ける。


「草木が紅葉するように舞うカラフルなブラやパンティー、清純そうな娘が意外に派手なブラやパンツを着けているのを見つけると宝物を見つけたようにワクワクする。そう、私は探検家、窓の中に咲き乱れる下着を……まだ見ぬ下着を求めて探検しているのだ」


 力説するしょうけらを見て秀輝だけでなく英二たちの顔も引き攣っていく、


「時には草花の香りを楽しむようにブラやパンティーを手に取り、またある時は雪の中に倒れ込むように下着の山に倒れ込む、下着を掻き分け泳ぐこともある。春夏秋冬、窓の中に季節を感じるのだ。季節の中を探検しているのだ」


 顔を引き攣らせて委員長が呟く、


「見るだけじゃなくて触ってたのね」


 晴美がブルッと震える。


「私のも触ったりされたのかな……キモいよ」

「盗んでないだけマシって言いたいが……匂ったり倒れ込むとかヘンタイじゃねぇか」


 顔を強張らせる小乃子にしょうけらがニッコリと笑みを向ける。


「もちろんです。盗むなんて犯罪はしていません、冷たくなったブラやパンティーに興味はありませんから、脱ぎたての香りや温かみを堪能した後できちんと畳んでお返ししていますから安心してください」

「マジのヘンタイだ…… 」


 言葉を失う小乃子の横でサンレイがニヤリと悪い笑みだ。


「冷たくなってもレンジでチンすればいいぞ」


 しょうけらがポンッと手を叩く、


「レンジで……そんな方法が、流石は神様です。天才ですね」


 褒められてサンレイが調子に乗る。


「そだぞ、パンツだけにチンすればホカホカだぞ」

「旨く言ったつもりか! 下品だからね、サンレイは下ネタ多いよね」


 英二がサンレイの頬を摘まんで引っ張る。


「でゅひゅひゅひゅひゅ、止めろ、ほっぺ伸びるぞ」


 身を捩って喜ぶサンレイを見てハチマルが溜息をつく、


「盗む、盗まん、関係無しに犯罪じゃからな」


 しょうけらがキリッと顔を引き締めて向き直る。


「窓の中には人生の縮図があるのだ」

「人生の縮図じゃと、大きくでおったのぅ」


 ハチマルの正面で妖怪しょうけらがマジ顔で話を始める。


「そう人生の縮図……それはおっぱい、大きいおっぱいに小さいおっぱい、形の良いおっぱいに残念なおっぱい、陥没乳首にツンツン乳首、乳房も乳輪もそれぞれ百花繚乱、いろいろなおっぱいの縮図がそこにあるのだ」


 ハチマルの横で聞いていたガルルンが厭そうに顔を顰める。


「人生の縮図じゃないがお、ヘンタイの縮図がお」

「人生じゃなくておっぱいの縮図って自分から言ってんぞ」


 サンレイも軽蔑したジト目だ。


「覗き、それは一言で言って私の人生だ」


 しょうけらが拳を握って力説する。


「登山家は言う、山があるから登るのだと、私は言う、窓があるから覗くのだと、どんな危険を冒しても山を登る登山家と同じように私もどんな危険を冒しても覗くのだ」

「お前の言う危険は逮捕されることだけだぞ」

「一緒にされた登山家が迷惑がお」


 サンレイとガルルン以外は既に何も言う気も無くなって軽蔑の眼差しで見ている。

 しょうけらがキリッとしたマジ顔から表情を緩める。


「じゃあこうしましょう、覗きはスポーツと言うことで」

「何処からスポーツが出てくるがお」

「お前と話ししてるとおらまでバカになりそうだぞ」


 2人を無視するかのようにしょうけらが続ける。


「体育を終えて清々しい青春の汗を流した女子を覗くんですよ、スポーツに決まってるじゃありませんか」

「汗を流してるのは女子でお前じゃないがお」


 ガルルンが一人で突っ込む、サンレイも呆れて話すのを止めた様子だ。


「確かに……私は汗は流しませんがブラやパンツを見て涎はもちろん色々な汁を流しているのでスポーツです。股間から清々しい汁が流れっぱなしです」

「清々しいって…… 」


 引きまくる英二たちにしょうけらが手を振った。


「じゃあ、そういう訳ですので私はこれで…… 」


 にこやかに笑いながら去ろうとしたしょうけらの首根っこをハチマルが掴んだ。


「何が『じゃあ』じゃ、ヘンタイ談義をやりたいだけやってさらりと帰ろうとするな」


 サンレイとガルルンがハッと正気に戻る。


「おおぅ、余りのバカさにおら動けなかったぞ」

「ガルもがお、思わず帰りを見送るところだったがお」


 2人の後ろで聞いていた委員長が口を開く、


「それでどうするの? 高野の命を狙ってるわけじゃないし…… 」

「だな、只の覗き魔だぜ」


 同意するように頷く秀輝の横で宗哉が続ける。


「かと言って妖怪を警察に突き出すわけにもいかないよね」


 サンレイがニヘッと厭な笑みを湛えて英二を見つめる。


「ヘンタイはヘンタイに任せるぞ」

「ちょっ、何言ってんだよ、俺はヘンタイじゃないからな」


 否定する英二の肩をハチマルがポンと叩く、


「そうじゃな、任せたぞ英二」


 英二が顔の前でブンブンと手を振る。


「いやいやいや、俺にどうしろって言うんだよ」


 首根っこを掴んだままハチマルが妖怪しょうけらを英二の前に突き出した。


「儂やサンレイが仕置きする程でもなかろう」

「学校では二度と覗かないって約束させるんだぞ、あとは男同士で決めろ、ヘンタイ同士で話し合うんだぞ」


 ニタリと笑うサンレイを見て英二がガクッと項垂れる。


「俺はヘンタイじゃないからな」

「まぁまぁ英二くん、僕も手伝うからさ」

「だな、妖怪と言っても男同士だ。話し合えば分かってくれるぜ」


 宗哉と秀輝に促されて英二は渋々しょうけらを説得することにした。



 英二と秀輝と宗哉が切切と説得する。

 おっぱい星人の英二と秀輝とは話が合ったのか妖怪しょうけらも逃げる素振りも見せずに話しを聞いてくれた。

 思春期で心に影響が出る中高の学校を覗くのは止めると約束させてしょうけらを解放する事になった。

 大学や社会人は構わない、覗くために生まれた妖怪だ。覗きそのものを止めると存在意義が無くなって消滅してしまうのだ。


「皆さんお世話になりました。覗きテクニックに磨きを掛けて見つからないように生きていきます。ありがとうございました」


 深々と頭を下げるしょうけらに英二が念を押すように声を掛ける。


「小学校と中学校と高校の覗きは禁止だからな、男同士の約束だからな」

「ハイ、同じおっぱいを愛する者同士で交わした約束は守ります。学校での覗きはしません、大学は別ですが……あとはプールや浴場などの覗きは今まで通り致しますよ」

「まぁ、それくらいは仕方ないな」


 ハッキリと覗き宣言する相手に英二が何とも言えない表情でこたえた。


「ではこれで失礼します」


 妖怪しょうけらは会釈をすると塀に溶けるように消えていった。


「もう妖気消えたぞ、おらじゃ完全に分からないぞ」

「匂いも消えたがお、弱いけど凄い妖怪がお」


 ガルルンを見てサンレイが頷いた。


「ほんとだぞ、次に会ったら物凄い覗き魔になってる気がするぞ」

「ガルでも見分け付かなくなってたら捕まえられないがお」

「じゃがガルルンにも分からんくらいのテクニックなら覗かれておることもわからんじゃろう、それなら覗かれていないのと同じじゃ」


 ハチマルとサンレイとガルルン、3人の後ろで英二たちも並ぶと妖怪しょうけらの消えていった塀を暫く見つめていた。

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