第96話
授業が終わり帰路につく、春休み前の短縮授業だ。バイトは昼から入れてある。
学校から少し離れた道でサンレイたちと別れる。
「じゃあバイト行って来るからな」
「アイス頼んだぞ、チョコバリとカリカリくんの新しい味のヤツだぞ」
英二と秀輝に向かってサンレイが元気に手を振った。
「了解だ。ハチマルは抹茶とバニラか何かのアイスでいいよね、ガルちゃんにはチーカマとチキンか何か買ってくるからね」
「わふふ~~ん、楽しみに待ってるがお」
「いつも済まんのぅ、アイスだけは遠慮無しじゃ」
サンレイと違ってガルルンとハチマルは喜んでくれたり遠慮したりして奢り甲斐がある。
「修業の礼だと思って遠慮なく受け取ってくれ、今晩も修業頼むよ」
ハチマルが戻ってきてから毎晩一時間ほど霊力を使う修業をつけて貰っていた。
基本はサンレイとガルルンに習っていたので今行っている修行は応用だ。
英二の隣で秀輝が手を上げて挨拶する。
「サンレイちゃん、ガルちゃん、ハチマルちゃん、また明日な、篠崎も委員長もまたな」
「おぅ、またな秀輝」
「秀輝バイバイがお」
「大変じゃろうがアルバイト頑張るんじゃぞ」
英二と別れてサンレイたちが歩いて行く、学校からバイトに直接行く場合、今までは小乃子や委員長に2人を家まで送って貰ったのだが今はハチマルが居るので安心だ。
少し歩いた所で晴美と別れる。晴美の家は学校から見て反対方向にあるのだがガルルンと一緒に帰りたくて少し遠回りの道を使っているのだ。
「ガルちゃんまた明日ね、サンレイちゃん、ハチマルさん、久地木さんと委員長もまた明日ね」
「おぅ、晴美ちゃんまた明日な」
「晴美バイバイがお、家に着いたら連絡するがお、ゲームするがう」
元気に手を振るサンレイの横でガルルンがスマホを取り出して見せる。
「うん、今日は負けないからね」
ガルルンは晴美とスマホのゲームをするのが日課となっていた。
「篠崎さんさようなら、気を付けて帰ってね」
「じゃな、篠崎」
委員長と小乃子はいつもの挨拶だ。
家の近くの大きな道路で小乃子と委員長と別れる。
大きな道路を隔てた向こうが英二と秀輝の家だ。
委員長と小乃子に手を振っていた笑みから一転してハチマルがマジ顔に変わる。
「英二と秀輝は油断しておるようじゃ、少し気を引き締めさせんといかんの」
「確かにな、妖怪に命を狙われてるってのに呑気だぞ」
先頭を歩いていたサンレイが呟くように言った。
隣を歩くガルルンがハチマルを見つめる。
「ハチマルが来たから安心してるがお、油断はしてないけどガルも安心がう」
先を歩いていたサンレイがくるっと振り向く、
「調子に乗ってるだけだぞ、ハチマルにいいところを見せたいんだぞ」
前に向き直るとサンレイは英二の家に駆け出した。
「早く帰って時代劇の再放送見ながらアイス食うぞ」
「そうがお、授業昼までだったがう、ガルもチーカマ食べながら鬼平見るがお」
走り出そうとしたガルルンがハチマルに向き直る。
「油断じゃないがお、英二頑張ったがお、爆発の修業も、秀輝と一緒に体を鍛えるのも、強くなったのをハチマルに認めて貰いたいがお」
「それならいいんじゃが……過信しておると命取りじゃぞ」
ガルルンと並んでハチマルも走り出す。
「その為におらが付いてるぞ、英二はおらが守るぞ」
先を走りながらサンレイが言うと隣を走るガルルンも笑顔で続ける。
「ガルも守るがお、久し振りにできた人間の友達がう」
「そうじゃな、儂らが英二を導いてやらねばな」
優しい顔で微笑むとハチマルが本気で走り出す。
「アイスやチーカマは後じゃぞ、先にお昼御飯じゃ、鬼平を見ながら飯を食うのじゃ」
あっと言う間にサンレイを追い抜いてハチマルが玄関へと入っていく、
「1番はおらだぞ」
サンレイがバチッと姿を消した。
「がわわ~~ん、ガルが最後がお、サンレイとハチマルは速すぎるがお」
嘆きながらガルルンが玄関から入っていった。
学校では事件が起きていた。また覗きが現われたのだ。
昨日と違い警戒していたこともあって部活をしていた女子たちは犯人を見ていた。
夕方、電話が鳴って母が出て直ぐにハチマルに代わる。
「なんじゃと……わかった。じゃが英二と秀輝は犯人ではないぞ、アリバイがある。2人ともアルバイトじゃ、今日は学校が終わって昼からずっとバイトじゃ、確認すれば直ぐに無実じゃと分かるじゃろう」
ハチマルが受話器を置くとガルルンが何事かと訊いてくる。
「英二がどうしたがお? アリバイとか犯人とか言ってたがお」
2階でサンレイとゲームをしていたのだが耳の良いガルルンには聞こえていたのだろう、
「また覗きが現われたのじゃ、女子バレーとテニス部の連中が犯人を見たらしい、それが英二と秀輝にそっくりじゃったらしい」
ガルルンの後ろでお菓子の袋を手に持って食べていたサンレイが怒り声を出す。
「んだ? 誰がそんな出鱈目言ってんだ。おらがぶん殴ってやるぞ」
「小岩井先生からの電話じゃぞ、警察も動いておる」
サンレイの顔から怒りがスッと消えた。
「恭子ちゃんか……仕方ないなぁ」
「恭子ちゃん先生からがお、英二どうなるがう? 逮捕されるがお」
不安気に訊くガルルンの頭をハチマルが撫でる。
「大丈夫じゃ、英二も秀輝もアルバイトじゃ、コンビニなら防犯カメラも記録しておる。じゃから2人の疑いは直ぐに晴れよう」
「よかったがお」
パッと顔を上げるガルルンの後ろでサンレイが袋に手を突っ込んでお菓子を食べ始める。
「今日がバイトの日で助かったぞ、休みだとアリバイを証明するのに面倒になってたぞ」
食べながら話すサンレイの向かいでハチマルが頷いた。
「うむ、サンレイの言う通りじゃ、儂らだけの証言では厄介なことになっておったかも知れん、昼からバイトを入れておいたのも偶然じゃし運が良かったのじゃ」
「それでどうするがお? 」
ハチマルの代わりにサンレイがこたえる。
「捕まえるに決まってるぞ、ぶん殴ってやるぞ」
「そうじゃな、無駄じゃと思うが学校へ行って調べてみるか」
「んじゃおらが運んでやるぞ」
ハチマルとガルルン、2人と手を繋ぐとサンレイがバチッと消えた。
夕食前にハチマルとガルルンを連れてサンレイがバチッと帰ってきた。
「あれだけ調べても妖気の気の字も無かったぞ、腹減っただけだぞ」
「匂いもがお、人間の匂いだけがう、その内の一つが『しょうけら』だとしても特定できないがお、一度でもガルが見て匂いを覚えたら追い詰めてやれるがお」
愚痴る2人をハチマルが宥める。
「そう言うな、逃げ回ったルートからして彼奴が学校をねぐらにしておるのは確かじゃ、英二と秀輝の疑いも直ぐに晴れたようじゃし今日はここまででよかろう」
学校を調べて回っている時に英二から疑いが晴れたから心配無いと電話があったのだ。
「そだな、腹減ったぞ、御飯食べるぞ」
「今日の御飯は天麩羅がお、油は危ないからって今日はお手伝いしてないがお」
「儂は手伝うつもりじゃったんじゃがの、洗い物でもするとしよう」
3人仲良く家に入っていった。
夜の10時過ぎに秀輝を連れて英二がバイトから帰ってきた。
「お帰りがお」
足音と匂いで分かるガルルンがいつものように玄関で出迎える。
「ただいまガルちゃん、ハチマルもね」
「2人とも大変じゃったのぅ」
ガルルンの後ろに立っているハチマルを見て秀輝が嬉しそうな笑顔になった。
「アイスとシュークリーム買ってきたぜ、厭なことあってもガルちゃんやハチマルちゃんの顔を見ると疲れも吹っ飛ぶぜ」
秀輝をちらっと見て英二が続ける。
「対策を話し合おうと思ってさ、秀輝も連れてきた」
「丁度良い、儂も作戦を考えたいと思っておったところじゃ」
にこやかなハチマルから視線を外して英二が階段や廊下を見る。
「サンレイは? 」
「ここに居るぞ、清ちゃんのお酒の相手してたぞ」
スルメをモチャモチャ食べながらサンレイがリビングから出てきた。
「怒る気も出てこないよ」
溜息をついて英二が続ける。
「酷い目に遭ったよ、警察が来てさ……精神的に疲れたよな」
疲れた様子で英二がアイスとシュークリームの入ったコンビニ袋をサンレイに渡す。
隣で秀輝がチーカマとチキンが入った袋をガルルンに渡しながら続ける。
「コンビニの防犯カメラに俺たちが仕事してるのしっかり映ってたから直ぐに疑いは晴れたけどな、20分程色々聞かれて疲れたぜ」
「小岩井先生にも迷惑掛けたからな」
英二が靴を脱いで秀輝にも上がれと促した。
「おじゃましまぁ~す」
靴を脱ぎながら秀輝が続ける。
「俺たちに化けるなんて許せないぜ、絶対に捕まえてやろうぜ」
犯人を捕まえるつもりで秀輝を連れてハチマルに相談に来たのだ。
「小岩井先生から電話で聞いておる。覗くだけならともかくお主らに化けるなどはやり過ぎじゃ、少し懲らしめてやらんとな」
「シュークリームでも食いながら話そう、アイスの他に買ってきたからさ」
英二がサンレイに向き直る。
「アイス冷蔵庫に入れてシュークリーム持ってきてくれ、みんなの分あるから、母さんと父さんは明日にでも食べるだろうから冷蔵庫に入れといてくれ」
「清ちゃんの分はおらが貰うぞ」
サンレイがニタリと笑うと台所へと入っていった。
普段なら叱るのだが今日はそれどころではない、英二と秀輝とハチマルが2階へと上がっていく、
「コーヒーでも作るがお」
ガルルンが気を利かせてくれた。
翌日、英二たちは普段より早く登校した。
「ハチマルさん、よろしくお願いします」
「サンレイちゃんとガルちゃんも頼りにしてるからね」
「高野くんと伊東くんを疑ってごめんね」
「でも吃驚したなぁ~、まさか妖怪が犯人なんて…… 」
女子バレー部と女子テニス部のキャプテンに顧問の先生が職員室を出て行くサンレイとハチマルとガルルンに頭を下げた。
「任せておけ、儂らが必ず捕まえてやる」
「謝らなくていいぞ、英二に覗きする度胸があれば褒めてやるぞ」
「4月からガルも2年がお、先輩がう、学校で悪さするヤツはガルが退治してやるがお」
覗き魔を捕まえる作戦があると着替えを覗かれた部活の女子たちに了解を得るために早く来たのだ。
相手が人間では無く妖怪だと言うこともハチマルの説明で信じてくれた。
教室では英二と秀輝が手持ち無沙汰で駄弁っていた。
「よく早く起きれたな秀輝」
英二が訊くと秀輝が漫画雑誌を読んでいた手を止める。
「たりめぇだ! 選りに選って覗きだぞ、ムカついて寝てられるかよ」
怒り冷めやらぬ秀輝の向かいで英二が苦笑いする。
「あははっ、化けるのはいいけど覗きは無いよな」
「まったくだ。テニス部は可愛いのが揃ってるからいいとしてバレー部なんて覗くかよ」
とぼける秀輝に英二が呆れ顔で返す。
「そっちかよ、なら俺は卓球部だな、学祭で見たけど結構可愛い子が居たぞ」
「水泳部も中々だぜ、おっぱいは無いけどな」
ニヤつく秀輝に英二も厭らしい顔でこたえる。
「運動するには邪魔なだけだからな、おっぱい」
「だな、でも運動するおっぱいは好きだぜ」
「俺も大好きだ。おっぱいの上下運動が嫌いな男は存在しない」
「当り前だぜ、上下に揺れるおっぱいは何時間でも見ていられるぜ」
「同志よ! 」
「相棒だぜ! 」
机を挟んで英二と秀輝が手を握り締める。
ガシッと手を握ったまま秀輝が話題を変える。
「学祭といや、今年はサンレイちゃんやハチマルちゃんと一緒にできるな」
「ああ、ガルちゃんなんて大喜びするだろうな」
思いを馳せるような英二の向かいで秀輝も嬉しそうに口元を歪ませる。
「楽しみだぜ、俺たちも茶店か何かやろうぜ」
「そうだな、食い物関係はいいかもな、委員長や篠崎さんみたいな料理得意なのが揃ってるし、ハチマルも料理できるしな」
秀輝がニヘッと企むような笑みに変わる。
「サンレイちゃんとハチマルちゃんとガルちゃんにメイド服とかコスプレさせれば売り上げトップ取れるぜ」
「コスプレか……サンレイやガルちゃんはノリノリでしてくれそうだな」
「だな、ハチマルちゃんも乗りがいいからな……ハチマルちゃんのメイドとかチアコスとか、想像しただけで楽しみだぜ」
にやける秀輝の向かいで英二の頬も緩んでいく、
「うんヤバいな、あの胸はヤバすぎるよな」
「コスプレさせて写真撮りまくろうぜ」
「っていうか、写真集作れば大儲けだな」
「3人の写真集なら買わない男子は居ないぜ」
厭らしい顔で妄想しているところへサンレイたちが帰ってくる。
「おっはぁ~~、ってまだ誰も来てないぞ」
元気に教室に入ってきたサンレイを見て英二と秀輝がバッと構える。
「あっ、当り前だいつもより30分も早いんだからな」
机の上で繋いでいた手をサッと離すと英二が慌ててこたえた。
「そっ、そうだぜ、俺たちが1番だったからな」
秀輝が平静を装って漫画雑誌を広げる。
ハチマルがじとーっとした目で指差した。
「漫画が逆さまじゃぞ」
「うぉ! やべぇ、驚いて間違った」
大慌てで漫画雑誌の上下を戻す秀輝を見てハチマルが溜息をつく、
「まったく、どうせ碌でもない話でもしておったんじゃろう」
サンレイがニタリと厭らしい顔で笑い出す。
「にゅひひひひっ、おらのこと想像してエロい話ししてたんだぞ、仕方ないぞ、おらセクシーだからな」
「ちちちっ、違うから、覗き妖怪捕まえなくちゃなって話ししてたんだ」
「そっ、そうだぜ、俺たちに化けるなんて許せないって」
当たらずといえども遠からず。エロい話をしていたのを当てられて英二も秀輝も挙動不審になっている。
サンレイではなくハチマルのエロい話をしていたなど口が裂けても言えない。
ガルルンがニヘッと口元を歪めた。
「着替え囮作戦がお、ガルの着替え想像して盛り上がってたがう」
「そっかぁ~、おらの可愛いパンツ見たかったんだぞ」
ニヤつくサンレイとガルルンの向かいで英二が違うと手を振った。
「ちっ、違うから…… 」
「がふふん、着替えくらい英二と秀輝になら覗かれてもいいがお」
スタイルには自信があるのかガルルンが鼻を鳴らす。
「マジかよ」
思わず声に出す秀輝をハチマルとサンレイがジロッと睨み付けた。
「やべっ! 」
慌てた秀輝が広げていた雑誌で口元を隠す。
「やっぱエロ話してたぞ」
「まったく仕方のない奴らじゃ」
ニヤつくサンレイの隣でハチマルが溜息をついた。
秀輝をちらっと見た後で英二が頭を下げる。
「 ……ごめん」
「仕方ないだろ、サンレイちゃんもガルちゃんもハチマルちゃんもみんな可愛いんだからさ、エロいこと考えるのは当り前だぜ」
謝る英二と違い秀輝は開き直った。
「ふふふっ、怒ってはおらんぞ、呆れておるだけじゃ」
「そだぞ、おらはセクシーだからなエロいこと想像するのは仕方ないぞ」
「ガルは英二と秀輝と宗哉なら見られても平気がお、3人とも優しくて好きがお」
英二がほっと息をつく、
「それで作戦の方は旨く行ったのか? 」
「バッチリだぞ、放課後罠を張って覗き魔を捕まえてやるぞ」
サンレイがニヘッと悪巧みをしている顔で笑った。
バカ話で盛り上がっているところへ委員長と小乃子が登校してくる。
「おはよう、朝から楽しそうね」
「おいっす。朝から元気だな」
委員長はともかく小乃子は普段よりも15分程早い。
「おっはぁ~、委員長、小乃子、おっはぁ~~ 」
「おはようがお、ガルは朝でも夜でも元気がお」
元気いっぱいで挨拶するサンレイとガルルンの後ろでハチマルが軽く手を上げて挨拶を返す。
「おはようさん、着替えは持ってきたじゃろうな」
「持ってきたよ、ジャージと下着」
鞄を叩いてこたえる小乃子の横で委員長が少し恥ずかしそうに口を開く、
「派手なのとか持ってないから水色の下着持ってきたわ」
「水色かよ! 」
思わず口から出た秀輝に委員長だけでなくハチマルたちもサッと振り向く、
「伊東! 変な想像してるんでしょ」
「あははっ、英二と秀輝じゃ仕方ないな」
頬を赤くして怒る委員長の隣で小乃子が大笑いだ。
「俺は何も言ってないだろ」
英二が裏切る。仲が良いとはいえヘンタイと思われるのは御免だ。
「ちょっ、ズルいぞ英二、俺たち友達だろ」
机を挟んで座る秀輝が英二の腕を引っ張った。
「離せ秀輝、これ以上ヘンタイと思われて堪るか」
「離すか、どんな時も一緒だぜ、もちろんヘンタイもな」
じゃれる2人を見て悪い顔をしながらサンレイが口を開く、
「覗き妖怪と一緒に捕まえて女子部に引き渡すぞ」
「何もやってないからな、マジで逮捕されるから勘弁してくれ」
拝むように謝る英二を見てハチマルも委員長たちも大笑いだ。




