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第73話

 サンレイが宗哉たちを見回す。


「何がどうなってんだ? 説明しろ宗哉、何で英二死んでんだ? 」

「英二くんは死んでないからね」


 宗哉が簡潔に説明をした。

 サンレイがホレ女に向き直る。


「あいつの妖術か……あんな妖怪知らないぞ、知ってっかガルルン」

「ガルは知らないがお、匂いも知らないがう」


 ガルルンが知らないと首を振る。

 サンレイたちを見てホレ女が笑い出す。


「うふふふふっ、私の妖術が解けるなんて凄いカレーを作るのね、でも完食してないからおチビちゃんは失格ね、と言う事はカレー勝負は90点で山犬と引き分けだから、それじゃあ山犬と私の再勝負って事ね」


 ガルルンがテーブルの向こうにいるホレ女の前に跳んでいく、


「わかったがお、でも再勝負は料理じゃなくて殴り合いで決めるがお」


 両手から爪を伸ばして構えるガルルンの横へサンレイがバチバチと青い雷光をあげて現われた。


「そだぞ、おらに変な術を掛けた事を後悔させてやるぞ」


 ホレ女が数歩下がって距離を取る。


「もう少しだったのに……仕方ないわね」


 ホレ女がポケットから何かを取り出して口に入れた。


「んだ? 何か食ったぞ」


 怪訝な顔のサンレイにガルルンが振り向いた。


「この匂い……この前初物小僧が使った薬がお、水胆がう」

「何だって! あの薬か、ハマグリ女房に貰ったんだぞ」


 声を大きくするサンレイを見てホレ女がニヤリと笑った。


「うふふっ、そうよ、水胆よ、これで私の力は何倍にもなる。おチビさんや山犬にも対抗できるくらいにね」


 ホレ女の体から白い湯気のようなものが立ち上がる。

 テーブルの向こうにいた宗哉が大声を出す。


「その薬はパワーアップする薬じゃない、妖力を前借りして一時的に力が増すだけだ。前に使った初物小僧は妖力を使い果たして死にそうになった危険な薬だ」


 ホレ女が宗哉に視線を送る。


「やっぱりね……あのハマグリ女、私にこんなものを使わせるなんて…… 」


 険しい表情で呟いた後でホレ女が微笑んだ。


「宗哉とか言ったわね、心配してくれてありがとう、でも安心なさい、私はバカじゃない、薬を全部使うなんて事はしないわ、ハマグリ女房なんて信用していないから水胆は3分の1だけ食べただけ、私は惚れさせる妖術と骨を操る妖術くらいしか力はないからね、だから山犬とおチビさんと戦うには少し前借りしても力が必要なのよ」


 白い湯気のようなものを立ち上がらせてホレ女が両手を構える。

 宗哉の後ろで委員長が口を開く、


「こんな所で戦ったら佐伯くんに迷惑よ、サンレイちゃん外で戦いなさい」


 委員長に向かって待てと言うように手を出して宗哉が続ける。


「構わないよ、寧ろ外で騒ぎになるよりここで戦った方がいい」

「宗哉助かるぞ、出来るだけ壊したりしないようにするぞ」

「ありがとう、でも戦いを優先してくれ、建物は壊れても直せばいいからね」


 振り返らずにこたえるサンレイの背に宗哉が嬉しそうに言った。

 秀輝と晴美と一緒に倒れている英二を見ていた小乃子が大声を出す。


「英二が目を覚ましたよ、サンレイ、ガルちゃん、英二は大丈夫だからね」


 安堵する小乃子の向かいで英二が目を覚ましていた。


「んぁ……なん? 何がどうなって……勝負はどうなった? 」


 ガバッと上半身を起こした英二に駆け付けた宗哉が経緯を説明した。


「サンレイとガルちゃんが……小乃子も元に戻ったのか、よかった」


 秀輝に支えられるようにして英二が立ち上がる。

 英二の無事を見てガルルンが尻尾を振って大喜びだ。


「わふふ~~ん、英二生き返ったがお」


 サンレイが偉そうに胸を張る。


「流石おらの作ったカレーだぞ、死んだ英二が生き返ったぞ」


 英二の横で晴美が珍しく声を張り上げる。


「サンレイちゃんもガルちゃんも、高野くんは死んでないからね」


 まだ少し足下がおぼつかない英二を支えながら秀輝が話し掛ける。


「無茶苦茶言ってるぜ、サンレイちゃんのカレーで死にそうになったのにな」

「あははっ、一口で気絶したからな、全部食べたら死んでるよ」


 英二が楽しそうに笑った。

 サンレイたちが正気に戻った嬉しさが勝ってカレーで死にそうになった事などは吹っ飛んでいた。



 白い湯気のようなものをあげていたホレ女の体が膨れていく、


「ぐがが……ぐがあぁぁ~~ 」


 服を破いて白い骨が飛び出す。手足も肉が半分落ちて骨が見えている。

 体の彼方此方で骨が剥き出しになった熊のような大柄の体に顔だけが美女のままでついていた。


 英二の左で宗哉が顔を顰める。


「悪霊を祓った時にサンレイちゃんが骨に関係のある妖怪って言ってたよね」

「うん、言ってた。朝パンダッシュ騒動ですっかり忘れてたよ」

「骨の妖怪か、成る程な、あれが正体ってわけだな」


 こたえる英二の右で秀輝が呟いた。

 ホレ女の体が膨らむのが止まって白い湯気のようなものも止んだ。


「ぐぐぅ……何だこの醜い姿は……くそっ、ハマグリ女房め、でも力は凄いわ、確かに妖力は満ちている。これなら勝てるわよ」


 熊のような体に付いている小さな顔がニヤリと笑った。


「先手必勝がお」


 ガルルンが飛び掛かる。


「ぎゃあぁ~~ 」


 ホレ女の頭をガルルンの鋭い爪が掠めた。


「ガルルン、何持ってんだ? 」


 サンレイに言われてガルルンが右手を見ると黒い毛の塊が爪に絡みついていた。


「ぎぎぃ……山犬、私の髪を……カツラを返せ!! 」


 ホレ女の頭に毛が無いのを見てガルルンがビクッと体を震わせる。


「がわわ~~ん、本物の毛じゃないがお」


 驚きながらガルルンが右手についたカツラをブンブン振って払い落とした。

 サンレイがパァ~ッと顔を明るくする。


「おおぅ、ズラだぞ、あと乗せフサフサってヤツだぞ」


 楽しそうなサンレイを見てガルルンもパッと笑顔に変わった。


「ガルの好きなカップうどんのあと乗せサクサクと同じがお」

「違うからな! カップ麺と一緒にするな」


 嬉しそうな2人を英二が怒鳴りつけた。

 ホレ女がグワッと牙を剥く、


「貴様らぁ~ 」


 両腕を振り回して突っ込んできた。


「にゃひひひひっ、怒るなよ」

「がふふん、遅いがお、ガルにノロマは効かないがう」


 サンレイとガルルンが余裕で避ける。

 ホレ女が腕を叩き付けたコンクリートの床に引っ掻いたような深い傷がつく、爪ではない、骨だ。両手が骨になっていた。


「コンクリートが割れてるぜ」

「ガルちゃんほどじゃないけど凄い切れ味みたいだね」


 驚く秀輝の横で宗哉も同意するように頷いた。


「俺も戦うよ」


 両手に力を集中する英二にサンレイとガルルンが振り返る。


「英二はそこで見てろ! こいつはおらとガルルンでやるぞ」

「そうがお、ガルに術を掛けるなんて許さないがお」

「でも…… 」

「でももクソもないぞ、英二を狙ってんだぞ、そこから動くな」

「心配無いがお、デカいだけでノロマがう、ガル一人でもやれるがお」

「わかったよ、気を付けてね」


 2人に言われて英二が力を緩めた。

 その間にもホレ女が襲い掛かるがサンレイとガルルンは余裕で避けていく、体が大きくなってパワーは増えたが動きが鈍くなったホレ女は2人の敵ではない。


「動きは見切ったぞ、んじゃ、反撃するぞ」


 サンレイが右から飛び掛かる。


「雷パァ~ンチ! 」

「がるがるキィ~ック! 」


 左からはガルルンの蹴りがホレ女の頬にぶち当たった。


「ぐががぁ~ 」


 仰け反るようにしたホレ女が上半身を戻す。

 その顔の肉が無くなっていた。整った美人顔ではなく骨だけになっている。


「ぎぎぃ……貴様らぁ~~ 」


 落ちくぼんだ眼窩に目玉だけがギョロッとサンレイとガルルンを睨み付けた。


「おおぅ、骨になってるぞ、ズラどころか皮も被ってたんだぞ、英二のチンコと一緒だぞ」

「皮被ってたがお、包茎妖怪がう、ホレ女じゃなくて皮女がお」


 2人の話しにテーブルの向こうで見ていた英二が真っ赤になって大声を出す。


「うわあぁぁ~~、変な事言うなサンレイ」


 サンレイとガルルンの正面でホレ女が大声で怒鳴り散らす。


「誰が包茎か!! 失礼な事を言うな! 私は骨女だ。骸骨妖怪骨女だ。人や動物を惚れさせる妖術を会得して恋愛妖怪ホレ女として生まれ変わったのよ」


 英二の後ろで委員長が頷いた。


「成る程、骨女ね、妖怪図鑑に載っていたわ」


 英二が振り返る。


「委員長知ってるのか? 」

「骨女ならあたしも知ってるよ、菜子の家で妖怪図鑑見たからな、骨が着物着てんだよ」


 委員長の隣で小乃子が自慢気に言った。


「それでどういう妖怪なんだい? 」


 英二の横で宗哉が訊いた。


「それは……詳しい事は菜子に聞いてくれ」


 誤魔化すように笑いながら小乃子が委員長に丸投げする。


「まったくあんたは……そうね、恋愛妖怪ってのも強ち間違っていないわよ」


 小乃子を見て溜息をつくと委員長が説明を始める。


「美女に化けて生前好きだった男の元へ夜な夜な会いに行って情を交わす骸骨姿の女妖怪って書いてあったわ、男は気付かないが覗き見た人々によって骸骨の妖怪だって分かるのよ、もう1つ話しがあって青森県に出た骨女は安政時代に生前醜いと言われていた女が死んだ後で自分の骸骨の形が良いと人々に見せるために骸骨姿で夜な夜な町を歩いたって話しよ、その骨女は魚の骨が好物で高層に出会うと骨に戻り崩れ落ちて消えたらしいわ」


 話しを聞いて秀輝が笑う、


「なんだそれ、醜かったから死んでから美女に化けて出たんだろ、雑魚妖怪だぜ」

「止めろよ秀輝」


 聞こえては不味いと英二が止めるが遅かった。

 振り返るとサンレイがニヘッと厭な顔で笑っている。


「にゅひひひひっ、フラれた女の妖怪だぞ、元が醜いから美人に化けるんだぞ」


 隣でガルルンもバカにして笑う、


「がふふふふっ、青森のはブスの妖怪がお、骸骨の形が良いって元が良いのにブスだったって事がお」

「ホレ女でも皮女でも骨女でも無くてブス女だぞ」

「妖怪ブス女がお、負け女でもいいがお」


 大笑いする2人を見てホレ女の目がギロッと光った。


「言わせておけばバカにして……もう許さん」


 ホレ女が肋骨を飛ばしてくる。

 無限に生えてくるのか数十本も連続攻撃だ。


「おおぅ、怒ったぞ」

「がふふん、この程度でガルを倒せると思うながお」


 避ける2人の周りの床に骨が何本も突き刺さる。


「お返しだぞ」

「やってやるがお」


 サンレイとガルルンが突っ込んでいく、


「閃光キィ~ック! 」

「がうがうパァ~ンチ」


 サンレイの雷光をあげる蹴りとガルルンの炎のパンチを受けてホレ女が吹っ飛んで転がった。

 離れた所で見ていた英二が安心した顔で口を開いた。


「水胆を使ったからどれほど強いのかと思ったら大した事なさそうで安心したよ」

「だな、やっぱ雑魚だぜ、初物小僧の方が強かったよな」


 隣で秀輝も余裕の表情で戦いを見ていた。

 ホレ女がよろよろと起き上がる。


「ぐふふふっ 」


 ニヤリと笑いながら腕を振る。


「骨踊り! 」


 次の瞬間、床に刺さっていた無数の骨が一斉にサンレイとガルルンに飛んでいく、


「なっ! ブンブンバリアー 」


 サンレイが咄嗟に出した雷光をあげる電気のバリアーに骨が刺さって黒く焦げていく、


「助かったがお、ガルでも2~3本は喰らってるところがお」


 サンレイの隣でガルルンがほっと息をつく、


「ぐぐぅ……もう少しのところで」


 ホレ女がガチガチと歯を鳴らして悔しがる。


「もう一度だ。喰らえ! 」


 ホレ女がまた肋骨を無数に飛ばす。


「そんなもん効かないぞ」


 バチッと雷光を残してサンレイが消えた。


「閃光キィ~ック! 」


 パッと瞬間移動で現われると後ろから蹴りを喰らわせる。


「げがっ! 」


 前のめりに転がったホレ女がよろよろと立ち上がる。


「貴様ぁ~~、ぐがっ……ぐががぁ…… 」


 悔しげに睨んでいたホレ女が急に苦しみ始めて両膝をついた。

 サンレイがガルルンの隣りに降りてきた。


「終わりだぞ、水胆の効果が切れたんだぞ」

「妖気が小さくなっていくがお、ガルたちの勝ちがお」


 ホレ女が2人を見上げる。


「くく……もう少し……いや、初めから私の負けね…… 」


 ホレ女の体が小さくなっていき元の大きさに戻った。

 但し、元の美女ではない、骨だけの姿だ。動く骨格標本と言った方がいい、これがホレ女、いや骨女の本当の姿である。


「降参するわ、私の負けよ」


 しおらしく項垂れるホレ女の前にサンレイとガルルンが立つ、


「やけにあっさりしてんな、まぁ話し次第で許してやるぞ」

「がふふん、ガルに殺される前に降参するのは良い判断がお」


 俯いていたホレ女がフッと笑った。


「骨粉煙幕! 」


 サンレイとガルルンの隙を見てホレ女が口から白い粉を吐いた。

 周りに粉が舞って視界が遮られる。


「うわっ! 」


 英二の叫びが聞こえてサンレイとガルルンが駆け付ける。


「なっ、何やってんだ英二を離せ!! 」

「英二、直ぐに助けるがお」


 サンレイとガルルンの大声が聞こえた。

 白い煙りが澄んで視界が開ける。


「なに、英二が…… 」

「英二! 」


 秀輝と小乃子が叫び、宗哉と委員長が顔を険しく歪める。晴美は驚いて口に手を当てていた。

 みんなの目の前でホレ女が英二を抱きかかえるように捕まえていた。


「うふふっ、英二くんは貰うわよ」

「うぐぅ…… 」


 ホレ女が英二にキスをする。


「ああ~~、チューだぞ、おらの英二にチューしたぞ」

「がわわ~~ん、英二が髑髏とチューしたがお」


 大声で指差すサンレイとガルルンの前で無理矢理キスされてもがいていた英二の動きが止まった。


「うわぁ……あれは羨ましくないぜ」


 顔を顰める秀輝の横で宗哉が険しい顔で続ける。


「冗談言うな、英二くんの様子が変だよ、血色が悪くなっている」


 宗哉の横へサンレイがやってくる。


「クソ骨女が英二の霊力を吸ってるんだぞ、油断したぞ、まだ術が使えるとは思わなかったぞ、水胆を全部使わなかったから妖力残ってたんだぞ」


 悔しげに言うサンレイを見て宗哉が頷いた。


「そういう事か、水胆を使って減った妖力を英二くんの霊力で補おうって事だね」

「ガルがぶん殴って引き離してやるがお」


 飛び掛かろうとするガルルンをサンレイが止める。


「ダメだぞ、英二を殺されたらどうする? 今は手出しできないぞ」

「がぐぐ……わかったがお」


 悔しげに見つめる先でホレ女の体が白く光って骨にみるみる肉がついていく、あっと言う間に元の美女の姿に戻った。

 英二の霊力を使って回復したのだ。


「うふふふふっ、美味しかったわよ英二くん」


 ホレ女が英二の背を押して放す。


「うわっ!! 」


 よろけて倒れそうになる英二をサンレイとガルルンがサッと抱き留めた。


「今回は此処まででいいわ、英二くんが凄い霊力を持っているのは分かったからね」


 ホレ女がダダッと走り出した。


「逃がすな! ララミ、サーシャ」


 宗哉の命令でララミとサーシャがサッとホレ女の前に出るがあっと言う間に払われて床に転がる。


「ガガ……申し訳ございませんデス」

「御主人様……機能が……停止します」


 機能停止したサーシャとララミをちらっと見てホレ女が窓を破って出て行った。


「ララミ、サーシャ」


 慌てて駆け付ける宗哉に後ろから来たサンレイが口を開く、


「ララミやサーシャじゃ無理だぞ、あいつ結構強いぞ」

「そうがお、本気を出してないみたいだったがう、でも本気出してもガルが勝ったがお」


 サンレイの隣で言うガルルンを宗哉が見上げる。


「本気を出していない……今日は顔見せって事か」

「サーシャとララミは大丈夫なのか? 」


 よろよろと歩いてきた英二が訊くと宗哉が頷く、


「大丈夫だ。記憶チップはメインもサブも壊れてない、回路に負荷を掛けられて機能停止した様子だ」

「良かった…… 」


 安心して気が抜けたのか英二がバタッとその場に倒れた。


「英二くん! 」


 宗哉が慌てて英二を抱きかかえる。


「英二! サンレイ、英二が…… 」


 泣き出しそうな小乃子の背をサンレイがポンポン叩く、


「心配無いぞ、ホレ女に霊気を吸われて疲れたんだぞ、気を失ってるだけだぞ」

「そうか、良かった…… 」


 秀輝たちが見ているのに気付いて小乃子が慌てて続ける。


「違うからな、友達として心配しただけだからな……それにしても2回も気絶するなんてバカじゃないのか」


 誤魔化すように英二をバカにする小乃子の後ろからガルルンがサンレイの作ったカレーを持ってきた。


「薬持ってきたがお、これ食べれば元に戻るがお」


 弱り顔の晴美がダメだと言うようにガルルンの手を引っ張った。


「薬じゃなくてサンレイちゃんの作ったカレーだからね」


 サンレイがニヘッと厭な笑みになる。


「よしっ、食わすぞ、おらが作ったパワーアップカレー食えば霊気も満タンになるぞ」


 サンレイがスプーンで掬って無理矢理開けた英二の口に突っ込んだ。


「がはっ、ぐわぁあぁ~~ 」


 床に転がって暫く苦しんでいた英二が息をつきながら上半身を起こす。


「ハァハァ……なっ、何が……口の中が凄く気持悪い………… 」


 真っ青な顔で嘔吐く英二を見てサンレイが楽しそうに大声を出す。


「おおぅ、治ったぞ、英二もガルルンも小乃子たちも治ったからな、おらのカレーが勝ちって事だぞ、この勝負おらが一番だぞ」

「またあのカレーを食わしたのか? こっ、殺す気か! 」


 サンレイを見上げて英二が怒鳴った。


「ジェノサイドカレーだな」


 呟く小乃子の隣で秀輝が頷く、


「いくらサンレイちゃん贔屓の俺でもあのカレーだけは食えないぜ」

「でもサンレイちゃんのカレーの御陰で助かったよね」


 宗哉が英二の手を引いて立ち上がらせる。


「そうだな、ガルちゃんのも美味しかったしサンレイとガルちゃんと委員長の3人が同率で優勝って事でいいんじゃないかな」


 疲れた顔で英二が言うとサンレイとガルルンが手をあげて大喜びする。


「やったぞ、おらが優勝だぞ」

「ガルもがお、ガルとサンレイといいんちゅが優勝がお」


 嬉しそうなガルルンの頭を委員長がポンポン叩く、


「いいんちゅじゃなくて委員長ね、それで優勝すれば何があるの? 」

「えっ? それは…… 」


 自分が賞品だったとは言えずに英二が宗哉を見つめる。


「優勝者にはレストランで好きなもの食べ放題を御馳走するよ」


 爽やかな笑顔で言うとサンレイとガルルンがまた大喜びだ。


「やったぞ、パフェとアイスと肉食い放題だぞ」

「わふふ~~ん、グラタン食べるがお、チーカマも買って貰うがお」


 喜ぶ2人を見て英二がほっと胸を撫で下ろした。


「助かった…… 」


 こうして朝パンダッシュから始まった騒動は終わった。


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