第97話
短縮授業なので昼で終わる。放課後、英二たちが教室に残っていた。
「昨日から話してくれればサーシャとララミに可愛い着替えを用意したのに」
責めるように宗哉に言われて英二が慌てて言い訳をする。
「宗哉は色々忙しいだろ? 大した妖怪じゃないみたいだし今日話しすればいいかなって、それにサーシャやララミに着替えの囮なんてさせたくないしさ」
「そう怒るな宗哉、今回の作戦は女だけじゃからの、じゃがサーシャとララミのことはうっかり忘れておったぞ」
ハチマルがフォローしてくれて宗哉の機嫌はどうにか治った。
晴美がジャージの入った袋を見せる。
「私はガルちゃんに連絡貰ったから体操服持ってきたよ」
「篠崎さんまで巻き込んでごめんね」
申し訳なさそうな英二の横で秀輝が口を開く、
「だな、サーシャやララミに篠崎には汚れ仕事させる訳にはいかないよな」
近くで聞いていた委員長がキッと怖い顔で2人を睨む、
「私と小乃子は汚れ仕事してもいいって言うの? 」
「ほぉ、あたしたちの事をそういう風に見てたんだな」
小乃子の冷たい視線に英二が余計なこと言うなというように秀輝を肘で突っついた。
「ガルは汚れてないがお、ちゃんと風呂入ってるがお」
「一寸意味が違うよガルちゃん」
ボケるガルルンの横で晴美が苦笑いだ。
英二がバッと拝むように手を合わせる。
「ごめん、謝るから許してくれ」
「俺も悪かった。謝るからさ」
隣で秀輝も委員長に手を合わせて謝った。
机の上に座っていたサンレイが英二の頭をポンポン叩く、
「汚れ仕事じゃないぞ、覗き魔の囮になれるような美人ばかり集めたんだぞ」
「まぁなんじゃ、ざっと見てこれだけのメンバーじゃ、覗き魔も放っては置かんじゃろ」
ハチマルがその場を収めるとサンレイが鞄を手に持った。
「んじゃ、着替え囮作戦スタートだぞ」
「晴美はガルが守ってやるから心配いらないがお」
「うん、ガルちゃんが居るから平気だよ」
ガルルンと手を繋いで晴美が嬉しそうにこたえた。
宗哉がサーシャとララミに命じる。
「サーシャとララミは委員長と久地木さんを守ってくれ」
「了解しましたデス」
「お任せ下さい、御主人様」
サーシャとララミの横でハチマルが宗哉を見つめて頷く、
「そうじゃな、ガルルンとサーシャとララミに委員長たちの守りを任せて儂とサンレイで犯人を捕まえるのじゃ」
「何かあったら連絡してくれよ」
不安気な英二をちらっと見ると秀輝が手持ち無沙汰で椅子に座る。
「今回男は出番無しだぜ」
「そうだね、男の着替えは覗かれないからね」
楽しそうに微笑むと宗哉は何かの書類を出して近くの席に座った。
目を通しておかなければいけない書類だろう、佐伯重工の御曹司で高校生でありながらそれなりの役職に就いている宗哉は忙しいのだ。
ハチマルが英二たちに向き直る。
「くれぐれも気を付けるんじゃぞ、英二が狙いかもしれんからな」
「任せてくれ、ハチマルやガルちゃんが来るまでは持ち堪えてみせるからさ」
サンレイがプクッと膨れて英二を睨む、
「おらの名前が入ってないぞ」
「うん、サンレイは待つまでもなく瞬間移動で来てくれるだろ、だから持ち堪える必要も無い、信頼してるからさ」
サンレイの顔がパーッと明るくなる。
「にゅひひひひっ、そんなにおらのことを信頼してるのか? にゅふふふふっ、仕方ないなぁ英二は、おらが付いてないとダメだからな、なぁなぁ英二ぃ~~、終わったらアイス食べに行くぞ」
英二の腕をバンバン叩きながらサンレイが大喜びだ。
「痛いから……そうだな、みんなで何か食べに行くか」
腕を摩りながら言う英二を見て座っていた宗哉が口を開く、
「僕に任せてくれ、車用意するからみんなでレストランへ行こう」
「やったぁ~~、パフェ食い放題だぞ」
「わふふ~~ん、ガルはグラタンとパフェを食べるがお」
両手を上げて喜ぶ2人を見て英二は複雑な表情だ。
月2回レストランで奢って貰う約束をしているが3月は春休みがあるので早めに済ませてとっくに2回終わっている。
「やる気出てきた。御褒美あると違うよな」
「まったくあんたは……まぁお昼抜きだし今日は私も賛成だわ」
「えへへ、そうだよね、考えたらお昼御飯食べてないよ」
小乃子と委員長と晴美も嬉しそうだ。
「みんなダメだよ、俺たちと違って宗哉は忙しいんだぞ」
複雑な表情の英二を宗哉が覗き込む、
「お昼御飯の代わりだよ、僕も食べるついでさ、いいよね英二くん」
「宗哉がいいなら…… 」
此処で反対しても仕方がないと英二が折れた。
「んじゃ行ってくるぞ」
サンレイを先頭に女子たちが教室を出て行った。
ハチマルたちが囮となって女子更衣室で着替えて覗き妖怪を捕まえる作戦だ。
そのために昨日連絡して委員長や小乃子に晴美が体操服を持ってきたのだ。
何かと忙しい宗哉には今朝話をした。サーシャとララミが加わってくれて、サンレイとハチマルとガルルンに委員長たち可愛いタイプから美人まで総勢8人の女子が着替えることになる。
英二の霊力を狙っている可能性もあるので男は教室で待機だ。と言うか英二と秀輝に化けるヤツが相手だ。間違えを防ぐためにも連絡あるまで教室で待機という事になった。
女子バレー部の更衣室にサンレイたちがいた。本物の部員たちは余所の教室を使って着替えている。
スカートを脱ぎながらガルルンがハチマルに声を掛ける。
「ガルはバレーよりテニスの方がいいがお」
「順番じゃ、昨日もその前も女子バレー部の更衣室が一番始めに覗かれておる」
「セオリー通りなら今日もバレー部から現われるって事ね、ガルちゃん…… 」
ハチマルの横で着替えていた委員長がガルルンを見て固まった。
委員長の向こうで小乃子がじとーっとした目でガルルンを見つめる。
「なんでパンツまで脱いでんだ? 」
「そうだったがお、お風呂じゃなかったがお」
納得するように頷いているガルルンは全裸だ。
隣で着替えていた晴美が慌てて注意する。
「ガルちゃん下着まで脱がなくていいからね、着替える振りだけだからね」
入り口に一番近い場所で着替えていたサンレイが割り込んでくる。
「まったく、ガルルンはバカ犬だぞ」
バカにするサンレイも全裸になっていた。
「サンレイもまっぱだからな」
ジト目で見ていてる小乃子にサンレイが大袈裟に驚いてこたえる。
「おおぅ、いつの間に……おらを脱がせるなんて恐ろしい敵だぞ」
「まだ何も現われておらんじゃろ、バカやってないでお主は入り口をしっかり見張っておるんじゃぞ」
呆れるハチマルの胸で大きな生おっぱいが揺れていた。
「ハチマルも何で上脱いでるのよ、ブラは外さなくてもいいでしょ」
委員長に注意されてハチマルが自分の胸を見る。
「そうじゃった。サンレイを見ておったらついブラを外しておった」
サンレイがひょいっと首を伸ばしてハチマルの爆乳をガン見している。
「ハチマルはおっぱいも大妖怪クラスだぞ、委員長も人離れした巨乳だぞ、小乃子と晴美ちゃんも結構立派だぞ、ガルルンは犬臭いくせに大きいし…… 」
サンレイがハチマルたちを見回す。
「おらだけ……おらだけペッタンコ………… 」
自身のペッタンコの胸を手で摩る。
「おらだけペッタンコ……ぺったん、ぺったん、ペッタンコ……乳臭くて犬臭いガルルンにも負けてるぞ、犬臭くても大きい方がいいに決まってるぞ」
拗ねるサンレイに晴美が優しい声を掛ける。
「仕方ないよ、サンレイちゃんは幼いんだから」
慰める晴美の横でガルルンが鼻を鳴らす。
「がふふん、サンレイはガルより小さいからおっぱいも小さくて当り前がお、ガルみたいにできる女になればおっぱいも大きくなるがお」
「できる女……おっぱいで色々できる女の事だぞ、他では全て勝ってるけど犬臭さとおっぱいだけはガルルンにも負けてるぞ」
がくりと落ち込むサンレイの頭を委員長がポンポン叩く、
「変な事言ってないで早く服を着なさい」
サンレイが委員長の腕に縋り付く、
「おらもおっきくなって委員長みたいにバルンバルンさせて英二を虜にしたいぞ」
ムッとしながら委員長がサンレイを振り解いた。
「バルンバルンなんてしません、サンレイは変な事ばかり言わないの」
サンレイが恨めしそうに委員長を見上げる。
「委員長はその巨乳で秀輝を虜にしたんだぞ、柔らかいおっぱいで包み込まれて秀輝は骨抜きだぞ、もう委員長のおっぱいなしでは生きられない体になってるぞ」
委員長が真っ赤な顔をして慌てて口を開く、
「そんなヘンタイみたいなことはしてませんからね、だいたい伊東とは付き合ったりしてないからね、まぁ他の男よりは認めてるけど」
隣で着替えていた小乃子が大笑いする。
「あはははっ、サンレイが妬くのも分かるよな、ハチマルも菜子も凄いからな」
ガルルンの横で着替えていた晴美もハチマルの生爆乳をガン見だ。
「うん、正直言って女でも触りたくなるよね」
手を閉じたり開いたりワキワキさせて小乃子が頷く、
「篠崎もそう思うか? だよな」
小乃子が委員長のおっぱいをむんずと掴む、
「どれどれ、ヤバいよ、柔らかすぎだ。また大きくなっただろ? 」
「ちょっ、止めて……止めなさいよ、もうっ…… 」
嫌がる委員長に構わず小乃子がモミモミ揉みしだく、
「お客さん、おっぱい凝ってますよ」
「ちょっ……もう、揉むな、揉むなって言ってるでしょ、おっぱいが凝るか! 」
本気で怒る委員長から手を離すと小乃子がハチマルを見つめた。
「菜子であれだとハチマルはどうなんだ? 手の平どころか頭全部埋まりそうだぞ」
物欲しそうな小乃子を見てハチマルが胸を突き出した。
「別に触っても構わんぞ」
「んじゃマジで触るぞ」
触るどころか小乃子はハチマルの生おっぱいに顔を埋める。
「柔らかぁ~~、こりゃ男が喜ぶわけだ」
「これこれ、擽ったいじゃろ、誰が頭を埋めてよいといった」
バフッと顔を離すと小乃子が両手でおっぱいを持ち上げる。
「凄いなぁ~、菜子のもデカいけど更にデカいもんな、片方だけでも2リットルのペットボトルよりも重いぜ」
両手でおっぱいを触っている小乃子の両脇で委員長と晴美も興味津々だ。
「私も触っていい? 」
上目遣いに見つめる晴美にハチマルが頷いた。
「構わんぞ、好きでもない男に邪な気持ちで触られるのは厭じゃが小乃子や晴美なら別に構わん」
晴美がハチマルのおっぱいに手を伸ばす。
「うわぁ~、柔らかい、でも本当に重いねぇ~~ 」
感嘆の声を上げる晴美の反対側から委員長が手を伸ばしておっぱいを下から持ち上げる。
「この歳で肩凝りなんだから私より二回りも大きいんじゃ大変だわ」
「今のところ肩凝りにはなっておらん、運動もしておるしの」
もういいだろうと言うようにハチマルがブラジャーを付けた。
パンツを穿きながらガルルンが口を開く、
「ハチマルはおっぱいの神様がお、触るとおっぱいよく出るようになるがお」
「出るか! 誰がおっぱいの神じゃ、儂は山神じゃ、今はパソコンの神じゃぞ」
「あはははっ、言われても仕方ないよな、実際凄いからな」
怒るハチマルの横で小乃子が大笑いだ。
楽しそうな様子をサンレイがじとーっと見ていた。
「おっぱい……おらのじゃ手の平どころか小指1本埋まらないぞ」
両脇から押さえるが胸の谷間すらできない幼児体型だ。
サンレイが恨めしげな暗い顔でハチマルや委員長だけでなく小乃子や晴美にガルルンまで睨み付ける。
「ぺったん、ぺったん、ペッタンコ、おらのおっぱいペッタンコ♪、お餅がつけそなペッタンコ、ぺったん、ぺったん、ペッタンコ、おらのおっぱいペッタンコ♪、胸と背中がわからない、ツルツル、ツルツル、ペッタンコ、ブラも素通り落ちていく」
直ぐ隣で着替えていたガルルンが振り返る。
「サンレイが壊れたがお、変な歌歌い出したがお、ペッタンコの歌がお」
ガルルンの横で晴美が困り顔でサンレイを宥める。
「大丈夫だよサンレイちゃん、サンレイちゃんは小さいんだから仕方ないよ」
「そうよ、本当はナイスバディなんでしょ? だったらいいじゃない」
弱り顔の委員長の横で小乃子が楽しそうに続ける。
「気にするな、世の中にはペッタンコが良いって男も沢山居るよ」
ガルルンが小乃子を見つめる。
「小さくてペッタンコが好きな男……只のロリがお」
「そうだよ、ララミさんみたいなロリタイプのメイロイドを作るくらいだから需要はあるんだよ」
晴美が追従して言った。
フォローしているつもりだろうがロリ需要しかないと駄目押ししているだけである。
「メイロイド…… 」
一番奥で黙って着替えていたララミとサーシャの元へサンレイが歩いて行く、
「ロボットのサーシャもデカいのに……ララミは小さいけどおっぱいあるぞ、おらはおっぱい自体無いんだぞ」
「いいから服着なさい」
弱り顔で叱る委員長にお構いなしでサンレイがサーシャのおっぱいをむんずと掴む、
「いいなぁ~、サーシャはいいなぁ~~、偽乳でもデカいのはいいぞ」
羨ましがるサンレイをサーシャが口元に笑みを湛えながら見下ろす。
「胸デスか? 私たちは規格品として作られてますデスから」
サーシャもララミもサンレイの事は宗哉に並ぶ御主人様と認識しているので何をされても拒否をすることはない。
「私はロリタイプですがボディ交換で大きな胸に換えることもできますよ」
ララミの言葉にサンレイがハッと顔を上げる。
「おらもボディ交換して貰うぞ、宗哉に頼んで巨乳の体を作って貰うぞ」
サンレイの着替えの体操服を持って委員長がやって来る。
「バカな事言わないの、ロボットじゃ無いんだから交換なんて無理でしょ、それより早く服を着なさい」
「神にできないことはないぞ、機械の体を貰いに行くんだぞ……巨乳を貰いに……宗哉の家に」
口を尖らせるサンレイの頭をハチマルがポンポン叩く、
「交換できたとして英二は喜ばんぞ、本物のおっぱい星人じゃからな、デカい偽乳より天然の小さい方をとる男じゃぞ」
ハッとした顔でサンレイが口を開く、
「そだぞ、英二はマジのおっぱい星人だぞ」
小乃子がうんうん頷いた。
「そうだったな……あのヘンタイおっぱい好きだからな」
ガルルンがニヤッと笑う、
「大事に隠してたエロ本も巨乳ばかりだったがお」
「あれは凄かったな、英二の好みがモロバレだ」
楽しそうに話す小乃子の横で晴美と委員長が真っ赤になっていた。
女子会と称して英二の部屋で遊んでいる時に隠してあったエッチな本をみんなで見たのだ。
「サンレイちゃんは早く服を着なさい」
頬を赤くした委員長がサンレイにパンツを手渡す。
「おっぱいのことしか考えてない英二におらの魅力を分からせるにはどうしたらいいか考えるぞ」
パンツを穿きながらサンレイが考えるように首を傾げる。
「安心せい、英二はマジモンのヘンタイじゃ、小さいのから大きいのまで何でもいける口じゃぞ、じゃからサンレイも大丈夫じゃ」
ハチマルの向かいでサンレイがペッタンコの胸に手を当てる。
「小さいにも程があるぞ、これが好きって言うならマジのヘンタイだぞ」
「あはははっ、んじゃ英二はマジのヘンタイだ」
声を出して笑う小乃子にガルルンが続ける。
「ヘンタイでもいいがお、英二は優しいがお」
「ヘンタイ紳士ってヤツだぞ」
納得した顔をして頷くとサンレイが体操服を着始めた。
傍で見ていた晴美と委員長が顔を見合わせる。
「高野くん無茶苦茶言われてるね」
「かわいそうだけどハチマルが言うんじゃ仕方ないわね」
苦笑いしながら頷く委員長の目の端に窓が見えた。
その窓を黒い影が横切る。
「 ?? 」
叫ぼうとした委員長の口をハチマルが手で塞ぐ、
「サンレイ! 」
「わかってんぞ、着替え終わったしな」
ハチマルとサンレイも気付いた様子だ。
委員長が分かったと言うように口を塞ぐハチマルの腕を叩く、
「早く着替えてバレーしましょう」
委員長の言葉を聞いて小乃子と晴美の動きが止まった。
早く着替えてバレーするというのは覗き妖怪が現われたという合図だ。
「バレーボールするがお? みんなで遊ぶがお」
合図のことをすっかり忘れているガルルンに晴美が耳打ちする。
「そうだったがお……ガルは匂いを記憶する役目がお」
鼻をヒクヒクさせるガルルンを見て晴美が一安心だ。
窓の外を黒い影がまた横切る。
「そうじゃな、サンレイ先に行ってバレーの用意をしてくれんか」
ハチマルが言うとサンレイがバチッと雷光を残して姿を消した。
委員長と小乃子が窓の両脇に静かに近付いていく、ガルルンと晴美は態と見えるように窓の正面で体操服を脱いで下着姿になった。
窓に黒い影が立った。下着姿で談笑しているガルルンと晴美を覗いているのが分かる。
「今じゃ! 」
ハチマルの合図で委員長と小乃子が窓を開く、同時にハチマルがバッと窓に近付いた。
「おわっ!? 」
驚きの声を上げたのは英二だ。
窓の外に英二が立っていた。
「高野くん? 」
「英二てめぇ! 」
繭を顰める委員長の反対側で小乃子が怒鳴った。
「やべぇ! 」
「逃がさんぞ」
慌てて逃げ出す英二を追ってハチマルが窓から飛び出す。
「ふははっ、捕まって堪るか」
人間離れした速度で走る英二の前にバチッと雷光をあげてサンレイが現われた。
「捕まえたぞ」
「そのまま電気で気絶させるのじゃ」
英二の肩をサンレイが掴んだ。直ぐ後ろからハチマルが風と共にやってくる。
英二がサッと空を指差す。
「UFOだ! UFOが飛んでるよ」
「どこだUFO」
空を見上げたサンレイの腕を振り払うと英二は学校を囲む塀に向かって逃げていく、その後ろでハチマルも空を見ていた。
「しまった」
直ぐに気付くとハチマルが大声を出す。
「何をやっておるサンレイ」
我に返ったサンレイの目の前で英二が塀を突き抜けていった。
サンレイがバチッと雷光を纏う、
「くそっ、逃がすか」
「無駄じゃ、もう何の気配もせん」
追い掛けようとしたサンレイをハチマルが止めた。
「壁を突き抜けていった様子から妖怪であるのは間違いない、じゃが妖気を感じたか? 」
ハチマルの向かいでサンレイの体に纏わり付いていた雷光が消えていく、
「全然感じなかったぞ、でも英二の気配でもなかったぞ、何て言うか人間と野生動物の間の気配って感じだったぞ」
「うむ、儂も同じじゃ、やはり完全に妖気を消せるという事じゃな」
頷くハチマルをサンレイが見上げる。
「んじゃ、見失ったらおらじゃ見つけられないぞ」
「そういう事じゃ、儂でも100メートルも離れれば見失うじゃろ、現に先程の一瞬で分からんようになったからの」
「んじゃ、どうすんだ? 」
ふて腐れたように訊くサンレイの向かいでハチマルが続ける。
「ガルルンの鼻が頼りじゃな、それとお主の雷探でどうにかなるじゃろ」
「雷探か……ガルルンの鼻とおらの雷探で探して雷網で捕まえてやるぞ」
そこへ委員長たちがやって来る。
「逃げられたの? 」
「うむ、思った以上にすばしっこくてな、化けるだけでなく壁抜けや姿を消すこともできるようじゃ」
渋い表情のハチマルの横でサンレイがプクッと頬を膨らませる。
「UFOとか言って騙したぞ」
「騙されたんだ…… 」
何とも言えない表情の委員長の後ろで晴美が口を開く、
「本物の高野くんみたいだったよね」
「ああ、あれじゃ疑われるのも仕方ないな」
「声はおっさんみたいに嗄れてたけどね」
同意する小乃子の横で委員長が苦笑いだ。
ハチマルがガルルンを見つめた。
「次で捕まえれば良かろう、できるなガルルン」
「がふふん、ガルに任せるがお、匂いは覚えたがお、姿を消しても分かるがお」
得意気に鼻を鳴らしてガルルンがこたえた。