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第72話

 ガルルンが鼻歌交じりにカレーの入った鍋を持ってくる。


「がおがおゴーゴー、肉が好き~、がおがおゴーゴー、魚好き~、がおがおゴーゴー、カ~ブト好き~~♪ カブトムシ美味しいがお~~ 」


 自作の変な歌を歌うガルルンを見て英二が待ったと手を伸ばす。


「カブト虫って言ったよね、カレーに入れてないだろうな? 」

「がふふん、隠し味に使おうと思ったら宗哉にダメって言われたから入ってないがお」


 鼻を鳴らすガルルンを見て英二がほっと安堵する。

 秀輝が首を伸ばして宗哉を見つめた。


「助かったぜ宗哉、お前が止めてなきゃガルちゃんマジでカブト虫使ってるぜ」

「礼はいいよ、僕もカブト虫の入ったカレーは食べたくないからね、僕の用意した食材には変なものは入ってないから此処にあるものだけを使ったカレーなら取り敢えず安心していいよ」


 宗哉の話しを聞いて英二がガルルンに質問する。


「ガルちゃんは宗哉の用意したものしか使ってないよね? 変なもの持ってきたりしてないよね、カレーに入れてないよね? 」

「英二の母ちゃんに聞いたカレーの作り方と宗哉が用意した材料しか使ってないがお」


 笑顔でこたえるガルルンを見て英二だけでなく秀輝や宗哉も安心顔だ。


「ガルちゃんのはどうにか食えそうだな」

「母さんの作り方通りならそれなりに食えるカレーになるよ、去年の年末に作ってくれたカレーは結構美味しかったからな」


 安堵する秀輝を見て英二が苦笑いでこたえた。


「がふふん、ガルの肉カレーは美味しいがお、でも残念がう、夏だったらそこらの山にカブトいるからガルが捕まえて来てカレーの隠し味に使うがお、冬だから宗哉に頼んだらダメって言われたがう、その代わり色んなお肉用意して貰ったがお」


 自慢気に鼻を鳴らしながらガルルンがカレーを盛っていく、


「夏じゃなくて本当に良かったよ」


 呟く英二の左右で秀輝と宗哉が無言で頷いた。


「肉カレーか……マジで肉がゴロゴロ入ってるぜ」


 よそられたカレーを見て驚く秀輝の隣で英二がスプーンでカレーをかき混ぜる。


「肉がゴロゴロって、肉しか入ってないよ、他の野菜とか1つも入ってないよ、カレールーと肉だけだ」


 英二の前でガルルンがドヤ顔で笑う、


「がふふふっ、ガル特製の肉カレーがお、肉以外は使ってないがう、牛と豚と鶏と、とんまのマトンに鹿と猪と兎と隠し味に熊カレーの缶詰が入ってるがお」

「鹿と猪と兎か…… 」


 弱り顔で呟いた英二の右で宗哉が爽やかな笑みを見せる。


「食材として販売されている物だから安心してくれ」

「まぁ、カレーに入ってりゃ大抵食えるぜ」


 市販されているものと聞いて秀輝は何の抵抗も無い様子だ。


「そりゃそうか、変な匂いもしないしな」


 食べる覚悟を決めた英二の前でガルルンが説明を始める。


「色んな肉をたっぷり入れてじっくりトコトン憎んだカレーがお、サンレイや小乃子たちにホレ女、ガルの敵に負けないように、敵がくたばるように憎んだがう、カレーに憎しみを込めてじっくりトコトン憎んだがお」


 ニタリと不気味に笑うガルルンを見て英二の顔が引き攣っていく、


「憎しみの甲斐があって肉が軟らかくなったがお、じっくりトコトン憎しんだ甲斐があったがお、ガル特製の肉憎しみカレー美味しいがお」

「怖いから、そんなカレーは怖いからね、憎むんじゃなくて煮込むだけだからね、ガルちゃん時々大ボケするよね、トコトンじゃなくて、じっくりコトコト煮込んだカレーだよね」


 必死で訂正させようとする英二の左で秀輝がカレーを食べ始める。


「憎しみの籠もったカレーかよ、んじゃ食ってみようぜ」


 大きな肉をスプーンに乗せて口に入れた。


「うん? 旨いぜ、何の肉か分からんが食いでのあるカレーだぜ」

「うん美味しいね、牛と豚と鶏は直ぐに分かるね、鹿は少し臭みがあるけどカレーだと抵抗無く食べられるよ、兎と猪も普通に美味しいよ」


 右では宗哉が美味しそうに食べている。

 2人の様子に安心したのか英二も一口食べた。


「美味しい……家で食べてるカレーの味だ。何の肉だろう? 一寸固いけど、臭みもあるけど……鹿か猪かな? 食べられない事はないな、むしろ慣れたら美味しいな」


 パクパク食べる3人を見てガルルンが大喜びだ。


「わふふ~~ん、英二が美味しいって言ったがお、ガルのカレーを褒めてくれたがお」

「うん、美味しいよ、90点はあげたいカレーだね」


 意外な美味しさで英二の点が甘くなる。


「だな、俺も90点は付けるぜ、家カレーなら文句なしの出来だぜ」


 秀輝は初めからサンレイとガルルンを贔屓するつもりだったので文句無しの点だ。


「そうだね、僕も90点付けるよ、ガルちゃんがこれ程のカレー作れるとは思ってなかったからね」


 宗哉も贔屓するつもりだったが驚きを込めて高得点だ。


「わふふ~ん、みんな90点がお、委員長よりも多いがう、ガルが一番がお」


 尻尾をブンブン振ってガルルンが大喜びだ。


「にゅひひひひっ、今のうちに喜んでろ、おらのカレーで蹴散らしてやるぞ」


 前に出てくるサンレイを英二が止める。


「サンレイは最後だろ、次はホレ女さんの番だ」


 その場の全員がホレ女に注目する。


「うふふふっ、おチビちゃんの言う通りよ、喜ぶのは早いわよ、私のカレーを食べて吃驚して頂戴な」


 ホレ女がカレーの入った鍋を持ってきた。


「さあ召し上がれ」


 英二たちの前にカレーの入った皿が並ぶ、


「凄い良い匂いがするぜ、本格的な店のカレーって感じだ」

「そうだね、一流の店に出てきてもおかしくない感じだね」


 英二の左右で秀輝と宗哉が確かめるようにスプーンでカレーを混ぜた。


「変な物とか術は使ってないだろうな」


 英二が確認するとホレ女が微笑みながらこたえる。


「ルール違反になるような事は何もしていないわよ、ハマグリ女房に貰ったレシピ通りに作っただけだからね」


 ハマグリ女房と聞いて英二たちが一斉にホレ女を睨む、


「ハマグリ女房の仲間って事か」

「料理勝負を挑んできたからもしやと思ったがやはりハマグリ女房が裏にいたか」


 険しい表情の英二と宗哉を見てホレ女がニッコリと笑う、


「仲間じゃないわよ、仲間だったらバラしたりしないわよ、ハマグリ女房が英二くんの事を教えてくれたのよ、簡単に力が手に入るなら誰でも望むでしょ、だから手を組んだだけ」

「ハマグリ女房と手を組むのは止めた方がいい、貴女を利用しようとしてるだけだ。旧鼠や初物小僧みたいに利用しているだけだよ」


 どうにか説得しようとする宗哉に続けて英二が口を開く、


「そうだよ、俺の霊力が欲しいなら少しくらいなら分けてあげるからさ、ハマグリ女房とは手を切ってくれ、ホレ女さんは騙されているだけだよ」

「優しいのね英二くん」


 これでもかというような可愛い笑みを向けるとホレ女が続ける。


「ハマグリ女房が何を考えているかくらい分かっているわよ、一方的に利用されるようなバカじゃないわよ、ハマグリ女房が私を利用して私がハマグリ女房を利用する。最後に笑うのは私よ、だから少しじゃダメなの、英二くんの霊力を全て貰うわ、そして大妖怪に生まれ変わるのよ、ハマグリ女房など足下にも及ばない大妖怪にね」


 妖艶な目付きで英二を見つめる。


「英二くん、私のものになりなさい、英二くんの全てをくれるなら私の全てをあげるわよ、私が大妖怪になれば人間はもちろんそこらの妖怪も手が出せなくなる。2人で楽しく暮らしましょう、どんな贅沢でも出来るわよ、英二くんの望む願いを叶えてあげるわ」


 知らない男が見たら一発で惚れてしまうような愛らしい笑みのホレ女の正面で頬を赤くした英二が惑わされまいと首を振る。


「別に贅沢なんてしたくない、俺はサンレイやハチマルにガルちゃん、秀輝と宗哉と小乃子たちと今まで通り過ごせたらいい」


 ホレ女の顔から笑みが消えた。


「そうなの……じゃあ仕方ないわね、カレー勝負に勝って賞品として英二くんを貰うだけだわ」

「何言ってんだ! そんな事させるかよ」


 怒鳴る秀輝を宗哉が止める。


「わかった。審査はする。だけど勝負を受けた時にも言った通り僕たちは貴女以外のカレーを贔屓するよ、僕たちの想像を超えるカレーでないと高得点は出さないからね」

「うふふっ、いいわよ、自信はあるから、さあ召し上がれ」


 余裕に笑うホレ女の前で秀輝がカレーにスプーンを付ける。


「それ程自信あるなら食ってやるぜ、ハマグリ女房なら料理に変な事しないだろうしな」


 英二や宗哉が警戒する中、秀輝がカレーを一口食べた。


「 !? 」


 バッと顔を上げてホレ女を見た後で秀輝が掻っ込むようにカレーを食べ始める。


「おい秀輝…… 」


 何かあったのかと聞く英二の右で宗哉が一口食べる。


「なっ!! 美味しい……こんなに美味しいカレーは初めてだ」


 宗哉もガツガツと食べ始めるのを見て英二も怖々スプーンを口に運んだ。


「なん? マジで旨い」


 英二も夢中で食べ始めるのを見てホレ女がニッコリと微笑んだ。


「うふふふっ、美味しいでしょう、お代わりもあるわよ」


 先に食べ終わった秀輝がサッと皿を差し出す。


「おっ、お代わり!! 」

「一寸待ったぁ~~ 」


 皿を受け取ろうとしたホレ女をサンレイが止めた。


「ルール違反だぞ、1人一杯だぞ、まだおらのカレー終わってないぞ、満腹になって正常な審査が出来なくなるとダメだぞ、そんで1人一杯って決めたぞ、今お代わりしたらルール違反だぞ、おらのカレーを食べた後ならお代わりしていいけど、今はダメだぞ」

「うふふっ、そうでしたね、まだおチビちゃんが残っていましたね、分かりましたお代わりは全部終わってから好きなだけ食べて下さいな」


 皿を取ろうとした手を引っ込めてホレ女が余裕に笑った。


「お代わりダメなのかよ」


 惜しそうに言う秀輝の隣で英二もあっと言う間に食べ終える。


「美味しかった……御馳走様」


 右で食べ終わった宗哉がハッとした顔をサンレイに向ける。


「サンレイちゃん、言わなければ良かったのに……そうすればホレ女さんは失格だったのに、此方からでなくホレ女さんからお代わりを勧めてきたから失格に出来るチャンスだったのに…… 」


 サンレイが自信満々にペッタンコの胸を張る。


「何言ってんだ正々堂々と勝負してやるぞ、おらのカレーは最高のカレーだからな、最高のパワーアップカレーだぞ」

「何のパワーアップするんだ? 不安しかないからな」


 怪訝に顔を歪める英二を見てサンレイがニタリと不気味に笑う、


「にゃっひっひっひっひ、おらが愛を込めたカレーだぞ、愛の力の前には味なんか関係ないんだぞ、おらのカレーで英二をノックアウトしてやるぞ」

「味は関係あるからな、味の勝負だからな」


 必死で言う英二を宗哉が止める。


「その前にホレ女さんのカレーの点数だ。僕は90点を入れる。確かに美味しいカレーだった一流店に負けないくらいに美味しかったよ、でも一流店並みの味だと予想していた通りだった。ハマグリ女房のレシピを使ったと言う事も大きい、そのレシピを使えば誰でも美味しく作れるという事だよ、つまりホレ女さんのカレーじゃなくてハマグリ女房のカレーって事で10点引いたんだよ」


 ホレ女のカレーに浮かれていた気持ちもすっかり元に戻った様子だ。

 英二の左で秀輝がコップの水を飲み干した。


「じゃあ俺も90点だな、今まで食ったカレーの中じゃ間違いなく一番だぜ、だけどガルちゃんのカレーも旨かったからな、余り料理の事を知らないガルちゃんが想像以上に美味いカレーを作った。ホレ女は料理妖怪ハマグリ女房のレシピを使った。旨くて当然だろ、だから同じ90点だ。俺にとってどっちも比べられないくらい美味しかったって事だぜ」


 2人の間で英二が頷く、


「そうだな、初めからサンレイやガルちゃんを贔屓するのは言ってあるからな、俺も90点にしとくよ、ホレ女さんを低くして負けにする事は出来る。それをしないのは本当に美味しかったからだよ」


 ホレ女が英二たちを見回して溜息をついた。


「同点で引き分けか……それじゃあ再勝負でもするの? 」


 サンレイがバッと飛んできてテーブルを両手で叩いた。


「何言ってんだ! おらのカレーがまだだぞ、寝言は寝て言え! 」


 キッとホレ女を睨み付けるとサンレイが宗哉に向き直る。


「さっさとおらの勝負を始めるんだぞ」

「そうだね、サンレイちゃんのカレーの審査を始めようか」


 宗哉が言うとメイロイドのサーシャとララミがテーブルの上を片付けて新しい皿とコップなどを持ってくる。



 サンレイがカレーの入った鍋を持ってきた。


「おらはガルルンの肉カレーに対抗してベジタブルカレーだぞ」


 蓋を開ける前から強烈な匂いが鍋から漂ってくる。


「物凄い匂いするけど何が入ってるんだ? 」


 眉間に皺を寄せた険しい顔で英二が訊くとサンレイがニッコリ笑顔でこたえる。


「人参にじゃがいもに玉葱だろ、他にも色んな野菜だぞ、そんで精がつくようにと隠し味にハブエキスとガマミルクにベニテングダケと他にも山菜たっぷりだぞ、ベジタブルカレーだからな、緑色で美味しいカレーだぞ」


 サンレイが鍋の蓋を取った。

 同時に強烈な匂いが更に濃くなる。


「何が入ってるんだ…… 」


 英二が怖々覗き込んだ。

 鍋の中には深緑色をベースに黄色や灰色が混じったマーブル模様のドロドロしたものに適当に切ったジャガイモや人参に何かわからない草のようなものが浮いている。

 はっきり言って食べ物に見えない、緑と黄色と灰色の絵の具をざっくりと混ぜたような感じである。


「うぉ! 食えるのか? 」


 左に座っている秀輝が仰け反るように顔を背ける。


「かっ、カレーだよね…… 」


 右に座る宗哉が椅子を引いて逃げ腰だ。

 3人を余所にサンレイが皿にカレーを盛っていく、緑に黄色や灰色が混じったマーブル模様のドロリとした液体が白い御飯に掛けられて見ただけで食欲を無くす代物だ。


「美味しくてパワーが出るぞ、色んな野菜や山菜にハブエキスにガマミルクが入ってるからな、元気になりすぎて今晩おらと一緒になった英二が寝かせてくれなくなるぞ、英二が今夜は寝かせないよって言ってくれるんだぞ」


 恥ずかしそうに頬を赤く染めたサンレイが英二の前にカレーの入った皿を置いた。


「いやいやいや、一緒に寝るどころか永眠しそうだからな、それよりハブエキスとガマミルクって何だ? 」


 毒々しい色をしたカレーを前にして英二が訊いた。


「ハブエキスはハブのエキスだぞ、ガマミルクはガマガエルのミルクだぞ」


 笑顔でこたえるサンレイの向かいで英二の顔が引き攣っていく、


「ハブって蛇のハブの事か? ガマってヒキガエルの事だよな、エキスとかミルクって何の事だ? どうやって取ってきたんだ」

「ハブのエキスはハブの牙から出るぞ、蛇捕まえてコップに牙当ててキュ~って絞れば出てくるぞ、そんでガマミルクはガマガエルの目の後ろ、耳の辺りから白いのが出てくるんだぞ、ガマをギュ~って押さえたら白いミルクが出てくんだぞ、それを集めて入れたぞ、精のつくエキスだぞ」


 英二が震える声を出す。


「どっ、毒だから……ハブの牙から出るのもヒキガエルの白いのも毒だから…… 」

「大丈夫だぞ、熱加えたら大丈夫だぞ、カレーにコクが出て美味しくなるんだぞ、精力つくぞ、おらと愛し合うのにピッタリのカレーだぞ」


 英二の前で照れまくるサンレイを秀輝が指差す。


「サンレイちゃん、滅茶苦茶言ってるぜ」


 英二を挟んで向こう、宗哉が頷いた。


「確かに熱を加えればハブの毒は分解されるけど……ハブやガマ以前にベニテングダケって毒茸だからね、毒性はそれ程強くないから大量に食べないと死にはしないけど……他の山菜ってのが怖いよね」


 サンレイが宗哉に振り向いた。


「大丈夫だぞ、カレーにすれば大抵のものは食えるってテレビでも言ってたぞ」

「それは普通の食材がカレー味に誤魔化されて食べられるようになるってだけで毒茸とか毒のあるものが食べられるようになるわけじゃないからね」


 宗哉は完全に引いている。端から食べる気は無い様子だ。

 サンレイが正面の英二に向き直る。


「おらは料理は苦手だから味より機能で勝負だぞ、このカレー食えばパワーが湧いて出るぞ、機能性食品だぞ、特保のマーク貰えるぞ」

「特保って言うより食べたら危険って感じなんだけど…… 」


 引きまくる英二を見てサンレイがムッと怒る。


「いいから食うんだぞ、おらが食わせてやるぞ」


 サンレイが毒々しいマーブル模様のカレーをスプーンで掬って英二の口に持っていく、


「ぅんん…… 」


 口を開かない英二を見てサンレイがニタリと不気味に笑う、


「おらのカレー食わないなら電撃を喰らわせるぞ、他の奴らに英二を渡すくらいならおらの手で………… 」

「わっ、わかった……一口だけだからな…… 」


 開いた英二の口にサンレイがスプーンを突っ込んだ。


「ぐがっ!! 」


 ビクッと背筋を伸ばして英二が硬直した。


「どだ? 旨いだろ、何たっておらの愛が籠もってるからな」

「くかっ! かっ、がが………… 」


 ひきつけを起こしたように数度痙攣すると英二が椅子ごと引っ繰り返った。


「英二!! 」

「英二くん! 」


 左右にいた秀輝と宗哉が慌てて英二を抱き起こす。


「しっかりしろ英二」

「ダメだ気を失ってる」


 宗哉が大声でメイロイドのララミを呼ぶ、


「ララミ、先生を連れてきてくれ」

「お医者様ですね、わかりました御主人様」


 ララミが急いで部屋を出て行った。


「にゃへへへへっ、大丈夫だぞ、気が飛ぶくらい旨いカレーだぞ」


 テーブルの向こうで呑気に笑うサンレイを見てガルルンがやって来る。


「ガルに勝てないって分かって英二を殺すつもりがお、カレー殺人事件がう、英二を他に取られるなら殺してしまおうと思ったがお」

「んだと! 毒なんて入ってないぞ、嘘だと思うならガルルンも食べるといいぞ」


 突っ掛かるサンレイにガルルンが鼻を鳴らして嘲笑う、


「がふふん、わかったがお、食べてやるがう、ガルには少々の毒なんて効かないがお、少しでも毒が入ってたら分かるがう、毒ならサンレイ失格でガルの勝ちがお」


 英二が食べたカレー皿からガルルンがスプーンで掬って一口食べる。


「がはっ! がおおぉ~~ 」


 悶え苦しむガルルンを見て秀輝と宗哉の顔から血の気が引いていく、


「毒だぜ…… 」

「ああ、妖怪のガルちゃんがあれ程苦しむくらいだよ、僕たちが食べたら…… 」


 気を失っている英二を見て宗哉が言葉を詰まらせる。


「ぐがっ! がはっ、がぐぅ~ 」


 苦しげに咳き込んでいたガルルンがコップの水を飲み干す。


「がう? ガルは何でここにいるがお? 此処どこがお? 秀輝と宗哉が居るがお」


 辺りを見回すガルルンに秀輝が声を掛ける。


「ガルちゃん正気に戻ったのか? 」

「このカレーか…… 」


 宗哉は自分のカレー皿を持って小乃子たちの元へと走って行く、


「委員長、篠崎さん、久地木さん、一口食べてくれ、いや食べるのはダメだな、少しだけ嘗めてくれ、ほんの少しスプーンで掬って嘗めてくれ」

「なんであたしがサンレイのカレー食わなきゃいけないんだよ」


 ムッとする小乃子に宗哉が続ける。


「公平な審判をするためだ。場合によっては再勝負と言う事もある。再勝負なら久地木さんたちも得だろう、それともこのまま負けでいいのかい? 」

「再勝負? マジか? それなら食うよ」


 小乃子の隣で委員長と晴美も頷いた。


「物凄く不味そうだけど再勝負してくれるなら食べるわよ」

「私も……でも一口だけだからね」

「約束する。ほんの少し嘗めるだけでいいからさ、サンレイちゃんが何かの術を使ったのかも知れない、術を使うと反則だ。この勝負は無効にする。その確認だよ、みんなに嘗めて確認して貰うんだ」


 流石宗哉だ。

 口から出任せを言って小乃子たちにサンレイのカレーを嘗めさせる事が出来た。


「あぐぅ……何だこれ」

「ああぁ……食べ物じゃないわよ」

「水、水を頂戴」


 小乃子と委員長と晴美が苦しみだす。

 暫く苦しんでいた3人の動きがピタッと止まった。


「何だ? 何で? 何であたしはここにいるんだ? 」

「ここは……佐伯くんの佐伯重工のサービスセンターみたいだけど…… 」

「えっ? 何が……夢の中なのかな? 」


 辺りを見回す3人を見て宗哉がほっと息をついた。


「よかった。みんな正常に戻ったようだね」

「何がどうなってんだ宗哉? 」


 質問する小乃子の左右で委員長と晴美も訊きたそうにじっと見つめる。


「みんな妖怪の術に掛かっていたんだよ、金曜日の朝パンダッシュの話しを英二くんから聞いただろ…… 」


 宗哉が簡潔に今までの事を説明した。


「なん……それでカレー勝負はどうなったんだ? 」


 驚く小乃子の前で宗哉が気を失っている英二を指差した。


「英二! 高野、高野くん」


 小乃子と委員長と晴美が慌てて駆け寄っていく、


「心配無い気を失ってるだけだぜ、サンレイちゃんのカレーを一口食って倒れたんだ」

「今医者を呼んでいるから大丈夫だよ、顔色も戻ったし呼吸も落ち着いている。ガルちゃんや久地木さんに掛かった妖術が解けるくらいの危ないカレーだけど英二くんが食べたのは一口だけだからどうにか大丈夫みたいだよ」


 秀輝が抱きかかえる英二の顔に血色が戻っているのを見て宗哉も一安心だ。

 テーブルの向こうにいたサンレイがぴょんっと飛んでやって来る。


「何言ってんだ失礼だぞ、おらのカレーが不味いわけないぞ」


 ガルルンがカレーの入った皿を持ってくる。


「サンレイも食べるがお、食べたら分かるがお」

「おらを勝たせたくないから意地悪してんだぞ、んじゃ食べて証明してやるぞ」


 サンレイがスプーンで掬って一口食べた。


「ぐぐぅ…… 」


 サンレイが真っ青な顔をしてブルッと震える。


「うわぁあぁ~~、何だこれ、食い物じゃないぞ、こんな不味いもの初めて食ったぞ」


 大声で叫んだ後、サンレイがバッと振り返る。


「誰だ!! こんなもの作ったヤツは、英二を殺す気か! 」


 ガルルンがさっとサンレイを指差す。


「サンレイが作ったがお、サンレイの作ったカレーで英二は死んだがお」


 晴美がガルルンの腕を引っ張る。


「死んでないから、高野くんは気を失ってるだけだから」

「気を失うくらいヤバいカレーか…… 」


 呟く小乃子の隣で委員長がカレーの入った鍋を見つめる。


「どうやったらカレーをここまで不味くできるのかしら」

「先生が来たようだから英二くんは任せて僕たちは勝負に戻ろうか」


 ララミが医者を連れてきて床に横たわらせた英二の診察を始めた。

 宗哉たちがサンレイの作ったカレー鍋を囲んだ。


「料理した事のないヤツでもどうにか食えるようなものになるのがカレーだよな」


 秀輝が言うと同意するように宗哉が頷く、


「ここまで凄いと逆に食べたくなるよね」


 好奇心で鍋を覗き込む宗哉をサーシャが止める。


「いけませんデス、御主人様、危険な成分を検出しましたデス」


 ララミが鍋に毒物を調べる機械を入れていた。


「御主人様、あれは毒です。鍋の中で反応を起こして微量な神経毒が出来ています」


 英二を診察していた医者が立ち上がる。


「瞳孔も脈拍も正常ですし中毒症状は見られません、直ぐに目を覚ますと思います」

「ありがとう、忙しいところを済まなかった。先生は戻って下さい」

「うむ、何かあればまた呼んでくれ」


 丁重に頭を下げる宗哉を見て頷くと医者は部屋を出て行った。

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