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第88話

 教室では操られた生徒たちと英二たちが戦っていた。


「くそっ、こいつら痛みを感じないのかよ」


 愚痴る秀輝の横で宗哉が操られている女子を両手に持った椅子で押さえ込む、


「本気で殴って怪我させるわけにもいかないし僕たちが不利だね」

「どうにか動けなくできればいいんだけどな」


 秀輝がモップで押さえる男子たちに爆発する気を放ちながら英二が言った。

 相手を傷付けないように小さな爆発だ。

 操られている生徒たちは驚くのか痛みを感じるのかは分からないが一瞬動きを止めたり引いたりするが直ぐに襲い掛かってくるので埒が明かない。


「動けなくするか…… 」


 何か思い付いたのか宗哉がララミに命じる。


「ララミ、委員長に話してロープを持ってきてくれ、人間を縛れるくらいの長さだ。あるだけ持ってきてくれ」


 サーシャと共に宗哉の左右で戦っていたララミが振り向く、


「ロープですね、分かりました御主人様」


 言うか早いか目の前にいる男子生徒を足払いして倒すとララミが教室を出て行った。


「成る程な、ロープで縛って動けなくするって作戦だな、流石宗哉だ」


 英二に褒められて嬉しそうにこたえようとした宗哉の目に窓から入ってくるハマグリ女房が映った。


「なっ、何で…… 」


 驚く宗哉に釣られるように英二と秀輝も振り返る。


「間に合って良かったわ、本当に良いアイデアです。操っているとはいえ所詮只の人間です。ロープで縛れば身動きできなくなるでしょうからね」


 妖艶に微笑むハマグリ女房を見て英二が顔を強張らせる。


「サンレイはどうした? 」

「うふふふっ、私が倒したわよ」


 愉しげにこたえるハマグリ女房の前に秀輝が出てくる。


「嘘だ! サンレイちゃんがお前にやられるわけないぜ」


 ハマグリ女房がとぼけ顔で口を開く、


「じゃあ何で私がここに居るの? チビの神様が戻ってこないのが証拠よ」

「そんな……サンレイが…… 」


 英二の顔がみるみる青くなっていく、ハマグリ女房が英二を見つめる。


「私の勝ちよ、英二くん、私の元へいらっしゃい」


 妖艶に微笑みながら手招くハマグリ女房の向かいで英二が顔を引き攣らせる。


「何を…… 」

「このまま続けても犠牲が増えるだけ、秀輝くんや宗哉くん、運動場にいる小乃子さんたちを殺してもいいのよ」

「みんなを殺す……小乃子を…… 」

「そうよ、チビの神様を倒すくらいの用意をしてきたのよ、廊下にいる山犬を倒す用意もしてあるわ、人間の秀輝くんや小乃子さんなんて簡単に殺せるわよ、英二くんが大人しくついてくるならみんな助けてあげる。安心して、英二くんを殺したりしないわよ、英二くんの霊力を貰うだけ3日ほどすれば帰してあげるわよ」


 英二がハマグリ女房を見据える。


「本当だな、操っている人たちも元通りにするんだな」

「約束するわ、これ以上誰も犠牲にはしない」

「わかった…… 」


 こたえようとした英二の前に宗哉と秀輝が出てくる。


「英二くん、口車に乗るな」

「そうだぜ、サンレイちゃんがやられるわけないだろ」


 モップを構える秀輝をハマグリ女房が鬱陶しそうに睨み付ける。


「邪魔ですね」


 ハマグリ女房がサッと手を振る。


「ぐわぁ~~ 」


 伸びた腕が秀輝を殴り倒した。蛤が変化した妖怪だ。

 人の姿をしているが化けているだけで正体は軟体動物の貝そのものといった姿をしている。そのため体の一部を伸ばすことができるのだ。


「秀輝! 」


 英二が慌てて秀輝を抱き起こす。

 そこへ廊下にいたガルルンがやって来る。


「騙されるな英二!! サンレイは生きてるがお」

「生きてる……良かった」


 安堵する英二に抱き起こされた秀輝がガルルンを見つめた。


「じゃあ何で戻ってこないんだ? 」

「何で戻ってこないのかはガルにも分からないがお、サンレイは屋上にいるがう、他の妖怪の妖気を感じるがお、サンレイは戦ってるがお」


 首を傾げながらこたえるガルルンを見て英二が顔を強張らせる。


「他の妖怪? ハマグリ女房だけじゃなかったのか…… 」


 話しを聞いていた宗哉が頷く、


「そういう事か、初めからサンレイちゃんを他の妖怪に相手をさせて英二くんを捕まえようって作戦だね」

「汚いこと考えやがるぜ」


 怒りも露わに秀輝が起き上がる。

 ガルルンが伸ばした爪に炎を灯す。


「がふふん、ハマグリ女房なんてガル1人で充分がお」


 向かって行こうとするガルルンを宗哉が止める。


「ダメだガルちゃん! 」

「何で止めるがお? 」


 ガルルンが出端をくじかれて不満顔だ。


「サンレイちゃんに対策してきたんだ。ガルちゃんに何もしないわけがない、不用意に近付くのは危険だよ」


 宗哉の意見に英二が頷く、


「ガルちゃん、戦うなら俺も一緒に戦う」


 ハマグリ女房に殴られた時に落としたモップを秀輝が拾う、


「操られている生徒は俺たちに任せろ、サーシャとララミも居るしな」

「そうだね、僕たちで何とかする。英二くんはガルちゃんを援護してやってくれ」


 宗哉の左右にサーシャとララミが立つ、


「御主人様、ロープを持ってきましたデス」

「長かったので人を縛れる程度に切りました。全部で20本あります」


 2人が持つロープを見て宗哉が続ける。


「ご苦労、そのロープを使って暴れる生徒たちの手足を縛って動けないようにしてくれ」

「了解しましたデス、動けないように手足を縛りますデス」

「力の強い男から先に縛り上げてやるです。私が縛るからサーシャが押さえ込みなさい」


 サーシャが持っていたロープを受け取ると宗哉が秀輝に振り向いた。


「男はサーシャとララミに任せて僕たちは女子を動けなくするよ、僕が縛るから秀輝は押さえ込んでくれ」

「了解だ。さっさと片付けてハマグリ女を倒そうぜ」


 秀輝がモップを構えた。



 テキパキと指示を出す宗哉を見てハマグリ女房が目を細める。


「ふふっ、本当に頭の良い……宗哉くんでしたね、貴方のことは誤算でした」


 ニヤリと笑うとハマグリ女房が大きな胸の谷間から何かを取り出す。


「山犬の相手は私でなく此方に用意していますわ」


 木の欠片をガルルンの前に放り投げた。


「妖気を感じるがお」


 英二の腕を取ってガルルンが後ろに跳んだ。

 床に転がる木片からボワッと煙が立ち昇る。

 一瞬視界が無くなり直ぐに煙が消える。


「スギギギギッ、スギギギギッ」


 奇妙な声を上げる木の化け物が目の前にいた。


「木の妖怪がお」


 ガルルンに言われなくとも一目で分かる。

 身長は2メートル半ほど、ざらざらな木の皮らしい褐色の真っ直ぐな胴体、頭頂部から枝が四方に伸び針の様な葉が生えている。その枝端に黄褐色の小さな花が群生していた。


「スギギギギッ、スギギギギッ」


 木の化け物が奇妙な声で笑った。

 枝が生える直ぐ下に洞のような2つの目と大きな口が付いている。

 腕は無いが根のような足が無数に伸びていた。


「あれは……杉らしいな」


 物知りな宗哉の言葉を聞いてハマグリ女房が愉しそうに口を開く、


「よく知っているわね、その通りよ、杉が変化した妖怪です」

「杉の木の妖怪か…… 」


 豆腐小僧に出会った時に戦った銀杏の木を思い出して英二が顔を顰める。


「それがガルちゃんに対する切り札かよ、雑魚妖怪だろ」


 英二と違って秀輝は余裕顔だ。

 確かに杉の妖怪は強い敵には思えない。


「がひひひひっ、秀輝の言う通りがお、雑魚妖怪がう、木の妖怪なんてガルが焼き殺してやるがお」


 ガルルンがバカにしたように笑った。

 炎を使う術が得意な火山犬のガルルンにとって簡単に燃やすことのできる相手は敵ではないだろう。


「そうかしら? 後悔しても遅いわよ」


 愉しそうに口元を歪めながらハマグリ女房がサッと手を振る。


「行きなさい化け杉、その山犬を殺しなさい」

「スギギギギッ」


 ハマグリ女房に命じられて化け杉がガルルンに向かって行く、


「スギギギギッ、スギギギッ」


 化け杉が針の様な葉を飛ばす。


「焔爪! 」


 無数に飛んできた針の様な葉をガルルンが爪に灯した炎で焼き落としてく、


「遅いがお、そんなもの効かないがお」


 ガルルンは余裕だが見ていた英二たちは敵の速い攻撃に顔が強張っている。


「流石ガルちゃんだぜ、俺じゃ避けるのも無理だぜ」

「あの速い攻撃を全部叩き落としたよ」


 秀輝と英二の声が聞こえたのかガルルンが自慢気に鼻を鳴らす。


「がふふん、このくらいの速さなんてガルには止まって見えるがお」


 余裕に笑うガルルンを見て宗哉が持っていたロープを握り直した。


「杉の妖怪とハマグリ女房はガルちゃんと英二くんに任せるよ、僕たちは操られている生徒をさっさと縛って動けなくしよう」

「だな、任せたぜ英二」


 大きな声で言う秀輝に英二が頷く、


「わかった。俺とガルちゃんでやってやる」


 ガルルンの後ろで英二が拳に霊気を溜める。

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