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第95話

 3月、ハチマルも戻ってきて学校に通うようになり、ガルルンを加えて以前よりも賑やかになった。

 ホワイトデーのお返しにみんなで買い物に行ってサンレイとガルルンとハチマルは元より小乃子や委員長に晴美も服をプレゼントして貰って大喜びだ。


 卒業式も終わって3年生の居なくなった学校は少し静かになる。

 4月になると英二たちは2年に進級する。1年生の生活もあと10日も残っていない。


 授業が終わり英二たちが校門から出てくる。


「殆ど復習みたいなものばかりだし消化試合みたいなもんだから楽だな」


 大きく伸びをする秀輝の脇を英二が擽る。


「秀輝は数学ギリギリだったろ」

「いへへっ、脇は止めろ」


 体を捩りながら英二の手を払い除けると秀輝が続ける。


「マジでヤバかったぜ、本当なら春休みに補習を受けてるところだ。サンレイちゃんと遊びに行くのがダメになったら怒るだろうなって垣田の前で呟いたら特別に補習に行かなくても済んだ。その代わりにプリント10枚ほど渡されたけどな」


 垣田先生マジでビビってるな、本当に何をやったんだろう……、英二がサンレイを見つめる。

 当のサンレイは知らん顔でガルルンと一緒に今朝貰ったお菓子をパクついていた。


 送迎車の前で宗哉が手を振る。


「英二くん、また明日ね」

「おぅ、宗哉またね」


 手を上げて返す英二の傍でハチマルが微笑みながら手を振る。


「スマホ有り難く貰っておくぞ」


 サンレイやガルルンと同じように宗哉にスマートフォンを貰ったのだ。


 英二と秀輝とサンレイとガルルンと小乃子と委員長と晴美のいつものメンバーにハチマルを加えて帰路につく、


「あ~あ、絢奈ちゃんや怜那ちゃん居なくなったぞ」

「他にもいっぱい卒業したがお」


 寂しそうに呟くサンレイにガルルンが同意する。

 絢奈や怜那は卒業した3年の先輩だ。毎日のようにお菓子をくれた3年生の中でも1番仲良しの先輩である。


 サンレイが大きく溜息をつく、


「毎朝貰えるお菓子が減るぞ」

「仕方無いがお、2年の先輩が3年になってガルたちが2年になるがお、先輩になるがお」


 諦め口調のガルルンをサンレイが見つめる。


「先輩なんてならなくていいぞ、ずっと1年生ならお菓子貰えるぞ」


 何かを閃いた様子でサンレイが顔を上げた。


「そだ! おらもう一回1年するぞ、そんで3年の先輩と2年になった委員長たちにお菓子貰うぞ」

「もう一回1年生できるがお? 」


 首を傾げるガルルンの前でサンレイがマジ顔で話し出す。


「ダブりだぞ、1年生を繰り返せる事が出来る裏技だぞ、同じ1年でもダブりだから先輩だぞ、ダブり先輩って呼ばれて尊敬されるんだぞ」


 ガルルンがパァ~ッと顔を明るくする。


「ダブり先輩……格好良いがお、ガルもやるがお」


 英二が慌てて割り込んだ。


「格好良くないからな、だいたいサンレイとガルちゃんは授業まともに受けてないんだからダブる要素なんてないだろ」

「じゃあ次こそ真面目に授業受けるぞ、学年トップを目指すぞ」

「ダブルだから二倍お得がお」

「トップって、小学校レベルの算数もできないだろ、ガルちゃんはお得とか勘違いしているし…… 」


 やる気満々のサンレイと嬉しそうなガルルンの前で英二が弱り切る。

 私に任せてと委員長が前に出てきた。


「ダブってもう一回1年やればお菓子は貰えるかも知れないけど佐伯くんの弁当食べれなくなるわよ、担任も小岩井先生じゃなくなるよ」


 少し考えてからサンレイが反論する。


「宗哉の弁当は1年の教室までサーシャに持ってきて貰うぞ」

「でも恭子ちゃん先生じゃなくなるのは厭がお」


 ガルルンは心が揺らいだのか不安気に委員長を見つめている。

 ハチマルが委員長の隣りに並ぶ、


「それだけではないぞ、儂や英二のことを先輩と呼ばねばならんぞ、気安く英二などと呼び捨てにすれば儂が怒るからの」


 ジロッと睨むハチマルの前でサンレイが顔を引き攣らせる。


「ハチマル先輩、秀輝先輩、小乃子……英二……せんぱ……い………… 」


 サンレイがわなわなと唇を震わせて小乃子と英二を見つめる。


「いいんちゅ先輩って言いにくいがお、晴美も先輩に………… 」


 ガルルンがハッと気付いて慌てて続ける。


「ガルは止めたがお、ダブったら晴美と一緒のクラスになれないがう、お菓子よりも晴美と一緒が良いがお」

「嬉しい! 私もガルちゃんと離れるなんて厭だよ」


 晴美がガルルンに抱き付いた。


「いいんちゅじゃなくて委員長だからね」


 ガルルンに注意すると委員長がサンレイを見つめる。


「じゃあサンレイちゃんだけ1年ダブルのね」


 サンレイが慌てて口を開く、


「おらも止めたぞ、ハチマルや秀輝はいいとして小乃子や英二を先輩なんて呼ぶのは厭だぞ、英二に先輩なんて言うくらいなら学校辞めた方がマシだぞ」


 何とも言えない表情をした英二と小乃子が顔を見合わせる。


「そんなに厭なのか…… 」

「マジでヘコむよな」


 珍しく英二と小乃子の意見が一致した。


「纏ったところで帰りましょうか」


 旨く行ったという笑みをして委員長が歩き出す。



 先を歩いていた小乃子と委員長が赤信号で立ち止まる。


「サンレイ、また今度妖怪テレビ見せてくれよ、妖怪が歌うヤツ」


 後ろからやってきたサンレイが小乃子を見上げる。


「おぅ、何時でもいいぞ、晴美ちゃんも誘って女子会やるぞ」


 英二が厭そうに顔を顰める。


「妖怪みんなの歌か……変な歌ばかりで悪影響しかないからな」


 委員長が同意するように英二を見つめる。


「色んな妖怪が見れて面白いけどハッキリ言って有害番組よね」


 隣で立ち止まったハチマルが頷く、


「うむ、妖怪の間でも自分の子に見せたくない番組ナンバーワンじゃ」


 委員長とハチマルの後ろでガルルンが反論する。


「妖怪みんなの歌は面白いがお、ガルも出て歌いたいがう、でも人気だから応募しても中々当たらないがお」


 ガルルンと手を繋いでいた晴美が楽しそうに横を向く、


「ガルちゃん応募してるんだ。もし出れたら絶対見るから呼んでね」


 小乃子と並んで歩いていたサンレイがガルルンの後ろで止まる。


「おらも応募してるぞ、当たったら英二と一緒に歌うぞ」


 最後尾を秀輝と歩いていた英二が怒鳴る。


「俺を巻き込むな! 絶対出ないからな」

「サンレイちゃんとガルちゃんの歌か……妖怪テレビって録画できるのかな」


 緩みきった表情の秀輝を見て英二がドン引きだ。


「まったく碌な番組じゃないな」


 呟く英二を見て小乃子が笑い出す。


「あははははっ、でもさ、そう言う番組ほど流行るよね」

「そうじゃな、知らん妖怪はおらんほどに流行っておるからのぅ」


 赤信号で止まっているハチマルの隣りに英二がやって来る。


「今のところ悪影響しか出てないからな妖怪テレビ」


 何で渡したと非難するように言う英二を見てハチマルがとぼけ顔でこたえる。


「妖怪みんなの歌だけでなく妖怪ニュースなども見れるからのぅ、情報を得るためにも必要じゃぞ」


 後ろからガルルンが英二の背を突っつく、


「ガルは料理番組も好きがお、春になったらカエル団子作って英二に食わせるがお」


 サンレイが対抗するように口を開く、


「んじゃ、おらはナメクジの塩辛とミミズの佃煮を作ってやるぞ、おらは食いたくないけど英二に食わせるぞ」


 英二がサンレイの頬を摘まんで引っ張る。


「自分が食わないのを俺に食わせる気か」

「にゅひひひっ、止めろよ、ほっぺ伸びるだろ、愛妻料理だぞ」

「作った本人が食えない愛妻料理なんて怖すぎるわ」


 サンレイの頬を引っ張りながら英二がガルルンを見つめる。


「妖怪の料理は遠慮するから、ガルちゃんは母さんの手伝いだけしてくれ、ガルちゃんの作った味噌汁とか玉子焼きはマジで旨いからさ」

「わかったがお、英二が喜んでくれる料理を作るがお」


 ニッと笑顔でこたえるガルルンを見てサンレイが頬を引っ張る英二の手を払う、


「ガルルンに負けてられないぞ、おらも回虫パスタとか作って英二の心を鷲掴みにすんぞ」

「回虫って寄生虫のか? 」


 英二の前でサンレイがニヤッと笑う、


「そだぞ、回虫はカイチュウ科の線虫で小腸に寄生するんだぞ、色も黄白色でパスタに使えば食欲をそそるぞ」

「食べませんから……寄生虫のことだけは詳しいんだから」


 眉を顰める英二を見てサンレイが意地悪顔で続ける。


「得意分野を料理に生かすんだぞ、寄生虫とか蛇とか蛙の知識をフルに使って……妖怪料理番組でも美味しそうに作ってるぞ」

「得意なものってサンレイのは食べちゃダメなものばかりだろ、妖怪テレビの料理は食わないからな」


 弱り切る英二を見てハチマルが大きな溜息をつく、


「まったく、儂がおらん間も頑張ってくれておるようじゃから褒美として渡したのじゃが、やはり害悪にしかなっておらんようじゃの」

「ガルちゃんはともかくサンレイは家じゃ妖怪テレビ見てるか漫画読んでるかゲームしてるかだよ、前は洗濯物畳んだり階段の掃除くらいは手伝ってくれてたけどな、ガルちゃんは風呂やトイレ掃除に料理まで何でも手伝ってくれるって母さん大助かりだよ」


 訴えるように言う英二の傍でガルルンが得意気に鼻を鳴らす。


「がふふん、ガルはできる女がお、料理マスターして英二のお嫁さんになるがお」


 口を尖らせてサンレイが割って入る。


「ガルルンは自動ケツ洗い機が好きだからトイレ掃除するんだぞ、毛むくじゃらで汚れるから風呂掃除するのも当り前だぞ、第一ガルルンは居候だぞ、飯食わして貰ってる分働くのは当り前だぞ」

「温水洗浄便座だ! 女の子がケツとか言うな」


 怒鳴りながら英二がサンレイの頬を引っ張る。


「サンレイだって居候だからな、ガルちゃんを悪く言うな」

「でゅひゅひゅひゅ、ほっぺ伸ばすな、おらは神だぞ、居候じゃないぞ」


 体を捩って喜ぶサンレイを見てハチマルが溜息をつく、


「やはり妖怪テレビは無い方がいいかのぅ」


 サンレイがバッと英二の手を払い除けた。


「ダメだぞ、妖怪テレビ取り上げたら暴れてやるからな、英二の部屋滅茶苦茶にしてやるぞ、英二に呪い掛けてやるからな」

「なんで俺にくるんだよ」


 迷惑顔で言う英二の傍でガルルンがハチマルを見つめる。


「ガルも妖怪テレビみたいがお、お手伝いちゃんとしてるがお」

「しかしのぅ…… 」


 悩むハチマルに秀輝が話し掛ける。


「妖怪テレビは結構面白かったぜ、それにバイトの時もおとなしく見てるから助かるって英二も言ってただろ、俺も見たいから取り上げるのは無しにしてやってくれよ、頼むよハチマルちゃん、この前見た妖怪みんなの歌も面白かったぜ、ふんばり入道と胡瓜の嫌いな河童が歌ってたヤツ」


 秀輝はどんな時でもサンレイの味方だ。


「しかしのぅ…… 」

「そうだな、バイトの時は助かるよな、ハチマルが居れば一日中見てることもないだろうし取り上げることもないかな」


 サンレイはともかくガルルンがかわいそうだと英二が折れた。


「英二と秀輝が言うなら暫く様子を見てやろう」

「にゅへへへっ、妖怪テレビ見れるなら洗濯物畳む手伝いするぞ」

「わふふ~~ん、ガルももっと手伝いするがお」


 調子良く言うサンレイの横でガルルンが手を上げて大喜びだ。


「信号変わったわよ、迷惑だからさっさと行きましょう」


 委員長に続いてサンレイたちが歩き出す。

 話しに夢中になって信号が青に変わったのを一回やり過ごしていた。


 歩きながらサンレイが呟く、


「カラオケにもあればいいのにな、妖怪みんなの歌」

「ありません!! って言うか、あったとしても変な歌は歌わせません」


 弱り顔で叱る英二を見て秀輝たちは笑いながら帰って行った。



 翌日、英二たちが登校すると事件が起きていた。

 女子バレー部や女子テニス部など部活をしていた女子の着替えが何者かに覗かれたというのだ。

 英二たちが帰った後に警察まで来て結構な騒ぎになっていたらしい。


 朝の挨拶もそこそこに委員長が話し掛けてきた。


「覗きが出たの知ってる? 女子のバレー部やテニス部の更衣室が覗かれたんだって」

「覗き? 犯人は捕まったのか? 」


 聞き返す英二の左右でサンレイとガルルンが元気に挨拶する。


「おっはぁ~、委員長おっはぁ~~ 」

「いいんちゅ、おはようがお」

「ああ、おはよう、それでね…… 」


 軽く挨拶して続けようとした委員長の言葉を秀輝が遮る。


「俺も聞いたぜ、覗きだろ」


 後ろから来た秀輝に英二が振り返る。


「おはよう秀輝」

「秀輝おっはぁ~~ 」

「秀輝、おはようがお」

「おう、サンレイちゃん、ガルちゃん、おはよう、今日も元気だな、ハチマルちゃんもおはよう」


 サンレイとガルルンの後ろに居たハチマルが手を上げて挨拶を返す。


「おはよう秀輝、今日は早いの」

「面白い話し聞いたからハチマルちゃんたちに話そうと少し早く出たからな」


 嬉しそうな笑顔で返す秀輝を放って置いて英二が委員長に向き直る。


「それで覗きって何があったんだ? 」

「部活で着替えてた女子が男に覗かれて大騒ぎになって警察も呼んだんだけど犯人は捕まらなかったのよ、それが変なのよね」


 勿体振るような委員長に続けて秀輝が話し出す。


「俺も聞いたぜ、校舎に逃げた犯人をバスケ部の男子が追い掛けたらしいけど見失って犯人が逃げないように野球部やサッカー部と協力して校舎の窓や出入り口を全部見張ってから警察呼んだけど犯人は居なかったって言ってたぜ、絶対に校舎に追い込んだから逃げ場は無いって、消えたとしか思えないって言ってたぜ」


 同意するように頷いてから委員長が続ける。


「そうなのよ、私は知り合いの先輩に聞いたんだけど、先輩はテニス部に入ってるのよね、着替えて暫くして忘れ物を取りに更衣室へ戻ったら男が居たらしいわ、慌てて先生や他の女子にテニス部の男子も連れて更衣室へ行くと男はまだ居たから逃げられないように更衣室へ閉じ込めたらしいわよ、ドアはもちろん窓も外から押さえて見張りも置いたんだけどいつの間にか男は消えていたらしいわよ」


 いつもより遅く来た小乃子が話しに入ってくる。


「それって妖怪なんじゃ…… 」


 委員長の目がキラッと光る。


「うん、私もそう思ったからハチマルが来るの待ってたのよ」

「成る程な、妖怪なら消えてもおかしくないぜ」


 秀輝は小乃子に言われて分かった様子だ。

 ハチマルが目を閉じる。


「妖気は感じんぞ、どうじゃガルルン」


 暫くして目を開けるとガルルンを見つめた。


「匂いはしないがお、彼方此方に現われたのなら匂い残ってるはずがう、完全に匂いが消せる妖怪がいるなら話は別がお」

「匂いや妖気を完全に消すことのできる妖怪もおるがのぅ、じゃが目的がわからん」


 巨乳を越えた爆乳を抱えるように腕組みをするハチマルをサンレイが見上げる。


「おら知ってんぞ、覗き妖怪だぞ、しおからとか言うヤツだぞ」


 ハチマルが腕組みを外してポンッと手を叩く、


「おお彼奴か、そうじゃな、彼奴なら儂でも探すのは困難じゃぞ」

「しおからって妖怪か? 」


 怪訝な顔で聞く英二の隣で小乃子が苦笑いだ。


「塩辛? 食い物みたいな名前だな」


 ハチマルがくるっと振り向いた。


「塩辛ではない『しょうけら』じゃ、覗き妖怪しょうけらじゃ、サンレイが間違って覚えとっただけじゃ」

「間違ってないぞ、覗き妖怪って言ったぞ」


 サンレイがプクッと膨らませた頬を英二が突っついた。


「覗き妖怪って……またヘンタイかよ」

「にゅひひひひっ、そうだぞ、変なヤツだからおら覚えてたぞ」


 怒り顔から一転、愉しそうに笑うサンレイの頭を小乃子がポンポン叩く、


「覚えてたって名前間違ってただろ、塩辛って言ってたぞ」

「しょうけらも塩辛も一緒だぞ、ヘンタイの雑魚妖怪だぞ」


 口を尖らせるサンレイの向かいで委員長が成る程と言うように頷いた。


「しょうけらね、妖怪図鑑に載ってたわよ、天窓から覗いたりする妖怪だって書いてあったわ、何のために覗くのかはわからないって曖昧な説明だったけど」

「曖昧も何も覗き妖怪そのものだ。まさか女子更衣室を覗く妖怪が居るなんて知らなかったよ、まぁトイレを応援する妖怪が居るから不思議じゃないけどさ」


 呆れたように言う小乃子を見て英二が厭そうに顔を顰める。


「ふんばり入道な、思い出しただけで気分が悪くなってくるよ」


 自分の席に座って聞くとなしに聞いていた晴美がやってくる。


「ガルちゃんおはよう、ヘンタイ妖怪ってこの前の一つ目小僧みたいなヤツなのかな、ヘンタイ妖怪とか気持悪いの厭だな」


 挨拶をしながらガルルンの腕に晴美が縋り付く、


「ガルは知らないがお、山の妖怪じゃないがう、しょうけらって強いがう? 」


 ガルルンがハチマルに訊いた。


「妖怪しょうけらの説明は委員長ので大体あっておる。道教には三尸と言って人の腹に3匹の虫が棲んでいて悪さをすれば神に報告するという話がある。妖怪しょうけらは三尸と神との繋ぎ役として人々の家々を覗いて回ると言われておる」


 サンレイがニヤッと悪い笑みをして英二の手を引っ張る。


「三尸って回虫と蟯虫と条虫だぞ、悪さするとサナダムシがお尻から出て神に報告するんだぞ、英二のおなかにも入ってるぞ」

「絶対違うから、入ってないから、サンレイは寄生虫の話になると目が輝くよね」


 怒りながら英二がサンレイの手を乱暴に離した。


「みんなおはよう、面白そうな話をしているね」


 爽やかスマイルを湛えて宗哉がやって来た。


「神の使いみたいなものなら強いんじゃないのかい」


 少し前から話しは聞いていた様子だ。


「だな、神の使いってヤバいんじゃないか」


 秀輝だけでなく英二や委員長たちもハチマルを見つめる。


「儂も名前を知っておるだけで実際に遭った事はない、なにせ捕らえ所の無い妖怪と聞いておる。儂やガルルンでも分からんくらいに気配を消しておる。部活の連中や警察が逃がしたのも当然じゃな、三尸の話もあくまで言われておるだけじゃ、神の使いが女子更衣室を覗くなどそれこそ問題じゃ」

「犯人が妖怪だったとしたら『しょうけら』で間違いないのね」


 委員長が確認を取るように訊いた。


「まだ決まったわけではないが十中八九間違いなかろう、校内を動き回っておるのに儂にも分からんほどに妖気を消して尚且つガルルンの鼻でも感知できん、儂が知っておる妖怪でその様なことが出来るものは知れておる」


 ガルルンがハチマルを見つめる。


「大妖怪が術を使えばガルでも分からないかも知れないがお」


 サンレイがバカにするように口を開く、


「ガルルンは相変わらずボケ犬だぞ、覗き妖怪で間違いないぞ、大妖怪が覗きなんてセコい真似しないぞ、女欲しかったら攫えばいいだけだぞ」

「そういう事じゃ、覗きなどと言うバカな事をする妖怪はしょうけらと屏風覗き以外に儂は知らん」

「それで強いのか? しょうけらって」


 ハチマルの何とも言えない難しい顔を見て詳しく知らないのは分かったが英二は思わず訊いていた。


「雑魚じゃ、直接会ったことはないが聞いた話しによると妖術や戦う力などは殆ど持っておらんらしい、昔から覗きをするだけの妖怪じゃったからな」


 英二がほっと息をつく、


「雑魚妖怪か……今の俺なら倒せそうだな」


 自信有りといった顔の英二をハチマルがちらっと見る。


「じゃが妖気は元より気配も完全に消すことのできる妖怪じゃからな、捕まえるだけでも一苦労じゃぞ」


 英二の横で秀輝がバカにするように口を開く、


「気の弱い覗き魔みたいだな」


 余裕を見せる2人を見てハチマルが顔を顰める。


「油断大敵じゃぞ、雑魚とはいえ妖怪じゃという事を忘れるな」

「いや……うん、ごめん」

「油断してるわけじゃないぜ、英二は強くなったからさ」


 謝る英二を庇うように秀輝が言った。


「それが油断と言うんじゃ」


 叱るハチマルの隣でサンレイがとぼけ顔で口を開く、


「今の英二なら大丈夫だろ、それよりしょうけらにカメラ持たせたら盗撮できるぞ、無敵の盗撮小僧になれるぞ、あれだぞ、パパラッコだぞ、パパラッコになって大金持ちだぞ、しょうけら捕まえてパパラッコさせればアイス食い放題だぞ」


 サンレイの前席、晴美の席で一緒に聞いていたガルルンが首を傾げる。


「パパラッコ? ラッコの父ちゃんがう? ラッコの父ちゃんは金持ちだったがお」

「何言ってんだガルルン、ラッコの父ちゃんなんて貝とウニしか持ってないぞ」


 ガルルンをバカにしていたサンレイが難しい顔で考える。


「いや待てよ……貝とウニ売って意外と金持ってるかも知れないぞ、可愛い顔して食い荒らすゲスいアイドルみたいな奴らだからな」


 口元をニヤリと歪めるサンレイの頭を英二が叩いた。


「ゲスいのはサンレイだろ、ラッコじゃなくてラッチだ。パパラッチだ。スクープ撮ろうと有名人追いかけ回すカメラマンのことだ」


 サンレイの後ろの席で小乃子が一時間目の国語の教科書を出しながら口を開く、


「でもさ、覗きしかしない妖怪ならそれ程騒ぐことないよな、覗かれた女子はかわいそうだと思うけどさ」


 サンレイを挟んで前席でガルルンを抱えながら一緒に座っている晴美が小さな声を出す。


「でも、今は覗きでもそのうち襲われたりしたら大変だよ」

「晴美の言う通りがお、見てるだけで我慢できなくて下着盗んだりするがお」


 後ろから抱き締める晴美の腕に手を当てて気持ち良さそうにしながらガルルンが言った。

 仲良くじゃれる晴美とガルルン、後ろの席の小乃子と近くに立つ委員長、左の席の英二とその机に座っている秀輝、右に立っている宗哉とハチマル、その後ろでサーシャとララミが控えている。

 みんなの真ん中でサンレイが腰に手を当ててポーズを取る。


「おらみたいにセクシーなら襲われるぞ」

「おおぅ、サンレイちゃん可愛いぜ」

「サンレイなら反撃できるだろ」


 無責任に褒める秀輝の横で英二が顰めっ面だ。

 ニヤッと悪い笑みをしてサンレイが英二に抱き付く、


「キモい妖怪に襲われる前に英二がおらの純血を奪うんだぞ、そんでおらと結婚するぞ」


 晴美に抱っこされたままガルルンも負けじと話しに入ってくる。


「ガルも襲われるがお、悔しいでも感じちゃうビクンビクンってなる前に英二が責任とってガルと結婚するがお」

「ビクンビクンって…… 」


 苦笑いする秀輝の横で英二が弱り顔で口を開く、


「だからサンレイもガルちゃんも覗き妖怪より強いだろ、変な事される前にボコボコにできるでしょ」

「おらじゃなくて英二がボコボコにするんだぞ」

「なんで俺が…… 」


 抱き付いていたサンレイが英二を睨み付ける。


「愛する妻がヘンタイ妖怪に覗かれても英二は平気なんか? 」

「妻って何だよ、結婚してないからな」


 弱り切った英二の正面でサンレイが怖い顔で続ける。


「何言ってんだ。おらと英二は内縁の妻だぞ、そんでガルルンが愛人だぞ」


 晴美に抱っこされていたガルルンが口を大きく開けて驚く、


「がわわ~~ん、ガルは愛人だったがお、正妻じゃなかったがお」


 サンレイの後ろの席で小乃子が目を吊り上げて英二を睨む、


「英二! いつの間に手を出した! ロリコンか!! 」


 ふるふると首を振りながら英二が口を開く、


「ちっ、違うからな、何もしてないからな」

「酷いわ英二さん! あんなに愛し合ったのに…… 」


 英二の胸に顔を埋めてサンレイが嘘泣きだ。


「ガルは身も心も捧げたがお、遊ぶだけ遊んでぼろ切れのように捨てられるがう、英二は鬼畜がお」

「ガルちゃんを泣かせたら高野くんでも許さないからね」


 ガルルンを抱っこしながら晴美も怖い顔だ。


「違うから……勘弁してくれ」


 弱り切った英二が助けを求めるように辺りを見回す。

 ハイハイと言った様子で委員長が話題を変えるように話を始める。


「覗きだけが目的ならいいんだけど……よくはないわね、見られた女子がかわいそうだわ」


 今まで黙って話しを聞いていた宗哉が頷いた。


「そうだね、他に目的があれば大変だね、女子を人質に取られるかも知れないし」

「そうじゃな、油断させて英二の力を狙っておるのやも知れんぞ」


 まともな3人を見て英二がほっと安堵する。


「どうにかして捕まえないとな、霊力を狙ってるなら俺の責任だし、そうじゃなくても覗きは止めさせないと、新入生が部活に入ってこなくなったらかわいそうだよ」

「だな、来年から先輩になるんだし、ここは一つ俺たちで退治しようぜ」


 相手が覗きしかできない妖怪と知って秀輝は自信満々だ。


「捕まえると言ってものぅ……妖気を完全に消せるヤツじゃからの、妖怪の匂いも殆ど無いようじゃし」


 難しい顔のハチマルを見てガルルンが頷く、


「妖怪特有の匂いは無いがお、でも個別で匂いを特定できたらガルが見つけてやるがお、一度覚えた匂いは忘れないがう、匂いのしない生き物なんて居ないがお」

「にひひひひっ、おらがバチッと捕まえてやるぞ」


 何処から湧いてくるのかサンレイは自信満々だ。


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