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第79話

 団地の階段を英二と秀輝が上っていく、


「2階に隠れてやり過ごすぜ」

「わかった……少し休みたい、体が変なんだ」


 いざとなれば飛び降りることの出来る2階の廊下に2人が身を潜める。


「変って? 大丈夫か」


 心配そうに顔を覗く秀輝を見て英二がぎこちなく笑う、


「大丈夫だ。変って言うか、腹が立ってきてムカムカして切れそうな感じだ」

「そういう事か、あいつムカつくからな、雑魚妖怪のくせによぉ」


 吐き捨てる秀輝の前で英二がぎこちない笑みを浮かべたまま続ける。


「爆発は音波で弾き返されるし……何か武器になるものはないかな」

「だな、バットか何かあるかと思ったんだが箒しか落ちてないぜ」


 一番近くのドアの前に転がっていた箒を秀輝が握り締める。

 プラスチックパイプで出来た箒だ。箒の毛自体は抜けて殆ど残っていない、使い込まれて捨てられた箒である。


「どこへ隠れたクソ人間ども~~ 」


 直ぐ近くから呼子の声が聞こえて2人が黙り込む、


「出てこいクソ人間~~、2人纏めて喰らってやる」


 直ぐ下を歩いているのが声から分かった。

 英二が2階の廊下から下を歩く呼子に両腕を向ける。


「6寸玉! 」

「爆突、8寸玉! 」


 左手で爆発する気を放つと少し間を置いて右からも放った。


「ヤッホォォ~~ゥ 」


 サッと振り返った呼子が音波で初めの爆発する気を相殺する。


「ギヘェヘェェ~~ 」


 大きな呻きを上げて呼子が吹っ飛んで転がった。

 続けて放った2発目が直撃したのだ。


「やったぜ英二! 」

「ああ、直撃だ」


 頭から血を流して倒れている呼子を見て秀輝と英二がハイタッチで喜んだ。


「ゲゲッ……ゲヘヘヘヘッ」


 呼子がムクリと起き上がる。


「ヤッホッホォォ~~ゥ 」


 大きな声と共に英二と秀輝が隠れいてる団地だけでなく向かいの団地の壁が弾けるように粉砕していく、


「やべぇ! 」


 英二の肩を引っ張って秀輝が手摺りから離れる。

 次の瞬間、先程まで寄り掛かっていた手摺りが粉々になって落ちていった。


「降りるぞ」


 亀裂の走る廊下を2人が降りていく、


「ゲヘヘッ、見つけたぞ」


 下で呼子が待ち構えていた。

 後ろは団地だ。2人に逃げ場は無い。


「くそったれが! 」


 秀輝がプラスチック製の箒で殴り掛かる。


「そんな物が効くか」


 呼子に弾かれて箒が英二の足下に転がった。


「がふっ! 」


 首根っこを掴まれて秀輝が呼子に捕まった。


「秀輝! 」


 叫ぶ英二の前で呼子の後ろに反った頭が蓋を閉めるようにパコンっと元に戻る。


「まずはこいつを食ってやる。ゲヘヘヘヘッ」

「6寸……くそっ! 」


 爆発する気を放とうとした英二の前に呼子が首根っこを掴んだ秀輝を見せる。

 秀輝を盾にされては爆発能力では攻撃できない。


「ゲヘヘッ、そこで見ていろお前も直ぐに喰らってやる」


 呼子が大きく開いた口を秀輝の頭へ近付ける。丸呑みするつもりだ。


「ぐぅ……英二……俺はいい……やってくれ………… 」


 首根っこを掴まれた秀輝が苦しげに英二に手を伸ばす。


「秀輝っ、くそぅ」


 足下に落ちていた箒を英二が拾い上げる。


「秀輝を放せ!! 」


 英二が箒で殴り掛かる。

 呼子は避けもしない、先程秀輝に殴られた箒だ。

 避ける必要など無いと考えたのだろう、右手で秀輝を持ち上げているので当たらないように英二は左から殴り掛かった。


 呼子の左脇腹に箒が当たった。

 その瞬間眩しい光がバッと輝く、


「グヒェェ~~ 」


 呼子が叫びながら吹っ飛んでいく、同時に右手で捕まえていた秀輝が英二の足下に転がった。


「秀輝大丈夫か」


 箒を置いて英二が秀輝を抱きかかえる。


「がはっ、大丈夫だ。何が起きたんだ? ピカッて光ったぜ」


 上半身を起こした秀輝が驚いた顔で訊くが英二が分からないと首を振る。


「俺にも分からん、でも箒に力を込めてたような気がする。手を刀みたいにして爆発させる爆刀を箒でやった感じだ」

「箒か? 」


 落ちている箒を拾うと秀輝が立ち上がる。


「これで殴ったら吹っ飛んだんだな」


 秀輝が軽く箒を振る。

 その先が地面に当たった瞬間パッと光って秀輝が後ろに倒れて尻餅をついた。


「なっ……なんだ? 何が起きたんだ英二? 」

「凄い、地面が抉れてるぞ」


 箒が当たった場所に30センチ程の穴が空いていた。

 コンクリートではなく踏み固めたような硬い土だが30センチも深く掘るには英二の爆発能力でも中くらいの4寸玉程度の爆発が必要だ。

 驚きながら秀輝が立ち上がる。


「凄いぜ、いつの間にこんな技を使えるようになったんだ」

「俺にも分からん、爆発じゃ秀輝が怪我をすると思って箒を使っただけだ」


 言いながら何かに気付いたのか英二がハッとして秀輝を見つめた。


「そんな事より凄いぞ」

「何が凄いんだ? 」


 不思議そうに聞き返す秀輝に英二が興奮した様子で話し始める。


「俺じゃなくて秀輝が使っても力が出ただろ、秀輝が箒で地面に穴を開けただろ」

「なっ……マジだ。マジで俺だけだ。英二は何もしてなかったよな」


 落ちていた箒を秀輝がまた拾う、


「試してみるぜ」


 今度は団地の壁に箒を振り下ろす。


 バシッ! 眩しい光を上げると団地の壁に30センチ程の穴が空き、そこから亀裂が四方に伸びる。


「マジだ……マジで俺だけで壁を壊せたぜ、どうなってんだコレ? 」


 秀輝が驚きながら英二を見つめた。叩き付けた箒を今度は放さない、握り締めた手が少し痺れている。


「分からないけど、秀輝の力か、そうじゃないとしたら俺が無意識に霊力を箒に流したからかも知れないな」

「俺にこんな力があるかよ、お前の霊力が箒に移ってんだぜ」


 秀輝が箒を差し出した。


「何だ? 」

「霊力を込めてくれ、この箒があれば俺も戦えるぜ」

「そうか! やってみるよ」


 箒を受け取ると英二は気を集中して力を箒に流し込むように意識する。

 暫くして箒がボワッと白く光り始める。


「やっぱ英二の力だぜ、俺じゃなくてがっかりだがこれで戦えるぜ」


 英二から箒を受け取ると秀輝がニッと笑った。



 5メートルほど吹っ飛んで転がっていた呼子が起き上がる。


「ゲヘヘッ、まだそんな力を……やはり手足を引っこ抜いてから喰おう」


 呼子が大きな口を開ける。


「ヤッホォォ~~ゥ 」

「5寸玉! 」


 英二が並んで立つ秀輝の前に爆発する気を放って呼子の音波攻撃を相殺する。


「この野郎! 」


 秀輝が箒を使って呼子に殴り掛かる。

 バシッと光り輝くと呼子が吹っ飛んでいく、


「ヘギェェ~ 」


 地面に転がる呼子を見て秀輝がニッと笑う、


「やれるぜ、これがあれば俺も戦えるぜ」

「やろう、俺たちで呼子を倒そう」


 嬉しそうに言う秀輝を見て英二が頷いた。


「俺を倒すだと、クソ人間どもがっ! 」


 ガバッと起き上がった呼子が蓋を開けるようにバカッと頭を後ろに反らして大口を開いた。

 後ろ以外の周り全てを攻撃できる呼子の本当の力だ。


「ヤァッホッホォォ~~ゥ 」

「6寸玉! 」


 秀輝の前に出ると呼子に向かって爆発する気を放つ、呼子の音波攻撃と相殺して英二の爆発する気も消えていく、


「俺が行くから援護してくれ」


 霊気の籠もった箒を握り締めて秀輝が走って行く、


「ヤッホォォ~~ 」


 呼子がまた音波攻撃を放つ、秀輝の後ろについて走っていた英二が爆発する気を飛ばす。


「4寸玉! 」


 音波攻撃を爆発する気で相殺する。

 その間に秀輝が呼子に辿り着く、


「この野郎!! 」


 秀輝が箒を振り下ろす。


「グヘェ~ 」


 呼子が呻きながら地面に転がる。


「止めを刺してやるぜ」


 倒れた呼子に箒を振り下ろした瞬間、呼子がブレるように姿を消した。

 バシッと光を放って霊力の籠もった箒が地面を抉る。


「くそっ、また消えやがった」

「ゲヘヘヘッ、貴様らぶっ殺してやる」


 右から笑いが聞こえたと思ったら左から声が聞こえてくる。


「くそっ、出てきやがれ! 」


 秀輝が箒を振り回すのを英二が止める。


「俺に考えがある。ここじゃダメだ。向こうに行こう」


 英二について秀輝が走る。

 先程、英二の爆発で穴が空いた団地の傍にやって来る。


「ここで戦うのか? ガラスも落ちてるし破片だらけだぜ」


 秀輝が顔を顰めるのも無理はない、硬い土の上にコンクリートやガラスの破片などが散乱している。

 英二が秀輝に耳打ちをした。


「成る程な、了解だぜ」


 秀輝が箒を握り締める。


「ヤァッホォォ~~ゥ 」


 呼子の声に反応して英二が爆発する気を放つ、


「爆練、4寸玉! 」


 姿が見えないので方向が分からない、英二は自分たちの周りを囲むように爆発させて呼子の音波攻撃を相殺させた。


「ゲヘヘヘッ、やるじゃないか、だがいつまで持つかな、ゲヘヘヘヘッ 」


 近くから声が聞こえてくるが移動しているので場所の特定が出来ない。


「ヤッホッホォ~~ゥ 」

「爆練、4寸玉! 」

「爆練、2寸玉! 」


 音波攻撃を相殺させると続けて英二が小さな爆発を起こした。

 爆発によって転がっていたコンクリートや石膏ボードなどの建材の破片が粉々になって粉塵が舞う、灰色の煙の中でブレる呼子の姿が浮かび上がった。


「そこだ!! 」


 秀輝が箒で殴り掛かる。

 バシッと手応えがあり呼子の呻きが聞こえた。


「ギヒェィ~~ 」


 地面に転がった呼子が姿を現わす。

 透かさず秀輝が箒を振り下ろした。


「ゲヒヒィ~~ 」


 這いずるように逃げ出す呼子を追って秀輝が4発目を喰らわす。


「ガフッ! ゲヒヒィ~~、助けてくれ~~ 」

「何言ってやがる。てめぇはぶち殺す」


 箒で叩き付けようとした秀輝を英二が止める。


「わかった。助けてやる。サンレイやガルちゃんたちを、スマホに引き込んだみんなを返せ、そうしたら助けてやる」

「ヘヒヒィ~、分かった。返す。返すから助けてくれ…… 」


 頭から血を流しながら呼子が止めろと右手を伸ばした。


「ちっ、英二は甘いぜ」


 不満そうにしながら秀輝が構えていた箒を下ろす。

 倒れていた呼子が小さく口を開いた。


「ヤッホォ~~ 」

「ぐっ、この野郎! 」


 秀輝が箒で殴り掛かるが光も無く呼子は平然としている。

 呼子が消えた時に地面を叩き付けたのを入れて今殴り掛かったのが6発目だ。


「なっ……箒の霊力が切れたのか…………くそっ 」


 後ろで英二がフラついて倒れる。

 どうやら先程込めた霊力では五発が限界らしい。


「英二……また霊力を………… 」


 箒を差し出そうとするが振り返った秀輝も膝をついていた。


「ゲヘヘヘッ、どうだ動けまい、三半規管が狂って暫く歩くこともできんだろう、動き封じの妖音波は大口を開かなくても使えるんだ」


 楽しそうに笑いながら呼子が立ち上がる。


「ゲヘヘッ、俺の勝ちだ。貴様ら2人ともこのまま喰らってやるわ」


 地面に転がりながら英二が呼子を睨み付ける。


「約束はどうした? みんなを返すって約束は…… 」

「ゲヘヘヘヘッ、知らんな、俺の勝ちだ。捕まえた人間も全て俺が食ってやる」


 笑いながら呼子が秀輝に腕を伸ばす。


「秀輝!! 」


 叫んだ英二の全身から白い湯気のような光が沸き立つ、


「体が……頭がハッキリしてきた」


 白い光に包まれて英二が上半身を起こす。


「なっ、なにを……確かに三半規管を狂わせたはずだ。貴様何をした」


 驚く呼子の前で英二がスッと立ち上がる。


「何もしてないよ……いや、これからするんだ」


 低い声で言いながら英二が落ちていた箒を拾う、


「これからお前をぶちのめす! お前だけは許さない!! 」


 英二が吠えた。怒りが躰を駆け巡る。


「ははっ、英二のヤツ切れやがったぜ」


 膝をついていた秀輝が苦しそうに笑った。

 何とかしたいが頭がフラついて立ち上がることも出来ない。



 秀輝から少し離れて呼子が英二の正面に立つ、


「ゲヘヘヘッ、お前から先に喰ってやる。力を手に入れて大妖怪になってその祝いにこいつは喰らってやろう」


 後ろに反った顔の大きな目がニタリと秀輝を見つめた。


「そんな事させるかよ! 」


 英二が左手を突き出す。


「爆突、8寸玉! 」

「ヤァッホホォ~~ゥ 」


 英二の爆発する気を呼子が音波で防ぐ、後ろ以外の周り全てを攻撃する音波だ。


「秀輝!! 」


 英二が守るように秀輝の前に出る。

 爆発する気は間に合わない、やられたと思った。

 その時、英二の全身を包んでいた光が眩しく光った。


「なに!? 俺の音波攻撃を防いだだと…… 」


 平然と立つ英二を見て呼子が驚きに目を見開いた。


「英二お前…… 」


 呼子だけでは無い、後ろで秀輝も驚きに言葉が続かない。


「心配無い、さっきから力が湧いてくる。力が体中を回っているのが分かるんだ」


 秀輝に笑いかけると英二が前に向き直る。


「卑怯なことしやがって、覚悟できてるんだろうな」


 低い声で言うと英二が呼子を見据えた。


「ゲヘヘッ、クソ人間が偉そうに」


 頭を後ろに大きく反らせたまま呼子が大声を出す。


「ヤァァッホホッホォォ~~ゥ 」


 今までで一番大きな声だ。

 英二が秀輝を庇うように両手を広げる。


「そんなもん二度と効くか! 」


 光り輝く英二が呼子の最大の音波攻撃を防いだ。


「なに……俺の最大攻撃を………… 」


 驚く呼子に英二が箒で殴り掛かる。


「グヘェ~ 」


 吹っ飛んで転がった呼子を追って英二が跳んだ。

 5メートルほど先に転がる呼子の元へ着地する。

 普段の英二なら走り幅跳びでも2メートルも跳べない、それが今は5メートルほどを余裕で跳んでいる。


「喰らえ! 」


 ありったけの霊力を込めて英二が箒で殴り掛かる。


「グゲェ~ 」


 呻く呼子の右手が千切れて飛んでいく、


「待て、待ってくれ……助けてくれ、俺が悪かった。謝る。捕まえた人間も全部返す。だから助けてくれ………… 」


 両腕を失った呼子が足を使って這うように後退る。


「信じられるかよ!! 」


 英二が箒を連続で振り下ろす。


「ギヘッ、グヘッ、ガガッ、ヒゲェ、ガヒィ~ 」


 呻きを上げて呼子が動かなくなった。


「お前だけは…… 」


 全身から血を流して動かなくなった呼子を英二が箒で何度も叩き付ける。


「英二止めろ!! もういい、お前の勝ちだ」


 フラつきながら秀輝が後ろから抱き付いて英二を止めた。


「俺の勝ち……俺が……やったのか………… 」


 脱力したのか英二がその場にへたり込む、後ろから抱き付いていた秀輝も一緒に倒れて脇に転がる。


「ああ、お前の勝ちだぜ、大したもんだぜ」

「秀輝が居たからな、俺一人じゃ勝てないよ」


 転がる秀輝と目を合わせて英二が笑った。

 肩で息をつきながら笑う英二の体を覆っていた靄のような白い光がぶわっと吹き出してくる。

 同時に英二が悲鳴を上げた。


「ががっ、ぐわぁあぁぁ~~ 」

「どうした英二! 」


 フラついて震える両手を着いて秀輝が上半身を起こす。


「ががっ……体が……があぁぁ~~ 」


 喉を掻き毟るようにして英二が苦しみ出す。


「英二! 大丈夫か英二!! 」


 抱き留めようと近付いた秀輝が白い光に弾かれるように吹っ飛んで転がる。


「ぐぅぅ……英二………… 」


 痛そうに腕を摩りながら秀輝が上半身を起こす。


「何が……どうしたらいい英二」


 不安気に呟く秀輝の横に何かが空から落ちてきた。


「よいしょっと、やっと出てこれたぞ」


 聞き覚えのある呑気な声に秀輝がバッと振り向くと笑顔のサンレイが立っていた。


「サンレイちゃん」


 秀輝が泣き出しそうな顔でサンレイに抱き付いた。


「サンレイちゃん、英二が大変なんだ」

「わかってるぞ、力が暴走してんだぞ、でも大丈夫だぞ、暴走なんておらが直ぐに止めてやるからな、秀輝も頑張ったな、後はおらに任せるんだぞ」


 ポンポンと頭を叩かれて秀輝がうんうん頷いた。

 そっと秀輝を離すとサンレイが苦しむ英二の正面に立つ、


「落ち着け、自分の力だぞ、制御してみろ……って言っても聞こえてないぞ」


 やれやれというように溜息をつくとサンレイが英二を抱き締めた。

 英二の体を覆っていた白い光がバッと輝く、秀輝は弾き返されたがサンレイには効かない様子だ。


「英二、おらが居るから大丈夫だぞ、心を静めろ、おらはここに居るぞ」


 サンレイの優しい声が聞こえたのか苦しんでもがいていた英二が動かなくなる。


「さっ、サンレイ……良かった」


 涙を流しながら英二がギュッとサンレイを抱き締める。


「頑張ったな、直ぐに楽にしてやるぞ」


 英二の口にサンレイが唇を重ねた。


 抱き合いながらキスをする。

 30秒か1分か、英二の全身を覆っていた白い光が消えていく、サンレイの腕の中、気を失うように英二が崩れていった。


「これでもう安心だぞ」


 地面に英二を寝かせるとサンレイが秀輝の元へとやって来る。


「秀輝怪我してるな、直ぐに治してやるぞ」


 上半身を起こして見ていた秀輝をサンレイが優しく抱いた。


「なっ? サンレイちゃん」


 驚く秀輝にサンレイが唇を重ねる。

 柔らかで温かいサンレイの唇を感じて秀輝の頭がぼぉーっとなっていく、同時に白い光が全身を覆って頬や手足についた傷を治していった。

 10秒ほどのキスだが秀輝には何分もあるかのように長く感じた。


「これで大丈夫だぞ、英二から吸い取った霊力で治してやったぞ」


 はにかむように微笑むサンレイを見て秀輝が慌てて口を開く、


「ありがとうサンレイちゃん、マジで治ったぜ、フラつきも無いし手足の怪我も痛くない、流石サンレイちゃんだ」


 照れを隠すように秀輝が立ち上がる。


「頑張ったからな、おらからの褒美だぞ」


 ニッと笑うサンレイの前で秀輝の全身が真っ赤になっていく、


「いや、俺は……それより英二は凄いぜ、呼子を倒したんだからな」


 サンレイにキスをして貰ったことは嬉しいが同時に物凄く恥ずかしくなってきて秀輝が慌てて話題を変える。


「知ってんぞ、一寸前から見てたからな」

「見てたって……何で早く助けてくれなかったんだ。どうにか勝ったけどヤバかったんだぜ、見てたんならもっと早く来てくれれば英二も暴走しなかったのに」


 顔を顰める秀輝を見上げてサンレイが続ける。


「どこまでやれるか見てたぞ、マジで危なくなったら電光石火で助けようと思ってたぞ、雑魚妖怪の呼子じゃなくてパワーアップした呼子を倒したなんて大したもんだぞ」


 とぼけ顔でこたえるサンレイを見つめて秀輝が顔を引き攣らせて苦笑いだ。


「マジでヤバかったんだぜ」

「あの呼子普通じゃないぞ、パワーアップしてるぞ」


 サンレイが呼子を指差した。


「パワーアップって? 」

「妖気だけじゃなくて霊気も感じるぞ、何か他から力を貰ったんだぞ、それにこの霊気は英二と似てるぞ」

「英二と似てるってどういう事だ? 」

「それは……たぶんそれなりの力を持ってる人間でも喰らったんだぞ、そんで力を付けたんだぞ」


 不思議そうに訊く秀輝にサンレイが言葉を濁した。

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