第84話 バレンタイン
2月14日になった。
サンレイたち女子は3~4時間目の実習でカップケーキとクッキー、おまけにバレンタイン用のチョコを作る。
男子は木の板を削ってネームプレート作りの実習だ。
「よしっ、旨くいった」
大まかに板を切り出した英二が隣で作業している宗哉に振り向く、
「宗哉は何を作るんだ? 」
「サーシャとララミの予備パーツを入れてある部屋のプレートだよ」
板を彫る手を宗哉が止めた。
直ぐ近くの窓を拭いていたメイロイドのサーシャが振り返る。
「御主人様が私たちにプレゼントしてくれるデス、感激デスよ」
「大切にしてもらって感謝しております。御主人様にいただけるなら譬えゴミでも嬉しいですから」
バケツで雑巾を絞りながらララミが言った。相変わらず口は悪い。
サーシャとララミは宗哉に命じられて実習室の窓掃除をやっていた。
2人は女子の実習には参加していない、学習をするためという名目で学校に通っているが実際は宗哉の護衛に付いているのだ。
従って命令が無い限り宗哉から離れることは無い、学習する前は男子トイレや更衣室にまで入ってこようとしたほどである。
英二が2人に声を掛ける。
「優しい御主人様で良かったね」
「はい! 」
嬉しそうにこたえる2人はロボットとは思えない自然な笑みだ。
「ありがとう英二くん」
照れるように言う宗哉の手元、サーシャとララミの名前と形式ナンバーが書かれている板を見て英二が感心するように声を上げる。
「おお、中々格好良いな、宗哉はセンス良いからな」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいよ」
爽やかに微笑みながら宗哉が英二の手元を覗き込む、
「英二くんはガルちゃんの部屋のプレートだね」
「うん、サンレイとガルちゃんのを作ろうと思ったんだけどサンレイのは秀輝が作ってくれるって言うからガルちゃんのに集中して作れるよ」
英二の板にはガルルンの名前と柴犬のようなマークが下書きしてある。
「可愛いデザインだ。英二くんは器用だからガルちゃん喜ぶよ」
「へへへっ、喜んでくれるといいんだけどな」
照れを隠すように英二が反対側に居る秀輝に声を掛ける。
「旨く行ってるか秀輝? 」
ひょいっと見ると秀輝がマジ顔をして板に糸鋸を当てていた。
「糸鋸は真っ直ぐに当てろよ、斜めに引くと切り口が歪むぜ、力を入れないようにな、時間はあるからゆっくりしようぜ」
不器用な秀輝に英二がアドバイスだ。
「話し掛けるな、糸鋸の使い方は始めに聞いたよ、サンレイちゃんにプレゼントするんだからな、真剣勝負だ。文字を刳り貫くまで俺に話し掛けるな」
振り向きもせずに言い放つ秀輝の板にはローマ字でサンレイ&ハチマルと書いてある。
「マジになってるよ」
苦笑いする英二を見て宗哉がフッと笑う、
「僕たちも負けてられないな」
顔を見合わせると英二と宗哉も作業に戻った。
女子たちは調理実習室でカップケーキとクッキーを作っている。
サンレイとガルルンと小乃子と晴美と委員長が同じ班だ。
「カップケーキはオーブンに入れたぞ」
オーブンを覗き込んでいたサンレイが元気にやって来る。
「次は何すんだ? 」
みんなと一緒に作るのは楽しいのか、普段は手伝いなどしないサンレイも今日は積極的に仕事を買って出る。
「クッキーは型抜いて並べてあるがお、ケーキの後で焼けば完成がお」
ガルルンが焼く前のクッキーをトレイに並べて使っていない調理台の上に置いた。
「クッキーも終わりだぞ、忙しかったのは初めの30分で後は焼くだけだぞ」
拍子抜けするサンレイの頭を小乃子がポンポン叩く、
「混ぜたり捏ねたりして生地を作るだけだからな」
使い終わった調理器具を洗っている晴美の隣りにガルルンがやってくる。
「いいんちゅと晴美が教えてくれるから簡単にできたがお」
「ガルちゃんとサンレイちゃんが器用だからクッキーの型抜きも直ぐに終わったしね」
洗い物を手伝うガルルンを見て晴美が優しい顔で微笑んだ。
「わふふ~ん、晴美に褒められたがお、ガルはできる女がお」
犬耳を立てて尻尾をブンブン振って喜ぶガルルンの向かいでサンレイが得意気にペッタンコの胸を張る。
「おらは神だからな、クッキーくらい簡単だぞ」
サンレイは洗い物を手伝おうともしない、作るのは好きだが片付けはしないタイプだ。
小乃子が紙袋を持ってきた。
「んじゃ、残りの時間を使ってチョコ作りだな」
紙袋の中からチョコレート作りの材料を出して調理台に並べる。
他の班を手伝っていた委員長が戻ってきた。
「カップケーキは森川先生が見ててくれるから私たちはチョコを作っちゃいましょう」
委員長が大きな声で言うとサンレイたちだけでなく女子全員が嬉しそうにチョコレートを作り始める。
鍋に水を入れて沸かすのを見てガルルンが首を傾げる。
「お湯でチョコを溶かすがお? お湯と混ざっても固まるがう? 」
チョコを流し入れるハート型や星型の紙カップやトッピングに使うカラフルなシュガーパウダーを小乃子と一緒に用意していたサンレイが鍋をじっと見つめる。
「水増しだぞ、チョコをお湯に溶かして水増しするんだぞ、少ないチョコで済むぞ、義理チョコは水多目で本命は殆ど水を入れないんだぞ」
ガルルンがバッと顔を上げた。
「マジがお!! そんな方法が…… 」
チョコが溶けやすいように包丁で小さく砕いていた委員長が手を止める。
「ありません! お湯と混じったら固まらないでしょ、サンレイちゃんは自信満々で無茶苦茶言うよね」
ガルルンが委員長を見つめる。
「じゃあ、お湯沸かしてどうするがお? カップラーメン作るがう」
「そだぞ、カップ麺食うんだぞ、みんなで早弁だぞ」
委員長がチョコにガンッと包丁を振り下ろす。
「食べません! 」
叱った後で委員長が大きく溜息をついた。
「お湯を使ってチョコを溶かすのよ、説明するより見た方が早いわね」
委員長が頼むというように晴美を見つめる。
わかったと言うように頷くと晴美がテキパキと手を動かす。
「チョコはお湯の中に直接入れないよ、別の入れ物の中にチョコを入れてそれをお湯に浸けるんだよ、お湯が混じらないで温められるでしょ、湯煎って言うんだよ」
晴美が説明しながら大きな鍋で沸かした湯の中に小さい鍋を入れてそこへ砕いたチョコを入れていく、
「お湯を使ってチョコだけを溶かすがお、湯煎がう、覚えたがお」
鍋を覗き込んで感心するガルルンの向かいでサンレイが面倒臭そうに口を開く、
「二度手間だぞ、チョコを入れた鍋を火に掛けた方が早いぞ」
「焦げちゃうでしょ、焦げると苦みが出たり溶けずに舌に残って食感が悪くなるわよ」
呆れ顔で言うと委員長がまたチョコを砕き始めた。
「焦がした鍋洗うのも面倒だしな」
チョコを砕く委員長の手元を見て小乃子が続ける。
「サンレイとガルちゃんにやって貰った方が早いんじゃないか? クラスの男子全員分だと結構あるぜ」
「そうね、チョコ砕くの結構力がいるのね」
こたえると委員長がガルルンを呼んだ。
「ガルちゃん、チョコが溶けやすいように小さく切ってくれる」
「細切れにすればいいがお? ガルの爪で細切れにしてやるがお」
「爪は一寸……包丁を使って頂戴」
爪を伸ばすガルルンを見て委員長が苦笑いをしながら包丁を渡す。
「わかったがお、包丁も得意がう、母ちゃんの手伝いしてるがお、魚も捌けるがお」
ガルルンが包丁でチョコを砕いていく、
「あら! 本当に旨いわね」
コンコン小気味良くチョコを刻んでいくのを見て委員長が褒める。
それを見てサンレイがやってくる。
「おらも出来るぞ、チョコなんておらの敵じゃないぞ」
「敵って……じゃあ、私の残りをお願いするわ」
委員長と代ってサンレイが包丁を握り締める。
「こんなの簡単だぞ、ガルルンに出来ておらに出来ない事なんてないぞ」
サンレイがガンガン音を立ててチョコを砕いていく、削ぎ落とすように切っているガルルンと違いサンレイは力尽くだ。
「まあいいか、砕ければいいんだし」
張り合うサンレイを見て委員長が苦笑いだ。
チョコを砕きながらサンレイが楽しそうに口ずさむ、
「ティンクル、ティンクル、チョコレ~ト♪ 」
晴美と一緒にチョコを溶かしていた小乃子が振り向く、
「チョコの歌か? 聞いたことないぞ」
「知らなくて当然だぞ、小乃子が生まれる前のコマーシャルだぞ、昔のチョコのCMだぞ」
一足早くチョコを刻み終えたガルルンが包丁を置いた。
「チョコのCMならガルも知ってるがお」
ガルルンが得意気に鼻を鳴らす。
「クェ、クェ、クェ、チョコ坊主~~♪ クェ、クェ、クェ、チョコ坊主~~♪ 」
サンレイが手を止めてガルルンを見つめる。
「凄ぇ歌だぞ、生臭坊主じゃなくて生チョコ坊主だぞ、ハゲ頭がチョコでコーティングされてる坊主だぞ、お口で溶けて毛で溶けないんだぞ」
「どんなチョコだ! そんな坊主怖すぎるわ」
怒鳴る小乃子の横で湯煎していたチョコを混ぜていた晴美も手を止める。
「ガルちゃん、坊主じゃなくてボールだからね」
「坊主じゃなかったがお? ガルはずっと坊主と思ってたがお、がへへへへっ」
弱り顔の晴美を見てガルルンが恥ずかしそうに笑った。
晴美が湯煎していたチョコの具合を確かめると委員長が手をパンパン叩いた。
「はいはい、お喋りはそこまで、チョコが溶けたわよ、クラスの男子に配るのから先に作りましょう、私が型に流すからサンレイちゃんとガルちゃんはトッピングをお願い、小乃子と篠崎さんは2人を手伝ってあげて」
椅子に座って休んでいた小乃子が立ち上がる。
「オッケー、義理チョコで練習して本命を作るって事だな」
「流石委員長、サンレイちゃんとガルちゃんは初めてだからね」
湯煎を委員長に任せて晴美がガルルンの隣りにやって来た。
「型に流して固めるだけだと味気ないからね、トッピングで手作り感を出さないとね」
溶けたチョコが入っている小さい鍋を持って委員長が並べてある型の前にやってくる。
「あたしがトレー持ってくるから菜子は此処で入れてくれ、それで向かい合わせになってサンレイが手前のトレーをガルちゃんが奥のトレーにトッピングだ」
カップケーキやクッキーの時は今一やる気のなかった小乃子が張り切って仕切り出す。
「了解、急にやる気出したわね」
クスッと笑う委員長の前に小乃子がトレーをスライドさせた。
「いいから早く入れろよ、固まって流れ難くなるぞ」
「はいはい、じゃあ始めるわよ」
小乃子が型を並べてあるトレーをスライドさせていく、そこへ委員長がチョコを流し込んでいった。
小さな型にチョコが流れていくのをサンレイとガルルンがマジ顔で見つめている。
「飾り付けはセンスがいるからな、おらにピッタリだぞ」
何処から湧いてくるのかサンレイは自信満々だ。
「どれくらい入れたらいいのか分からないがお、晴美と一緒にするがお」
カラフルなパウダーを前にガルルンが不安気に晴美を見つめる。
「うん、一緒にやろうガルちゃん、全部のチョコに同じくらいに入るように少しずつ振り掛けていくんだよ、慌てなくてもいいからね、チョコは直ぐに固まらないからね」
「わふふ~~ん、晴美と一緒に美味しいチョコを作るがお」
優しい晴美と一緒にトッピングの用意をしていくガルルンの向かいでサンレイが小乃子を見上げる。
「ガルルンに負けてられないぞ、おらたちの芸術的センスを見せてやるぞ」
「任せろ、あたしに掛かれば男心など一コロだぜ、義理チョコで男子全員サンレイに惚れさせてやるよ」
ガルルンと晴美に対抗意識剥き出しのサンレイと小乃子を見て委員長が溜息をついた。
昼休みになる。
ネームプレートを作り終えた男子たちが教室に戻ってきた。
「女子はまだみたいだね」
爽やかに言う宗哉の後ろでサーシャとララミが弁当を鞄から取り出すと机の上に置いて昼食の準備だ。
「予定外のチョコレートまで作ってるからな」
言いながら英二が実習で作ったガルルンのネームプレートを机の中に仕舞う、
「チョコ楽しみだぜ、サンレイちゃんとガルちゃんに委員長、3人からチョコ貰ったってバイトの店長に自慢してやるぜ」
秀輝は朝から浮かれっぱなしだ。
「僕も楽しみだよ、バレンタインでこれ程嬉しいのは初めてだよ」
宗哉は登校してから昼休みまでの間に他のクラスの女子はもちろん下級生や上級生までからもバレンタインチョコを貰って鞄に入りきらずに用意してきた紙袋2つも満タンだ。
爽やかスマイルの宗哉を秀輝が睨み付ける。
「厭味かよ、お前は中学の頃からいっぱい貰ってたからな」
英二が秀輝の肩をギュッと掴む、
「止めろよ秀輝、俺たちじゃどうやっても勝てないよ」
「でもよぅ、実際不公平だぜ、金持ちな上にイケメンだぞ、頭も良いし、俺が勝ってるのってスポーツだけだぜ」
不満顔の秀輝を見て英二が声を出して笑い出す。
「あははははっ、僻むなよ、宗哉はモテて当然だよ、格好良いし勉強も運動も出来るし、なんと言っても女に優しいからな」
「まぁな、可愛いとか不細工とか関係無しに女には優しいからな、俺には真似できんぜ」
機嫌を直したのかニヤッと口元を歪める秀輝の前で英二が楽しそうに続ける。
「あははっ、それがチョコの数で出てくるんだな」
「だな、テストの点数みたいだぜ」
互いを見て笑い合う2人の会話に爽やかスマイルの宗哉も入ってくる。
「数じゃないよ、欲しい人から貰えるのが一番なんだからさ」
秀輝がチラッと宗哉を見た。
「まぁな、知らない女から100個貰うよりサンレイちゃんとガルちゃんに1つずつ貰った方が嬉しいからな」
もう怒ってはいない、先程ムッとしたのも冗談半分だ。
宗哉のことは昔は只の厭味なヤツとしか思っていなかったが今は英二と並ぶほどの大事な友人になっていた。
秀輝の横で英二が考えるように腕を組む、
「う~ん、ガルちゃんはともかく、俺はサンレイに貰うより他の女子10人くらいから貰えた方が嬉しいけどな」
「あ~っ、言ってやろ、今の聞いたらサンレイちゃんに半殺しにされるぜ」
声を大きくする秀輝の向かいで宗哉がサッと後ろを向いた。
「サーシャ、今のは録音しているな、その記録は消さずに保存しておいてくれ」
「はい、会話は全て録音していますデス、先程の英二くんの言葉は上書きせずに記録保存しておきますデス」
「御主人様、私の動画データーはどうしますか? 英二さんがサンレイ様に無礼をした証拠として記録しておきましょうか? 」
大きな胸に右手を当ててサーシャがこたえる隣でララミが『どうしましょう』と言うように小首を傾げる。
「もちろん記録だ。後でサンレイちゃんに報告しないとな」
笑いながら言う宗哉の前に英二が飛び出す。
「わあぁぁ~~、消してくれ、全部消去だ。冗談だからな冗談」
「どうしようかなぁ~、サンレイちゃんには何でも相談するって言ってるからなぁ~ 」
「だな、サンレイちゃんのチョコより他がいいなんて酌量の余地がないぜ」
秀輝だけでなく宗哉も珍しく意地悪顔だ。
「ちょっ、冗談だからな、言うなよ、絶対だぞ、スマホ壊して機嫌悪かったのがやっと治ったところなんだからな、頼むから言うなよ、絶対だぞ絶対」
焦りまくる英二を見て秀輝も宗哉も大笑いだ。
10分程して女子たちが戻ってきた。
「おなかペコペコがお」
カップケーキの入った袋を下げながらガルルンが教室に入ってくる。
「ペコペコでおなかとお尻がくっつくぞ」
カップケーキの入った袋を持ったままサンレイがおなかを摩る。袋の中でカップケーキが揺れるのも一切気にしていない。
2人の後ろから作ったチョコとクッキーが入った紙袋を持って委員長と小乃子と晴美がやってくる。
「お尻じゃなくて背中でしょ、サンレイちゃんは時々凄く下品になるよね」
「おなかと背中がくっつくぞだからね」
弱り顔の委員長の横で晴美が楽しそうに言った。
サンレイが2人を見てニヤッと笑う、
「にひひひひっ、お尻であってるぞ、食べた物が凄い勢いで出て行くんだぞ、そんで腹ペコになるんだぞ、各駅停車じゃなくて胃と腸飛ばして肛門直行列車だぞ」
「サンレイちゃん! 御飯の前にバカ言わないの!! 」
叱る委員長を見て秀輝の席で弁当を食べていた英二が大きな溜息をつく、
「委員長、殴っていいからな、バカな事言ったら引っ叩いてくれ」
「叱るけど叩きはしないわよ」
委員長が怒っていた顔を弱り顔に変える。
「拗ねたら厄介だからな」
小乃子の一言でその場の全員が納得だ。
「くっつかないけど確かにおなかは減ったね」
微笑みながらサンレイをフォローする晴美の手をガルルンが引っ張る。
「サンレイは腹減りすぎてバカになってるがお」
呆れ声で言うガルルンにサンレイがくるっと振り返る。
「んだと、ガルルンは年中無休でバカだぞ」
カップケーキの入った袋が大きく揺れるのもお構いなしだ。
「バカはサンレイちゃんです。カップケーキが潰れるでしょ」
委員長に怖い目で睨まれてサンレイが慌てて袋を机の上に置いた。
「にへへへ……大丈夫だぞ、カップケーキはセーフだぞ、おなか減って乱暴になってただけだぞ」
誤魔化すサンレイの頭を小乃子がポンポン叩く、
「何言ってんだ。サンレイとガルちゃんは失敗したクッキーやカップケーキを食べてただろが、その袋に入ってるより食べた分の方が多いだろ」
「うん、他の班のも貰って食べてたよね」
サンレイの前、自分の席にチョコとクッキーの入った紙袋を置くと晴美も苦笑いだ。
「甘いのは別腹なんだぞ、おなかの中で臨時列車が通るんだぞ」
「はいはい、それ以上バカ言ったらマジで怒るわよ」
「にへへ……冗談だぞ、さっさと飯食うぞ」
笑顔だが有無を言わせぬ委員長の圧力にサンレイが卑屈に笑って誤魔化した。
「チョコはどうするがお? 」
「おおぅ、忘れてたぞ」
首を傾げるガルルンの前でサンレイが椅子の上に立った。
「チョコは飯食った後で配るぞ、だから男子は遊びに行くなよ」
大声で言うサンレイに男子たちが分かったと言うように手を上げたり振り向いたりしてこたえた。
「サンレイ様、お弁当デス、本日は保温容器で持ってきましたから熱々をどうぞデス」
「中華料理メインですから今日はウーロン茶です」
サーシャとララミが弁当を持ってきてくれた。
宗哉が自分の分と一緒に毎日持ってきてくれるのだ。500㎜ペットボトルのお茶もサンレイたちだけでなく小乃子たちの分も用意してくれている。
「おう、サンキュー、凄ぇ良い匂いするぞ」
「わふふ~~ん、中華がお、この匂いは豚の角煮とエビチリにちまきも入ってるがお」
喜ぶサンレイとガルルンに一礼してサーシャとララミが戻っていった。
「さっさと飯食おうぜ」
小乃子も待ちきれないといった様子で英二の椅子に座る。
左右からガルルンとサンレイが英二の机と自分の机を合体させて昼食の用意完了だ。