表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/139

第71話 カレー勝負

 勝負の日である日曜日を迎えた。


「サンレイはどんなカレーを作るんだ? 何を入れたカレーだ? 」


 昨日、夕食前に帰ってきたサンレイに何度訊いたか分からない質問を日曜の朝にもする。


「最高のカレーだぞ、パワーアップカレーだぞ、ガルルンが肉カレーならおらは野菜をたっぷり使ったカレーだぞ」


 昨日から同じ答えをサンレイが返す。


「いや、だから何を使うのか材料を教えてくれ」


 食い下がる英二を見てサンレイがニヤッと企むような笑みをして口を開く、


「ベジタブルカレーだぞ、人参だろジャガイモだろ玉葱だろ、そんで……栄養たっぷりのエキスをたっぷり入れて最高のカレーを作ってやんぞ」

「何のエキスだ! それが物凄く怖いんだけど…… 」


 弱り顔で訊く英二にサンレイが満面の笑みを向ける。


「にゃははははっ、心配無いぞ、ちゃんと食えるものだぞ……たぶん」


 英二がガシッとサンレイの両肩を掴む、


「たぶんって言ったよね、たぶんってどういう意味? 材料を全部教えてくれ」

「愛してるぞ英二、おらを信じろ」


 サンレイが握った拳の親指を立ててポーズを取った。


「信じるから……信じてるから材料だけ教えてくれ」


 サンレイに縋り付く英二の背をガルルンがポンポン叩く、


「ガルは宗哉に頼んで牛と豚と鶏と、とんまのマトンの肉を用意して貰ったがお、隠し味に熊カレーの缶詰を使うがお、肉カレーで勝ちは貰ったがお」

「うんうん、ガルちゃんのカレーは楽しみだ」


 ガルルンに笑みを見せると英二が向き直ってサンレイを見つめる。


「材料教えてくれないとサンレイのカレーは食べないからな」

「んだ! 英二はおらを信用できないってのか? 」


 キッと睨むサンレイの前で英二が頷いた。


「うん、出来ない、他の事は信用してるが料理だけは信用できない、だってサンレイが料理したのはハマグリ女房との料理勝負の時だけでその時も委員長たちに手伝って貰ってやっとだろ、サンレイ1人で作るカレーなんて信用できないからな、でも材料を教えてくれたら信用してやる。だから教えてくれ」

「そっかぁ~、仕方ないなぁ~~ 」


 その気になったサンレイを見て英二が畳み掛ける。


「サンレイのカレーを楽しみにしてるんだ。だから材料を教えてくれ、変なものが入ってないのなら全部食べるからさ」

「にゃははははっ、それ程知りたいのなら…… 」


 サンレイがこたえようとした時、ガルルンがダダダッと玄関に走り出す。


「宗哉来たがお」


 サンレイも荷物を持って駆けていく、


「車でお迎えだぞ、英二をカレー天国に連れて行ってくれるぞ」

「いや、だからサンレイの材料を教えてくれ……天国じゃなくて地獄だからな、カレー地獄だからな」


 後を追って玄関へと行った英二の腕を左右から2人が掴む、


「カレー勝負に行くぞ、おらが勝つから心配無いぞ」

「がふふん、勝つのはガルがお、英二はおらが守ってやるがお」

「だからサンレイのカレーの材料を教えてくれ」


 ビビりまくる英二の腕を引っ張ってサンレイとガルルンが元気よく出て行った。



 日曜の午前9時に宗哉の用意した佐伯重工サービスセンターの一室で料理勝負が始まる。ハマグリ女房の時に使った場所だ。

 宗哉がカレーに決めたのは市販のルーを使えばサンレイやガルルンでもそれなりのものが作れるからである。宗哉も秀輝もサンレイやガルルンを贔屓するつもりだ。

 料理上手の委員長と晴美もいるのでホレ女は余程旨いものを作らないと勝ち目は無い、そこらの一流店のカレー程度ではホレ女を勝たすつもりはない、それを見越して勝負に選んだのだ。

 宗哉に案内されて会場へと入った英二を見て小乃子たちが集まってきた。


「英二待ってろよ、あたしが勝って英二と付き合ってるって証明してやるからな」


 可愛い笑みを見せる小乃子を見て英二がうんざり顔になる。

 小乃子と委員長と晴美と秀輝は別の車で先に来ていたようだ。

 車の中で英二を取り合って騒ぐといけないので宗哉が別々に迎えを出したのだ。


 小乃子の肩を後ろから委員長が掴む、


「何言ってんの? 小乃子には負けないわよ、私のカレーを食べたら英二くんは誰が一番か直ぐに分かるわよ」


 自信有りといった様子の委員長の隣で晴美が艶のある目で英二を見つめる。


「料理なら任せてよ、愛情たっぷりのカレーで高野くんは私のものよ、高野くんとは前世から結ばれてるから当然よ」

「3人とも変になってるだけだからね」


 英二が助けを求めるように宗哉の後ろに隠れた。


「おっす英二、サンレイちゃんとガルちゃんもおはよう」


 挨拶しながら秀輝が近寄ってきた。


「小乃子たちさっきまでは普通だったぜ、お前が来たら目の色が変わったぞ」


 耳打ちする秀輝を見て英二がブルッと震えた。

 小乃子たちも家の中では普段と変わらなかったそうだが外に出るとホレ女の術が効くのか3人とも変になっている。

 奇妙な笑いをあげてサンレイが前に出てくる。


「にゅっひっひっひっひっ、おらのが一番に決まってんぞ、何たって最高のパワーアップカレーだぞ」


 ガルルンが鼻を鳴らしてサンレイを睨む、


「がふふん、寝言は寝て言うがお、ガルの肉カレーが最強がお」


 サンレイとガルルンは家を出て宗哉の車に乗った途端に英二を取り合っていがみ合いを始めた。

 車の中で宗哉と英二が必死に宥めたのは言うまでもない。


「うふふふふっ、威勢のいい小娘だこと…… 」


 少し離れた所でホレ女がバカにするように笑った。


「もう来てたのか、サンレイたちを元に戻してくれ、勝負関係無しに終われば戻すって言ってただろ」


 頼む英二を見てホレ女が愉しそうに微笑んだ。


「それはダメよ、今元に戻したら料理勝負しないで力尽くで戦う事になったら大変じゃない、私が勝って英二くんを貰ってから術は解いてあげるわ」


 ホレ女は余程自信があるらしく既に勝ったつもりでいる。


「こうなったら…… 」


 拳を握り締める英二を宗哉が止める。


「今はダメだよ、カレー勝負が終わってからにしよう」


 後ろから英二の肩を秀輝が掴む、


「だな、委員長や篠崎もいるんだ。俺たちが贔屓してもいいって事になってる」

「秀輝の言う通りだよ、ホレ女は僕たちの想像以上のカレーを作らないと勝ち目は無い、それでも負けた場合は僕も秀輝も一緒に……だから今は堪えてくれ」


 英二が宗哉と秀輝を見回す。


「わかったよ、でも俺のために危ない事はしないでくれ」


 ホレ女と戦おうとして手に溜めていた霊気を英二が収めた。


「うふふっ、変な事はしない方がいいわよ、こう見えて結構強いのよ私は」


 事情を知らない男が見たら一発で惚れてしまいそうな笑みでホレ女が言った。


「変な事なんてしないさ、男同士の友情を確かめ合っただけだ」


 爽やか笑顔でこたえると宗哉が続ける。


「そろそろ始めようか、連絡のあった材料は全て揃えてある。その他にカレーに使う一般的な食材と専門的な香辛料などを揃えたので好きに使ってくれ、もちろん市販のカレールーも手に入るものは全て揃えてある。質問あれば今聞くよ、足りない材料があれば言ってくれ、直ぐに持ってこさせる」


 宗哉が腕時計を見つめる。


「今9時15分だ。質問がなければ直ぐに始めるけど…… 」


 宗哉がホレ女に向き直る。


「食材など不足がないなら始めるけどいいね? 」

「いいわよ、私は特別な材料なんて使わないから、さっき確認したけど香辛料は全て揃っているから他には何も不足は無いわ」


 笑顔でこたえるホレ女から視線を小乃子たちに向ける。


「久地木さんや委員長たちも質問はないね? 」

「ああ、何時でもいいよ」

「そうね、必要なのは全部あったからね」


 小乃子と委員長がこたえて晴美は無言で頷いた。


「おらもいいぞ、隠し味は持ってるからな」


 サンレイが普段使っている猫の絵のついた鞄をポンッと叩いた。


「ガルもいいがお、準備万端がお」


 サンレイとガルルン、満面の笑みが逆に怖い。


「それじゃあ始めるよ、今から昼の12時までを調理時間とする。では勝負始め! 」


 宗哉の合図でカレー勝負が始まった。

 サンレイたちが設置してあるキッチンへと向かって行く、英二と秀輝は少し離れたテーブルに並んで座った。



 昼12時になる前に全員調理を終えていた。

 全員に確認を取って午前11時半に実食することになる。


 カレーを食べる順番はクジで決めた。

 標準サイズのカレーの4分の1サイズだが完食しないといけないルールだ。

 初めより最後の方が腹も膨れているので審査は当然厳しくなる。

 英二や秀輝には言っていないがそれを見越して宗哉はクジに細工をしていた。


 順番が決まる。

 小乃子が1番で委員長が2番、3番目が晴美で次にガルルン、5番目がホレ女で最後がサンレイだ。

 料理の旨い委員長や晴美を先にして高得点を付けてしまおうという作戦だ。サンレイには初めから期待はしていない。


 小乃子がガッツポーズを取る。


「おっし、あたしが一番だな、一番美味いカレーだから一番がピッタリだ」

「にひひひひっ、精々はしゃぐといいぞ、最後のおらのカレー食ったら他のカレーなんて食えなくなるぞ」


 嘲笑うサンレイに小乃子だけでなくガルルンたちも食ってかかろうとするのを宗哉が止めた。


「勝負は始まっているんだよ、口喧嘩じゃなくてカレーの味で勝負してくれ」


 宗哉が小乃子に向き直る。


「では一番の久地木さん、カレーを持ってきてくれ」


 席に着いた英二と秀輝と宗哉の前にカレーが並べられる。


「あたしの特製カレーだぜ、あたしの愛がいっぱい詰まってるからな、味わって食べてくれよ英二」


 英二を見つめて小乃子が可愛い笑みを見せる。

 左に座る秀輝がスプーンを握る。


「へぇ、カツカレーか旨そうだな」

「カレーと言うよりハヤシみたいな色だね、美味しそうだ」


 右で宗哉も褒めるが小乃子の目には左右に座る2人は映っていない。


「予想以上に旨そうだ。小乃子も料理できるんだな」

「えへへ、カレーくらいなら何とかな、早く食べてみてよ」


 英二に褒められて小乃子が嬉しそうに照れ笑いだ。

 赤み掛かった色をしたカレーの上にカツが乗っている。カツカレーだ。


「いただきます」


 一口食べた英二の動きが止まる。


「何だこれ? 」

「これは…… 」


 秀輝と宗哉もスプーンを止めた。


「これはカレーじゃないよね? 」


 顔を上げた英二の前で小乃子が自慢気に胸を張る。


「どうだ驚いたか、カレーじゃなくてビーフシチューだ。カツの乗ったカツシチューだぜ」


 ドヤ顔で言う小乃子のおっぱいが英二の目の前でぷるんと揺れた。

 おっぱいに目を取られていた英二が忘れるように首を振ってから口を開く、


「いや……カレー勝負だからな」


 左右に座る秀輝と宗哉が顔を見合わせる。


「ビーフシチューか…… 」

「シチューだね」


 ドヤ顔の小乃子が続ける。


「サプライズだ。カレーは辛いだろ、あたしと英二の仲に辛さはいらない、甘くてラブラブだからな、それでカレーじゃなくてシチューにしたんだ」

「いや、カレー勝負だからな」

「何でシチューにしたんだ? 甘いのがいいなら甘口カレーにすればいいだろ」


 弱り顔の英二の左で秀輝が訊いた。

 ニヤッと悪戯顔をして待ってましたとばかりに小乃子が話し出す。


「フフッ、カツシチューだよ、シチューにカツが入ってるだろ、つまり死中に活を見出すって事だ。料理じゃ菜子や篠崎には敵わないからな、それでサプライズで勝負したんだ」


 余りのくだらなさに英二たちが固まった。

 近くで見ていたガルルンが呆れる。


「親父ギャグがお、小乃子はああいうの好きそうがお」

「おおぅ、小乃子も結構やるなぁ~ 」


 サンレイにはやや受けだ。委員長と晴美は相手にもしていない表情である。

 何とも言えない顔の英二を小乃子が覗き込む、


「美味しくなかったか? あたしのシチュー…… 」


 悲しそうに見つめられて英二が言葉を選ぶようにこたえる。


「いや……そういう訳じゃないよ、美味しかったよ、でもカレー勝負だからな……サプライズとか関係ないし……むしろカレーじゃなくて勝負にならないし………… 」


 言い淀む英二に変わって宗哉が話に割り込む、


「久地木さんは失格だね、カレー勝負にシチューじゃ公平な判定はできないからね、これを許すと何でもありになってしまう、カレーになっているなら食材は自由だ。辛くても甘くてもカレーになってさえいれば文句は言わない、だけど久地木さんのは誰がどう見てもカレーじゃなくてシチューだよ、ビーフシチューの味しかしなかったからね」

「だな、俺も宗哉に賛成だ。いくら何でもこれは擁護できないぜ」


 左に座る秀輝が弱り顔で言った。


「そんな…… 」


 泣き出しそうな目で見つめる小乃子の正面で英二が口を開く、


「美味しかったよ小乃子のシチュー、小乃子がこれ程美味しい料理を作れるなんて思ってなかった。シチューなら80点はあげるよ、でもカレー勝負だからね、宗哉や秀輝の言う通り小乃子は失格だ。でも本当に美味しかったよ、俺はこのカツシチュー大好きだよ」

「本当か? あたしのシチュー美味しかったか? 」


 小乃子がパッと顔を上げた。


「うん、美味しかったよ、カレー勝負じゃなかったら高得点をあげてるよ」


 元気になった小乃子を見て英二が優しく微笑んだ。


「そうか……美味しかったか、それじゃ、もっと美味しいのをあげるよ」

「美味しいもの? なにを? 」


 聞き返す英二に細長いテーブルを挟んで向こうから小乃子が顔を近付けてくる。


「シチューじゃなくてあたしのチューだ。受け取ってくれ英二」


 小乃子の唇が英二の直ぐ傍にある。


「おわっ、ちょっ、ダメだから……こんな所で…… 」


 あたふたする英二の顔を小乃子が両手で挟み込む、


「愛してるよ英二」


 キス寸前で小乃子が仰け反る。


「何やってんだ。ズルいぞ小乃子、英二のチューはおらのものだぞ」

「シチューにチューを掛けたがお、旨いけど掛けるのはカレーだけにしとくがお」


 左右からサンレイとガルルンに引っ張られて小乃子が引き離されていく、


「チィッ、もう少しだったのに……わかったよ、冗談だろ、冗談」


 サンレイとガルルンの腕を振り払うと小乃子が英二を見つめる。


「失格でもいいよ、英二が美味しいって言ってくれたからな」


 小乃子がくるっと背を向けた。


「あ~負けた負けた。でも英二を諦めたわけじゃないからな、英二とあたしは付き合ってるんだからな」


 サバサバした性格の小乃子が負けたと手を振るのを見て委員長が笑い出す。


「何言ってるのよ、この勝負で決まるんでしょ、勝ったものが英二くんをものに出来る。あんたの出番は終わったのよ、私が英二くんを貰うところをそこで見てなさいな」


 料理には自信のある委員長が笑顔でカレーを取りに行く、


「片付けますデス」

「次の勝負に備えて水で口を濯いでください」


 メイロイドのサーシャが小乃子のシチュー皿を片付けてララミが新しい水の入ったコップとスプーンを並べる。

 委員長がカレー鍋を持ってくるとサーシャが均等に御飯を乗せた皿を手渡す。


「委員長さんのはカレーらしいカレーデスね、美味しそうデス」

「まぁね、小乃子みたいに変な事しないで直球勝負よ」


 委員長が御飯の乗った皿にカレーを注いで英二たちの前に並べていく、


「普通のカレーみたいだな」


 色だけでなく匂いもカレーなのを確認して英二が呟いた。

 左で秀輝がスプーンを口に運ぶ、


「だな、委員長は料理旨いし変な事はしないだろうぜ」

「うん、美味しいよ、正統派のカレーって感じだね」


 右で先に食べていた宗哉を見てから英二も一口食べる。


「成る程、美味しいな、懐かしい感じのするカレーだ。気取った店で食べるカレーじゃなくて家のカレーって感じだ」

「でしょ、家で作ってるカレーをアレンジしたのよ、昔ながらのカレーってところね」


 英二たちの反応に委員長が自信有りの顔で胸を張る。

 委員長の巨乳が英二の目の前でぶるんと揺れた。


「どう、英二くん、私と結婚すれば毎日美味しい料理を作ってあげるわよ」

「まっ毎日…… 」


 英二の頭の中は料理よりも委員長の巨乳でいっぱいだ。

 近くで見ていたサンレイが怖い顔で睨んでいる。


「英二ぃ~~、カレー勝負だぞ、おっぱい勝負じゃないからな」


 バッと英二が振り向く、


「違うからな、わかってるから……カレー勝負だろ、味で決めるからな」


 慌てまくる英二の前で委員長が微笑んだ。


「いいわよ、英二くんなら料理だけじゃなくて私も全部あげるわよ」

「全部って……違う、ダメだから…… 」


 真っ赤になって焦りまくる英二に左に座る秀輝が助け船を出す。


「ご馳走様、旨かったぜ、100点満点の90点ってところだな」

「そうだね、僕は85点を付けるよ、家庭で食べるカレーとしては満点をあげてもいいけどカレー勝負なら妥当な点数だよ」


 右で宗哉が言うと英二がうんうん頷いた。


「俺も、俺も90点だ。美味しかったよ、宗哉みたいに一流の店の味なんて知らないからさ、それを想像して90点を付けた。素人が作るカレーなら100点クラスだと思うよ」

「90点か……まぁプロじゃないしそんなもんかな」


 平静を装うが意外な高得点に委員長は満面の笑みを浮かべている。


「じゃあ次に行こうか」


 宗哉が言うとサーシャとララミがテーブルの上の皿を片付けて次の晴美のカレーの準備をする。


「篠崎も料理は旨いからな、楽しみだぜ」

「どんなカレーかワクワクするよな」


 秀輝と英二が顔を見合わせて笑った。


「さぁ、召し上がれ」


 英二たちの前に晴美がカレーを並べる。


「おお、旨そうだ。篠崎さんも家庭のカレーって感じだね」


 喜ぶ英二の向かいで晴美がニッコリと笑いながら続ける。


「はい、偶然木曜日がカレーでしたので母の作ったカレーをベースに私が手を加えました」

「へぇ、篠崎さん家のカレーって事だね、委員長と同じような感じかな」


 料理上手な晴美、その母親が作ったカレーをベースにしていると聞いて英二のテンションが上がる。


「カレーは寝かせると美味しくなると聞いたのでたっぷりと寝かしてみました」

「寝かせるって……木曜日のカレーに手を加えて今日までって事か、流石だね」


 スプーンでカレーを混ぜながら英二が褒めると微笑みながら晴美が続ける。


「はい、勝負を挑まれた金曜に完成して後は寝かせておきました」

「金曜に完成して金土日と今日まで寝かせたんだね……ちゃんと毎日火を通してるよね」


 カレーを混ぜる英二の手が止まる。


「火ですか? 入れてませんよ、寝た子を起こすような真似はしていません、キッチンの隅でたっぷり寝かせておきました。さぁ召し上がれ」

「いや……火を入れてないのはマズいでしょ、冬でも部屋の中は暖かいし2日間火を通してなかったら腐るからね」


 英二だけでなく左右に座っている秀輝と宗哉もスプーンを置いた。


「えーっ、カレーって腐るんですか? インド4000年の神秘の力でカレーは腐らないんじゃ……インド魔法ってやつですよ」


 驚く晴美を何とも言えない顔の英二が見上げる。


「腐るからね、香辛料の味と匂いで判断できないだけだから、夏場なんて1日放っておくだけで傷むからね、冬でも部屋の中じゃ2日以上も火を入れなかったら傷むからね」


 英二が目の前のカレーをテーブルの奥へと押しやる。食べないとの意思表示だ。


「ではこうしましょう、隠し味にこれを加えましょう」


 晴美がポケットから胃薬を取り出した。


「隠し味って…… 」

「苦い胃薬を入れればコクが出ると思います。インスタントコーヒーを入れれば味にコクが出るって言うじゃない、それと同じですよ、美味しくなってお腹にも優しくなります」


 笑顔の晴美が英二のカレーの上に胃薬を振り掛けた。


「さぁ、召し上がれ」

「食べないから…… 」


 顔を引き攣らせる英二の右で宗哉が思わず声を出す。


「術でおかしくなっているみたいだね」


 それを聞いて秀輝も頷く、


「だな、委員長のも何が入っているのかわからんぜ」


 バッと英二が振り向いた。


「怖い事言うなよ……もう食った後だから忘れよう、それよりどうする? 」

「そうだね、腐ってるとヤバいからね、篠崎さんも失格かな」


 宗哉に失格と言われて晴美がよろけてテーブルに手をついた。


「酷い……英二くんに喜んで貰おうと考えて作ったのに………… 」

「わかった。わかったから、今度また何か作ってよ、その時は喜んで食べるから」


 泣き出しそうな晴美を見て英二が慌てて言った。

 晴美がパッと顔を上げる。


「本当? じゃあ私の家に来て、御馳走するわ」

「それは…… 」


 断ろうとする英二の脇を宗哉が肘で突っついた。


「わかった。今度御馳走になるよ、その代わり今日は失格で我慢してくれ」

「うん、我慢する。英二くんが家に来てくれるなら何でもするわ」


 上機嫌になった晴美を見て英二がほっと息をついた。


「どうにか収まったね、でも次からが問題だよ」


 宗哉に言われて振り向くと満面に笑みを湛えたガルルンが見えた。


「ガルちゃんか…… 」

「肉カレー作るって言ってたよ」


 秀輝と英二が顔を見合わせてぐったりと頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ